イベント3*3 LABO・レポート

【3*3 LABO レポート】『難民の社会性を考える』記念特別版

33ラボ 9月4日
『難民の社会性を考える』記念特別版
主催:認定NPO法人難民支援協会、共催:3*3ラボ

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難民支援協会×3*3ラボのコラボセミナー、第3弾の今回は、「難民の社会性を
考える」というテーマで開催しました。

日本には、迫害を受ける恐れがあるため母国から逃げざるを得なかった難民の方
がたくさん暮らしています。その中には、様々な困難を乗り越え、自らの人生を
切り開いている人が多くいらっしゃいます。

今回は、日本に逃れてきた難民を支援するNPO難民支援協会事務局次長・吉山昌
氏と、「難民」をテーマにしたイベントを同協会と共に企画中のソウ・エクスペ
リエンス株式会社代表取締役社長・西村琢氏に、実際の「難民」について、そし
て難民と社会のあり方について参加者の方々と一緒に考えました。

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"難民の社会性"とは?
まず、難民支援協会吉山さんより、日本での難民の置かれている状況や難民支援
協会についての説明の後、今回のテーマ"難民の社会性"についてお話いただきま
した。

※日本で難民の置かれている状況、及び難民支援協会については前回レポートを参
照ください。

【3*3 LABO】『世界難民の日』記念特別版 レポート

「難民の社会性という定義はとても難しいですが、難民という言葉がポジティブに
うつるようにしたいなと思っています。難民支援協会では、難民の方が日本で生活
をできるように、たとえば日本語の訓練や就労支援なども行っています。難民の将
来を考えたときに、難民支援協会としてもどんなことができるのか、可能性を考え
ていきたいと思っています。」(吉山さん)

ここで吉山さんより、日本に逃れてきた難民の方の社会性の高さを象徴するエピソ
ードをお話いただきました。それは2011年に起きた東日本大震災の時です。震災発
生からほとんど日を経ずに、難民の方から、被災地の支援をするため現地に何かし
たい、もしくは行きたいという申し出があったそうです。その後4月末には、難民と
社会人、学生と混成チームによる被災地でのボランティア活動がスタートしました。

「難民という背景を持っている人々は、単に「難民」であるだけではなく経験やス
キルを持った人であり、また社会への強い思いを持っています。そのことを普段は
つい見逃してしまいがちなのですが、震災を契機に気付かされたということだと思
います。」(吉山さん)

日本で暮らす難民は、生活の基盤を築きながらも自国の料理を日本に伝えるレスト
ランを経営するなど、支援を受けるだけでなく、自活している人も多くいます。支
援という形だけでなく、難民の方の"自活"をサポートするような新たな関わり方を
模索しています。
その流れで、現在、就労などの支援を行い、さらに「難民起業家」へのサポートを
すすめています。資金面、経営面でサポートし、事業が軌道に乗るまでの立ち上げ
支援などを行っています。

難民が社会に伝えられること、直接触れ合う仕掛け作り
~体験ギフトのソウ・エクスペリエンスとのコラボ~
ここでもう一人のゲスト、ソウ・エクスペリエンス代表の西村さんにバトンタッチ
します。ソウ・エクスペリエンスは"体験型ギフト"を提供する事業会社。難民支援
協会との接点をきっかけに、体験型のコラボ企画が生まれました。

「僕たちは比較的広いオフィスを部分的に場所貸しているのですが、場所貸しをし
ていた知り合いの一人が難民支援協会の方と知り合いで接点が生まれました。話を
聞くまで、難民はテレビの向こう側の遠い世界だと思っていましたが、実は日本で
私たちの身近に起こっている問題だったことに気付かされたんです。そして昨年末
の難民支援協会主催のパーティでは、体験型ギフトを協賛品として提供し、仕事上
での接点も生まれました。」(西村さん)

そんな出会いから難民支援協会との関係が始まり、より深くコラボレートする事業
として生まれた企画が、日本の難民に会いにいき交流するツアー"未来の仕事TOUR
S"です。

この"未来の仕事TOURS"、難民の方が実際に働くお店等に行き、仕事の体験と交流
を中心に行う2日間のツアーです。逞しく、希望に満ち溢れている難民に出会い、仕
事や人生のヒントや無限のインスピレーションを得ることがこのツアーの目的です。
このツアーでお呼びするゲストの方々は個性派揃い。起業後、ビジネスのスケールを
どんどん広げているパキスタン人男性、将来大物間違いなしの難民2世など、日本で
逞しく生きている方ばかりです。難民の悲観的な側面だけを目にするのではなく、
まずは何よりも、明るく、賢く、逞しく生きる難民たちの姿を見ていただきたいと西
村さんは考えています。

未来の仕事TOURS

何故このような企画が生まれたのか?ご自身の生まれ育った家庭環境と難民支援協
会の目指すことにつながりを感じ、この企画を思い立ったと西村さんは続けます。
「私は日本生まれ日本育ちですが、祖父がアメリカ系ということで移民の家系です。
第2次大戦の頃、アメリカでは日系人収容所に押し込められるということも起きて
いましたが、祖父は開戦直前で日本に帰ってきていたことで、日本軍側で戦うこと
に。アメリカに残る祖父の兄弟はアメリカ軍として、兄弟で戦いあわなければいけ
ないという不遇な環境が生まれてしまいました。そんなことを思い返し、難民や移
民に関する問題には向き合わないといけないという思いがずっとあり、この企画を
考えました。」(西村さん)

ツアー企画を立ち上げ、初めて難民の方に会って、彼らと直接話すのは本当に面
白かったそうです。しかし難民の方から日本の自殺率の高さについて憂いを受ける
こともあり、とても複雑な気持ちになったとか。「難民の方に心配されるような日
本で本当にいいのか」改めて考えなおすきっかけになったと西村さんは強く語りま
す。

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ツアーは現在実践しながら検証を繰り返し、発展途上の段階。今後より多くの方に
参加頂けるような形を考えていきたいと西村さんは続けます。

辺境のパワーから私たちが学ぶこと
また、西村さんは世田谷ものづくり学校で開催されている"自由大学"で講師も務め
ています。様々な講義が開講しているのですが、現状講師は日本人だけとのこと。
そこで自由大学の仕組みをヒントに、色んな国からやってきた難民の方に講師を務
めてもらう"random university"を開校するのも面白いのでは?というアイデア
も飛び出しました。
難民を"難民"と呼ばず、新たな定義で世の中に広がってほしい という西村さんは
意気込んでいます。

「面白いことは辺境から生まれます。あしなが育英会で日本にやってきたあるウガ
ンダ人は、『大統領になりたい』と本気で言って、日本でビジネス(アルバイト)
を始めました。日本で彼が見た文化を自国に持ち込み、またウガンダの文化を日本
に伝えるための事業も進めています。そうして難民も移民も入り乱れていけば、難
民という概念がなくなるんじゃないかと思っています。そんな将来を描いて私たち
に何ができるか、まずはできることから進めていこうと思います。」(西村さん)

後半は、モデレーター土谷貞雄さんや参加者の方との質疑応答。"難民の社会性"を
考える上で重要になる、私たち日本人の難民の捉え方、について議論が展開されま
した。

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土谷:"難民をポジティブに"というキーワードは、難民の生き方から元気をもらう
という趣旨ですか?

吉山:難民の方が日本で活躍できる様々な選択肢を知り、可能性を見ることで難民
の受け入れが促進するのではと考えています。

参加者:私自身、地域に難民がどう溶け込むかというテーマで研究していましたが、
そのとき日本は「助けてあげる」という視点に留まっているように感じました。そ
ういった面でも、今回お話いただいた"未来の仕事TOURS"については難民と私たちが
対等な立場で接点を持てるとても良い機会だと感じました。そして難民の方と友達
になりたい、一人の人として接点を持ちたい場合はどこに行けばよいのでしょうか。


吉山:難民の受け入れについては、積極的な国とそうでな国とが分かれます。日本
では、地域という観点でも難民の受け入れは十分であるとは言えません。そういっ
た意味では、普通に生活している中で難民と出会える機会は現状では多くありませ
ん。例えば災害対応の訓練を地域で実施することがあり、地域によっては外国人も
一緒に実施するケースがありますが、自治体の方と交渉しても優先順位として実施
が難しいといわれてしまうことがあります。何とかしてその状況は変えていきたい
と思っています。

土谷:そもそも日本は難民認定率が非常に低いにも関わらず、難民が来日するのに
は理由があるのでしょうか。難民の方は日本を良い国だと思っているのでしょうか?

吉山:日本に暮らす難民によって日本の印象は大きく異なると思います。事業で成
功していれば"安全"と答えるのですが、一方で状況が厳しい多くの方は"安全かも
しれないけれど安心して生活はできない"と考えています。必ずしも日本を選んで
日本に来ているわけではありません。日本に対しての良いイメージは持ってやって
来ることが多いですが、来てから現実を知って苦労することとなるのです。

参加者:"国"とは何だとお考えでしょうか。アフリカは人間が地形や民族に関係な
く線を引いています。一方で日本のような均質性の高い国もあります。そもそも国
とは必要か?難しい問題ですが、考えをお聞かせください。

吉山:ミャンマーの民族を例に挙げます。日本に逃げてきたミャンマーの方の中に
は、少数民族で、国との間で問題が起こり逃げてきた人がいます。その背景を考え
ると、植民地時代の「統治」にまでたどり着くでしょう。それに対し、日本は、様
々な問題はありますが、一つの国としてまとまるに至る「統治」がなされ、結果と
して現在の安定があると思います。そういった意味では、国という機能は意味があ
る存在かと考えています。

西村:私は、国という単位はあくまで制度だと考えています。時にパワーバランス
によって変わることもありますが、国による線引きは制度に留まるのかなと。例え
ば、沖縄出身の歌手は顔つきが外国人のようですが日本人、対してアラスカに住む
イヌイットの顔は日本人にそっくりですが、あくまでイヌイット。容姿では分類で
きません。尊重し合えるものは文化なのかなと思っていっます。

土谷:領土を占領してきた時代に終わりを告げようとしたのが戦後。戦争というも
のに対して世界がNOと言い始めた時代。その中で国とは何かという課題に対して、
国という見えない境界をどう乗り越えていくのか考え続けなければいけない問題で
すね。

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ディスカッションの終盤、土谷さんはこんな投げかけをしました。
「今日のイベントに友達をつれてくる、接点を増やしていくアイデアが欲しいです。
難民問題と聞くとネガティブな要素が多いと感じてしまうけれど、まずはその問題
に触れるには楽しさが重要です。また、先入観を壊すためにも、直接触れ合う機会
や、音楽・美味しいご飯等のエンターテインメント要素も必要だと感じています。
面白そうな事がテーマで、その中に難民がいた、という観点で考えてみると広がり
が出るのではと思います。」

私たちが抱えている難民に対する先入観が、難民の社会性を奪っているのかもしれ
ない、と、ゲストの話を聞いて感じた方が多くいらっしゃいました。難民支援協会
とソウ・エクスペリエンスとのコラボや、この3*3ラボとの共催イベント等で、
普段難民に接点がない人にも関心の入り口を作る、そのための仕掛けをこれからも
作っていくことで、まずは難民の社会的認知度を上げていくことから始めなければ
なりません。

3*3ラボでも継続してイベント開催してまいりますので、どうぞ次回もお楽しみに!

3*3ラボ(さんさんらぼ)

環境プロダクト「ものづくりからことづくり」研究会

3R(Reduce:減らす、Reuse:再活用、Recycle:リサイクル)と3rdプレイス(家と職場以外の場所)づくりを目指し、毎月ゲストをお招きしたセミナーを実施します。

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