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【レポート】金融とSDGsのマリアージュ??

BFL地方創生セッションvol.7 「SDGsカードゲーム」2018年1月22日開催

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金融の世界にSDGsを持ち込んだらどうなるのか? これは面白いテーマ設定ではないでしょうか。SDGsとは「Sustainable Development Goals」、持続可能な開発目標であり、当然経済的利潤を求めるだけでは実現しないものです。経済的成功もなければならないし、持続可能な社会も実現しなければなりません。金融とは対極にあるようにも見えるし、非常に親和性の高いものであるようにも見えるもの。金融とSDGs、この2つをつなげて考えたのが、1月22日に開催された第7回BeSTA FinTech Lab(BFL)で開催されたBFLセッションvol.7「SDGsカードゲーム」です。その題材に上がったのが、3×3Lab Futureではおなじみのカードゲーム『2030 SDGs』。この非常にクリティカルでドラマチックなゲームを地銀関係者らとともにプレイし、考える。大雪の夜に熱いバトルが開催されることになったのでした。

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なぜSDGsなのか

なぜSDGsなのか

会場となったBFLから見る外の様子を見る。大雪であった

『2030 SDGs』を取り上げたのは、ひとつにはゲームとしての楽しさがあること、そしてもうひとつの理由はSDGsを、地域課題を考える窓口にするためでした。企画するNTTデータの角谷氏はこう話しています。
「SDGsはグローバルなものだと考えられがちだが、同時に極めてローカルなものでもある。それに気付けば、地方の金融機関が地域課題に取り組むきっかけが見いだせるのではないか」(角谷氏)

角谷氏とともに企画に取り組むBFLのスタッフ、NTTデータの永井氏も、新たな事業領域を検討している地方の金融機関が、SDGsに突破口を見出せるのではないかと期待を見せています。
「金融機関は経済的な利益の追求をするのが現状。今回はSDGsを学ぶことで、経済だけではない世界観を示したかった。1人ひとりが考え、意識してチャレンジする組織にならなければならないし、SDGsにはそう変わるきっかけがあるはずだ」(永井氏)

ゲーム開始前のテーブルの様子

簡単にSDGsを振り返ってみます。
SDGsは2015年9月に国連で採択された持続可能な開発目標です。2000年の「ミレニアム開発目標:MDSs」を引き継ぐ形で成立しましたが、開発途上国だけの問題ではなく、先進国も含めた全地球的な問題として策定された点が極めて画期的であり、注目を集めました。また、定められた17の目標と169のターゲットは、個別に解決を目指すものではなく、すべてが関連しており、全体として解決を目指さなければならないとしている点も高い評価を受けています。

世界全体の構成要素の強い連関性に注目した全体的施策であること。これがSDGsのもっとも特徴的な点ですが、実は金融もまた、社会において全体的で個々の連関性を支えているものであるという意味において、SDGsと非常に親しいと言えなくもありません。この日のゲームセッションに参加したのは、大雪のために決して多くはありませんでしたが、金融関係者を中心に10チームで実施することができました。

『2030 SDGs』とは

プロジェクトカードの例『2030 SDGs』は、3×3Lab Futureで実施されたこともあるのでご存知の方も多いかもしれません(「SDGsは面白い? ゲーム『2030SDGs』で知る世界」)。

チームはそれぞれ「大いなる富」「悠々自適」「貧困撲滅の聖者」といったゴールを示されます。ゴール達成には、例えば「1200ゴールド以上のお金とゲーム終了時までに持っていること」「15枚以上の時間カードをゲーム終了時に持っていること」などの条件が設定されています。ゲームスタート時には、各チームにゴールを示したカードと、時間カード(タイムカード)、お金カードを規定枚数配布。そして同時に、目標達成のために「プロジェクトカード」も渡されます。

プロジェクトカードとは、現実の団体・企業・政府の活動に類したものだと思って差し支えありません。経済に関するもの(青色)、環境に関するもの(緑色)、社会に関するもの(黄色)の3種類があり、例えば「化石燃料の利用促進」というプロジェクトは、経済に関する青のプロジェクト。この実行のためには300ゴールドが必要ですが、実行後には見返りに600ゴールドと、経済に関する青のプロジェクトカードを1枚もらうことができるようになっています。

世界の状況メーター

また、ゲーム全体に関わるものとして「世界の状況メーター」があります。これはSDGs実現に向けた世界の状況を示すもので、経済(青)、環境(緑)、「社会」(黄)3種のマグネットの数で示されます。数が多いほど、その分野が成熟していることになり、逆にその数が少ないほど危機的状況にあることを示すというもの。例えば先程の「化石燃料の利用促進」を実行すると、経済の青が1つ追加されますが、環境の緑は1つ減らされます。つまり、経済は上向きになるが、自然環境は悪化する。これらプロジェクトの実行、世界の状況メーターの改変はゲームマスターに申請し行っていきます。

プレイするうえでもうひとつ重要なルールが「盗み以外は何をしてもいい」ということ。「現実世界を模したもの」で「何をしてもいい」とプレイヤーにはあらかじめ伝えられますが、「何をしてもいい」が何を指すかは、プレイヤーの判断に任されているのがポイントでしょう。

詳細はぜひとも実際にプレイして理解してほしいところ。それだけの価値はあるゲームです。しかし、おおよそこのように進行するものであることはご理解いただけたかと思います。これを前半11分、後半15分行い、世界の状況を推し進めながらゴールを競うのがこのゲームの骨格です。

白熱の前半戦

今回はBeSTA FinTech Labの主催ということで、地方の金融機関、コンサルティング企業などから人が集まりました。ゲームの実施に際しては、本ゲームを開発したイマココラボからスタッフが派遣され、司会、ゲームマスターを務めますが、今回来場した事務局長・事業統括ディレクター鈴木宏和氏は「チームメンバーが多いほうが、自分の判断を相対化し考えることができるようになる」と指摘しています。「ゲームが始まると判断の連続になる。そのときに、自分が何を基準にどのように考えるのかが浮き彫りになっていく。そのプロセスもこのゲームの本質のひとつ」と鈴木氏。また、事前説明では、『2030 SDGs』は、複合的で複雑なSDGsを、全体的なイメージとしてつかむことが要諦であるとしています。

では実際のゲームはどうだったのでしょうか。ざっと見ていくと、前半はわりと様子見な雰囲気で開始。後に鈴木氏が「控えめだった」と話しているように、「どうすればゲームをクリアできるのか」「効率よくゴールを達成するには」を考えながらゲームを進めている様子が伺えました。この辺はいかにも金融関係者らしい慎重さの現れなのかもしれません。 開始直後は、世界の状況メーターで一気に経済が進行。2分30秒で経済:7、環境:2、社会:1。4分30秒でそれぞれ10、0、2となりました。経済と環境は必ず負の相関関係なのか、「環境が足りないよ!」という悲鳴が会場に響き渡ります。それに混じってゴールカードに示される「豊かな社会」とは何なのかという疑問の声や、全チームのゴールを把握しようとする冷静なプレイヤーの姿も、前半の終了が近づくにつれて見られるようにもなります。しかし、前半終了の時点で、経済:14、環境:4、社会:5で、経済が優位な状況。10チーム中、5チームがゴールを達成してしまっていました。

どうなる後半戦?

イマココラボ・鈴木氏前半終了のインターミッションで、鈴木氏は世界の状況を解説。経済・環境・経済の個数に応じてシナリオが決められています。経済:14、環境:4、社会:5は、「経済は絶好調。しかし、社会では、貧富の格差が増大し、社会不安、テロの脅威なども増大している。環境は深刻な状況で、CO2の排出量は止まらず、グリーンランドの氷床が溶け始める」というものでした。結構ピンチな感じの状況です。

鈴木氏は、「なかなか前半で気付く人はいないが、ゴールに書いてある『豊かな世界』って何なのかという問題がある。これには正解があるわけではない。みなさんで考えてください」と呼びかけ、後半がスタートします。

交渉に臨むプレイヤー

後半は、前半の最後で始まった、全チームのゴールを把握しようとする動きが中心になりました。これはあるチームのひとりが積極的な働きかけたことによるもの。最初は誰も耳を傾けませんでしたが、粘り強くゴールを共有し、全員がゴールを達成するための条件を整理。必要に応じてプロジェクト、お金、時間のカードを融通したり、トレードしたり、売買したりと「何をしても良い」というルールを最大限活用して状況を進めていきました。

世界の状況メーターを不安そうに?見守るプレイヤー2人

途中「このカード、他のチームにあげてもいいよね!?」「いやちょっと待て勝手なことするなよ!」と激しい口論が見られたシーンもあったりしましたが、概ね世界は好転していくようでした。後半開始3分で経済:10、環境:8、社会:6。7分で各10、12、9。鈴木氏は「『世界政府』みたいな動きとはちょっと違うかもしれないが、似たような動き」と表現しています。

残り5分で「時間が足りない!」という悲鳴が聞こえてきました。――あくまでもゲームの世界での話ですが、現実世界を模している以上、「世界では時間が枯渇している」という叫びはどこか薄ら寒さを感じさせないでもありません。残り2分を前にして、チームの活動はほぼ停止。

しかし、世界の状況は12、12、13。すべてのチームがゴールを達成。鈴木氏のシナリオによると、「経済は以前絶好調で、しかし貧富の格差は劇的に改善し、バランスの撮れた社会が実現している。169のターゲットはすべて達成された」という大団円の結果となったのでした。

SDGsを知った金融機関は

ゲーム終了後は、各テーブルで感想を述べ合うテーブルワークを行っています。シェアでは、ゲームの進め方についての反省や意見、あるいはゲームの構成や骨格そのものについての意見が聞かれました。このゲームに対する感想や想いを聞いていると、プレイヤー自身はあまり意識はしていないようですが、実は世界そのものに対する感想や想いとシンクロしているようにも伺えました。

鈴木氏は、「いろいろな感想が出る。助け合い、大事だよね、という人もいるし、世知辛いと思う人もいる。それでいい」と話しています。そしてまた、ゲームの進め方や反省、感想でその組織、団体の個性も見えてくるのだとも指摘します。以前ある企業で実施した際には、ゴール条件「1500ゴールド」に対して、「3000ゴールドを目標にして、実現しました」と鼻高々だったチームもあったとか。その企業では常に営業目標の倍を達成することがノルマになっていたからと、笑って良いのか悪いのかというエピソードも。

そして最後に、空白のゴールカード、プロジェクトカードを一人ひとりに手渡し、こう呼びかけて締めくくりました。

「今日はゲームで2030年の社会をシュミレーションしたが、現実では、2030年に向けたゴールもプロジェクトも自分で決めることになる。最後に空のゴールドカードとプロジェクトカードをお渡ししたが、個人として、組織として、どんな課題を持ち、どんなゴールを設定するのか。そしてまた、どんなプロジェクトでその解決に取り組んでいきたいのか。そんなことを考えてほしい」(鈴木氏)

さて、この日参加した金融機関のみなさんは何を感じ、何を持ち帰ることができたのでしょうか。それはきっと、これから各金融機関の経営方針や行動指針に如実にあらわれてくるに違いありません。


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