イベント地域プロジェクト・レポート

【レポート】水と緑に恵まれた「農ある暮らし」を提案する試み

丸の内de地方創生 第3弾 埼玉県飯能市 2019年1月21日(月)開催

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大手町3×3 Lab Futureを拠点に、さまざまな地域と都心生活者をつなげる企画を展開している「丸の内de地方創生」。今回は埼玉県飯能市をテーマに、フィールドワークとセミナー&ワークショップの2日間イベントを開催しました。1日目のフィールドワーク(2018年11月24日実施)では実際に飯能市を訪ね、飯能野菜の収穫体験とジビエに関するミニ講座へ参加、トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園で北欧の世界観を体感し、飯能河原渓谷の断崖絶壁に建つブルワリー&レストラン「CARVAAN」を視察。そして2日目のセミナー&ワークショップでは、3×3 Lab Futureにて2名のゲスト講師から飯能の魅力についての講話を聞き、参加者による新しいマーケティングニーズの抽出を試みるワークショップを行い、新たな飯能と東京都市部とのつながりを考えたプログラム内容となりました。

モデレーターを務めたのは、大丸有「食」「農」連携推進コーディネーターの中村正明氏(東京農業大学客員研究員、関東学園大学教授、丸の内プラチナ大学農業ビジネスコース講師)です。

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埼玉県・飯能市からあるべき未来を見据える

埼玉県・飯能市からあるべき未来を見据える

一人目の講師で「飯能未来フォーラム」事務局長を務める伊藤恵里子氏が語った、飯能の暮らしの一番の特徴が、"森と湖のある暮らし"です。都心から1時間、池袋からであれば50分の距離に、広大な森に囲まれた湖が2つもある場所こそが飯能エリア。飯能市の森林率は76%あり、日本全体の森林率67%よりも高い。土地の標高は約113m。池袋が約35mなので、だんだんと山の上に登っていき、眺望が良くなる地理構造にもなっています。

現在の飯能市では、195㎢の土地に、8万人強の人々が暮らしを営んでいます。しかし残念ながら飯能市は、3年前に人口減少消滅可能性都市の一つに選ばれてしまい、これはなんとかしなきゃいけない、もっと積極的に移住促進をしよう!という動きが市内で始まりました。そして現在、通常であれば宅地にできない農地を宅地併設の"農のある暮らし"にする特区制度も始まりました。

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「飯能市の南高麗(みなみこま)地区は、旧石器時代、縄文時代の遺跡がいまでも採掘されていて、人が自然と暮らしていた歴史が非常に長い土地です。高台にあり、日当りも良い。普段は都心へ通勤しながら家庭菜園を楽しんでいる人も多い。まさに「半分、農があるくらし」、つまりは「半農暮らし(飯能暮らし)」なんです!」(伊藤氏)

移住促進のPR支援という観点から、伊藤氏も所属するNPO法人 水と緑の環境フォーラムが発起人となり、「飯能未来フォーラム」という任意団体が2016年に立ち上がりました。「飯能未来フォーラム」は、国の農山漁村振興交付金事業により地域資源の活用と農山村地区への定住促進の支援を行うべく、飯能市・飯能商工会議所・東京農大・獨協大学・拓殖大学・筑波大学といった有識者と市民とで連携をしながら、30年先の2046年の飯能市のあるべき姿を見据えた提言と活動を続けています。

本来あるべきコミュニティの復活を支援する

「飯能未来フォーラム」が活動を開始した2016年当時、まずは市民100人を一同に会し、「どういう飯能が良いだろう」「飯能の宝ってなんだろう」という問いを一緒に考えるセミナーが数ヶ月間実施されました。そして、市民が集まって話し合う中で得られた気づきが、「同じ飯能市民とはいえ、そこで初めて会う人たちが非常に多かった」ということでした。田舎暮らしであっても、いかにコミュニティが希薄か、ということが浮き彫りになりました。

「195㎢もの広さの中に8万人が暮らしているのですから、隣の家との距離が離れていたり、山あいに点々と家があったり、住宅密集地でも実は空き家が多かったりと、コミュニティが不足することに繋がる要因が実は存在していたのです」(伊藤氏)

そこで、昔の暮らしでは井戸端会議で隣近所に住む人のことがお互いにわかっていたように、「本来あるべきコミュニティの復活をしよう!」ということをゴールに、情報誌の発刊が始まりました。それが情報誌『森と湖のあるくらし』の第1号と第2号で、飯能の街の人々の暮らしを詳細に取材して紹介するページが組みあがりました。

情報誌の存在が市民間の一つの共通話題となり、それがコミュニティ醸成のきっかけとなり、同時に地域の財産である"地域財"を可視化することが実践されました。たとえば、南高麗の標高100m以上のエリアでは、上下水道も通っていない限界集落ではあるものの、自分のところで作った農産物を自宅の軒先で無人販売していたことから、都心からおよそ2,000人がトレッキングがてらにそのような村々を訪ねるイベント、「お散歩マーケット」を年に2回ほど企画・掲載するといった流れを作り出しました。

また地域の情報誌が着目した地域材として、「西川材」というものが飯能市にあります。これは、東京から見て西の川の方から流れてくる材木ということが名前の由来となっている主に檜や杉の材木のことで、全国的に良質の材木が集められている関西や北海道からも買い付けが入ってくるほど良質な木材が飯能で採れることを掲載・発信しています。

地域経済活性化の2つの成功事例

飯能市内には、地域経済活性化の成功事例として過去2回のセミナーの視察地になっている場所が2つあります。1件目は、飯能市内の新聞販売店のご実家を継いで、あらたに新規事業として"農業"への取り組みを始めた本山憲誠さんの「ひより農園」です。地域で休耕田になっていた場所を仲間と開墾して「管理農園」というビジネスを始められた本山さん。ここでは、年間契約をしたユーザーに年間分の管理委託費を支払ってもらい、日々の農園の管理を請け負うかわりに、ユーザーは自分の好きなタイミングだけ畑に通うことができるという手軽な農業との関わり方を提供しています。また最近では、飯能市のトーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園内に、北欧風カフェ「Cafe PUISTO」(カフェプイスト)を2018年6月に新たにオープンさせ、"奇蹟のリンゴ"で知られる青森のリンゴ農家・木村秋則さんのところで2年間学んだノウハウを生かした無農薬栽培や有機栽培の野菜を使った料理を提供し、話題を呼んでいます。

そして成功事例の2件目は、南高麗で大麦とホップを栽培し、飯能産のクラフトビール製造と飯能河原渓谷に建つブルワリー&レストラン「CARVAAN」を開業した株式会社FAR EAST(代表取締役:佐々木敏行さん)です。FAR EASTは、もともと世界各地からナッツやドライフルーツなどの食品を輸入販売する会社で、その知見を活かしたアラビアンスタイルの料理と洗練された建物空間が特徴的なレストランは、都内からの旅行者ももちろんのこと、今ではすっかり地元で農業を営む人たちがハレの日に着飾って出かけられる場所として、連日人気のスポットになっています。

半農暮らしキーワードは「つなぐ」

飯能の魅力を伝える二人目の講師は、22年前に飯能市へ移り住み、普段は都内の製薬会社へ車通勤をしながら農のある暮らしを実践している永山隆氏です。

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永山氏の体験談は、もともと決して農業ができる生活が目的で飯能市に移り住んだわけはなかった、というところから始まります。移住する前の永山氏は青梅市から都内へ車通勤をしていましたが、家族が増え新しい家を探す中で偶然に飯能市に広くて安い家を見つけたため、移住を決めたのだというのです。また当時は、農ある暮らしというものを特段意識していたわけでは無かったそうです。

しかし、数年前から農のある暮らし「飯能住まい」が新たなライフスタイルとして市をあげて推進され始めてから、町は大きく変わりだしていることを実感していると言います。移住対象地区となっている南高麗地区には、移住する人が着実に増えており、企業側も障がいのある人たちへの雇用を充足させるための農業運営施設を新規オープンさせるといった動きなどが見られるといいます。

さて、そんな永山氏の現在での半農暮らしがどのようなものかというと、もともと小さな面積から始めた家庭菜園も、今では地元の7名から土地を借り受けて、あおばた豆、鞍掛豆、ジャガイモ、スイカ、トウモロコシ、カボチャといった野菜の栽培を行っています。

しかし人間にとっておいしい野菜は、野生動物たちにとってもおいしい野菜。そしてこれらは見事にすべてイノシシの大好物。畑が大きくなるにつれて、永山氏とイノシシとの戦いが始まりました。畑を荒らされる被害に困った永山氏は、ついに罠免許を取得し、2014年11月に初めてイノシシの捕獲に成功。農ある暮らしを続けるうちに、自らイノシシ退治が出来る様になりました。

以後、定期的な駆除のために捕獲したイノシシ肉や鹿肉を使ってジビエの加工品を作ることへの挑戦が始まりました。お手製の燻製装置とソミュール液を使ったハムやジャーキー作り、また捕獲したジビエ肉をきっかけとした職場の同僚や地元のシェフとの交流が新たに生まれたと言います。

そして、永山氏の半農暮らしがもたらす関係性の広がりはさらに続きます。年2回の春と秋に行われる「市民清掃デー」で廃棄物として集まった大量の落ち葉。その落ち葉を貰ってきて畑で2~3年かけて腐葉土にすることを思いつきます。いざ実際に腐葉土作りを行ってみたところ、地元の男の子たちが欲しがるカブトムシの幼虫が勝手に自生し始めたり、その腐葉土を畑に撒いたら予想以上に美味しいサツマイモが大量に採れてしまったので、思わずそれらを市民清掃デーの参加者へ還元してみる。そうすると人と人との新しい繋がりが生まれてくることを実感したそうです。

さらに、今では日本ミツバチを飼いたいと永山氏は言います。有機JASマークの取得には年間50万から100万円程度の調査費用・取得費用がかかることを踏まえて、あえてミツバチを活用した栽培の安全性の独自認証やブランディングを行うことを考え始めているのだそう。また、花の少なくなる夏場にもきちんと花を供給するためのヒマワリ畑やハーブ園を作ることも計画中なのだとか。半農暮らしに取り組むと、どんどんと新しく挑戦してみたいことが広がっていく様子が伺えます。

「田舎暮らしを始めるきっかけは人それぞれであっても、たどり着く最終形はほぼ同じだと私は思っています。それは"仲間やコミュニティを作って自給自足のある生活をとても楽しんでいる"ということです。たとえばテレビ番組のDASH村のような状況です。あるいは渡部ヘルムートさんの著書『ひとり農業』や、小泉武夫先生の小説『猟師が獲った肉は腐らない』の世界を思い浮かべて頂きたいです」(永山氏)

永山氏の出身地である福島県では、街の人が共同して行う茅葺きや田植えのことを「結い」と言い、「結いを貸す/借りる」というような言葉の使い方をするそうで、近所の人で集まって助け合う仕組みに、子供ながらに触れていたと言います。それは大人になった今の飯能の暮らしでも同じで、人と人との繋がりが最も大事。地元にとけ込んで色々な人との繋がりを作って生活をしないと、田舎暮らしは成り立つのが難しいと言います。現に永山氏は、畑を7名から借り、トラクターも借り、賛助会員として自治会や猟友会にも参加し、街の人との助け合いの暮らしを日々実践されています。

「地域の課題解決」から始めよう!

再び講師役は伊藤氏へバトンタッチ。ワークショップの導入部として、都市と南高麗の農業文化をつなぐ"アグリファミリー"企画の紹介へ。伊藤氏が地域課題を調査する中で判明した「野菜の収穫作業=農業で最も大変な作業」という課題をうまく解決できる仕組みとして、都心部の生活者に「余暇のアクティビティとして収穫の手伝いに来てもらう会員制度」の実用化のためのプランニングが現在進行形で進んでいるといいます。

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また副次的なコンセプトとして「農家と親戚づき合いをする感覚」が同時に掲げられており、参加会員と農家がICTを使った遠隔のコミュニケーションを日々図りながらも、年に一度以上は実際に会いに行く交流を行い、また自らの目で畑の様子を見る行為を通じて栽培される野菜への信頼感の醸成を図ることも考えているそうです。この工夫により、第三者機関による有機栽培の認証取得や広告費用を省き、農家に必要なコストを下げるということにも一役買うことが期待されています。

そしてこの日の最後のプログラムは、1日目に飯能市の現地視察にも参加した参加者14名同士のワークショップ。どのような工夫や仕組み作りであれば、飯能市へ訪れる都市部生活者のニーズを満たすことができるかをブレストし、新たに下記のアイデアや方向性が発表されました。

グループ1:食べて・飲んで・寝る の三点セットを充実させるプラン

グループ2:女性が集まるところには他の人も集まってくることから、女性が特に喜ぶような体験プランを深める考え方

グループ3:一夜限りの非日常空間的な屋外レストラン、農業婚活、ジビエ料理レストラン

グループ4:毎月開催する食堂、場作り、毎月の旬の物を最高の食べ方で食べる体験の提供

会の締めは恒例の交流会形式で、永山氏が栽培した野菜と捕獲したイノシシ肉を使った料理が振舞われ、半農生活から得ることができる豊かな食とお酒を交えて、飯能の未来をゆったりと語らう時間となりました。

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