イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】過疎化や来るべき災害を乗り越えて 海のまち須崎市にみるまちづくり

【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース・高知県須崎市 東京講座 2024年2月7日(水)開催

8,9,11

2月16~18日の3日間、高知県須崎市で開催される2泊3日のフィールドワーク「トライアル逆参勤交代」に先がけ、2月7日、2023年度プラチナ大学 逆参勤交代コースのDAY4「東京講座」が開催されました。東京講座では須崎市の魅力や課題、そして逆参勤交代への期待について市長や市職員の方からお話しいただいたのちに、さらに理解を深めるためトークセッションや参加者の皆さんを交えたディスカッションが行われました。

冒頭、本コースの講師を務める松田智生氏が登壇し、本コースの狙いや意義を話しました。

「人口が減る日本において、これまで地方都市は移住の誘致合戦をしてきた。しかし今まで移住する人はほとんど増えなかった。今必要なのは人材の争奪ではなく共有で、その人材共有を実現するのが逆参勤交代コースの狙いだ。江戸時代の参勤交代は全国の優秀な人材が江戸で切磋琢磨し、お互いの文化を共有した。それを今度は地方でやろうというのが逆参勤交代。高知県は高齢化や人口減少などの課題がたくさんある。しかし逆参勤交代を通じて課題先進県から課題解決先進県になるチャンスがあると思っている」

続きを読む
「海という須崎市の資産を活かし関係人口を増やしたい」須崎市長 

「海という須崎市の資産を活かし関係人口を増やしたい」須崎市長 楠瀬耕作氏

image_event_240207.002.jpeg須崎市長の楠瀬氏

松田氏の挨拶に続いて須崎市長である楠瀬耕作氏が紹介され、須崎市についてお話しいただきました。楠瀬氏は冒頭で「須崎市は海のまちだ」と語り始めます。「高知県全体の海岸線は約750㎞ある。そのうち120㎞ほどが須崎市。須崎港は貨物の取扱高が四国ナンバーワンで、重要港湾の一つ。また四国山地から取れた石灰石を須崎港まで持ってきて関東まで運ぶかセメント工場に運ばれるという石灰石のまちでもある」と紹介しました。しかし、その海のまち須崎市は地震や津波というリスクと背中合わせだと言います。今後30年以内に70~80%の確率で発生するとされている南海トラフ地震の問題が重くのしかかる地域でもあり、市内の平地の90%以上が南海トラフ地震で想定されるハザードマップの対象地域になっています。楠瀬氏は「市も防災対策として耐震化の強化や津波が来た時に避難場所となる高台をつくる」など来るべきリスクへの備えを進めていると語ります。
そして、もう一つ市の頭を悩ませるのが人口減少です。須崎市は1980年ごろから人口減少が続いており、全国に比べ30年近くも少子高齢化が先行した自治体です。現在の人口はおよそ19,000人で、2050年までに17,000人程度になると予測されています。その人口減少への対策として楠瀬氏が期待するのが関係人口の創出です。「名古屋や大阪といった大都市が近くにあれば人口の往来が期待できるだろうが、高知県には大都市がない。移住もなかなか進んでいない。そこで海のまちプロジェクトでは、海という須崎市の資産を活かしながら関係人口を増やしたいと考えている」と逆参勤交代への期待を語りました。

image_event_240207.003.jpeg須崎市のプロジェクト推進室次長 有澤聡明氏

楠瀬氏の後に、須崎市のプロジェクト推進室次長である有澤聡明氏から、須崎市の個別の取り組みについての紹介がありました。市長が須崎は海のまちと語ったとおり、有澤氏は海にまつわるプロジェクトをいくつか紹介しました。その一つが「海のまちプロジェクト」です。須崎市は四国最大の取扱量を誇る良港によって発展して来た反面、今では津波への懸念から居住やビジネスが避けられる傾向があります。「津波を心配してどんどんまちが元気をなくしていく。しかし今まで海の恵みで栄えたまちなので、やっぱり海を前面に出したプロジェクトをしよう」(有澤氏)との考えから、地元の信用金庫と一緒に海のまちプロジェクトは始まりました。同プロジェクトは、まちを遊園地に見立てることで、駅前や商店街、魚市場などエリアごとに特色をもった見どころやアクティビティを提供し、多くの人が楽しめるまちに作り替えていくことを目的にしています。「2年前から始めた海のまちプロジェクトによって年間1万人ぐらいの人が遊びに来るようになった」と手ごたえを感じる一方で、「今後はイベントの時だけではなく経常的に遊びに来てもらえる場所にしていかなければならない」と有澤氏は今後の改善点にも言及していました。海を活かすという意味では、世界一釣り人に優しいまちを目指す「釣りバカシティプロジェクト」も始まりました。東京から高知に移住した漫画「釣りバカ日誌」の初代編集担当者である黒笹慈幾氏が中心となってこのプロジェクトを立ち上げました。須崎市は2023年11月に釣りバカシティ宣言をしており、釣りバカ日誌のキャラクターが市のPRに一役買っています。今後は地域の人と一緒になって、釣り人に対して須崎ならではのおもてなしやサービスを提供していきたいと言います。また浦ノ内湾の珍しい地形をマリンツーリズムに活用しているのが海洋スポーツパーク構想「浦ノ内マリンパーク」です。同パークでは、長距離水泳競技オープンウォータースイミングの大会が行われたり、キャンプや磯遊びが楽しめる総合アウトドアレジャー施設をアウトドアブランドと開設したりといった須崎市ならではの自然が活かされています。
さらに、現在だけではなく未来を見据え、次世代に向けた須崎港整備の取り組みも始まっています。須崎港には国内需要の10%のセメントを生産する工場や石灰石の輸出など日本の産業を支える重要な拠点となっています。この重要な産業をさらに発展させるため、須崎市は大型船舶が接岸できるように港の機能を強化・改良するだけではなく、SDGsや脱炭素への対応もできる港を目指しています。有澤氏は環境対策の一例として豊かな海の生態系を守る藻場増殖プレートの設置を紹介したうえで、「高知県内の自治体で二酸化炭素を最も排出しているは須崎市でありSDGsや脱炭素にも先進的に取り組みたい」と語りました。

image_event_240207.004.jpeg

既存の資産を有効活用するだけではなく、須崎市は新たな魅力やコンテンツを生み出そうと様々な取り組みを進めています。市外からわざわざ食べにくる人がいるほどに人気を博しているのがご当地グルメ「鍋焼きラーメン」です。この鍋焼きラーメンについて有澤氏は「2004年ごろは北海道夕張市の次は須崎市が財政破綻すると言われるぐらいお金のない自治体だった。市がまちづくりに投資する余裕がない中で、役所に頼らず市民を中心に『自分たちで地域を盛り上げよう』と生まれたのが鍋焼きラーメンだ」と語ります。現在では鍋焼きラーメンを提供するお店が30店舗以上となるなど人気グルメに成長しています。
また、鍋焼きラーメン以上に全国的な人気を博しているのが、ご当地キャラクター「しんじょう君」です。しんじょう君は、須崎市の新荘川での目撃を最後に絶滅種に指定されたニホンカワウソをモチーフにしたキャラクターですが、2016年のゆるキャラグランプリで優勝を飾り、SNSのフォロワー数は12万を超えるなど、その人気は絶大です。このしんじょう君が情報発信を行ったこともあり、須崎市のふるさと納税は2015年以降右肩上がりに伸びていき、2022年には中四国で1位となる26億円を集めることができたそうです。鍋焼きラーメンやしんじょう君などすでに確立されたコンテンツの一方で、須崎市が現在進行形で進めているコンテンツがアートを使った地域活性化プロジェクト「現代地方譚」です。この取り組みはアーティスト・イン・レジデンスと呼ばれ「作家が須崎市に滞在しながら作品制作を行ってもらい、市内のギャラリーや空き店舗、神社、砂浜などを舞台としてアートを展示する」試みです。その意義を有澤氏は「過疎が進んでいって寂しくなっていくまち、さらには津波や地震の危険に晒されるまちを住民がどのように好きになるか、どのように誇りに思うかというのは重要なこと。住民はアーティストの力を借りて自分たちのまちを見つめなおし、アート好きの観光客が来訪してくれることにも期待している」と語っていました。

担い手不足や過疎化を前向きに捉え、空き店舗活用やノマドワーカー誘致など新たなチャレンジを続ける須崎市

このような様々な須崎市の取り組みを紹介してもらったのちに、楠瀬氏と松田氏、そして高知大学の理事特別補佐で須崎市の特別顧問でもある堀見和道氏を交えて対談が行われました。高知大学は地域連携事業に力を入れて取り組んでおり、2015年から全国初の「地域協働学部」も新設され、須崎市とは人材の育成や地域産業の振興についての連携協定を締結しています。トークセッションはまずこの連携協定の話題から始まりました。

image_event_240207.005.jpeg

松田氏:なぜ高知大学が須崎市と連携協定を締結するに至ったのでしょうか?
堀見氏:2017年に須崎市と高知大学が豊かなまちづくりを一緒に進めていこうという包括連携協定を締結し、同じ方向にベクトルを合わせることができました。楠瀬市長が未来に向けて前に進めていこうとしているところに大学が一緒にやりましょうといったことがすべての始まりです。
松田氏:今回のフィールドワークでも須崎総合高校と高知大学が連携した取り組みを聞かせてもらう予定です。具体的な取り組みを少し紹介いただけますか?
堀見氏:近年、高校では生徒たちに主体的な学びをさせようという流れがあります。その中で須崎総合高校では生徒が地域に出て、地元の人との触れ合いを通じて深い探究的な学びをしてもらおうと試みています。ただ高校生だけだと住民とのコミュニケーションなど不安なこともあるので、高知大学の大学生が一緒に活動することでより有意義な深い探究学習ができるようにサポートしています。
松田氏:市長、この取り組みの手ごたえや評価を聞かせてください。
楠瀬氏:高知大学と連携することで学びの質が向上していると感じています。須崎総合高校は周辺自治体からも学生が来るようになっていまして、この連携が周囲にも良い影響を与えているありがたい取り組みだと思っています。

image_event_240207.006.jpegトークセッションに参加した高知大学理事特別補佐で須崎市の特別顧問でもある堀見和道氏

松田氏:先ほど須崎市の魅力は色々と教えてもらいました。一方で課題もあると思います。少し教えてください。
堀見氏:何か新しいことに挑戦しようとしたときに担ってくれる人がいないことが大きな課題です。逆参勤交代を通じて色々な人が様々な形で関わってくれるような関係ができるとありがたいと思っています。
楠瀬氏:色々とやりたいことはあるのだけど、市の職員だけでは手が足りていません。町内会など住民組織も高齢化や過疎化によってうまく機能しなくなってきています。その結果、行政の守備範囲が広がっており、そのような状況に対してどのような対処ができるかというのが悩みのひとつです。
松田氏:今回のフィールドワークでも須崎市にノマドワーカーを呼び込むための活動をしている女性に話を伺うことになっています。彼女のような新しいタイプの人がうねりを起こすのではないかと思っています。手ごたえはありますか?
楠瀬氏:緒に就いたばかりで手ごたえまではいっていません。しかし時代の流れをみると年に何回か須崎市に滞在し、あとの期間は別の場所で過ごすというような生活スタイルができるようになってきている。距離のハンディを埋められるようになるのは須崎市にとってメリットがあるのではないかと思っています。
松田氏:今後堀見さんからみて、須崎市の雇用や働き先はどのようなところが有望でしょうか?
堀見氏:地震や津波への懸念から空き店舗や空き家が増えています。しかし、須崎市はそれを前向きにとらえて空き家や空き店舗を活用してホテルや飲食店を始めようとしています。そのようなチャレンジに興味がある人にとっては魅力的なまちだと思います。 楠瀬氏:行政としても雇用や働き先に関しては色々と手を打っていかなければならないと思っています。堀見さんが言われたような新たな仕事や起業に関しても引き続き支援していくつもりです。

続いて2月16日(金)~18日(日)に開催される逆参勤交代の行程の説明がありました。行程は以下の通りです。

image_event_240207.007.jpeg

2月16日(金)1日目
11:00 高知龍馬空港集合・出発
12:00 昼食
12:45 オリエンテーション・地域課題説明・海のまちプロジェクトの説明
13:30 移住支援と空き家活用の取り組み(NPO暮らすさき)
14:30 現代地方譚とまちかどギャラリーの取り組み(すさきまちかどギャラリー)
15:30 すさきまちかどギャラリー現代地方譚視察
16:00 空き家活用事例視察(上原八蔵邸)
16:15 釣りバカシティプロジェクトの取り組み
18:00 懇親会

2月17日(土)2日目
8:30  宿泊施設 出発
9:00  須崎勘八と釣り体験(野見湾)
11:30 昼食
13:00 高知大学生と須﨑総合高校の取り組みと意見交換
15:00 ノマドワーカー誘致の取り組みと意見交換(合同会社Reena)
16:00 須崎駅観光列車おもてなし視察(須崎市観光協会)
18:00 懇親会

2月18日(日)3日目
8:30  宿泊施設 出発
9:00  課題解決プランまとめ
12:00 昼食(朝バル)
13:00 市長へ提案・総括
15:00 終了
15:10 散策等(道の駅かわうその里)
16:15 高知龍馬空港へ移動

その後、楠瀬氏、堀見氏、有澤氏も参加してグループごとのミニディスカッションが行われました。参加者の方からは、「キャラクター事業などのコンテンツがすごく充実していることに驚いた」、「日本にこんな素敵な場所やプロジェクトがあることは同年代の若者たちにとって魅力的に映るはず」、「須崎は通ったことしかなかったが、食べ物や気候など改めて魅力的な地域だと感じた」などといった感想が共有され、東京講座は締めくくられました。

image_event_240207.008.jpeg参加者によるミニディスカッションの様子

その後、参加者や登壇者が懇親を深めるために地元の酒や食材を使った料理が振舞われ、それぞれが須崎市に対する思いやアイデアを共有する時間となりました。東京講座では地震や津波、過疎化など様々な問題に対峙しながらも、それを前向きに捉え次世代に向けたまちづくりをしようとする須崎市の姿が印象的でした。フィールドワークでは、参加者と地元住民がどのような化学反応を起こしてくれるか期待したいと思います。

image_event_240207.009.jpeg懇親会では地元の食材を使った料理が提供された

丸の内プラチナ大学

あなたの「今後ありたい姿」「今すべきこと」とは?

丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。

おすすめ情報

イベント

注目のワード

人気記事MORE

  1. 1ふくしまフードラボ2024@3×3Lab Future
  2. 2【丸の内プラチナ大学】2024年度開講のご案内~第9期生募集中!~
  3. 3大丸有でつながる・ネイチャープログラム大丸有シゼンノコパン 秋
  4. 4【大丸有シゼンノコパン】推しの葉っぱをとことん「愛(み)る」~キミのココが大好きだー!~【朝活/緑地を探ろう!】
  5. 5秋田由利本荘の食と洋上風力の未来
  6. 6【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース 美唄市フィールドワーク
  7. 7【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース 乙部町フィールドワーク
  8. 8【レポート】震災に負けずに立ち上がる能登の酒蔵。被災地の今に想いを馳せる
  9. 9丸の内ハニープロジェクト
  10. 10【さんさん対談】「おめでとう」でつながる宮崎県とエコッツェリア協会の人事交流

過去のアーカイブ(2013年5月以前)