イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】発酵で復興を目指せ!身近で深い「発酵の魅力」を地域から発信

丸の内プラチナ大学 アグリ・フードビジネスコースDAY3 2019年8月5日(月)開催

8,9,11

今回のプラチナ大学アグリ・フードビジネスコースのテーマは「発酵」。陸前高田市の「発酵で復興プロジェクト」と連携し、全8回のプログラムを通して地域課題の解決を目指します。8月5日の発酵の日に合わせたDAY3は、スペシャルプログラムとして、陸前高田市で発酵によるまちづくりに取り組む事業者の方々とさまざまなワークショップを行いました。

講師を務めるのは、大学で教鞭をとる傍ら、全国の生産者と大丸有エリアのオフィスワーカー、600店舗以上の飲食店の3者をつなぐ大丸有「食」「農」連携推進コーディネーターの中村正明氏。高齢化や少子化、過疎により、1次産業者の抱える「担い手不足」「後継者不足」の問題は深刻さを増しています。この問題を解決し、地域活性化を目指すためのキーワードとなるのが「6次産業化」。

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6次産業化とは、1次産業と加工や製造を担う2次産業、そしてサービス産業である3次産業を掛け合わせ、1次産業の経営の多角化を図る取り組みのことです。前回の第2回では、千葉県神崎町の道の駅「発酵の里」が6次産業の成功例として紹介されました。神崎町は、かつては酒蔵が2軒しかない寂しい街でしたが、その酒蔵が共同してイベントを行い、発酵をコンセプトとした街づくりをスタート。2015年に道の駅「発酵の里」が生まれてからは、100万人が来るほどの賑わいある街へと発展しました。

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6次産業のベースとして、その地域の食材や資源の利用があります。第2回のワークショップの中で、そこに発酵という加工技術を用いることで、商品開発のバリエーションが豊かになり、より地域らしさが出ることが共有されました。
そこで、今回の第3回では陸前高田市で来年11月開業予定の発酵パーク「CAMOCY(カモシー)」から、リーダーの八木澤商店 代表取締役の河野通洋氏をはじめとする事業者の方々を招き、発酵の仕組みや発酵商品開発、事業展開などの紹介をしていただきながら、ワークショップでは参加者との活発な意見交換を行いました。

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醤油仕込み体験で発酵を学ぶ

醤油仕込み体験で発酵を学ぶ

事前に参加者1人1人に配られた箱。そこに詰められていたのは、醤油が仕込めるミニキットでした。まず河野氏によって始められたのは、参加者に醤油作りを体験してもらいながら、発酵について理解を深めてもらうワークショップ「醤油の学校」です。箱の中に入っていたのは、麹(こうじ)と塩、袋、スプーン。

「麹菌の学名はアスペルギルス・オリゼ。これは日本を代表する菌です。この菌の力を借りて造られる発酵食品といえば、お酒、味噌、醤油、みりん、純米酢など。日本の食卓に欠かせない調味料のもとであり、日本にしかない『国菌』なんです」(河野氏)

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最初の手順は、袋に塩と水を入れてよく混ぜ、20%の塩水を作るところから。次にその塩水の中に、麹を入れます。ところが、この塩水に入れた時点で麹菌のほとんどが死んでしまい、代わりに会場内の空気中の「酵母菌」と「乳酸菌」が入っていくと河野氏は説明します。
こうして塩水と麹を混ぜて出来上がったのが醪(もろみ)です。この醪を参加者がそれぞれ持ち帰り、自宅内で袋を一晩空けておくことで、その家の酵母菌と乳酸菌が醪の中に入り込みます。これにより、同じ日に同じ空間で仕込んだものでも、全く違った味わいの醪へと成長し、東京の気温だと約10ヶ月から12ヶ月で出来上がるそうです。

「麹も一緒、塩も一緒、仕込んだ日も一緒ですが、自宅内の酵母菌と乳酸菌を入れることで個性のある醪になっていきます。これまでに何回か醤油の学校をやっていますが、時々私たちが驚くほど良い醤油を仕込む参加者の方がいるんですよ。味噌や漬物を仕込んでいる家だと、対塩性の発酵に適した酵母菌と乳酸菌がいる可能性が高い。その菌たちが『新しい住処』が来たと思って醪に入っていくんです。すると稀にすごく美味しい醤油が出来上がることがあります」

質疑応答を交えながら、河野氏が醤油を美味しく仕込むコツを説明すると、熱心にメモをとる参加者の姿が多く見られました。

出来上がった醤油の美味しい利用方法についても説明していただきました。加熱していない生醤油(きじょうゆ)は、初めて加熱した時に一番香りが立つそうで、チャーハンやお肉を焼いた最後に、生醤油を回しかけると非常に食欲をそそると言います。
また、醤油を絞った後に残る醪はタンパク質分解酵素を含んでいるので、お肉や魚を漬け込むと旨味が引き出されます。醪をそのままマヨネーズと和えて、カツオの刺身と一緒に食べるのも最高に美味しいなど、手作りならではの活用法を伝授していただき、参加者各自期待を膨らませながら醤油仕込みを楽しみました。

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日本の発酵食品は世界に誇る食文化

醤油を仕込んだ次は、河野氏が代表を引き継ぐ八木澤商店の醤油の来歴や、一般的な醤油の種類、歴史についてお話しいただきました。
八木澤商店は今年で213年続く老舗です。八木澤商店の蔵で仕込まれる醤油のアミノ酸の種類が非常に多いことがわかり、水産技術センターと海洋生物研究所が、この蔵に住み着いている微生物の解析をすることになりました。しかし、直後に東日本大震災によって蔵は流され、微生物のサンプルを持って行った釜石の研究所も甚大な被害を受けることに。

「私たちが救援物資を配るボランティアをしていたら、研究所の方が瓦礫の中から密閉容器に入った醪を見つけ出してくれたんです。そして、蔵が再建されるまで、岩手県の工業技術センターが私たちの醪を培養してくれました。再建してから最初の仕込みでは、まだかなり醪は少なかったですが、がんばれがんばれと微生物の力を応援し続けました。そうして出来上がったのが、看板商品の『奇跡の醤』です」(河野氏)

蔵の中に住み着いていたたくさんの種類の微生物。それは良いものも悪いものも含んだ、非常に多様性のある微生物群で、とても味の良い醤油に仕上がるのだそうです。

日本の家庭に一般的に置いてある醤油は「濃口醤油」が多いと思います。今回、八木澤商店が自社で作っている醤油以外にも、河野氏が厳選した日本各地の発酵商品を紹介していただきました。例えば、濃口醤油は大豆と小麦を1:1の分量で作った麹から仕込みますが、大豆だけで作る「たまり醤油」、あるいは小麦だけで作る「白醤油」など、それぞれ味わいも異なります。各種醤油のルーツなども交えて、海外の発酵食品との対比も説明する河野氏。

「日本人ほど発酵食品を食べている民族はいないですが、日本人ほど発酵食品が当たり前すぎて、その食文化をないがしろにしている国もありません。例えばフランスやイタリアでは、地方によってチーズの微生物が違います。その違いによる味わいを楽しんでいるし、それぞれの地方の人々が個性あるチーズに誇りを持つことで、ブランド化しています。これからさらに外国からたくさんの人が来ますよね。その時に、日本の代表的な発酵食の文化を説明できたり振る舞えたりできれば、それはこの国の1つの誇りになるのではないかと思います」

新しくて懐かしい発酵の街づくり

来年の11月に発酵をテーマとした商業施設を開業予定の陸前高田市。八木澤商店を中心として6つの事業者が協力して、設計と事業計画を進めています。発酵をテーマとした理由は、陸前高田市の歴史と街の情景にありました。

陸前高田市は震災前から岩手県でも一番人口の少ない都市でしたが、その小さな街中に味噌屋や醤油屋、麹屋、日本酒の蔵元など、発酵食品を製造しているメーカーが大小含めてたくさんあったそうです。

「私たちの蔵の半径30メートル以内に味噌醤油屋が3軒あったんです。街のどこにいても、豆を蒸している香りや小麦を炒っている香り、醤油を火入れしている香りが漂っていました。製造機械が回る音も含めて、発酵の音と香りが絶えない。他にはない街なので、もう一度街を作り直す時に、新しいテーマや香りと色の必要性を念頭に置きながらも、全く新しい街ではなく懐かしさも欲しいと考えました」(河野氏)

そこで、発酵をテーマにしたイベントや商品開発をしようと声をかけ、30社が集まりました。そこからさらに、発酵の商業施設を作ろうと協力したのが6社です。岩手県産のりんごを使ったクラフトビールを作っている事業者や、日本で初めてオーガニックのカカオを自分たちで育ててチョコレートを作ろうとしている起業家、震災後の陸前高田市でパン作りをボランティアで教えてくれていたパン職人の協力によるパン屋さんなど、それぞれの発酵技術や商品、地域資源を持ち寄って商業施設「CAMOCY(カモシー)」を盛り上げようと取り組んでいます。

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ここからはグループワークで、どんな企画や商品があったら「CAMOCY」に行きたくなるか参加者同士で意見を出し合いました。
女性が多いグループでは、陸前高田の街自体を楽しめるような企画が挙げられました。 「地元の野菜でぬか漬けを作ったり、米作りに参加したり、現地での食事を全部自分たちで作るツアーがあったら楽しそう。また、自分の腸内環境を検査できる施設を設営し、ツアーが終わった後も、その人に合った美人になれる腸内環境セットを定期的に届けてもらえる企画があったらぜひ参加してみたい」(参加者)
ほかにも、世界の発酵食品を集めた「発酵食品祭り」や、一人暮らしの人が気軽に発酵食品をとれるように少しずつ詰め合わせた「発酵スターターキット」、肉料理が美味しく食べられる「肉料理用発酵調味料セット」などさまざまなアイデアが飛び交い、たくさんの意見が共有されました。

美味しくて楽しい!料理で深まる発酵の魅力

最後は料理家の山田英季氏による発酵食品を使った料理や、陸前高田市の地酒やクラフトビールが振る舞われました。

「今回テーブルに並んだ10種の料理の中には、20種類の発酵食品が使われています。召し上がりながら考えてみてください」(山田氏)

バゲットやキャロットラペ、だし巻き卵、ナスのタルティーヌなど、参加者は発酵料理を楽しみながらクイズに盛り上がりました。クイズの答え合せでは、意外な発酵食品に驚きの声がたびたび上がり、発酵食品への関心がより深まるワークショップとなったようです。

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「例えば、塩分のあるものや甘いものを20種類使って何か料理をしてください、と言われても今回の発酵料理ほど味の振り幅は出ないと思います。発酵食品は本当に多様で、一つの食卓に全部発酵食品が入っていても飽きないし美味しいですよね。火加減を調整し、味を整えるために調味料を加えるなど、人が手を加えて料理は完成しますが、パンやヨーグルトなどの発酵食品は菌の力に任せて出来上がります。それはとてもすごいことだと思うし、それをビジネスとしている河野さんのことも尊敬しっぱなしです。213年もよく菌任せでやってきたなと(笑)」(山田氏)

「発酵食品は健康に良いのはもちろんなのですが、美味しくて楽しいんです。発酵と腐敗は人間の都合です。都合の良いものは発酵、悪いものは腐敗。海外には開けると爆発するような缶詰めがあったり、日本にはものすごく臭い『くさや』という干物があったりします。これはもう冒険家精神だと思うんです。こういった発酵食品の多様性の楽しさを陸前高田市から発信していきたいと考えているので、ぜひ陸前高田市に遊びにきてみてください」(河野氏)

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手造りの醤油仕込み体験や発酵食品の講義、グループワーク、発酵料理試食会、クイズなど盛りだくさんのワークショップになった第3回のスペシャルプログラム。特にグループワークでは参加者同士アイデアを出し合うことで、より面白いアイデアが生まれるといった、広がりのある展開になりました。発酵商品と地域性を掛け合わせることで、より多様な可能性を感じさせるプログラムとなった今回ですが、さらにここから踏み込んで地域活性化の実現へのプロセスを次回以降考えていきます。


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