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【レポート】人権侵害につながる「木材」が日本で利用されている? SDGsから考える、熱帯林問題解決への糸口

森林とSDGs〜利用者目線で考える熱帯林との関係〜@オンライン 2021年2月18日(木)開催

13,15,16

2015年9月の国連サミットで、「持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現」のための17の目標として掲げられ、近年ますますその注目を集める SDGs。
その目標の中にある、「13.気候変動に具体的な対策を」と「15.陸の豊かさも守ろう」の実践にあたり、森林問題対策の取り組みが世界的に進められています。

「生物多様性の保全」や「気候変動対策」としての側面がクローズアップされることの多い森林問題ですが、実は「貧困」や「人権」の問題とも複合的に関連していることはあまり知られていません。
今回はSDGsを切り口に、熱帯林の減少がどのような問題を引き起こしているのかについて知り、さらに、日本の企業や私たち市民の視点からどのような対策ができるのかを考えていきます。

ゲストは、森林保全と生物多様性の専門家であり、「国際環境NGO FoE Japan」の理事を務める三柴淳一氏です。マレーシア・サラワク州での緻密な現地調査の成果と経験をもとに、日本企業や自治体に対して積極的な提言活動に取り組んでいます。「熱帯林問題」に詳しい三柴氏に、森林問題の現状や課題、取り組みについて解説していただきました。

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<ゲスト>
■三柴淳一氏/国際環境NGO FoE Japan 理事

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気候変動の大きな要因となっている森林減少

気候変動の大きな要因となっている森林減少

FoE Japanは、世界75カ国に200万人以上のサポーターを有する国際環境NGOです。「すべての生命が共生する平和で持続可能な社会のために」というビジョンに基づき、気候変動やエネルギー問題などともに、森林問題にも取り組んでいます。森林の活動を通して以下のSDGsの目標達成に貢献できると示しています。

1.貧困をなくそう
10.人や国の不平等をなくそう
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任 つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に

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まず初めに、三柴氏から気候変動と森林減少との関係について解説がありました。
2006年に公表された、気候変動問題の経済的側面に関する報告書「スターン・レビュー」によると、人為起源の温室効果ガスの17.4%が森林の土地利用変化によるものとされています。森林減少が気候変動に大きく影響していることが明らかになり、現在の数々の取り組みの流れにつながる大きなきっかけとなりました。

世界の森林面積の内訳は、熱帯45%、寒帯27%、温帯16%、亜熱帯11%(国連食糧農業機関FRA2020より)。世界の森林の多くは、熱帯地域に分布しています。
森林減少の速度は20年前と比べると鈍化していますが、2015年から2020年の年平均減少面積はおよそ1000万ha。森林減少の90%以上が熱帯地域で発生しています。

直近10年間において一番減少が著しいのはアフリカです。特に注目すべきは、世界的には減少スピードが鈍化しているにも関わらず、アフリカでは逆行するように減少スピードが上がっている点です。アフリカでの減少要因は、「急激な人口増加」と「小規模農業による生計維持の必要性」が複合的に影響していると考えられています。

このままのペースで世界中の森林が減少すると、2017年1月で合意された国連森林フォーラムでの目標(世界森林面積3%増加)が達成される可能性は低く、特に熱帯諸国において、「森林減少の食い止め、植林、森林回復、森林保全を奨励するための『緊急行動』」が必要だと三柴氏は指摘します。

森林減少の一因である違法伐採

熱帯林の減少の大きな要因は、「森林の農地転換」です。
農地転換による森林減少は、2つの大きな問題を引き起こします。ひとつは、生物多様性の喪失。もうひとつは、大量のCO2の排出です。
実は、農地転換していく過程で、違法伐採が行われていることがあります。

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違法伐採について国際的な定義はありませんが、FoE Japanでは違法伐採木材とは、生産、加工・流通、輸出・輸入のサプライチェーンにある、それぞれの工程の規制に、どれかひとつでも抵触する木材と考えています。
私たちの生活の中にある違法伐採リスクの高い木材は、主にマレーシア、インドネシア、中国、ルーマニア、ロシアなどからの輸入木材だとされています。

違法伐採対策のための取り組みは、1998年のG8サミット「G8森林行動プログラム」から端を発し、EU主導で今日まで進められてきました。
日本では、2006年に既存のグリーン購入法を改正し、違法伐採対策に乗り出しました。その後、2017年に合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(通称「グリーンウッド法」)が施行され、国際社会で取り組まれているレベルの法規制が整えられた、と三柴氏は解説します。

「違法伐採の問題は、限られた生産国だけの問題ではありません。サプライチェーンに含まれる多国間はもちろん、世界全体で取り組む必要性があります。遠い話のように思われますが、ぜひ私たち一人一人が関心を持つべき問題なのです」

違法伐採によって、人権侵害が引き起こされている

違法伐採が行われている現場は、大きく分けて以下の3つのパターンがあります。

(1)国立公園や保護地区など、違法伐採が規制されている場所から盗伐する。
(2)生産林として許可されている場所から、許可されている以上に伐採(過剰伐採)する。もしくは、許可されている範囲外の伐採(環境保全法違反など)をする。
(3)生産林として許可されている範囲と先住民族のエリアが重複しているエリアから伐採する。

三柴氏は(3)のパターンとして、マレーシアのサラワク州を例に、違法伐採の問題を取り上げました。
サラワク州では、「2020年までに100万haの植林を達成する」という目標を1997年に政策として掲げています。人工造成林として許可が下りた土地は、州の面積の22.5%に及び、州全体の生産林の38.6%にもなる、実に広大な範囲でした。
人工造成林として許可が下りた土地は、一部アブラヤシの植栽が許可されており、今後も農地として持続する可能性が高いと見られています。つまり、森林に戻る可能性は低いということを示しています。

許可が下りている場所は、先住民族のテリトリーと重なっているエリアが散見されており、裁判で争っている場所もあります。
先住民族のプナン人が住むジェイク村では、テリトリー内の山林に1997年から林道がつくられ始め、2006年にはコミュニティ内にまで伐採が進み、2016年にはほぼ更地となったことが地図で示されました。

「サラワク州全体でこのような問題が起こっており、しかもそこで違法伐採された木材の半分ほどが日本へ輸出されています。このことは、ぜひ覚えておいていただきたい問題です」(三柴氏)

違法伐採された「熱帯木材」が日本で利用されている実態

続いて、輸入された熱帯木材が、日本でどのように利用されているのかについて解説されました。特に多く利用されているのは、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建築において、コンクリートを流し込む際に必要となる「型枠材」だそうです。

具体的な事例として、新国立競技場の建設で利用された型枠材について言及しました。
熱帯材を使用した型枠工事について、FoE Japanが管理団体に回答を求めたところ、返ってきた回答は「認証材だから問題ない」というものだったそうです。しかし、認証材の制度には問題があると三柴氏は指摘します。

「現行の制度では、認証林以外の木材を30%まで混ぜても良いことになっています。制度に基づけば、管理原料として管理された木材であることになっていますが、30%がどこから来ている木材なのかを問い合わせたところ『わからない』との回答でした。認証林以外の30%の木材の透明性が確保されていない現状は、非常に問題ではないでしょうか」

また、東京都には、熱帯木材の使用に関する独自の方針が定められています。この方針には、「適切に管理されていない森林から伐採された熱帯材などの仕様の抑制」と明記されています。「抑制」であるため、使用禁止ではないものの、やむを得ない場合という条件付きでの使用許可が定められているので、概ね良い方針だと三柴氏は評価していました。
ところが、運用に関して管理体制が伴っていないことがわかったといいます。

三柴氏は、赤羽の消防署の新築工事でマレーシア産の合板の使用を確認したため、東京都に情報開示請求をして、どのように方針が運用されているかを確認しました。
結果、チェックリストの記入漏れや、認証材証明書の偽装などが認められ、現在、都でチェックリストの改善を進めている状況だそうです。

脱「熱帯型枠」は可能なのか?

日本の建築現場で利用されている熱帯材の型枠ですが、熱帯材に代わる代替型枠も少しずつ広まりを見せています。
ここで三柴氏が紹介したのは、一部オリパラ施設でも利用された認証型枠材「ドルフィンコート」です。この型枠材は、ロシアと国産のカラマツを原料とした針葉樹の型枠で、セイホクグループと双日株式会社が共同で立ち上げました。

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これまで、針葉樹合板は広葉樹合板(熱帯材)に比べて壊れやすく、水を吸ってたわみやすい合板として敬遠されていました。ドルフィンコートは、従来の針葉樹合板よりも品質は改善されているようです。品質保持のために保管の際に注意が必要ですが、利用する場所や使い方を分けることによって、今後、熱帯材に代わる型枠素材として期待できると三柴氏は紹介しました。

民間企業からも、環境に配慮した型枠材の使用を宣言する動きが出ています。
三菱地所グループでは、「2030年度までに型枠コンクリートパネルに持続可能性に配慮した調達コードにある木材と同等の木材を100%使用する」との明確な目標を発表しました。また、三菱地所レジデンスでは、「新築分譲マンションにおいて、持続可能性に配慮した木材の調達基準にある型枠コンクリートパネルを採用し、トレーサビリティを確保する」と2020年の9月に宣言し、脱熱帯材への取り組みが始まっています。

大手デベロッパーや自治体が、脱熱帯型枠材への動きを見せることで、建設業界全体で取り組む動きが加速すると三柴氏は訴えます。

「大手デベロッパーが宣言することで大手ゼネコンが、自治体が宣言することで中小ゼネコンが、熱帯型枠材の使用を抑える効果が期待できます。建設業界全体が脱熱帯材へ傾けば、国も環境に配慮した法改正に動かざるを得なくなるでしょう。サラワク州の違法伐採が問題になってからおよそ30年が経ってしまいました。そろそろ熱帯林問題に終止符を打つべきだと切に思います」

質疑応答

講演後は、参加者の方々から寄せられた質問に対して、三柴氏が回答する時間が設けられました。以下に、その一部をご紹介します。

Q:違法伐採問題に対して、一市民としてできることはありますか?

A:まずは、違法伐採という問題があることを知ってもらうことです。建築現場に行くと、遠くからでもどのような合板を使用しているかがわかります。マークや板面の特徴で、おおよそ針葉樹か広葉樹かの判断がつきます。このように、ぜひ関心を持ってもらいたいのがひとつ。もうひとつは、紙製品や木材家具製品を購入する際に、認証マークを探してみることです。なければ、店舗スタッフの方に認証材を使用しているのか聞いてみてください。ほぼ答えられないと思いますが、消費者から販売者に対して、「認証材の制度」や「違法伐採対策の法律」があることを伝えれば、何かしらの一歩になるではないかと思います。

Q:カーボンオフセットにより、今後さらに植林や森林保全が海外で盛んになると予想されますが、どうお考えでしょうか?

A:気候変動を本気で抑えていくためには、カーボンオフセットも大切です。しかし、それだけでは解決しません。あくまで、達成するための方法のひとつとして認識しています。30年、50年スパンの世界目標の達成のためには、今できることを総動員して取り組むことが必要不可欠です。カーボンオフセットもひとつの手だとは思いますが、それだけでは解決しないことは、みなさんの記憶にも留めておいてほしいです。

Q:熱帯材を「使わない」ことから一歩進み、森林を「保全」する取り組みを日本の企業が行う場合、具体的にはどんなことが考えられますか?

A:保全に関しては植林も大切だと思います。ですが、放っておく自然の回復力に任せるという方法も有効だと私は考えています。熱帯はたくさん雨が降りますし、年中気温も高い地域です。私が見てきたインドネシアやマレーシアに関しては、3年ほど人の手(開発事業や農地利用など)を入れずに自然に任せて放っておくと、かなりの割合で裸地状態や伐採後の状態から回復しているケースもありました。なので、保全として手を入れるのではなく、逆に使いたがる人(国・事業者)に対して、生計手段のサポートなどの代替案を提示して、森林(林地)を手つかずのままに守ることも必要ではないかと思います。生態系を守るためにも、気候帯や周辺の自然・環境・社会状況によっては植林をするより良いのではないでしょうか?私たちもFoE Japanとして、中国で植林活動を地域住民の方々と実施していたことがあります。私たちが植えた場所は無事でしたが、別の場所、別の国で植林した樹木が市況の変化に伴い伐採されてしまうなど、林地として維持・管理されないケースがよくあるようです。植林するならば、地域住民の方々含めて、その後のサポートをしっかりと検討・準備することが必要です。それが難しいようであれば、利用を制限して自然に任せて放っておくことが一番いいのでは、と個人的には考えています。

Q:建設業界では、日本の木材利用をもっと推進しようという動きが広まっています。今回のお話では、伐採が悪いという風に聞こえてしまう側面もありそうですが、どのようなバランスで舵取りをしていくべきでしょうか?

A:もちろん、「木材利用はもっと推進すべき」という考えには、私も基本的に同意するところです。注意すべきは、木材を使うときの工夫ではないかと思います。やはり国産の木材は(生産)コストが高いので、加工やデザインの工夫などが必要ですし、生産者と消費者など、様々な立場の人々をつなぐ動きが必要だと考えています。
また、海外の木材を使う際には、今回お話したように、さまざまな事業者がタッグを組んで情報を共有していないと、リスクのある木材が入ってきてしまう可能性があります。
他の資材からすると、木材利用はCO2排出の面でも優れているので、うまく利用することでコスト的にも環境的にも良い結果を出すことができることは明らかです。

今回の講演では、熱帯林の問題から私たちの生活に及ぶ影響までを、わかりやすく解説していただきました。SDGsは全部で17の目標に分かれていますが、実際の問題では熱帯林のように、さまざまな問題が複合的に関連しあっているケースがあります。
私たちの生活にもSDGsを絡めた視点を加えることで、貢献できることがたくさんあるはずです。エコッツェリア協会では、引き続きSDGsを含めた環境問題についてのイベントを開催していきます。興味のある方は、ぜひチェックしてみてください。

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