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【レポート】群馬県太田市で胎動する6次産業化 都市部からの関係人口の関わり方を考える 

地方創生ビジョン検討会 2025年5月16日(金)・17日(土)開催

8,11,17

エコッツェリア協会では、一昨年度より、地方と都市の関係性を改めて見直し、双方が共に発展していく未来を模索するため、「地方創生ビジョン検討会」を立ち上げました。昨年度は、「シナリオ・プランニング」を通じて、当協会が目指す戦略の方向性を検討しました。 そして今年度は、その成果を踏まえ、地域課題に向き合う意義や今後の活動方針を考える機会として、先進事例の視察や意見交換を行うフィールドワークを、2025年5月16日と17日に群馬県太田市で実施しました。今回は関東学園大学の地方創生研究所が進める官民共創コミュニティ「太田6次産業化Lab」(おおた6ラボ)を訪問し、取り組みへの理解を深めるとともに、おおた6ラボの関係者と意見交換を行いました。
今回のフィールドワークのコーディネーターを務めるのは関東学園大学教授で丸の内プラチナ大学の講師でもある中村正明氏です。太田駅に着いた研究会一行は早速中村氏からおおた6ラボの概要について伺いました。

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大学が中心となった緩やかなネットワーク 「おおた6ラボ」の現在地や課題とは

大学が中心となった緩やかなネットワーク 「おおた6ラボ」の現在地や課題とは

2022年にスタートしたおおた6ラボは、関東学園大学が中心となり食と農に関わる人たちをつなげ6次産業化を起こすことで地域課題解決と経済的利益を生み出し、地域の活性化を目指しています。中村氏は「太田市は食と農の一大産地だが付加価値やブランド力が乏しい。6次化という視点から太田市を活性化させたい」と語ります。

 report20250516_2.jpg今回のフィールドワークのコーディネーターでもある中村正明氏

おおた6ラボには農業生産者、消費者、企業、行政、商工会議所などが集い、地産地消の推進、地域ブランド強化、フードツーリズムの促進に取り組んでいます。おおた6ラボの特徴について中村氏は緩やかなネットワークだと語ります。「同様のプラットフォームはどの地域でもあるだろうが、おおた6ラボは大学が中心になって緩やかなネットワークを作ることで、多様なステークホルダーと適切な距離感で関係性を築くことができ、だれもが参画できる」(中村氏)。行政主導や業界団体主導の6次化事業は地域内の力関係によって協働や連携が困難になることがあるが、大学という利害関係の少ない機関が地域の調整役を担うことで連携の輪を広げることが可能なのです。おおた6ラボは、遊休農地を使ったさつまいもの栽培体験やフードツーリズムツアー、子供向けの農業体験プログラムなど拡がりを見せています。また地元の高校生と大学生が中心となり共同で開発した「大学芋風さつまいもジェラート」は道の駅や一部のコンビニ、市のふるさと納税の返礼品やオンラインショップで販売されるなど人気商品となっています。

 report20250516_3.jpg太田市はさつまいもの関東発祥の地であることに着目し開発された大学芋風さつまいもジェラート

順調に見えるおおた6ラボですが「販売や体験プログラムが今後さらに大規模化してくると、大学や協力企業の善意では受け皿になりきれないのではと懸念している。このプラットフォームを運営してくれる地域商社のような組織や機能をどうやって作り上げていくかが目下の課題だ」と中村氏は課題感も口にしていました。

6ラボ関係者と意見交換、キャリア教育、6次産業化、副業人材の活用法などテーマは多岐に

中村氏から概要説明を受けた研究会一行はその後、おおた6ラボのメンバーと意見交換会を行いました。会には市内の農業生産者のほか、地元の企業、高校教諭、大学生、行政関係者など約20名が集まりました。中村氏は「今日は首都圏の人たちを招いて太田市の魅力や課題について意見交換をしたい。皆さんの新たな気づきや、課題解決のヒントにつながれば」と会を始めました。まずはエコッツェリア協会の田口真司が同協会の活動を紹介し、地方創生研究会について「首都圏が抱える社会課題は、人口減少や東京一極集中など地方の課題と関連している。特にエネルギー、食、人材は地方に依存しており、このままでは都市も地方も衰退してしまう。都市と地方が共に活性化するような関係性や社会構造を一緒に考えなければならない」と意義を語りました。

 report20250516_4.jpg地方の課題は都市の課題でもあると語る田口真司

次に未来舎の代表高内章氏から予測不能な未来を生き抜くためのシナリオプランニングについて話してもらいました。高内氏は「シナリオプランニングは仮定した未来に自分たちの身をおいて対処方法のアイデア出しができるツールで、地方が持続可能な形で発展できる方法を模索してもらいたい」と語り、エコッツェリア協会が2035年に思い描く未来像を紹介してくれました。同氏は産業界でも自動化とAI活用が進むこと、脱炭素経営が一般化していくこと、働き方や働く目的の多様化、関係人口や住民自治の進展など2035年の社会を紹介してくれ、「このように未来の姿を描き表すことで対処法を議論する糸口にしてもらえれば」と締めくくりました。

 report20250516_5.jpg2035年の未来の社会について語る高内章氏

続いてWork Design Lab代表理事の石川貴志氏は現代の働き方の変化について話してくれました。Work Design Labには本業を持ちながらも副業や兼業を希望する人が250人ほど集まっており、その目的も単に収入増の目的ではなく、経験や学び、地域貢献を目的に働いている人も多いそうです。「これからは75歳までは働かなければならない時代。政府の後押しもあり、副業や兼業、さらには起業する人が増えている」(石川氏)。この人材の流動化は地方にとってもメリットがあるそうで「地方で新しいことを始めようとすると、資金も経験も地域人材では賄いきれない。しかし例えばふるさとに貢献するという価値を金銭と同時に提供することで都市部の経験ある人材を活用できる。皆さんと何かご一緒できれば」と話していました。

 report20250516_6.jpg副業人材の増加は地方にとって人材活用のチャンスと語る石川貴志氏

その後の意見交換では、前段の話を受けて様々な感想や意見が飛び交いました。例えばキャリア教育について「終身雇用など旧態依然としたイメージで就職支援をしていた。学校教員が職業や働き方の実態を伝えるには限界があると感じた」(大泉高等学校清水美果氏)との感想に対して「ネットを使って実際にその職業に従事している人と話す機会をつくることもできるはず」(高内氏)といった提案が聞かれました。

 report20250516_7.jpg意見交換会には約20名が集い、様々な話題がテーマとなった

また太田市議会議員の長正祐氏は道の駅を運営した体験から「6次産業化は色々な人とウィンウィンの関係を築き波及させていくかが難しい」と課題感を示していました。一方で「資本主義はこの先も続くのか」(木村園芸代表木村勝和氏)といった社会構造への問いかけの質問もあり「おそらく資本主義はなくならないが、資本を分散させることで幸せになる人が増えていく世界を作りたいと思っている」(田口)との見解が出ていました。太田市役所の恩田俊久氏は「市に農業をやりたいという人はいるが経験ゼロの人もおり、指導方法が悩みどころだった。今日の話を聞いてまずは副業やスポットワークを活用して始めてもらうのも一つの方法だと感じた」と石川氏の話からヒントを得たとの意見も聞かれました。

 report20250516_8.jpg副業や兼業、キャリア教育について意見交換する参加者ら

おおた6ラボへの関わり方を具体的に検討、地域商社や体験農園に関係人口をうまく巻き込む方法とは

フィールドワーク2日目は、ソーシャルビジネスネットワーク代表理事の町野弘明氏も一行に加わって、さつまいもジェラートの販売で中心的な役割を担っている山崎酒造の専務取締役山﨑久美子氏にお会いしました。山﨑氏は本業の酒屋の傍らさつまいもジェラートの販売元になっていますが、「今後の販売拡大に対応するためにも、また行政からの補助金が個社支援とならないためにも新たな受け皿を作って機能を集約させた方がいいのではないか」と地域商社のような新たな組織が必要だと語ります。

 report20250516_9.jpgおおた6ラボの発展を見据えて地域商社が必要だと語る山﨑久美子氏

このような課題に対して法人化の方法や人材の確保について検討しました。町野氏は「今はおおた6ラボがテイクオフする大事な時期で専任人材を地元で賄うのは困難。東京からの外部人材を入れ一般社団法人と株式会社を立ち上げることで行政からの支援は社団で受け、株式会社で実行していくという行政や地元にとって良い仕組みが作れる」とアドバイスしました。また人材に関して田口や石川氏からは地域活性化企業人や地域おこし協力隊制度の活用が提案されました。

 report20250516_10.jpg地域商社の枠組みについてアドバイスする町野弘明氏

また、「今年中に法人を作って、来年に地域活性化企業人制度などを活用して人を雇う。2年後を目途に地元人材に専任になってもらう」(田口)との具体案の発言がありました。山﨑氏は「太田市には特産品などが何もないと言われ残念な思いをしてきた。地域商社を作り街も盛り上げていきたい。希望が湧いてきた」と述べていました。

 report20250516_11.jpg山崎酒造での話し合いを終えた参加者ら

一行は昼食をとった後に、次に木村園芸に場所を移し代表の木村勝和氏からお話を伺いました。木村園芸は地域の耕作放棄地を開墾しているだけでなく、丸の内プラチナ大学のフィールドワークが行われるなど首都圏の人たちとつながりを持っており、今後どのように首都圏の関係人口を巻き込んでいくかが話し合われました。

 report20250516_12.jpg左:木村園芸が開墾した耕作放棄地の畑を見学した
右:将来は食と農のテーマパークを造りたいと語る木村勝和氏

木村氏は首都圏の人との繋がりに感謝を述べる一方で「首都圏からの人たちは楽しそうに農作業をこなし、風景なども素晴らしいと言ってくれるが、私たちには日常のことだから、どこに価値があるのか、何を求められているのか価値観が分からなくなる時がある」と戸惑う心内を明かします。それに対し検討会メンバーからは単に提供する側と消費する側という関係で捉えるのではなく、両者がウィンウィンとなる価値を作ってはどうかと提案がありました。高内氏からは「来園者を喜ばせるのではなく、木村さんにとって本当にありがたい人手となるような援農の母体を作ってはどうか」との提案があり、石川氏は「例えば木村園芸を手伝えば、おおた6ラボの高校で探究学習の登壇機会がもらえるというような、様々な形での非金銭的な報酬で都市の人と協働できる機会を提供してはどうか」と話していました。

 report20250516_14.jpg農業への関係人口の巻き込み方について意見を交わす参加者ら

木村氏は今後関係人口が集えるような食や自然を体験できるテーマパークを作りたいそうで「やはり食べることは根源的な欲求だと思う。楽しく気持ちよく食べることをテーマにした場を創りたい。そのためにも、手始めに丸の内プラチナ大学の受講生が集う農園から始めてみたい」と抱負を語っていました。

おおた6ラボのフィールドワークでは、都市と地方が相互に補完し合い協力関係を築くことができる素地が見えたような気がします。まずは6次化商品の拡販や農園を使った関係人口の巻き込みなど今後の進捗に期待したいと思います。

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「地方創生」をテーマに各地域の現状や課題について理解を深め、自治体や中小企業、NPOなど、地域に関わるさまざまな方達と都心の企業やビジネスパーソンが連携し、課題解決に向けた方策について探っていきます。

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