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【レポート】人口3300人の過疎のまち、北海道乙部町。その現実と原石を探る第一歩

【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース・北海道乙部町講座 2023年9月19日(火)開催

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9月19日(火)、2023年度のプラチナ大学 逆参勤交代コースの「北海道乙部町 東京講座」が開催されました。前半、乙部町長の寺島努氏による講演では、乙部町の現状や魅力についてご紹介いただきました。後半は、寺島町長と松田氏の対談、「私が乙部町に貢献できること」をテーマに、参加者の皆さんを交えたディスカッションが行われました。

冒頭、本コースの講師を務める松田智生氏(丸の内プラチナ大学副学長/高知大学 客員教授/三菱総合研究所主席研究員)は、次のように話しました。

「乙部町は、人口3300人の非常に小さなまちです。さまざまな課題を抱えていますが、小さなまちだからこそ、我々が担い手、あるいは消費者として関わっていけば、よりダイレクトにまちの変化を感じることができると思います。その第一歩として、今日は乙部町の魅力や課題について理解を深めてまいりましょう」

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講演「人口3300人の過疎の町の現実と原石を探る逆参勤交代」

講演「人口3300人の過疎の町の現実と原石を探る逆参勤交代」乙部町長 寺島努氏

image_event_230919.002.jpeg乙部町長の寺島努氏

函館から車で約1時間半、北海道の渡島半島西部に位置する乙部町は、「東洋のグランドキャニオン」と呼ばれる白亜の断崖「館(たて)の岬」、北海道の天然記念物に指定されている「鮪(しび)の岬」など、豊かな自然に囲まれたまちです。冬は北西の強い季節風に見舞われますが、積雪は0.5~1.2mと少なく、函館や札幌に比べて、夏は涼しく冬は暖かい気候が特徴的です。寺島町長は、逆参勤交代にかける想いをこう語りました。

「現在、乙部町の人口は3300人。逆参勤交代の開催地の中でも、最小の人口規模ではないかと思います。このまちが将来にわたって存在する価値といいますか、住んでいけば、将来良さそうなことがあるかもしれない。そんなことを皆さまに考えていただきたく、フィールドワークの開催地として名乗りを上げさせていただきました」

寺島町長は、乙部町が直面している主な課題として、「人口減少」、「労働力の減少」、「空き家の増加」の3つを取り上げました。人口は、昭和25年に9,266人でピークを迎えたのち減少を続け、令和4年度末には、約64.4%減の3,299人を記録しました。国立社会保障・人口問題研究所によると、2040年には1,751人、2060年には764人まで減少すると推計されています。

「人口減少は、全国共通の課題だと思いますが、乙部町では、その進行が早すぎるという懸念がございます。年齢別の人口構成をみると、高齢人口が生産年齢人口を上回っています。乙部町には高校がないため、3~5割の若者が、中学卒業と同時にまちを離れ、函館や札幌の高校に進学し、そのまま就職する傾向にあります。優秀な人材が都心で活躍するのは喜ばしいことですが、地域活性化をけん引してきた方々の高齢化が進む今、このまちに残る若者が減少していることは、やはり問題です。加えて、非常に心配なのは出生数です。令和4年度の出生数は11人で、子供をもうける世代が極めて少ないことも、乙部町の現状です」

空き家については、平成27年から令和2年までの5年間で、144戸から261戸へと2倍近く増加していることが分かっています。

「261戸のうち、管理不完全な空き家が70戸ありましたが、31戸が改善されたほか、17戸が北海道空き家情報バンクに登録され、うち9戸が売約、3戸が賃貸物件として利用されており、わずかではありますが変化が見られています。しかし、倒壊寸前の空き家や墓石の所有者と連絡がつかず、放置せざるを得ない状況もあります。人口が減少する一方、クマやシカが増えており、鳥獣被害の問題があることも否めません。動物愛護の考えなどから課題が複雑化しており、なかなか駆除できないのが現状です」

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乙部町は、さまざまな課題を抱えながらも、魅力にあふれるまちです。冒頭で触れた館の岬や鮪の岬をはじめ、海岸線の絶景は息を呑む美しさです。中でも、最近注目を集めているのが、高さ約20メートルの白い断崖が500メートルにわたって連なる滝瀬海岸「シラフラ」です。今年1月に、函館出身の人気ロックバンドGLAYのメンバーがシラフラをバックに演奏する姿がテレビ番組で放映され、大きな話題を呼びました。

「乙部町は、温泉と水に恵まれたまちでもあります。館浦温泉、鳥山温泉、緑町温泉の3つの源泉があり、いずれも保湿効果の高い美肌の湯として知られています。町内5カ所に自然湧水の給水施設を整備しており、いつでも水が汲めるようになっております。また、元和台海浜公園には、施設自体が防波堤となり安全に遊泳できる『海のプール』があります。シーズン中の週末や祝日には、子ども向けにホタテなどを放流し、手づかみ体験を実施しています。樹齢約500年とされる縁桂(えんかつら)は、地上7mのところで二本の桂の木がつながった道理の木として知られ、縁結びの木として大切にされています」

image_event_230919.004.jpeg輸出産業化しているほか、お土産としても大きな人気を集めている、乙部町の乾燥ナマコ

続いて、寺島町長は、乙部町の第一次産業の現状を紹介しました。

「農業は、稲作のほか、ブロッコリー、ゆり根、大豆などを栽培しており、施設園芸では、高設いちご栽培やアスパラガス立茎栽培が行われています。漁業は、イカやスケトウダラなどの漁船漁業が中心でしたが、近年は環境変化などの影響により、漁獲高が減少していることから、まちではナマコの種苗やサケの定置網漁など、育てる漁業を推進しています。農林水産省が定めるG1(地理的表示保護制度)にも登録された乾燥ナマコは、中国などでの需要も高く、輸出産業化するに至っています」

乙部町は、ふるさと納税でも人気のあるまちです。平成26年から受付を開始し、サバの缶詰や塩水ウニなど町内の加工品やミネラルウォーターをはじめとした地域資源を活用した返礼品が好評を博し、22年度の乙部町のふるさと納税収入は9,700万円に達しました。

「増収を目指すことも大切ですが、ふるさと納税を通じて、乙部町を知っていただき、関係人口や交流人口を増やしていきたいという想いで取り組んでいます。今年の秋からは、返礼品の一つとして、新たにイクラが加わります。11月に横浜で開催される『ふるさとチョイス大感謝祭』など、都心のイベントにも参加し、まちのPRに力を注いでおります。お時間があれば、足を運んでいただけると嬉しく思います。10月のフィールドワークでは、皆さんの目と心で乙部町を感じていただき、まちの魅力を見つけ出していただけたらと思います」

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次に、寺島町長と松田氏の対談が行われました。逆参勤交代フィールドワークを実施するにあたって、乙部町の視察に二度訪れたという松田氏が、寺島町長にさまざまな質問を投げかけました。

松田氏:付加価値の高い農産物を作られているのが印象的でした。いちご農家の現状について教えていただけますか?

寺島町長:現在、いちご農家は主に4軒あります。15年前に脱サラしたご主人を中心に、ご家族で栽培されている農家もいたり、乙部町に戻ってきた娘さん夫婦が家業を継がれていたりとさまざまですが、販路をしっかり抑えている点が共通しています。果物のいちごとは違って、ケーキ用のいちごは、比較的酸味がある方がよいそうで、そうした新しいニーズを汲み取り、販路を広げている農家もあります。

松田氏:倉庫をリノベーションした素敵なレストランがあって、そこからビールの醸造所が見えるんですよね。今回のフィールドワークでも訪問させていただく予定です。

寺島町長:町外からいらっしゃる方は、特に女性のお客さんが多い印象ですね。

松田氏:乙部町のミネラルウォーターは、飲料としてはもちろんのこと、顔につけると肌つやが良くなるそうで、女性からも好評だと聞きました。

寺島町長:乙部町の天然湧水は、軟水・中性でシリカ成分を多く含んでおり、地ビールの原料水にもなった名水です。

image_event_230919.006.jpeg左:乙部町産大麦麦芽を一部使用したクラフトビール
右:「おとべワイナリー」が醸造した、北海道産ブドウ100%使用の赤ワイン「乙部醸造」、乙部町のミネラルウォーター「Gaivota」

松田氏:まちの中に5ヶ所も天然湧水があって、地元の方たちが汲みに来られている姿が印象的でした。ワイン造りについても、皆さんにお話いただけますか?

寺島町長:昭和50年中ごろには町内にワイナリーがつくられ、ワインの生産が始まっていました。建物も古くなってきているので、ワイナリー自体を整備するとともに、観光で来られる方が楽しめる空間を作ることができれば、新たなチャンスになると考えております。皆さんが、お越しになった時にいい知恵があれば、ぜひ教えていただきたいです。

松田氏:先ほど、乙部町には高校がないというお話がありましたが、小学校、中学校の生徒数はどれくらいですか?

寺島町長:かなり減っており、現在は1学年15~20人ほどです。先ほども申し上げたように、中学校卒業と同時にまちを離れて、函館、札幌に進学する学生が多い状況です。ちなみに、乙部町には幼稚園はなく、保育園が1ヶ所のみございます。

松田氏:子どもの数が減っていくとなると、やはり未来人材育成が重要になってきますよね。

寺島町長:仰るとおりです。ただ、外の世界を見て、戻ってきてほしいという気持ちはあります。他のまちで暮らしてみることで、乙部町のいいところも見えてくると思いますし、そういう人の方が強いと思うんですね。

松田氏: まちづくり会社の「おとべ創生株式会社」では、Uターンした若者や地域おこし協力隊の経験者が活躍していると聞きました。もう少しくわしくお聞かせいただけますか?

寺島町長:おとべ創生は、平成28年10月に地方創生の一環として設立された地方商社です。従業員4名ほどの小さな会社ですが、乙部町にある資源を活かした魅力的な商品の提案や地域のさまざまなモノ・コトを多くの人に知っていただけるよう、情報発信も活発に行っています。町内にある移住体験施設の管理やふるさと納税の手続き・管理も担ってくれています。

image_event_230919.107.jpeg宮本政則氏(乙部町役場 総務課 地域振興対策室室長)

続いて、宮本政則氏(乙部町役場 総務課 地域振興対策室室長)が登壇し、10月19日(木)~21日(土)に開催されるトライアル逆参勤交代の行程を説明しました。行程は以下のとおりです。

10月19日(木) 1日目
11:30     函館空港 集合・出発
13:00     昼食
14:00     乙部町概要説明(町民会館)
    ・地域振興対策室(人口減少に伴う現状と課題)
    ・産業課(産業の現状と課題)
15:10     ミネラルウォーター工場視察
15:30     おとべ創生株式会社(取り組み説明及び意見交換)
16:40     町内視察 宮の森公園駐車場 (展望スポット)
17:00     宿泊施設(乙部温泉郷 光林荘)
18:00     夕食(乙部温泉郷 光林荘)

10月20日(金) 2日目
9:00     宿泊施設 出発
    生命の泉(八幡さんの水)、滝瀬海岸シラフラ、くぐり岩
10:00     ギルドエンデバークラフトビール醸造所視察
11:30   鮪の岬駐車場(展望スポット)道の駅(ルート229元和台)、元和台海浜公園
12:30   昼食(レストラン元和台)
14:00   縁桂森林公園散策
15:30   ひやま漁業協同組合乙部支所ナマコ協議会(取り組み説明及び意見交換)
17:00   宿泊先チェックイン(乙部温泉郷 光林荘)
18:00   懇親会(ギルドエンデバー)

10月21日(土) 3日目
8:30       宿泊施設 出発
    課題解決プラン検討(町民会館)
11:45     昼食
12:30     乙部町長へ提案等(町民会館)
14:30     解散・函館空港へ移動

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その後、「私が乙部町に貢献できること」をテーマに、寺島町長をはじめ、乙部町役場の方々と参加者の皆さんによるグループディスカッションが行われました。参加者の方からは、「町長から直接お話を伺い、明日にでも行きたい気持ちになりました」、「ワクワクするプレゼンをありがとうございました」、「昨年からずっと行きたいと思っていたので、本当に楽しみです」など、熱のこもった感想が共有されました。

最後に、寺島町長は、「フィールドワークへの参加が叶わなくても、今日いただいたご縁をきっかけに、乙部町に興味を持っていただけたら大変嬉しく思います。本当にありがとうございました」と述べ、東京講座を締めくくりました。

image_event_230919.009.jpeg 乾杯の音頭をとる寺島町長(左)と松田氏(右)

懇親会では、乙部町のクラフトビールやワイン、地元の食材を使った料理がふるまわれ、大いに盛り上がりました。逆参勤交代フィールドワークに参加する受講生たちは、乙部町でどのような課題と魅力を発見するのでしょうか。次回のレポートでは、その模様をお伝えします。乞うご期待ください。

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