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秋田県沖で進行中の洋上風力発電事業の誘致や開発にまつわる背景や地域の変化、今後の展望などについて秋田県能代市、三種町、男鹿市、由利本荘市の4自治体の担当者から話をきけるセミナーが、秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社と秋田由利本荘オフショアウィンド合同会社の共催、エコッツェリア協会協力のもと開催されました。
冒頭、両合同会社のプロジェクトダイレクター岩城陽太郎氏から事業概要の説明がありました。洋上風力発電の転換期は2018年の再エネ海域利用法です。「それまでは一般海域を管理するルールがなかったのが、この法律によって一般海域を長期間占有でき、事業性を向上させる大きなポイントとなりました」(岩城氏)。この法律の施行後、各自治体は様々な選定基準に基づき海域を選別し、風力発電事業の入札対象地域に指定していきました。秋田県沖でも公募入札が行われ、2021年12月に三菱商事など4社の共同企業体が秋田県能代市、三種町、及び男鹿市沖、並びに秋田県由利本荘市沖の選定事業者として指名されました。その後、2022年4月に秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド合同会社と秋田由利本荘オフショアウィンド合同会社が設立されました。
岩城氏によれば、能代市、三種町および男鹿市沖では13メガワットの風車発電機を38基設置予定で、発電設備出力は約500メガワット、開発に約4年、建設に約3年を費やし2028年の操業開始を見込んでいます。一方由利本荘市沖のプロジェクトは規模が大きく、風車発電機が65基設置、発電設備出力は845メガワット、建設されると日本最大の洋上風力発電の規模になるもので、2030年の操業開始を予定しています。
岩城氏はこの風力発電設備が2050年までにカーボンニュートラルを達成するという政府の目標に貢献するための切り札になると語る一方、地元の協力なしに長期間安定してプロジェクトを運営していくことは難しく、風力発電設備の建設や操業と同じぐらい地元地域との共生策にも力を入れていると語りました。岩城氏はいくつかの地域共生策を紹介しました。1つ目は人材育成や次世代教育で、秋田県内の大学に寄付講座を提供したり、地元の小学校に手回し発電機や風力発電機などを用いた体験や出前授業を開催したりしています。また地元の漁業振興や地域特産品の販路拡大支援を2つ目の地域共生策として取り上げ、例えば、従来秋田ではあまり獲れなかった鱪(しいら)という魚が、気候変動の影響か獲れるようになりましたが、秋田では鱪を食べる方法や加工する術がない「未利用魚」となっていました。それをグループ会社と協力してシイラジャーキーを開発、秋田の空港やアンテナショップ、道の駅などで販売しています。他にも買い物難民やタクシー会社の苦境を救うためのアプローチとして、能代市でのAIオンデマンド交通システム「まちなかコサクル」の導入を進め、2023年11月から12月の間の試験運行を実施したところ、延べ利用者数は約3,000人とかなりの反響を得て、現在商用化に向けて話を進めています。最後に岩城氏は「まだまだ開発期間の道半ばではありますが、様々な取り組みを一生懸命進めていきます。また再生可能エネルギーの発電所を建てるだけではなく、地元の皆様のご理解を得られるように色々な施策をこれからも進めていきます」と話を締めくくりました。
続いて、今回のプロジェクトで洋上風力発電が導入される自治体職員が登壇しました。
トップバッターは秋田県北西部に位置する能代市で、強風との共存の歴史を有します。強風の影響で飛砂や地吹雪、大火に見舞われるなどの被害は大きいものでしたが、同市環境産業部エネルギー産業政策課課長の浜野隆司氏は「今までは厄介者扱いされていた風を『追い風』にしよう」と再生可能エネルギーのまちづくりに取り組んでいます。日本初となる商用ベースでの大型洋上風力発電事業が行われ、現在陸上31基、洋上20基の風車が稼働し、能代市の子どもたちが他の地域に行くと風車がどこにもないと驚くように風力発電は日常風景の中に溶け込んでいるようです。
浜野氏は、洋上風力の企業誘致が最終目的ではなく、そのような企業と共に能代市を元気にしていき、整備された港を地域で活用していきたいと締めくくりました。
次に三種町企画政策課課長補佐の門間淳子氏が登壇されました。三種町は秋田県北西部に位置し、能代市の南側にあります。門間氏は動画を使って三種町の様々な魅力を紹介していきました。一つが毎年7月末ごろに釜谷浜海水浴場で開催されるサンドクラフトin みたね。サンドクラフトとはいわゆる砂で作った彫刻のことで、2023年は砂浜に高さ約3メートルのモナリザを含め、大小30体のサンドクラフトがお目見えしたとのことでした。二つ目は日本有数の生産量を誇るじゅん菜です。じゅん菜とは淡水の沼に生息する水草の一種で、初夏には新芽がゼリー状のヌメリでおおわれ、お吸い物や酢の物などにして食します。「機械で摘み取りができないのですべて手摘み」という特徴を活かし、三種町では毎年世界じゅん菜摘み取り選手権を開催し地域振興に活用しています。参加者は船に乗って手で摘むため「世界一静かな世界選手権」(門間氏)とも評されるようです。他にも釜谷浜海水浴場に並ぶ風力発電の風車の様子や房住山の山開き、鯉川のホタルの里などがありました。
続いて、三種町の南側に位置する男鹿市から男鹿まるごと売込課課長の三浦大成氏が同市の魅力について話しました。「男鹿市は一次産業や二次産業の振興が長年課題となっていますが、昔から大切にしてきた景観は誇りです」と切り出し、寒風山や入道埼の灯台、ゴジラ岩、近年あじさいが人気の雲昌寺、なまはげの発祥地であることなどを紹介しました。風力発電関連としては国内海運企業が洋上風力発電施設の作業者を育成するために訓練施設を開所するなど、観光以外の産業でも新たな動きが出てきているそうです。
最後は山形県に近い秋田県南西部に位置しており、面積が1,210平方キロメートルと県内では最大、全国でも16位という広い面積が特徴の由利本荘市から、まるごと売り込み課の小助川拓己氏に登場いただきました。小助川氏は「由利本荘市は年中風通しが良く、洋上風力に適した地域である。冬は北西の風が厳しく、時には風速10メートル以上の風が吹きつける」と語りました。同市は他にも東北第2位の高さを誇る鳥海山(2,236メートル)や人気アニメ映画内にそっくりな風景が映されたことで人気が上昇した森子大物忌神社、秋田由利牛、温暖化の影響から近年漁獲量が増えたという甘鯛などが紹介されました。
洋上風力発電と未来に向けてどのように付き合っていくかをテーマにパネルディスカッションに移りました。由利本荘市からは産業振興部エネルギー政策課課長補佐の佐藤圭氏も登壇に加わり、ファシリテータの三上は「洋上風力は全く新しい電力で、秋田は日本の洋上風力発電をけん引する地域です。日本のエネルギーは石炭から始まり、水力、火力、原子力ときて、太陽光発電から今は風力発電へと展開してきています。その中でも純粋に自然エネルギーを使って電気をつくっているのは水力と風力だけ。洋上風力に関連する自治体が集まる機会は珍しいので楽しんでください」と挨拶し、スタートしました。
三上:洋上風力発電導入前後で地元の雰囲気はどう変化しましたか。
門間氏:一番変化したのは漁業関係者の意識です。これはチャンスだとしてこれまでと違う何かを始めようと、陸上養殖業者から話を聞くなど意識が変わってきています。
佐藤氏:当初は洋上風力発電のイメージが漠然としていたようですが、説明会などを経て、この大事業から派生する地域経済への好影響に期待が出てきました。漁業関係者でいえば風車の基礎部分が魚礁となることで、水産資源が増えることへの期待が膨らんできています。
三浦氏:役所内のセクショナリズムが解消され、洋上風力に向けて統合されてきています。一つのプロジェクトで各部門が統合され、前向きに庁内が動いている実感がありいい流れだと感じています。
浜野氏:地域の飲食店が活気づいてきています。能代市には様々な方が風車の視察にいらっしゃり、大きな経済効果と感じています。
三上:30年後、洋上風力発電によってどのようなまちになっていると想像しますか。個人の意見で構わないので教えてください。
佐藤氏:事業を達成した後、市民が色々あったけども洋上風力が来てくれてよかったと思えることを期待しています。
三浦氏:秋田は人口減少が進行し、食文化やなまはげの文化も瀬戸際になってくると思います。そのような地域の文化を維持していくには産業が必要で再生可能エネルギーが中核を担って欲しいですね。単に未来志向なだけではなく、今の伝統文化などを残すことに洋上風力事業が寄与することを期待しています。
門間氏:先日三種町の中学生にアンケートを取ると、将来はやりたい仕事がないから町外に出ていくという子が大半でした。今回の事業が進んでいった先には町に雇用が増え、やりたい仕事ができて、町に若者が増えることを期待し頑張っています。
浜野氏:風力発電が能代市で始まったころ、とある講演者が「50年後の子どもたちに今の秋田を残したい。秋田は広い土地と良い風があるので風力発電を頑張ろう」と語っていました。その言葉は今も胸に響いています。とはいえ綺麗事だけではだめで、やはりビジネスとして風力発電が成り立たなければいけません。そのうえで地域の雇用、カーボンニュートラルにもつながれば良いと思っています。
その後の質疑応答では、参加者の大学生から、今後飲食店以外で盛り上がる場所やビジネスはあるかと問われ、浜野氏は「現在の風車は海外製ですが、政府は2040年までに6割を国内から調達するべく洋上風力発電関連産業を盛り上げようとしています。秋田では風車が壊れた時の部品工場が必要ではないかということで、部品産業の誘致もしくは既存の県内企業の参入を目指す動きがあります。このような意味で、飲食店以外では製造や研究機関が盛り上がると思っています」と答えました。また別の大学生から三種町の漁業関係者が新たな動きを尋ねられ、門間氏は「三種町の海は砂地で港がないのが他とは違っています。その砂地のために三種町の漁業関係者は今まで挑戦してもうまくいかなかったことが多くありました。しかしこの洋上風力発電事業をきっかけに、例えば男鹿市でやっている真牡蠣の養殖を三種町でもできないかというようなことに再度チャレンジしているとう状況です」と応えてくれました。
今回のセミナーを通じて、日本の再生可能エネルギーが担う役割は非常に大きく多彩であることが改めてわかりました。電源のベストミックスやカーボンニュートラルといった国家規模の目標達成に関わるほか、地域経済の活性化や文化の保全、流出人口の抑制など地域レベルの役割も期待されています。洋上風力発電は日本ではまだ始まったばかりですが、今後は各地域を活気づける電源にもなっていくことに期待したいです。
「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。
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