イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】子どもも大人もガリレオ・ガリレイになった日

自分だけのオリジナル望遠鏡を創ろう! MY 天体望遠鏡づくりワークショップ 8月28日(日)開催

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エコッツェリア協会では、2021年夏に竣工した"TOKYO TORCH常盤橋タワー"と連携した環境プログラムを開催してきました。天文学普及プロジェクト「天プラ」協力の下で実施する天体観望プログラムは一見星空や宇宙とは縁遠いと思われる大手町・丸の内・有楽町エリアで星空や宇宙に触れるという異色の体験は、大人から子どもまで多くの人に新しい気づきや学びがあり楽しまれています。

そして2022年8月には、親子で望遠鏡を手づくりする「自分だけのオリジナル望遠鏡を創ろう! MY 天体望遠鏡づくりワークショップ」を開催しました。
天体観察には欠かせない望遠鏡を手づくりすることで、宇宙や星はもちろんのこと、そこに挑む人間の歴史にも思いを馳せる機会を得た参加者たち。この日彼らはどのような体験を味わったのでしょうか。当日の模様をレポートします。

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ガリレオ・ガリレイの望遠鏡に並ぶ性能を持った望遠鏡を自らの手で

 ガリレオ・ガリレイの望遠鏡に並ぶ性能を持った望遠鏡を自らの手で

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今回ワークショップの進行役を務めたのは、天文学普及プロジェクト「天プラ」代表にして、東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム特任准教授の高梨直紘氏です。まず高梨氏は、参加した子どもたちに問いかけながら、望遠鏡について説明をしていきました。

「人類で初めて望遠鏡を使って星空を観測した人が誰か知っていますか? 今から400年くらい前のイタリアの天文学者、ガリレオ・ガリレイという人です。大昔の人は、地球の周りを太陽やその他の惑星が回っていると考えていましたが、実際には地球やその他の惑星が太陽の周りを回っています。地球が宇宙の中心で太陽などが動いているとする考えを『天動説』といい、太陽が宇宙の中心で地球などが動いているとする考えを『地動説』といいますが、望遠鏡を使って夜空の観察をすることで地動説を主張したのがガリレオ・ガリレイです。彼はそのほかにも、月のクレーターが穴ぼこであることや、土星に環があること、天の川がたくさんの星の集まりであることなど、たくさんの発見をしています。僕たちにとっては当たり前のことですが、それに最初に気づいたのがガリレオ・ガリレイだったのです」(高梨氏)

「望遠鏡の性能はレンズの大きさで決まります。ガリレオ・ガリレイが使った望遠鏡のレンズは4cmほどでしたが、今日皆さんにつくってもらう望遠鏡のレンズも同じくらいの大きさです。ということは、月のクレーターも見られますし、土星の環や木星の衛星なども確認できるので、ガリレオ・ガリレイと同じ研究ができる、結構すごい望遠鏡なんです」(同)

高梨氏のこの説明、ワークショップに参加した12組29名の参加者を大いに刺激したようで、工作のスタートを今か今かと待ちわびる様子が印象的でした。

image_event_220828.003.jpegこの日は小学3年生以上の子どもを中心に12組29名の家族が参加

想像以上の本格的な講義に大人もビックリ

image_event_220828.004.jpegこの日作った望遠鏡のモデル。片手で持てるサイズ感でありながら、月、土星、木星なども観察可能な優れもの

工作キットの説明を行うと、いよいよ望遠鏡の工作がスタート。ひとつの手順を経るごとに高梨氏が説明し、それに沿って参加者たちは手を動かしていきます。高梨氏は、なぜこの手順でその作業を行うのか、その時触っているパーツが望遠鏡の中でどのような働きをするのか、どうすれば上手に組み立てられるのかなど、丁寧にわかりやすく説明しながら進行していきました。それを受けて、参加者たちも親子でコミュニケーションを取り、時には高梨氏や天プラメンバーに質問を投げかけながら、楽しそうに作業を進めていきました。

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作業開始から1時間半ほどが経ったところで望遠鏡は完成します。完成後、高梨氏は望遠鏡を使う際の注意事項として、太陽を見ないこと、余所の家に向けないこと、友だちなどに貸す時にも間違った使い方をしないように教えることなどを挙げました。

image_event_220828.007.jpeg image_event_220828.008.jpeg完成後は望遠鏡に装飾を施したり、楽しそうに覗き込む姿も

高梨氏は続いて、国立天文台が開発する宇宙空間シミュレーションができるフリーソフトウェア「Mitaka」を使いながら、これからの時期に東京で見られる星を紹介していきました。例えば、柄杓の形をした北斗七星と同星座を構成する北極星や、実は0等星の明るさを持つ土星、土星よりもさらに明るいマイナス3等星の木星など、肉眼で確認可能な星や、この日つくった望遠鏡で見られる星について解説していきました。さらに、「Mitaka」は太陽系から先の宇宙のシミュレーションを見ることもできるので、数千光年先、数万光年先、そして人類が観測可能な宇宙の果てである138億光年先の景色などを見ていきました。

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「今日皆さんに作ってもらったレンズは直径4cmほどですが、直径が2mほどになると100億光年先まで観測できるようになり、世界最大級の8.2mのレンズを持つすばる望遠鏡だと約134億光年先まで観測ができます。現在世界では直径30m相当のレンズを持つ望遠鏡が作られていて、完成すれば今見えている宇宙よりもさらに先まで観測可能になるといわれています。この望遠鏡が完成するのは今からおよそ10年後です。今日参加した皆さんが大学生になったり、大学を卒業する頃にできる予定なので、もしかすると皆さんがその望遠鏡を使って宇宙の研究をするようになるかもしれませんね。その時には、今日4cmのレンズからスタートしたことをぜひ思い出してください。」(高梨氏)

最後に、この日作った天体望遠鏡を使い、会場となったTOKYO TORCH 常盤橋タワーからの景色を眺めてワークショップは終了となりました。参加者からは「手作りでもとても精度の高い望遠鏡が作れることにビックリした」「子どもと一緒にものづくりができて楽しかった」「子どもよりも親の自分の方が高梨さんの話に聞き入ってしまった」「望遠鏡とスマートフォンを組み合わせれば星の写真も撮影できると聞いたので、ぜひ試してみたい」といったコメントが聞かれました。

image_event_220828.010.jpeg子どもだけでなく、大人も興味津々の様子で望遠鏡を覗き込んでいました

また、お母さんと息子さんの二人で参加した望月さん親子は、「『Mitaka』を使いながらの高梨さんの講義では、知らないこともたくさんありましたし、想像していたよりも本格的で驚きました。今日つくった望遠鏡を持って家族で出かけてみて、天体観察をしてみたいです」と、感想を教えてくれました。

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宇宙を考えることで、生きる意味を考える手がかりを得られる

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最後に高梨氏に、大丸有エリアのような都心部で星空に触れる意義について聞いてみました。

「都会で暮らしていると星空を意識することは少ないですが、もともと人類は『宇宙とは何か』『人間とは何か』『存在とは何か』といったことをずっと考えてきた種族だと思うので、現代に生きる我々もそういうことをたまには考えていいんじゃないかなと思っています。その意味で、星空は人間の深いところとつながっているのではないかと感じます。こうしたことを考えるのは、自分がなぜ生きているのかを考える上で手がかりになります。そんな時間や機会を提供するために、我々は活動しています」(高梨氏)

「一方で、星や宇宙の楽しみ方、付き合い方は人によって千差万別です。特に子どもたちはいろいろな距離感や角度から星や宇宙を考えているので、彼らから逆に星や宇宙を考える意義を教えてもらいたい、自分たちが宇宙や天文を理解するためにも、ほかの人々が宇宙や天文をどう考えているかを知りたい、理解したいという気持ちもあります。今日は望遠鏡を作りながら、あるいは『Mitaka』のシミュレーション映像を見ながら一緒に宇宙について考えていきましたが、子どもたちは様々な感想を口にしたり、質問をしたりしてくれました。その中には私が普段考えないような意見があったりもするので、そうしたコミュニケーションを取ることで私自身の成長にもつながると感じています」(同)

では、この日は高梨氏にとってどのような学びがあったのでしょうか。

「姉弟で参加されているご家族がいましたが、男の子の方は全然集中せず、工作をお姉ちゃんに任せきりでした(笑)。でも、『Mitaka』のシミュレーションを見ている時には、こちらから投げかけた質問に答えてくれたり、終わった後には『銀河と銀河が衝突するとどうなるんですか?』と鋭い質問をしてくれたりもしました。実は私が子どもの頃も、彼のように宇宙について考える方が好きだったんです。学びとは少し違いますが、自分と同じような子どもを見ると勇気づけられますし、この広い宇宙の中で自分と似たような子がいてくれることに対する安心感が得られました」(同)

最後に高梨氏は、これから天体観察や天文学に触れてみたいと考える人に向けて、次のようにメッセージを送ってくれました。

「天気のいい日にちょっと外に出てみて、5分10分空を眺めてみることが大事だと思います。難しい道具は何もいりません。メディアで星空が話題になった時や、中秋の名月などのタイミングに、気軽に見てみるところから始めてもらえたらと思います。そこから少しずつ興味を深めてもらったら、いずれ私たちの興味とつながるところがあるはずですし、その時に私たち"天プラ"と出会い、一緒に宇宙について考える機会を持てればいいですね」(同)

この日工作した望遠鏡キットは数千円で手に入るもので、90分ほどあれば完成します。それでも、条件が揃えば250万光年先まで観測することも可能だといいます。星や宇宙は一見遠い存在ですが、実は意識さえ向ければ、気軽に、手軽に近づいていけるものなのです。エコッツェリア協会では、これからも東京を舞台に宇宙を身近に感じられる環境プログラムを開催していく予定です。宇宙や星のことを知りたい、近づきたいという思いを持っている方は、ぜひご参加ください。

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