朝日町の視察に訪れたエコッツェリア協会メンバーら
朝日町の視察に訪れたエコッツェリア協会メンバーら
大手町・丸の内・有楽町(大丸有)エリアで持続可能なまちづくりを推進しているエコッツェリア協会は、地方と都市の関係性を改めて考え直し、双方が共に発展する未来を模索する目的で「地方創生ビジョン検討会」を設置。2026年度は各地域の戦略に影響を及ぼす障壁や課題に着目し戦略のアップデートを図る取り組みをしています。その一環として協会メンバーらは、山形県朝日町において町内の観光施設や温泉、同町を一望できる手作りの花畑など多様な場所を訪問。同町が持つ豊かな自然や地元で活躍する方々、地域特性や動向を知るべく現地を視察し、課題の抽出や今後の連携の在り方などを探りました。2日間にわたる視察ツアーについてレポートします。
東京・羽田空港からおいしい山形空港までフライト時間はわずか35分(所要時間は1時間ほど)。さらに車で45分ほどで朝日町に到着。山形新幹線も使い勝手がよく、JR天童駅から40分程度と首都圏や近県からのアクセスの良さが際立ちます。
同町は、山形県中央部に位置し、ブナの原生林などの森林を有する朝日連峰や、全長約230キロに及ぶ最上川の最大の狭窄(きょうさく)部である五百川渓谷、名物のりんごやぶどうなどの果樹栽培に適した肥沃な農地などを有します。総面積約197平方キロメートルで、県内35市町村の中で20位。山形県の形は人の横顔に似ているといわれますが、そのちょうど口元、エクボのあたりが朝日町の位置です。
他の地方エリア同様過疎化が進んでおり、1990年には1万417人いた人口はその後徐々に減少し、2026年4月時点で5345人、高齢化率は47・8%に上ります。2050年の推計人口は2835人まで減少する見通しです。
今回は、エコッツェリア協会から、同協会コミュニティ研究所長の田口真司をはじめ、奈良県から出向中の辻井純平、静岡県から出向中の辻村滋、さらに、未来舎代表の高内章氏、KANKYO DESIGN Lab.の岡本克彦氏、公益社団法人国際観光施設協会の亀谷彰氏、三菱地所設計常務執行役員の清水聡氏が参加し、視察が行われました。
佐藤氏が暮らす古民家「長岡家」の外観
今回の視察は、朝日町に地域活性化起業人(総務省の制度)として採用され、地域住民自らが継続的に稼げる森林サービス産業に取り組む民間企業「佐藤岳利事務所」を立ち上げた佐藤岳利氏にアテンドをお願いしました。
同氏は、乃村工藝社の海外事業部にて長年海外勤務。退職後の現在は東京との二拠点生活を送りますが、今や朝日町の多くのキーパーソンとつながり、外部人材や行政、民間などとの橋渡し役を務めるなど、朝日町の魅力にどっぷりとはまっている様子です。
朝日町で暮らすことになった経緯や魅力を話す佐藤岳利氏
視察は、佐藤氏の住まいでもある築150年を数える古民家「長岡家」にて、朝日町のことや佐藤氏が同町で暮らすことになった経緯などをお聞きするところからスタートしました。
佐藤氏は、公益社団法人国際観光施設協会の理事として全国を回る中で朝日町と出合い、現在は、地域活性化起業人制度を利用し、月10日間滞在する生活を送っていると説明しました。古民家での暮らしに関しては「7つの部屋がある大きな家に1人で住んでいますが、後ろに神社があり、ご先祖様と神社に守られている感じで全く怖くありません。薪ストーブもあり冬も暖かく過ごせます」と魅力を話しました。また、現在の活動としては「地域の宝探しをしています」としたうえで、「建物や自然環境、歴史文化、伝統、そして人材など地域のすごいものをピックアップして、その可能性を常に考えています」としました。重要な点として「地域の人が主体となって産業をおこすことで、誰と何をやったら定着するのかを考えながら、ゲリラ的に地域に入って活動しています」と付け加えました。
佐藤氏宅2階からは朝日町の町並みが一望できます
佐藤氏は、具体的な産業創出のアイデアとして、湧き水のポイントを活用したツアー企画や、点在するりんご畑をキャンプ場として活用することなどを挙げました。同町は、居住する地域の歴史・文化・生活などを理解して住民が自らを認識する場であるとともに、来訪者に地域住民自らが生活する地域を理解してもらう活動をする場を指す「エコミュージアム」としての取り組みが有名で、それらコンテンツを産業に変えるべく、一例として「湧き水のpH値やコーヒーの味の違いを学ぶツアーを3000円程度で提供し、古民家宿泊とパッケージにすれば2~3万円の商品になる可能性がある」といった提案がありました。
佐藤氏の話を聞いた後、まずは昼食を、ということで、町内で人気の蕎麦店「太郎亭」にて、「冷たい肉そば」に舌鼓み。歯応えのある麺に硬めの鶏肉、コクのある冷えた鶏出汁のつゆが絡み食べ応えのある一品。さりげなく添えられたきゅうりと小茄子の自家製の漬物もありがたく、美味しくいただきました。
太郎亭で頂いた「冷やし肉そば」
腹ごしらえも済み、一行は、湯舟にりんごが浮かぶ名物温泉「りんご温泉」へ。
入湯前に、同温泉の敷地の裏山の「とある場所」に行くことに。ハイキングガイドライセンスを持つ佐藤氏から森林浴の効果や、「耳に聴こえない超高周波音」を指すハイパーソニックサウンドについての解説がありました。山道を登ること約15分。登り切って目の前には、さまざまな花々が咲き誇る庭園が広がります。その名も「garden花野」。しかも、庭園内のテラスからは町内や最上川、壮大な山並みが一望できる最高のロケーションです。
garden花野には様々な花々が咲き誇っています
この庭園を丁寧に手入れしている倉沢美津子氏、通称「みっちゃん」と、長岡家の持ち主で佐藤氏に提供している吉田稔氏も加わり交流することになりました。みっちゃんは、同地で約12年をかけ、また60人を超える人々から植物などをもらい受け現在の美しいガーデンが作り上げられたことを説明しました。「元々はりんご畑だった土地を夫の認知症をきっかけにストレス解消にと、花畑に変えていきました」とし、佐藤氏が庭園を積極的に発信していることで「町が少しずつ元気になってきた。庭園も地域を紹介する場として自由に活用してもらえたら」と期待を込めました。今では大切な地域資源の一つになっています。
長岡家を所有する吉田稔氏(左から3人目)も加わり話が盛り上がりました
大自然をバックに、地元で採れて冷やしたミニトマトやプルーンなどの新鮮な農産物、スイーツを味わいながら、みっちゃんと吉田さんが語る地元や住民の魅力にメンバーもつい引きこまれ、時が経つのを忘れてしまいそうな貴重なひと時となりました。
山を下りて、再びりんご温泉へ。温泉施設内の広間にて、経済産業省から着任し、今年4月に副町長に就任した伊藤耕平氏、朝日町総合産業開発取締役経営管理本部統括本部長を務める成原哲也氏を交え、同町の産業の在り方を中心とした意見交換会となりました。
伊藤耕平副町長(左)からは朝日町の産業面の魅力や課題などの話がありました
伊藤氏は「最初の100日が勝負」との信念のもと、着任後3カ月で町内を精力的に回り町民や事業者との対話を重ねた結果、多くの魅力があることを知ったと感想を述べました。豊かな自然が最大の資源であると位置づけるとともに、ダイキン工業やパナソニックなど大企業と連携している強みや、約95億円の予算を投じて2028年に義務教育学校「朝日町立あさひ未来学園」が完成予定であることなどを説明しました。
伊藤副町長らと活発な意見交換が行われました
その後の質疑で10年、20年後の産業の方向性についての質問に対し伊藤氏は「現在、政府の地域未来戦略に基づく地場産業成長プラン作成の議論を継続している」とした一方、「りんご農業は競争力があり新規参入者も多く、昨年は農業生産額が過去10年で最高を記録した。地域循環の観点からぶどう農家の育成も必要と考えています」と今後のさまざまな可能性について言及しました。また、新設予定の義務教育学校に関し、都市部の子供たちなどの山村留学を受け入れる考えがあるかについて問われると「ハードは整ったが、ソフト面の準備が不十分で教育留学のコンテンツ等がない状況。外部からの受け入れは現時点では計画していない」と述べるにとどめました。これに関連し、メンバーからは、エコミュージアムの基盤を活かして町全体を学校にしたらどうかと提案。伊藤氏は教育現場との調整が課題としつつも、「相性はいいと思う。町内外の方々が学べる場として活用できるのでは」との方向性を示しました。
意見交換を終え、いよいよりんご温泉を堪能することに。ぷかぷかと浮かぶりんごの香りと植物由来のモール泉が疲れを癒してくれます。
初日の視察を終え、スキー場を有する大型観光施設「Asahi自然観」の敷地に新たに誕生する斬新なデザインのコテージが夕食、宿泊場所です。メンバーは、バーベキューをしつつ、初日の感想や朝日町が持つポテンシャル、宿泊場所の課題感などを遅くまで語り合いました。
2日目は、Asahi自然観エリアにある「空気神社」での参拝からスタート。ブナ林に囲まれた参道をしばらく登っていくと、5メートル四方のステンレスの鏡板が目に入ります。いわゆる神社の本堂などはありませんが、この鏡板の下部に地下本殿があり、毎年6月と最寄りの土日に開催される「空気まつり」の際に御開帳があるとのこと。同神社は平成2年、「空気に感謝し、自然の恵みを大切にしよう」という趣旨に賛同した地元住民や団体らの寄付などで建立。世界にもまれな環境をテーマとしたモニュメントは全国からも注目を集めています。
空気神社ではVの字に手を広げ大きく空気を吸うのが正しい参拝スタイル
両手をVの字に上げて大きく空気を吸い込む独時な参拝を済ませると、参道から脇道へ。原生林をかき分け歩みを進めていると、雷鳴とともに大粒の雨が。一行は歩みを止めて、木々の下でしばらく雨宿り。目をつむりリラックスしていると、雨音や葉が擦れ合う音、鳥の声などが心地よく耳から身体に入り込み、心身共に浄化されていく経験ができました。
一行は、車で移動し、蜜ろうロウソク工房「ハチ蜜の森キャンドル」へ。雨の影響で増水する最上川沿いのかわいらしい建物が目印。運営する安藤竜二氏に迎えていただき、養蜂を通じた環境教育の重要性や、朝日町の魅力などを伺いました。
安藤竜二氏から養蜂やエコミュージアムの重要性などの話をお聞きしました
安藤氏は、朝日町エコミュージアム協会の前理事長でもあり、37年前から朝日町でエコミュージアム活動を主導してきたさまざまな経験の持ち主でもあります。「これからの地方のまちづくりにとって重要な取り組み」と力説しました。特に成果が出た取り組みとしては、地区の歴史や郷土料理の作り方、祭りなどを知る「町の宝」でもある住民一人一人が持つ情報を丁寧に聞き、文章に起こし、その内容を「エコミュージアムノート」として作成、全戸に配布したことを挙げました。また、あえて地元住民が参加しやすい公民館などでシンポジウムやワークショップを積極的に実施。この際、専門家などではなく、あくまで地元住民に「学芸員」として登壇いただき、次代へつなぐことを心掛けたといいます。
安藤氏からは、都市養蜂の取り組み「銀座ミツバチプロジェクト」で飼育しているミツバチは「新宿に住む友人にニホンミツバチの分蜂群処理を相談され、日本在来種みつばちの会を紹介したのが始まり」と意外なエピソードが語られました。
貴重な話を伺った後は、お待ちかねの「蜜ろうキャンドル」づくりを体験。メンバーは少しでもユニークな蜜ろうロウソクを作ろうと悪戦苦闘。目の前の作業に夢中で臨みました。
蜜ろうロウソク作りに夢中で取り組みました
町の中心地に戻り、佐藤氏推薦の町中華「新華楼」にて昼食を取り、午後の視察へ。
車で山道を上がると、日本の棚田百選・棚田遺産「遺したい日本の原風景」に選ばれた絶景「椹平(くぬぎだいら)の棚田」に到着です。駐車場から一段上がった展望スポットに歩みを進めると、扇形に長方形の田んぼが整然と並ぶ絶景が眼前に広がります。
写真左:椹平の棚田からも素晴らしい眺望が
写真右:豊龍神社では一人ひとり特殊神事「厄切り」のご祈祷を受けました
続いて、約1200年前の平安時代に京都の僧侶が同地を訪れ、神様のお告げにより建立され、「日本で唯一の神社」とされる豊龍神社へ。豊嶋宏行宮司は「浦島太郎の乙姫様のモデルになったといわれる豊玉姫という海の神様を祀っています」とし、山間部ながら海の神様を祀る理由として「大昔この地域が海で、恐竜の化石が発見された」ことに由来すると説明しました。真剣を用いて「生まれ変わり」の厄払いを行う特殊神事「厄切り」のご祈祷をメンバー一人ひとり受けることに。それまで曇天だったものの、神事が始まるや雷鳴が。神事が進むにつれて激しい雷雨となり、一層身が引き締まる思いとなりました。
続いて、同町の人々の技と知恵から醸し出される良質なワイン「朝日町ワイン」の試飲や工場見学ができる「朝日町ワイン城」へ。「ぶどうと人と地の力の結晶」という自慢のワインが手ごろに入手できることもあり、メンバーも購入する姿がありました。
豊富な種類のワインの試飲や購入が可能です
2日間の日程を終え、参加者による振り返りを行いました。
田口は「(佐藤さんのお話の中で)地元の人たちが地域を作っていく。その重要性を感じました。では外部の人間が行ってはダメかというとそういうことではなく、地元の方々と一緒にどうやっていくか、という意識が必要ではないか。2日間の視察でいろいろと感じ、考えることができました」としました。
辻井は「一番印象に残ったのは安藤さんの話で、地元の方が主体的に地域の魅力を掘り起こし、それを自分たちで分かるということが重要であると改めて感じました」としました。
清水氏は「まちづくりや人口問題などは色々な進め方があり、どれが正解かは分かりませんが、誰かがこの方向で行こうと、音頭を取ってどんどん進めてくれないと恐らくうまくいかないのではないか」と指摘しました。
高内氏は「正直、地元のニーズと役所の立場などに乖離(かいり)があると感じました。一方で、安藤さんや(花畑を整備している)みっちゃんなど皆さん光るものがありました。(花畑に花々を提供された)60人の顔が見えるようで、全員でなくていいので、話を書き留めて、最初から映画化するくらいの勢いで本にまとめたらと思いました。佐藤さんの暮らすエリアだけでも空き家が10軒ほどあるそうですが、数分で街中に出られる魅力もあり、引き続き可能性を探りたい」と語りました。
朝日町の様々な魅力に触れ各自が視察を振り返りました
辻村は「現地の方の生の声を聞き、調整をしていくことが行政職員に求められているのではないかと改めて思いました。佐藤さんのように外部から入り込み、地域に密着し関係性を広げている方は貴重な存在で、行政もこのチャンスを活かしてほしい」としました。
亀谷氏は「視察を通じ、色々な可能性もあり、ポテンシャルもあるものの、どういうプレーヤーが(まちづくりを)やっていくのか、産業を作ろうとしているが誰のためなのか、などが正直見えにくかった。義務教育学校の整備計画の話に関してもそうですが、地域自身が計画をもっとリアリティーをもってまとめる必要があると感じました」としました。
また、その場でイラストなどを交えて議事録を作る「グラフィックレコーディング」を行った岡本氏は、「他地域の真似ではなく、朝日町にしかない郷土文化を残すことが魅力となり、人を呼び込む力になる」としました。
参加者らのこうした声を受けて佐藤氏は「(参加者の)皆さんの熱い思いを感じてすごくうれしく思いました。朝日町の魅力をちゃんと理解できる人に、きちっとした情報をお届けする。心と心がつながり、『あそこにまた行ってみたい』と能動的に思える人を丁寧に紡いていく、ということをしていけばいいのかなと」としたうえで、「行政と民間の距離感も話題に挙がりましたが、常にアンテナを張って、私のようなマインドを持つ行政職員ともつながって、コツコツとやっていくことが重要と思いました。困難があれば、アゲインストなこともありますが、やはり明るく楽しく前向きに進んでいく姿勢を忘れなければ、たとえ長い時間がかかっても成就するのではないか」と期待を込めました。最後に佐藤氏は「参加いただいた皆さんには長く朝日町について一緒に応援いただきたいですし、(メンバーらの)プロジェクトのお役に立てることがあれば参画させていただきたい」とし、今回の視察を締めくくりました。
水の恵みを大いに感じる最上川を挟み両側の緑豊かな山並み、自然環境を持つ朝日町。首都圏や近隣県からのアクセスの良さも含めて、メンバーは多くのポテンシャルを感じ取りました。そして何よりも、地域の「人」の魅力がずば抜けていること。一人ひとりの個性がソフト力につながれば、朝日町の強力なコンテンツにつながる。これは参加メンバー全員に一致した思いでした。自然だけでなく、「人」に癒され、町の可能性を感じた2日間となりました。

「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。