イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】教育遺産を活かし、文化が根付くまちを歩く。

【丸の内プラチナ大学】特別コース「水戸フィールドワーク」2023年1月28日(土)開催

8,9,11

茨城県中央部に位置する水戸市。水戸徳川家の城下町として、また日本三名園の一つでもある国の史跡・名勝の偕楽園や、国の特別史跡・重要文化財に指定されている弘道館などの歴史的に価値のある観光地としても有名です。水戸藩第9代藩主徳川斉昭や側近の藤田東湖らの学問・思想は「水戸学」と呼ばれ、幕末維新期の日本に大きな影響を与えました。

水戸市は東京からのアクセスも良好。茨城県の県庁所在地として栄える一方で、少子高齢化による人口減や、中小企業での後継者不足の問題を抱えるほか、東日本大震災からの復興は進んだものの、中心市街地の活性化等が課題となっています。

丸の内プラチナ大学では、「水戸学」受講生の皆さんにこの地に根付く教育文化と思想を体感していただくとともに、水戸のまちを盛り上げる方々との交流を通して、これからのまちづくりのあり方を学び、未来に向けて語りあう場づくりを行いました。 水戸エリアを巡るフィールドワークには、エコッツェリア協会の田口・小西も参加しました。水戸に根付く歴史とそこから広がるまちづくりに、受講生たちも興味が尽きない様子でした。

<スケジュール>
水戸駅集合→水戸城大手門見学→弘道館見学→レストラン「景山」にて昼食→水戸市民会館視察→まちなか散策→偕楽園見学→酒蔵「別春館」見学→ブックエースエクセル店見学→懇親会

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徳川家が築いた城下町を眺め、斉昭の思想を学ぶ

徳川家が築いた城下町を眺め、斉昭の思想を学ぶ

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1月28日のフィールドワークは水戸駅北口に集合し、はじめに1日のスケジュールの説明とオリエンテーションが開かれました。水戸市教育委員会歴史文化財課長兼世界遺産推進室長の小川邦明氏によるご挨拶の後、「水戸の城下町マップ」を片手に、水戸市教育委員会歴史文化財課副参事の関口慶久氏の解説を聞きながら水戸城へ向かいます。1月18日に3×3 Lab Futureで行われた座学では水戸市教育委員会歴史文化財課世界遺産係長の藤尾隆志氏と水戸山翠商事代表取締役で泉町2丁目商店街振興組合理事長の高野健治氏から水戸の知識も学びました。当日のフィールドワークに期待がふくらみます。

image_event_230128.003.jpeg左上:水戸駅に集合。小川氏の挨拶 右上:水戸駅から眺める水戸城
左下:ペデストリアンデッキでは、水戸黄門像が出迎えます 右下:関口氏の解説に皆、聞き入っています

今回は、関口氏の案内で水戸城とその大手門を見学しました。
1591(天正19年)、佐竹氏が水戸城の城主となり水戸を政治経済の中心に置いた後、1609(慶長14)年に水戸徳川家が城主となり水戸藩25万石(のち35万石)を治めるようになりました。2009年に水戸城の門扉が発見されたことをきっかけに5年間の学術調査が行われ、大手門と二の丸角櫓の復元が進められることとなり、2020年に大手門が2021年に二の丸角櫓の復元が行われました。
調査で大手門の四隅に瓦と粘土が交互に積み上げて造られた瓦塀が確認されたという説明に驚きの声があがります。復元にあたり、出資者が瓦に記名ができる「一枚瓦城主」という寄付金も募り、全国各地からの支援も行われたという話に受講生も聞き入りました。

「水戸城大手門と二の丸角櫓復元事業は産学官民一体として、伝統工法に基づき、地元の業者さんの手によって造られました。当時は熊本の震災もあり木材が手に入りづらいといった問題もありましたが、多くの人に応援していただきました」(関口氏)

復元後の大手門はプロジェクションマッピングの投影や、結婚式でのフォトウエディングなどにも使われています。今後の観光やイベントスポットへの活用なども期待されます。

image_event_230128.004.jpeg左:大手門 右:大手門内部を見学

続いて、大手門の向かいに佇む弘道館に足を運びます。弘道館は、水戸藩第9代藩主であり、徳川慶喜の実父でもある徳川斉昭により1841(天保12)年に創設された日本最大級の藩校です。その敷地は国の特別史跡に、正庁・至善堂・正門は国の重要文化財に指定されています。斉昭は藩政改革の方針の一つに人材育成を目標に掲げ、弘道館では、水戸藩の藩士やその子弟を対象に、儒学や歴史をはじめ、武術や医学、薬学、天文学といった幅広い分野で教育を行いました。「尊王攘夷」を主張しつつも、西洋の知識・技術も積極的に取り入れ、これからの国がどうあるべきかを真剣に考えていたといいます。

弘道館事務所主任研究員の小圷のり子氏に出迎えていただきました。正門を眺めた後、学校御殿とも呼ばれる正庁から、若き日の徳川慶喜も学んだとされる至善堂までを回ります。格調高い書院建築で、藩校としての凛とした空気感を感じながら弘道館の建学精神などについて解説を聞きました。「弘道館の戦い」での弾痕や徳川家の家紋である「三つ葉葵」が畳にも施されるなど解説を聞きながら細かな見所も楽しめます。

「弘道館は15歳で入学し、卒業がありません。人は一生学び続けるという生涯学習の考えのもと、1,000人が在籍していました。身分別に毎月の最低出席日数が定められ、重要な職につく者ほど登館すべき日数が多くなっていました」(小圷氏)

image_event_230128.005.jpeg左:弘道館式台(玄関) 右:小圷氏。当時の情景が目に浮かぶような解説に受講者も興味津々

今回は特別に、孔子廟や八卦堂も案内していただきました。孔子廟は、神儒一致の精神をあらわすために弘道館鹿島神社とともに弘道館の敷地内に設けられました。八卦堂には斉昭によって建学の精神が記され、弘道館の精神的な要ともなる弘道館記碑が納められています。孔子廟や八卦堂は第二次世界大戦の戦災を、弘道館記碑と孔子廟は東日本大震災による被害を受けましたが、いずれも復旧しています。弘道館記碑の復旧に携わった小圷氏の経験もお聞きし、その信念と使命に燃える姿から、歴史を保護し伝える役割の重要さを感じました。

image_event_230128.006.jpeg左:孔子廟。廟は孔子の出生地に向けて建てられています
右:至善堂。徳川慶喜が幼少期と、大政奉還後の謹慎生活を過ごした場所です

水戸学に触れた後は、レストラン「景山」であんこう、納豆など水戸にゆかりのあるメニューをいただきました。受講生は水戸の歴史に興味を持つ人、自治体の目線からまちづくりを考えたいという人とそれぞれですが、美味しい食事に会話も弾み、午前中のラインナップにも大満足の様子です。

水戸市民会館・偕楽園――今と昔をつなぐ「文化」に触れる

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昼食を終え、2023年7月に開館予定の水戸市民会館に向かいます。水戸市市民協働部新市民会館整備課課長の須藤文彦氏をはじめとする職員の皆さんに迎えられ、一般公開前の建物を見ることができる貴重な機会に受講生も緊張した面持ちに。

「旧市民会館が東日本大震災で被災したのがきっかけで、立地や予算などさまざまな議論を交わしながらここまで至りました。皆さんに選ばれる市民会館になるようにと思っています」と自作の紙芝居を持ちながら語る須藤氏。建築家の伊東豊雄氏による設計で木造にもこだわったという経緯も含めて分かりやすく伝えていただきました。

image_event_230128.008.jpeg左上:須藤氏。紙芝居で分かりやすくストーリーを伝えていただきました 右上:中ホール
左下:多くの人が集いやすい、広い吹き抜けが印象的 右下:大ホール。ステージ上から見える景色に受講生も感動

水戸市民会館は、茨城県最大級の2,000人を集客できる大ホールや中ホール・小ホール、展示室に加え、コンベンション誘致も可能な会議室、吹き抜けの広場、ラウンジギャラリーなども設け、市民にも開かれた文化会館として、オープンに向けて準備を進めています。「催し物も展開していきたい」と須藤氏。百貨店や水戸芸術館とも隣接し、水戸市街地の文化の中心となりそうです。

ここで、講義にもご登壇いただいた高野氏も合流し、水戸のまちを歩いて偕楽園へと向かいます。金沢の兼六園・岡山の後楽園とともに日本三名園の一つである偕楽園は、徳川斉昭の「一張一弛(いっちょういっし)」という思想によって造られた、弘道館と対になる場所。斉昭は「時には厳格に、時には緩めて寛容に生きるべき」という儒学の思想をもとに、学問に励む場所として弘道館を、心や体を休める場所として偕楽園を構想しました。

偕楽園は、水戸市教育委員会歴史文化財課世界遺産係長の藤尾隆志氏に案内していただきました。今回は、表門から竹林を抜けるコースを辿り、斉昭が意図した「陰と陽の世界」を体験します。太陽の光が隠れるほど埋め尽くされた竹林の中を歩き、吐玉泉(とぎょくせん)を越えると視界が開けます。しっとりと静かな空間から一転、太陽が降り注ぎ、梅林が広がる開放的な空間とのコントラストはまさに絶景。斉昭が自ら設計を手掛け、詩歌などの催しものを開いた好文亭も眺められるなど、見所も満載でした。

image_event_230128.009.jpeg 左上:"陰"の世界。竹林の中を歩きます 右上:"陽"の世界。開けた空間にすがすがしさを感じます
左下:藤尾氏に斉昭の思いを分かりやすく伝えていただきました 右下:偕楽園の設立趣旨が書かれている「偕楽園記」

藤尾氏からの「偕楽園に梅が植えられているのは斉昭の意向です。梅の花は鑑賞だけではなく、軍事や飢饉の時の非常食としての役割も持っていました」という説明に、参加者からは驚きの声も漏れました。

水戸のまちを盛り上げる

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送迎バスに乗って向かうのは、酒蔵・別春館。徳川光圀の「杯の中には別の春がある」という言葉から名付けられた、150年以上続く由緒ある酒蔵です。日本酒「副将軍」や全国梅酒大会でも受賞歴のある「百年梅酒」のほか、芋や栗焼酎など幅広いラインナップが揃います。1階には酒蔵があり、2階の展示エリアでは酒の製造方法について学ぶことができます。

ここでは、明利酒類株式会社総務部長の加藤雅大氏から説明の機会を設けていただきました。スコッチウイスキー樽やバーボン樽、シェリー樽が並ぶ貯蔵庫は圧巻。加藤氏からは、山田錦を例に挙げながら精米歩合によるお米の香りや味わいの変化についても語っていただきました。

image_event_230128.011.jpeg 左上:存在感のある酒樽に受講生も驚き 右上:日本酒の製造方法についても教えていただきました
左下:加藤氏。お酒好きの受講者からの質問が飛び交いました 右下:お酒の話は尽きることがありません

「地域の商品とコラボレーションしてそば焼酎を造ったり、アルコールを利用した消毒液をつくったりしています」と加藤氏。アニメキャラクターとのコラボレーションも行うなどのチャレンジを行い、ファンからも好評のようです。2022年秋からは60年ぶりにウイスキーの原酒も製造するなど、次々と新しい取り組みを行います。百年梅酒の飲み比べも大盛況。受講者はそれぞれ、思い思いの味を買い求めていました。

最後に向かうのは、水戸駅にあるブックエースの川又書店エクセル店です。ブックエース代表取締役社長の奥野康作氏は、カルチュア・コンビニエンスクラブ株式会社入社後にブックエースに出向し、地域の書店の魅力を感じるようになったと話しました。経営には厳しさもありますが、地域とのコラボレーションを多数仕掛けるほか、コーヒーチェーン店への誘致のために何度も交渉を行ってきたといいます。

image_event_230128.012.jpeg 左上:スライドも交えて説明していただきました 右上:「地域だからこそ身軽にチャレンジできる」と語る奥野氏
左下:多くの人がレジに並び大盛況の川又書店エクセル店 右下:書店で水戸学の書籍を発見!

「地元のサッカーチームとのコラボレーションや書店にまつわる思い出を聞かせていただくキャンペーンには、多くの反響をいただいています。地方書店だからこそできる取り組みを行っていきたいです」(奥野氏)

この日の書店内やカフェも盛況。地元の書籍コーナーには弘道館事務所の小圷氏の書籍も置かれており、受講生が買い求める様子も見られました。

懇親会には本日の受講者が全員出席し、講師も駆けつけました。水戸名物のあんこう鍋に舌鼓を打ちながら感想が飛び交います。講師の皆さんは、東日本大震災や新型コロナウイルスなど、思いもよらない出来事の影響も受けましたが、現状で何が出来るかを模索し、挑戦を続けてきたとお話されていました。「水戸の領民として、いかに発展をさせるか」という斉昭の思いが脈々と受け継がれているようです。

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水戸市教育委員会の小川氏からは、「水戸について真剣に見ていただき、嬉しく思います。フィールドワークでお伝えしてきたことから学んでいただき、これからもぜひ足を運んでいただければ」と感想をいただきました。

受講生からは「江戸時代から生涯学習が行われており印象深かった」「古くからの思想が根付くまちが素敵で今後の業務にも参考としたい」との声も聞かれました。今回の交流をきっかけに、受講生それぞれと水戸エリアが今後どのような関係性を築いていくのかにも注目いただければと思います。

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