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【レポート】地方創生と金融のこれから(2)

BFLセッション vol.1 「地方創生×オープンイノベーション シンポジウム」2017年7月13日(木)開催 後編

※当記事は【レポート】地方創生と金融のこれから(1)の後編です。

「ノタノタと頂点まで上がったジェットコースターがまっさかさまに駆け下っていくように、この国は人口が減っていくことになる」――石破茂氏(衆議院議員)が語る饒舌で不気味な比喩。「その時、日本は人類が経験したことのない景色を見ることになるだろう」と石破氏は予言します。現在1億2700万人の人口は、2100年には5100万人に、200年後には1391万人に減り、300年後には500万人を切る(編注:国立社会保障・人口問題研究所の参考推計結果)。この急激な人口減少はまさに「国家」が続くかどうか、その瀬戸際に来ているということかもしれません。7月13日に開催された「地方創生×オープンイノベーション シンポジウム」。前半の松田氏、笹谷氏、松原氏による講演に続き、後半は元地方創生大臣の石破氏の講演でスタート。内閣改造直前という時期でもあり、会場は、日本の将来を地方創生の枠組みでどのように戦いうるのか、さらに熱を帯びてきました。

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今回の地方創生は失敗できない

今回の地方創生は失敗できない

まず石破氏は、今後100年で人口が1/3に減ることを示し、しかも、その人口構成比が逆三角形であることから社会保障費が増大し、「考えるだけで目が眩みそう」なほど財政の維持が困難になる点を指摘します。女性の社会的責任が増大することで特殊出生率低下には拍車は掛かり、比較的出生率の高い地域から、ことさらに低い出生率の東京への人口集中が続くことから「これでは人口が減るのは当たり前」。加えて、今地方で介護を支えているワーカーが、今後地方高齢者の絶対数の低下に伴い、介護難民が発生すると見られる東京へ流入することも考えられていることなど、幾重にも東京への一極集中と地方の減退が進む状況があることを説明します。

しかし、この一極集中と地方の問題は今に始まったことではなく、過去「どの政権でも地方を取り上げてきた歴史がある」と石破氏は言います。例えば1972(昭和47)年、田中内閣は「日本列島改造論」を掲げ、インフラの拡充による地方活性化を牽引しました。「この政策の本当の目的は首都一極集中の是正にあった。実に卓見であったと思う」と石破氏。大平内閣では「田園都市構想」。都市の賑わいを地方に、田園の潤いを都市に、という「実に大平さんらしい哲学的な政策であった」。そして、昭和から平成の世に移り変わるころに出たのが竹下内閣の「ふるさと創生」の1億円。当時の竹下首相に「バラマキと批判がありますが」と懸念を伝えたところ、「石破くん、それは違うんだがね。これで地方の知恵とやる気が分かるんだがね」と答えたそうです。

「それぞれに揶揄する人もあったが、いずれもそれなりの卓見であったと思う」としつつも、しかし、「思い返すに、これで失敗したら日本が潰れるとは誰も思わなかった」と石破氏は振り返ります。
「しかし、今度の地方創生はそこが違う。これに失敗したら日本という国がなくなるかもしれない。絶対に失敗してはならない、そういうプロジェクトであると、少なくとも私はそう思っている」

あの頃の「前提」はもうやって来ない

 そんな日本存亡の危機にあたって、石破氏が危惧しているのは「これまでの同じ前提で考えていやしないか、かつての成功体験にすがって過去の遺産を食いつぶしているのではないか」ということ。これまでの経済政策や地方自治行政は「人口が増え、経済が発展する」ことを前提に考えられ、実行されてきましたが、その前提が崩れていることに現実が対応しきれていないという指摘。

例えば、過去1980年代の10年間、地方が元気であった時代がありました。その時は「どの地方に行っても駅前は元気で、農村部にも活気があり、毎週末観光客で賑わった。本当に地方の時代が来るとワクワクしたことを良く覚えている」と石破氏。

これは、地方での公共事業の拡大と企業誘致によって、膨大な雇用と所得が地方にもたらされたことによって起きたもの。「全国に道路と鉄道が整備され、基盤整備が進み、港湾や空港が建設された」ことと、「同じものを安くたくさん作るビジネスモデルによる企業」が日本中に広まったこと。これが当時の「地方の時代」の正体です。

しかし、「これと同じことはもうできない」のです。石破氏は言います。「必要な公共事業は行うにはしても、かつてのような規模では発生しない。同じものを安く大量に製造するビジネスはいわずもがな、中国や他のアジアに移ってしまった。もう1回同じことをできないか、と言われたら、できないと答えるしかない」。

「勝負」する場所はどこか

では、これからどこで「勝負」すれば良いのでしょうか。日本は貿易(輸出)で、中国や産油国ばかりか、同じ先進国のイタリアやフランスにも勝てていない現状があります。食料品、酒、ブランド品、伝統工芸などの分野で後塵を拝していますが、「本当に勝てないのか」と石破氏は投げかけます。

例えば、ドン・ペリニヨンがベルサイユ宮殿で開催した晩餐会のデザートの皿で使われた、岐阜県土岐市の「茄子紺」の陶器。石破氏はこれを「ジャパンブルー」と呼んでいます。ディオールの製品にも採用されて非常な高額で販売されているとか。また、鳥取県倉吉市の高級鞄メーカーの「バルコス」は、1個数十万円の鞄を作り、世界を向こうに張ってビジネスを展開しています。他にも世界トップシェアを誇る航空関連の精密機器や精密医療機器。高い技術と粋を極めた伝統工芸が「どうして世界で勝てないわけがあろうか」と石破氏は語ります。

そして一次産業。現在は非常に困難な状況が積み重なっています。例えば、農業は「土と水と光と温度の産業」で「日本ほどこの4つを具備した国」は他になく、そして「日本ほど品質にこだわる国」はない。にも関わらず基幹農業従事者は減る一方で、「いつか農業をやる人がいなくなる日が来るかもしれない」という現状。漁業は、世界6位の水域(領海および排他的経済水域)を持ちながらも、略奪型の漁業が改善されず水産資源の枯渇が進むとともに、「農業以上の高齢化」「船齢の高齢化」が進み、今後の事業承継に困難が起こることが予想されています。林業も山の荒廃が進み、山崩れや雨水の急激な流出による水害の原因となっていながらも、縦割り行政のために木材の有効利用が妨げられているなど現状は決して明るくはありません。

しかし打つ手がないでもない。石破氏が挙げた例では「羽田市場」というブランドで、羽田空港を有効に使って新鮮な魚介を素早く届けることで高い収益を上げている水産業者の例や、CLT(Cross Laminated Timber。交互にクロスさせるように作る集成材で高い強度があり、高層建築でも使用が可能。日本では法整備が遅れ、2016年から一般利用がスタート)、トヨタの農業IT管理ツール「豊作計画」など、さまざまな分野、レイヤーで改善に取り組む人々が現れています。国家戦略特区を有効に使い、農地の株式会社所有を認め、耕作放棄地対策を進める兵庫県養父市、精密農業を企業と進める新潟県の例なども紹介されました。

そしてもうひとつ、石破氏が力を入れて語ったのが「観光」です。観光は「美しい四季があり、自然があり、語りうる歴史と文化があって、おいしい食と酒があれば成り立つ」もの。石破氏は「日本全国、1718の市町村があるが、これがないところはない。必ず何かはあるハズだ」と指摘します。東京都国分寺市の「真姿の池」に伝わる玉造小町の伝説や、鹿児島県薩摩川内市の「藺牟田(いむた)池」の竜伝説などを紹介し、「特産品とストーリーを組み合わせれば、日本全国どこでも欧米人が泣いて喜ぶ面白い商品を作ることができる」と石破氏。

それが極まったのがJR九州の「ななつ星」、同西日本の「瑞風(みずかぜ)」、同東日本の「四季島(しきしま)」とのこと。石破氏はななつ星にテレビの取材で2回乗った(いずれも数時間のみ)際に、JR九州の唐池恒二会長が「世界一の列車を作りたかった」と語っていたエピソードを紹介。世界一の車両に世界一のサービス。九州一の米に肉に酒を、一流の料理人が車両で作って提供する、そんな世界一の列車。3泊4日の旅を終えた人の半分は「こんなにも素晴らしい旅があるのか」と涙するほどのもので、要は「今だけ、ここだけ、あなただけ、のサービスをどう作るのか、ということではないだろうか」と石破氏。

「産官学金労言」の真意

ここまで地方創生の可能性を示唆してきましたが、しかし、「そのまちをどうするのか、どう作るのかは、そのまちでしか分からない」と石破氏は言います。だからこそ、地方創生プランは各自治体で作ることが求められました。「県庁で分かるわけがないし、ましてや霞が関で分かるはずもない」。
しかしながら、「人口と産業を、どこをどう伸ばせばどうなる、とプランを立てられた自治体は非常に少ない」と石破氏。
「補助金が入ればこうなるはず、道路ができればこうなるはず、というプランばかりで、これではどうにかなるわけがない。『これをこうすればこうなる』『そのためにはこれが必要』という議論をせねばならない」

つまり「話が逆」なのですが、一方で「行政がそんなプランを立てられると思うほうがおかしい」とも指摘します。2、3年で配置が変わる担当、専門家不在。地方自治行政が経済を回復させ、人口を増やす政策を本当に立てられるかと言ったら疑問が残ります。
「だからこそ、産官学金労言」と石破氏。地方創生加速化交付金の議論で取り沙汰されたこの言葉の真意は、石破氏の次の言葉が雄弁に物語ります。
「地方の産業を考えるうえで、地元の産業界が口を出さなくてどうするのか、労組がかかわらなくてどうして働き方改革ができるのか。研究者だけでなく地元の中学生までも含む学問領域が関わらなくてどうするのか。お金を回す地元の金融業界が関わらなくてうまくいくはずがない。そして、メディア(言)が関わって世界に発信しなくてどうするのか」

地方創生は行政にまかせておけば良いというものではない、と石破氏は言います。裏を返すと、「やりっぱなしの行政、頼りっぱなしの民間、無関心の市民」の三位一体が揃ったときに地方創生は絶対に失敗する。石破氏は「行政がやってくれるだろうというおまかせ民主主義は、必ず報いが帰ってくる。これが民主主義の怖いところだ」と解説します。

そして最後に、日本が明治以降の150年で、50年毎に国を作り変えてきたことを指摘し、「過去の遺産にすがっていないか、経済成長の幻影に取り憑かれていないか、面倒なことは次の時代に送ろうとしてはいないか」ともう一度投げかけて締めくくりました。

パネルディスカッション(1)――人口流出入と雇用の関係について

石破氏の講演の続いてパネルディスカッションが行われました。登壇者は、石破氏、笹谷氏、松田氏に加えて、後半からの参加となるNTTデータ経営研究所会長の山本兼三氏の4氏です。今地域で起きていること、行われている活動とともに、都市の人間がどのように関われるのかについてセッションしました。

まず山本氏から、自己紹介も兼ねてNTTデータ経営研で行っている調査を踏まえた人口流出入と雇用の問題について、話題提供がありました。

人口流出入の変化を見ると、1960年代後半までは都市部への流入が大きいのですが、1970年代には都市部からの流出に転じます。それが再び流入に転じるのが1990年代のこと。この傾向が現在も続いており、「大都市への一極集中とともに、近郊の中核都市に凝縮しているのが現在の特徴」と山本氏。ここで言う中核とは、東京なら埼玉・神奈川・千葉の東京寄りエリアのこと。このように都市部に人口が流入する理由を山本氏は「都市部の人手が足りなくなっているからだ」と素直に読み解きます。都市部の出生率の低さは、人口の再生産能力の欠如を示すもので、つまり生産年齢人口の低下を示すものでもあります。この人口の再生産能力の低下に加え、団塊世代が退職期を迎えたことで労働力人口が大きく失われ始めた1990年代、人口の流入が再び始まっていることがそれを端的に物語っています。
「つまり、東京の経済は、地方から人を集めなければ成り立たなくなっているということだ」と山本氏。その後、「労働人口の低下を、他の地域からの流入で補えなくなってきた」のが2010年代です。「つまり、日本の人口の減少、生産年齢人口の減少が、強烈に都市部にも押し寄せてきた」のが現在の状況であると山本氏は説明しています。

一方、雇用はどうか。指標である完全失業率で見ると、都市部及び近郊と比較すると地方のほうが総じて失業率が低いことが分かります。これは裏を返すと、「地方はより労働力が足りないという現象が起きている」ということでもあります。「これは地方経済を考えるうえでも重要なこと」と山本氏は指摘しています。

労働力不足を補うために、高齢者、女性、外国人の活躍が求められるところです。地方では、福井や島根のように女性の有業率が極めて高く、高齢者の活躍も著しいところもありますが、依然労働力不足が見られるため、山本氏は「結局のところ生産性を上げるしかない」と結論付けています。また、地方経済においては同時に競争力を高める必要もあると指摘。その源泉を、豊かな自然資源を活用することと、課題先進地としてのビジネスチャンスにあると指摘しています。

パネルディスカッション(2)――地方への提言・都市部への期待

続くディスカッションは、登壇者が順番に発言していくスタイルで行っています。

最初に松田氏からは「逆参勤交代」の提案。これは、中央の大企業に務める一千万社員の1割、100万人を地方のオフィスへ派遣しようという提案です。江戸時代の参勤交代は、一定期間、地方から中央に人を移動させ留めるものでしたが、現代の参勤交代は"逆"、中央から地方へ人を移動させ留めます。これにはさまざまなスタイルが想定されており、松田氏は、成績優良者に対する報奨として好環境を提示する「リフレッシュ型」や、地方で課題に取り組む「武者修行型」、育児や介護に対応する「育児・介護型」などを提示。

この逆参勤交代は企業にとってもメリットのあるもので、地方創生ビジネスへの参入や、CSR・CSVによるブランド向上など「ビジネス強化」の効果、人材の「採用・保持・流動化」や、災害対策、メンタルリスク層の予防といった「リスクマネジメント」などが見込まれます。

地方に対しては大きな経済効果が見込まれます。仮に1年で100万人が逆参勤交代をすると、1カ月あたり8.3万人の移動が起こり、約1千億円の消費が生まれると試算されています。江戸時代の参勤交代では、藩邸が作られ、街道が整備されましたが、平成の逆参勤交代では有形無形さまざまな効果がもたらされると松田氏は語り、その参加を呼びかけます。

そして笹谷氏は、民間企業が地方に対して「気付きと発見」をすることへの期待を語ります。地方には豊かな資源はあるものの、その魅力は眠ったままであることが多い。「民間の視点で、これ良いじゃんと気付きを伝えること」が重要だと笹谷氏。「とにかく資源の魅力を徹底的に掘り起こす、発見力のお手伝い」をしてほしいと呼びかけます。さらにそれをスケールするために企業の力を使ってほしいとも。

また現在の地方創生が、過去の地域活性化政策と異なるのは、法整備したこと、法に裏付けられた予算措置があること、そして300人規模の組織が作られたことの3点あると指摘。笹谷氏は「300人いれば間違いなく物事が動く」としながらも、「ただ、動き方にオープン・イノベーションと、そのためのマインドセットが足りない」と述べ、「今日のこのような場から民間企業のみなさんが気付きを得て、積極的に働きかけてほしい」と期待を語ります。

石破氏は、地方経済の発展のために中央でいうところの旧経済企画庁に該当するセクションの必要性を指摘しています。「地方創生大臣になったときに、地方自治体にはそのようなセクションがほぼないことを知って愕然とした」と石破氏。「統計はあっても、産業連関表などを使って分析し、我がまちはこうあらねばならぬ、と考えるセクションがほとんどない」。

また、地方創生を支える人材について、かつての「都で成功して故郷に錦を飾る」という発想はやめたほうが良いとも話します。「昔は志を果たして、いつの日か故郷に帰らんと言ったが、今は『志を果たしに』であるべきだ」と石破氏。また、地方出身者がビジネス経験を地方の活性化に生かすことが重要であるとも指摘。「いきなり知らないコンサルがアドバイスするよりも、出身者が協力するほうが良い」と話し、自身50代を過ぎて急に増えた同級会で「いつ故郷へ帰るのか?」が必ず話題になっている例などを話しました。

地方創生の未来へ向けた具体的課題

そして最後にもう一度「都市部の人間がどのように関われるのか」を一言ずつ述べてもらいます。

山本氏は地方の競争力を高めるうえで、これから鍵になるのがIoTであると示し、「IoTをパッケージにしてその地域の一次産業に提供し、そして外へ売ることにも協力してほしい」と期待を語ります。
松田氏は逆参勤交代を制度化するためにプラットフォームの構築を進めており、個人・企業問わず参画してほしいとの要望。また、大きな動きを起こすためには、「集まったみなさんが知恵を出し合い、行動することが必要」で、そのために「一歩踏み出す勇気を」と呼びかけました。

笹谷氏からは3点の期待。まずひとつは「クールジャパンの見直し」。「クール」とは「かっこいいこと」。笹谷氏は「課題解決力」「革新的なクリエイティブ力」「慮る力」がクールだと話し、これを世界の標準に照らし合わせて展開してほしいと期待を語ります。2点目は「企業の本業力」への期待です。CSRは、本業とは別のボランティアのように思われがちですが、本業の中にこそ社会的価値があるとするのが笹谷氏の主張です。そして3点目はプラットフォームへ参加する際のマインドのあり方です。笹谷氏は「柔軟性」「互尊互敬」「オープンなマインド」を挙げています。

そして最後に石破氏。石破氏は「面白いこと、楽しんでやること」の大切さを指摘。「世間にはいろいろな良い事例がいくらでもある。それを『自分には無理だ』と思わずに、自分たちでもやってみようと思うこと。面白いよねと取り組むことで、さらに面白い展開が生まれると思う」と語り、ディスカッションも終了となりました。

セッション終了後には再び会場で、短い時間ながらも感想や「自分ならこんな関わり方したい」という思いをシェアするワークショップも行い、地方創生とオープン・イノベーションへの思いを新たにすることができました。BeSTA FinTech Lab開設を記念して行われたシンポジウムは、多角的に地方創生を考え、多くのアクションに向けたヒントを得ることができたようです。BeSTA FinTech Labの今後の活動、そして3×3Lab Futureとの協業にご期待ください。


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