イベント地域プロジェクト・レポート

【レポート】NPO×企業のプラットフォームを作り出す

岩手からはじまるふるさと発信型ビジネス創出「岩手NPO×東京交流会」12月16日開催

ショートピッチを行った岩手県の15NPO団体のみなさん

NPOが企業と結びつくために

12月16日、岩手県のNPO15団体が参集し、岩手にゆかりのある都内の企業人らと交流する「岩手からはじまるふるさと発信型ビジネス創出 岩手NPO×東京交流会」が開催されました。

主催は岩手県。震災復興が新たな局面へと進みつつある今、改めて県内のNPO法人の活動に期待が高まっています。今回、東京の企業との接点を求めて、エコッツェリア協会、3×3Laboがもつ在京企業とのコネクションというリソースを活用すべく、NPO法人Aid TAKATAを介して実施されることとなりました。

エコッツェリア協会、3×3Laboサイドとしては、大きなテーマのひとつである「地方」と密接にかかわるというメリットもあります。また、官民連携に加え、NPOという非営利セクターとの関係性を強化していくことも重要なテーマのひとつです。

この日集まったのは岩手県のNPO15団体約50名と、在京企業の関係者60名ほど。ここからどのような交流、関係性が生まれたのでしょうか。

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NPOは地方創生の主流に

NPOは地方創生の主流に

冒頭、Aid TAKATAの村上氏が、この交流会の役割・期待を説明。「震災から5年目を迎え、新たなまちづくりへ取り組む時期になった。東京の企業と連携する仕組みを作り、新しいことを始めたい」とNPO側へは積極的なアプローチと、在京企業側へは受け入れを要請。そして「言葉は悪いようだが"なんでもいい"からお互いを利用し、ウィン-ウィンになれる関係を」と呼びかけました。

まちひとしごと創生本部事務局次長・間宮氏また、内閣府のまちひとしごと創生本部事務局次長の間宮氏も来賓として登壇、官民連携の間をつなぐために「柔軟で、自由で、多彩な価値観を持つNPOの強みを生かしてほしい」とし、東京に限らず、多くの企業との連携を持ってほしいと話しました。

また、主催する岩手県からは県庁の環境生活部若者女性協働推進室NPO・文化国際課長の吉田真二氏が挨拶に立ち、復興が新しいフェーズに入った岩手の地理的状況や復興の度合いを報告。それを受けて、現在ではNPOの活動基盤、若年層・女性が社会で活躍できる基盤の強化が重要となり、今回のイベントが企画されたことを語りました。

東京側のリクツ――DBJ・巻島氏

交流を前に、東京側の企業の"実績"と"理屈"を、岩手県のNPOのメンバーに知ってもらおうと、2社からスピーチもありました。日本政策投資銀行(DBJ)副調査役の巻島隆雄氏、資生堂CSR部参事の家田えり子氏が、各社が取り組んだ復興活動と、そこで感じたNPOに求められる期待を語りました。

サメの街気仙沼構想推進協議会のサイトより

巻島氏は、2013年から仙台に入り、岩手、宮城、福島の被災3県で、政府系金融機関として、当初はリスクマネー(復興に必要な初期投資等、比較的リスキーな資金援助)を扱うことが多かったそうです。しかし、「地銀の貸出金残高をみると預金高は増えているが、企業への貸し出しが増えていない」、つまり、課題は「復興における資金ではなく、販路開拓や人材確保などの経営課題へと移った」ことを実感し、その後、経営課題解決へのアプローチを始めました。

巻島氏そんな取り組みの一例が、気仙沼の「サメの街気仙沼構想推進協議会」と秋保温泉のコラボレーションです。フカヒレやはんぺんなどサメを原料とした産品・料理で知られる気仙沼では、復興の一環でサメ肉を使った新たな付加価値型商品の開発に取り組んでいましたが、「なかなか食べたい!と思える料理が生まれなかった。(サメを)獲っている、加工している人だけではおいしい料理を作れない」ことに気付いたそう。そこで巻島氏は、「新たな名物となる料理がほしい」という悩みを抱えていた秋保温泉とのコラボレーションを提案。両者による研究会を発足させ、新たな料理を試作するとともに期間限定で温泉街の各旅館で提供、「テストマーケ的役割も」同時に行い、商品開発を推進しました。

また、福島県会津若松市の末廣酒造の「若年層への日本酒の普及」という課題に対し、DBJが主体となって、東京・福島・広島の大学生を対象にしたビジネスアイデアを競う「学生が考える會津日本酒プランコンテスト」を2014年2月に開催。プライズを獲得したプランは、ブラッシュアップを重ねて翌2015年1月に新商品としてビジネスアウトされました。

こうした取り組みから、巻島氏は、マッチングや販促がうまくいく秘訣は「"一社×一社"ではなく、団体×団体」で、「お互いに新しい価値を生みたいと感じていること」ではないかと提言。そして、その「団体と団体の間で、中期的価値を生み出す取り組みをする場は、NPOが活躍できる場なのではないか」と投げかけました。
また、東京側の企業に対して「新しいマーケットを作るという、大きなメリットを提示」するようアドバイス。企業と地方がタイアップし、企業が得るのが、「新たな売り先ひとつふたつではコストに合わない」。新しい価値、新しい市場を開拓するなど、より大きなメリットを見せること。それは、直接的な企業利益だけではなく、例えば「地方でしかできない人材育成の場の提供」のような価値でも良いと巻島氏は指摘します。

東京側のリクツ――資生堂・家田氏

未来椿プロジェクトのサイトより

続いて講演に立った資生堂の家田氏は、同社の復興支援活動の柱である「未来椿プロジェクト」を例に挙げ、企業とNPOの協働の可能性を示しました。

震災直後は、各地の美容部員が避難所や仮設住宅へ化粧品を配布し、メイクもしてもらう"ビューティー支援活動"に取り組んでいましたが、2012年が同社の創立140周年の節目であったことから始まったCSR活動「未来椿プロジェクト」と連動したアクションをスタートしました。

資生堂・家田氏それが椿を市花とする大船渡市を中心に始めた「椿の里プロジェクト」です。街の再生の中心に椿を据えて、椿による観光産業の活性化、椿を利用した地域産業の確立を目指すもの。椿の植樹から始まり、製品開発、イベント開催、学校教育と連動した次世代の活動のサポートなど、多岐にわたる活動を展開してきました。しかし、「始めてみると課題が山積みだった」と家田氏はスタート当時を振り返ります。「そもそも椿を知っている人も少なくない、産業化の仕組みもない、ブランド認知足りない。つまり、本当に何もなかった」。しかし、「現地と一体となる」「長期的に関わる」「共感する」といったコンセプトをキーワードに活動を続け、2014年には開発した椿のフレグランスや椿オイルを使ったドレッシングなどを上市するなど、目覚ましい成果を上げてきました。

NPOとの協業については、「行政、NPOとの協業は不可欠で、最初から活動の鍵だと思っていた」とし、活動を始める前にアプローチしていたことを明かしました。「地域に寄り添う」「思いを汲み取る」ということは、よそ者がいきなり行ってできるものではありません。やはり最初からNPOの協力があってこそ、椿の里プロジェクトも活動を続けることができたのです。

そして「NPOに望むこと」は、「現地のリアルを知っているという、高い専門性」と、「東京の企業にはできないこと、つまり、現地での調整や活動サポート」であると話しています。一方で「難しかったこと」には、「NPOに対する不信感が強いことから、社内を説得すること、活動の継続性を担保すること」を挙げています。
そして、「お願いしたいこと」として「NPOと連携するメリットを、企業側の視点で説明できるようになること」と「連携で得られる(NPO側の)パフォーマンスを提示してほしい」という2点を挙げました。NPOの活動に取り組んでいる人は、プレゼンテーションが苦手だったり、自身の活動を誇示することを厭うことが多いように見えます。この指摘は集まったNPOの面々にはやや耳の痛い話だったかもしれません。

ショートピッチで見えたNPOの現状

東京企業の"理屈"が語られた後は、いよいよ岩手県のNPOが、ショートピッチで活動の紹介と、在京企業に期待することなどをアピールしました。登壇NPOとその内容を簡単に紹介します。


1)岩手未来機構
アートによる震災復興。アート作品に残る記憶を伝える。「いわてアートプロジェクト2016」を開催

2)wiz
若手によるネットワーキングで岩手に仕事を創出、若年層の呼び込みを図っている

3)サンガ岩手
藍の栽培と染め物の作業を通して被災地のコミュニティ活性化。製品化、販路開拓も視野に
4)SAVE TAKATA
農業とICTと若者をキーワードに、陸前高田を"若者が幸生(さいせい)する街"に

5)北岩手未来ラボ
久慈を拠点に人材育成。子どもたち対象の地域発見プロジェクト等も

6)東北岩手応援チャンネル
映像、音楽を中心に岩手支援。歌を聞かせるばかりでなく、「歌ってもらって」元気に

7)遠野まごころネット
ソーシャルシフトを目指す活動。ソーシャルプロダクツの開発等も。協業する企業募集

8)三陸みらいシネマ
地域の過去映像のデジタライズのほか、ESD視点の映像制作で三陸を元気にする

9)マザーリンク・ジャパン
一般のセーフティネットからこぼれている被災地のひとり親家庭の支援。フリースクール設立に向けた支援募集

10)未来図書館
「未来を貸す・借りる図書館」。大人が自分の経験を子供に伝える「パスポートクラブ」等の活動

11)もりおか復興支援センター
岩手と東京の企業をつなぐマッチング支援、情報発信。企業誘致を図る

12)若草リボン基金
大学進学の高校3年対象の支援。既存の補助には欠けている入学前の準備のサポート

13)岩手わかすフェス実行委員会
東京で岩手を盛り上げる仲間を増やすためのフェスを開催

14)伝統芸能ゆいの会
岩手の伝統芸能を支援するとともに、伝統芸能を通じたコミュニティ活性化

15)陸前高田市支援連絡協議会Aid TAKATA
産業支援、情報発信等「ノーマライゼーションという言葉がいらないまちづくり」を陸前高田で実行中


アカペラユニット「XuXu(シュシュ)」

地域や活動者によって差はあるとはいえ、NPO同士でお互いに何をやっているか分からないこともしばしばあります。今回も、NPOの発表を聞いて「こんなNPOがあったのか」と初めて知ったNPOの人もいたようです。独自課題に閉じこもりがちなNPOにとって、NPO間の交流を深めることにも大きな意味があります。

参加NPOからのショートピッチのあとは、岩手にゆかりのあるアカペラユニット「XuXu(シュシュ)」によるライブが行われ、会場を盛り上げました。そして、その熱気のまま、会場では名刺交換会を実施。NPO同士はもちろんのこと、在京企業からの参加者とも熱心に意見交換する姿が見られました。

次のステップへ

在京企業からの参加者のひとりは、震災後しばらく関わっていた復興業務から遠ざかっていましたが、「これを機に本業で絡むことができれば」話しています。また、NPOに対しては「被災地からの一方通行にならないつなぎ役を」と期待を語りました。

イベント後の取材に答えて、岩手県庁の吉田氏は、「NPO振興は県としてもリードしていきたい仕事のひとつ。今回のイベントを通じて岩手県内のNPOを知ってもらい、協業のきっかけにできれば」と話します。今、NPOにかけられる期待は大きくなっています。「復興、地方創生に民間の活力は必須。この交流イベントを、官民連携のモデルケースにしていきたい」と今後の活動にも意欲を見せています。

DBJの巻島氏は、次回開催に向けて「在京企業の参入を促すために、テーマを決めてはどうか」と提言しています。「NPOは地方での関係を深め、地元の意見を充分にヒアリングしているが、企業側にうまく向けることができないし、在京企業もアプローチするきっかけが見つからない。テーマを与えてとっかかりを作れば、有機的なつながりが生まれるのでは」とアドバイス。
今回主宰側のエコッツェリア協会の田口氏も「岩手県に限らず地方でビジネスをしたい企業はたくさんあるはず。今後は"チーム"と"テーマ"を掛け合わせる仕掛けを作り、NPOと企業を結びつけるフィールドにしていけたら」と抱負を語りました。

一般的に、NPOに対して不安や信頼度のゆらぎ等があることは否定できません。しかし、それ以上に、「復興」「地方創生」「イノベーション」といった文脈において、かつてないほどに企業とNPOの結びつきが必要とされているのも確かなこと。この日は、名刺交換というビジネス交流会ベースの活動ではありましたが、第二部の"飲みニュケーション"でより深い議論がなされたようでした。今後さらに継続的な活動が生まれることに期待が掛けられています。


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