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【レポート】地方創生、広域連携、その要が印旛に

「丸の内de地方創生」千葉県印旛プログラム

都市が地方とどう関わり、ともに発展していくか。その課題にアプローチするパイロットプログラムの「丸の内de地方創生」。丸の内プラチナ大学では農業ビジネスコース講師を担当し、東京農業大学客員研究員、関東学園大学教授、株式会社グリーンデザイン代表等、いくつも肩書を持つ中村正明氏が講師・モデレーターを務めます。千葉県の鋸南町と印旛地区、埼玉県の川島町と飯能市。4つのエリアを素材に、「食と農」「着地型観光」「移住・定住」「ソーシャルビジネスデザイン」をテーマに受講生を募集、東京からの地方創生のあり方、方法を探りました。

そのうち、千葉県印旛地区のプログラムでは「広域連携」の可能性について考える機会となりました。地域活性化、地方創生のキーワードのひとつになっている「広域連携」は、自治体同士の思惑のすり合わせが難しいことから、笛吹けど踊らずの感が強いのが現状。しかし、印旛地域の9つの自治体は、広域連携による地方創生が有機的に回る好例となりそうです。

印旛地域は千葉県北部の7市2町からなるエリア(成田市、佐倉市、四街道市、八街市、印西市、白井市、富里市、酒々井町、栄町)。印旛郡市とも呼ばれ、救急医療体制、水道事業などの社会基盤ですでに広域連携体制が確立されています。その印旛が地方創生、特に観光で連携したのが今回のクラス。1月30日に3×3Lab Futureで座学を行い、3月4日には現地のフィールドワークツアーを敢行。受講生たちは全国的にも稀な広域連携の現場を間近で見る貴重な経験を、そして自治体側は広域観光に向けた次の手がかりを得ることになりました。フィールドワークツアーを中心に、「丸の内de地方創生」印旛編の様子をレポートします。

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"弱い"四街道市が広域連携の鍵を握る

"弱い"四街道市が広域連携の鍵を握る

icobaのサイトから

1月30日の座学では、9自治体のうち、成田市、佐倉市、四街道市、印西市、白井市から担当者が登壇し、それぞれの自治体の特徴や観光ポイントをプレゼン。その後受講生たちで印旛地域の魅力を考察し、3月4日のツアープランを検討するワークショップに取り組んでいます。千葉といえば東京に隣接する県ではありますが、知られざる魅力にあふれた地域であることを認識させられる講義となったようでした。

各市からのプレゼンに先立って、この広域連携の仕掛け人、四街道市 環境経済部産業振興課の和田浩史氏から、今回の取り組みの背景についての説明もありました。それによると、今回取り組みは四街道市が音頭を取り、同市の2016年度の地方創生加速化交付金を持ち出す形で9自治体連携の体制を整えています。これには「官民協働」「地域間連携」「政策間連携」の3つのポイントがあり、最終的には「安定雇用と人の流れを生み出す」ことを目的としています。

icobaのロゴ四街道市は他の自治体に比べ面積も小さく、観光資源に恵まれてはいないものの、交通の面では「印旛の玄関口」というポジションにあります。そこで印旛地域の観光促進のためのハード整備として、四街道駅近くに印旛のアンテナショップ「icoba(イコバ)四街道1丁目」、交流、移住促進支援の「まちのコンシェルジュ四街道1丁目」を設置。印旛全体の情報発信とともに、観光客の受け入れ、移住定住の窓口機能を果たします。また、icobaの上階には無料の宿泊施設「icobaSTAY」も用意(2017年度からの料金は未定)。ちなみに「icoba(イコバ)」は、「いんばに行こう」「憩いの場」を掛け合わせた言葉であるとともに、Information、Comunication、Baseの頭文字を取った格好でもあります。

和田氏によると、この広域連携がうまく回っているのは、もともと基盤があるうえ、「何も持たない四街道市が音頭を取っているからでは」と話します。例えば観光資源に恵まれた成田市や佐倉市が主幹となったら、他の市としては関わるのに躊躇してしまいますが「何もない」四街道市なら安心、というワケ。逆に観光資源の薄い四街道市は「印旛の玄関口としての役割を果たすことで、他の自治体に"助けてもらう"ことができる」と和田氏は答えています。

地域ごとに中心になる"親分""兄貴分"の自治体があり、そこを中心に広域連携を組むことがほとんどですが、逆に"弟分"が主幹となることで有効な広域連携が生まれる。これは他の地域でも参考になる手法ではないでしょうか。

和田氏からの説明に続いての各市からのプレゼンの後は、各テーブルでツアープランを発案。「"ほぼ東京"色と見どころいっぱいツアー」「健康丸印! 印旛健康ツアー」「和の文化でブランディング」など5つのプランが発表され、3月4日のツアーへと備えます。

市が掛ける期待

凝った作りの旅のしおり

そして3月4日のフィールドワークツアーは、朝9時に丸の内発、夕方18時に戻るという日帰りバスツアーです。しかも、同じく「丸の内de地方創生」で扱った千葉県鋸南町よりもさらに広いエリアを巡るという、これまた濃密なフィールドワーク。とにかく情報量が多く、楽しくも濃い時間となりました。開催に当たっては、受講生たちのアイデアを取り込んだツアープランを策定しており、一冊のリーフレット(旅のしおり)「いんばの寺子屋 おとなの時間割」にまとめて参加者に渡されます。

この日回ったのは、
・JR四街道駅
・icoba四街道1丁目
・鹿放ヶ丘ふれあいセンター
(以上四街道市)
・イタリアンレストラン沙久良 染井野店(佐倉市)
・飯沼本家(酒々井町)
・武家屋敷(佐倉市)

ちなみに四街道市の3カ所は「1時間目」、テーマは「軍都四街道の歴史をのぞく!」、イタリアンレストラン沙久良はもちろん「給食」、「2時間目」の飯沼本家は「300年も続く造り酒屋」なるテーマ。「3時間目」の佐倉市・武家屋敷は「侍の街佐倉の歴史に触れる」となっています。

icoba四街道1丁目の前の公園で挨拶する佐渡市長

四街道駅では、ここで合流した四街道マップ活用交流会の飛田周彬氏、小沢武氏から、四街道・鹿放ヶ丘の歴史のあらましをお聞きし、その後icobaへ。icobaでは四街道市の佐渡斉市長が参加者一行を出迎えて挨拶してくれています。

佐渡市長佐渡市長は「印旛は、都会的風景と田舎的な田園風景が入り交じる"トカイナカ"だと思う。デフレスパイラルが続く中で、印旛がまだまだ元気なのは、豊かな自然環境と風土を持つ土地柄だからだろう。今日はぜひ四街道市をはじめ印旛の魅力を感じてほしい」と参加者に呼びかけました。また、取材に答え、広域連携について医療や水道事業での連携実績があり、「9自治体の首長が常に連携しあい、同じ意識を共有している」ためにうまく運んでいると話しています。東京からのモニタリングツアーに、首長が立ち寄り挨拶してくれるところに、この広域連携事業に掛ける自治体の意気込みを感じさせます。

また、icobaでは、印旛全体の物産が集まっていることから、参加者のテンションはいきなり上がり、ツアー最初の目的地であるにも関わらず、ほとんどの参加者が野菜やら加工品やら食べ物を大量に購入していました。

(左)にんじん放題にトライする参加者 (右)上階にある宿泊施設「icobaSTAY」を見学

歴史から見る四街道

真ん中で説明しているのが加藤氏

続いての目的地は鹿放ヶ丘のふれあいセンター。この2階にある歴史民俗資料室で、鹿放ヶ丘に終戦直後に入植し、開拓に取り組んだ"開拓一世"の加藤昌司さんから当時の様子をお聞きしました。鹿放ヶ丘はかつて砲兵師団の軍用地で、薬莢や銃弾が散らばっている荒れ果てた地。ここに終戦直後の食糧増産のために開拓で入植したのが「満蒙開拓青少年義勇軍内原訓練所基幹学校」の14~17歳の青少年たちでした。加藤さんもその一人。加藤さんから、当時荒れ果てた原野を開拓するために家畜を飼い、土作りから始めたこと、当初は土が痩せていたためにさつまいもしか作ることができず苦労したこと、一から家も作ったことなどの当時のエピソードを、写真やかつて使われた民具・道具を見ながら伺いました。加藤さんは昭和4年生まれ。太平洋戦争の記憶が遠くなる中、これからも元気に鹿放ヶ丘の歴史を語り継いでほしいと思った参加者一行なのでした。

大澤農園、大澤氏「給食」のランチに訪れた「沙久良」は、鹿放ヶ丘の産物を利用した地元密着型のイタリアン。ここでは、野菜を卸している大澤農園の大澤敏弥氏が見えられ、鹿放ヶ丘の農業の今を説明してくれています。それによると、大澤さんは開拓二世で、農園は道路建設のために移転を余儀なくされ開拓当時とは趣を異にしており、現在では施設栽培が大半。また、得意としていたしいたけの原木栽培が、原発事故の影響で菌床栽培に転換するなど、何かと苦労が絶えない状況。しかし、アスパラやトマトなどのメジャーな野菜を軸に、キクラゲやスナップエンドウ、食用菊など、需要の高い、特殊な野菜を少量多品種生産する体制で、さまざまなチャレンジに取り組んでいます。「農業は大変だけどアイデア勝負。クリエイティブで、こんなにおもしろい仕事はないとも思える」と大澤さん。

しかし、その一方で開拓二世、三世の跡継ぎが育たず、「100人の開拓一世のうち、20人しか継いでいないし、この先さらに継いでくれるのは10人もいないんじゃないか」。つい70年前まで原野であったために「長年かけて作ってきた土じゃないので、耕作放棄してしまったら荒廃するのもすごく早い」と大澤氏。今後の後継者対策が期待されています。

ランチは「海老とスナップエンドウのペペロンチーノ」「あさりと鹿放野菜の青じそトマトスープのパスタ」「牛肉・里芋・大根おろしの醤油味パスタ」(写真右)の3種のパスタから選べるようになっていた。どれも野菜の力強さを感じさせる優しい味。

時代を先取りする蔵元

(上)飯沼本家 取締役の飯沼幹子氏 (下)見学の様子昼食後は、酒々井町の蔵元・飯沼本家へ。酒々井は、毎日父のためにお酒を買う孝行息子が、酒の湧き出る井戸を見つけたという説話から「酒々井」と名付けられた場所。それだけ美味しいお酒が作られるまちなのかもしれません。飯沼本家では酒造工程の見学と代表的なお酒の試飲をさせていただきました。

工程見学では、若き蔵人が案内に立ち、蔵の歴史から酒造りまでを教えてくれます。飯沼本家は、「最初の柱が立ったのが元禄年間」、350年の歴史を持つ旧家です。地元の名家として代々お神酒作りやお茶の栽培など手広く手がけてきましたが、大正4年、12代目当主・治右衛門が酒造業に特化し、会社組織を立ち上げています。常に時代の先を行くのがポリシーだったそうで、現在は渡りの杜氏を使うことなく、自社の年間雇用だけで酒造りができるように体制を変更しています。「蔵人の高齢化や、働き方の変化を考えると、出稼ぎのようなかつての杜氏のスタイルは時代にマッチしない」との考えから、かつては30人必要だった酒造りを、今では5人の雇用で対応しているのだとか。「若いのが自慢」というように、若手ががんばっているのも飯沼本家の特徴でしょう。

工程見学で酒造りの一連の流れを見た後は、明治期に建てられた蔵の中での試飲。なかなか雰囲気のある建物でお酒の味も引き立ちます。ここで3種のお酒を試飲した後には、直営のショップ「酒々井まがり家」に直行し、気に入ったお酒を購入する参加者たち。酒造りでもろみを入れて絞る『酒袋』を使った小道具を販売したり、2階には地元縁のアーティストの作品を扱うなど、幅広い挑戦をしており、参加者たちも目を輝かせて喜んでいました。

そして最後の3時間目、佐倉市の武家屋敷の見学へと移りました。佐倉城の城下町に当たる武家屋敷通り(鏑木通り)には、佐倉武家屋敷の特徴らしい、土塁と槇の垣根で囲われた屋敷が並び、往時を偲ばせます。

ここでは、350石取りの河原家住宅、150石の但馬家住宅、そして90石の武居家住宅の3つを見学。案内してくれた現地のボランティアガイドの井上徳男氏は「350石は現代の部長級、150石は課長、90石は係長みたいなもの。石数による家の違いを見てみてほしい」と、ひとつひとつ丁寧に案内してくれました。佐倉藩では「天保の御制」という一種の倹約令が出され、身分に応じて家の造作に制限が出されています。広さはもちろんのこと、屋根や壁の作り、畳表の種類、扉の造作等、事細かに決められています。参加者たちはそうした違いを見て、当時の武家の暮らしに思いを馳せるのでした。

都市からどう関与するか

見学を終えて、四街道市の和田氏は、このモニタリングツアーを「東京からの旅行者に目を向けてもらうきっかけになれば」というインバウンド的視点と、印旛地域内の職員・関係者の間でも新たな発見も多かったことから「交流研究会等でも役立ちそう」と、内部的な視点でも成果があったと話しています。今後、こうしたモニタリングツアーから得られる情報や成果を「まちのコンシェルジュ四街道1丁目」にフィードバックし、コンシェルジュ機能を拡大し、一定の利益を出せるようにしていくのが目標になります。農業体験やそば打ち体験などたくさんの企画を発案、実行に向けて動き出しており、「やりたいことはいっぱいある。体がいくつあっても足りないくらい(笑)」と和田氏は話しています。

この一連の活動は、四街道市はじめ印旛地域の議会でも注目されており、当日は現地メディアの取材も入るなどホットな様相。2017年度にどのような活動になるのかは未知数ですが、丸の内de地方創生のその名の通り、積極的に都市部から関わることのできる可能性を秘めたエリアです。広域連携の地方創生のフィールドとして、これから都市がどのように関わっていくのかも問われているのかもしれません。


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