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丸の内プラチナ大学・逆参勤交代コースでは、北海道・上士幌町のデジタル政策や脱炭素の取り組みを現地で体感し、その実装のリアリティを学ぶため、2026年2月6日から8日までフィールドワークを実施しました。これまでも訪れてきた上士幌町ですが、今回は新たな現場を巡り施策の進捗を確認しました。講師の松田智生氏が「熱量のある多世代・多国籍が集まり、過去最大の参加者数」と語る通り、学生から社会人まで総勢15名が参加。都市と地方の関係性を問い直す3日間をレポートします。
逆参勤交代コースの講師松田氏
かみしほろシェアOFFICE→道の駅 かみしほろ→かみしほろシェアOFFICE→懇親会
2月第1週の週末、日本列島には大寒波が襲来していました。地元の人でさえ「珍しい」と口にするほどの強風と降雪のなか、参加者は帯広空港に降り立ち、最初の訪問地である「かみしほろシェアOFFICE」に集合しました。
左上:最初の集合場所となったかみしほろシェアOFFICE 。右上:フィールドワークをコーディネートしてくれた梶氏
左下:オリエンテーションを受ける参加者
右下:1日目の昼食会場となった道の駅 かみしほろ
上士幌町デジタル推進課課長の梶達氏から簡単なオリエンテーションを終えた一行は、道の駅で昼食を取った後、町が進める脱炭素の取り組みについて説明を受けました。まず、ゼロカーボン推進課課長の杉本章氏が「意見交換を通じて様々な刺激をいただければ」と挨拶し、続いて同課の山本敦志氏が脱炭素の具体的な取り組みを紹介しました。
松田氏と意見交換する杉本氏
上士幌町は2022年4月に環境省の「脱炭素先行地域」に選定されています。その中核を成すのが酪農地帯ならではのバイオガス発電です。山本氏によれば、この取り組みは当初、脱炭素を目的としたものではなく、増え続ける酪農のふん尿の処理方法として始まりました。家畜ふん尿をメタン発酵させ、発電に活用する仕組みです。現在、町内には7か所のバイオガスプラントが稼働しており、電力は地域新電力会社かみしほろ電力を通じて町内の一般家庭や事業者に供給され、地域電力の脱炭素化を支える中核的存在となっています。山本氏は「バイオガス発電は地域経済を動かせる」と語ります。ふん尿の買い取りや運送業務などを通じて地域内に経済循環が生まれ、雇用創出にもつながっています。さらに町では、EV充電設備の整備や役場庁舎を含む公共施設のマイクログリッド化、ZEB化を進める一方、町民向けには再エネ・省エネ設備導入への補助制度を設けるなど、供給側と需要側の双方から脱炭素を推進しています。
左:町の脱炭素の取り組みについて説明する山本氏
右:ポイント制度やゼロカーボンマスターなど独自施策を解説する木川氏
続いて木川陽介氏から町民や事業者へのSDGsの普及推進活動を話してもらいました。2020年に第4回ジャパンSDGsアワード(内閣官房長官賞)を受賞したことを契機として、SDGsを軸にしたまちづくりを本格化させてきました。なかでも特徴的なのが、地域通貨と連携したSDGsポイント制度です。地域清掃活動や献血への協力など、SDGsに資する行動に応じてポイントが付与され、ポイントは地域通貨として町内店舗で1ポイント=1円として利用できます。木川氏によれば2025年度には約2,100人が参加したといいます。さらに町では、「SDGs・ゼロカーボンマスター」という称号も創設。町とともに積極的にSDGs活動する個人や団体に対し、3年間のマスター認定を行い、地域の発信役としての役割を担ってもらう仕組みです。現在までに約90者が認定を受けています。木川氏は、「町役場だけで推進するのではなく、町民とともにまち全体でSDGsの普及を進めていく段階に入っている」と締めくくりました。
次のドローン配送は、強風のため実演が中止となり屋内での説明となりました。概要を説明してくれた梶氏は「ドローン配送と言っても、皆さんが思い浮かべる窓を開ければドローンが荷物を届けてくれるような全住民向けサービスを目指しているわけではない」と言い、その狙いは、過疎化が進む農村部や点在集落など、従来の陸送では非効率になりやすい地域の物流を補完することにあると語ります。調査によれば、上士幌町には毎月約2,000個の荷物が届いており、8割は市街地、2割が農村地域向けです。しかし配送時間で見ると、2割の農村地域の荷物に全体の8割の時間が費やされており、「この2割の荷物をドローンが担えれば陸送だけの物流より効率的で持続可能なものになる」と梶氏は語ります。陸送とドローンを組み合わせたスマート物流の構築を目指しています。
左:日本初のレベル3.5の配送用ドローン
右:参加者からの質問に答える畑田氏
株式会社NEXT DELIVERYは町と連携し、すでに54の配送ルートを構築しており、当面は100ルートが目標で「最終的には、AIによる完全自動運航と複数同時運行を実現させたい。経済合理性を求めるのではなく、地域を維持させるインフラとして機能させていく」(NEXT DELIVERY畑田直人氏)と説明していました。
1日目の最後は参加者同士の交流も兼ねて懇親会が開催されました
糠平湖→ひがし大雪自然館→上士幌交通ターミナル→ギャラリーhumi→懇親会
2日目は朝から、十勝の冬を象徴する凍てついた湖・糠平湖をフィールドワークとして訪れました。案内役は、ひがし大雪自然館の学芸員乙幡康之氏。駐車場にバスを停め、森の小径を歩いて湖畔へと向かいます。
湖の外周はおよそ山手線一周の距離がある広大な糠平湖
乙幡氏によれば、糠平湖は例年12月頃から結氷が始まり、4月頃まで湖面が凍結します。とりわけ厳寒期の1月下旬から2月にかけては氷が最も厚くなり、ラリーカーによる氷上タイムトライアルが行われるほどの強度を持つといいます。冬は氷上散策やワカサギ釣り、夏はカヌーなどのアクティビティが楽しめます。参加者は、広大な氷原を歩きながら、氷の世界が創り出す神秘的な風景を観察していました。
左上:樹の幹にできた珍しいキノコ型の氷を写真に収める参加者
右上:メタンガスが造るアイスバブルに参加者からは「すごい」「キレイ」など感嘆の声も
左下:湖面の分厚い氷もドリルを使えば穴をあけることができます
右下:糠平湖を背景に記念写真をパチリ
糠平湖を後にした一行は、大雪山国立公園の自然と生態系を伝える展示・学習施設「ひがし大雪自然館」を訪れました。糠平湖周辺は「北海道の屋根」とも称される大雪山国立公園の一角に位置し、石狩連峰を境に太平洋側と日本海側を分かつ分水嶺となっています。こうした地理的特性を背景に、乙幡氏は北海道固有で絶滅危惧種のナキウサギ、町指定天然記念物のキタサンショウウオなど、この地ならではの多様な自然の姿を丁寧に解説してくれました。
左:ひがし大雪自然館には地域の自然や生き物、昆虫などの展示がありました
右:糠平湖とひがし大雪自然館を案内してくれた乙幡氏
昼食を終えた一行は再び市街地へ戻り、今年2月からで試験運行が始まった自動運転バス「ロボバス」に乗車しました。現在の運行は2ルートで行われており、必須停留所以外は、住民が専用タブレットから予約した停留所にのみ停車する「セミオンデマンド方式」を採用しています。現在は路面状況などに応じて手動と自動を切り替える形で運用していますが、将来的には遠隔監視拠点からのモニタリングのみでの運行を目指しています。自動運転の運用を担当するBOLDLY株式会社江森芳樹氏は「今回導入した新車両では、センターラインや対向車の状況を把握したうえで路上駐車車両を追い越すなど、従来は難しかった挙動も可能になっている。法制度や技術課題は解消されつつあり、今後はコスト改善とAIの透明性確保が鍵になる。まずは多くの住民の皆さんに実際に乗っていただき、利便性や安全性を体感してほしい」と話していました。
左:新車両の通称「ロボバス」は最高時速40㎞まで出すことが可能
右:2022年から定期運行を開始した自動運転バスにはAI車掌「萩音士清平」が乗務していました
上士幌町の先進的な取り組みは、自動運転などのテクノロジー分野にとどまりません。アートの領域でも、新たな挑戦が進められています。クリエイターやアーティストの誘致事業に取り組む一般社団法人ねづく代表理事の辻彩香氏が、その活動内容を解説してくれました。
左:製麵所を改装して今はねづくのアートギャラリーに
右:上士幌に新たな風土が「根づく」ことを目指したいと辻氏
北海道出身の辻氏は就職などのため一度上京したのち地域おこし協力隊として上士幌町に移住しました。以来、まちづくりとクリエイティブを掛け合わせ、町に新しい循環を生み出す取り組みを続けています。ねづくの代表的な事業の一つが、クリエイターが町に滞在し、上士幌を象徴する絵柄を制作するデザインワークショップです。制作されたデザインは壁紙やクレジットカードのデザインなどに展開されています。
左:デザインワークショップで製作された上士幌を象徴する絵柄
右:参加者からの質問に答える泉氏
また2025年からは「まちまるごと美術館」プロジェクトが始動しました。アーティストが町に滞在しながら、作品を町の風景の中に創り出していく取り組みです。第一弾として、泉まゆこ氏が農場の貯蔵庫外壁をキャンバスに、巨大な壁画「光の船」を制作しました。泉氏は「上士幌の風景の色彩の鮮やかさに感銘を受け、オレンジと緑を基調に描いた。無事に完成できてよかった」と語っていました。辻氏は最後に「上士幌の『いま』を象徴する作品が積み重なることで、将来のまちの風景が形づくられていく。訪れる人も、暮らす人も楽しめる町になれば」と展望を語っていました。
左:泉氏が貯蔵庫に描いた壁画作品「光の船」
右:2日目の懇親会には竹中町長や地域の方々も参加し親睦を深めました
上士幌消防庁舎研修室
左:3日目の早朝には道の駅で気球の体験会に参加しました
右:同日、別の場所では上士幌ウィンターバルーンミーティングも
最終日は、参加者から町長への提案が行われました。提案は「私が〇〇する」という自分を主語に提案することがルールです。まずはグループで2日間の振り返りを行ったのちに、参加者はそれぞれ発表内容を作りこんでいました。
左:発表会の概要を説明する松田氏
右:参加者は真剣な表情で資料を作りこんでいました
昼食後、竹中貢町長も参加して発表会が行われました。発表内容は以下の通りです。
左:竹中町長も会場に到着し、いよいよ発表会が始まります
右:発表会にはデジタル共創戦略官坂本和歌子氏やAI車掌の監修をした株式会社スパイスボックスの山田喜幸氏の姿も
参加者からの提案(前半)
1) 上士幌バルーンブランド
2) 観光の魅力
3) コーヒースポット紹介プロジェクト!
4) 冬の上士幌ウェルカム&セーフティキット
5) 上士幌ふるさと物流DXプロジェクト
6) 上士幌型デジタル共生ワークショップ
7) スキー場から食の魅力発信プロジェクト
参加者からの提案(後半)
8) 人が来るほど彩るまち
9) わたしたちの上士幌発信プロジェクト
10) 未来の種まきプロジェクト
11) 準市民を作る上士幌へ
12) 上士幌町を低炭素地域のケースとして研究
13) Art in Residence Development Project
14) 海外留学生・グローカル リーダーシッププロジェクト
竹中町長は参加者からの発表を受け次のようにコメントしていました。
「2泊3日の短い期間で、課題と可能性を多面的に示してくれた。上士幌は"スロータウン"として農林業の時間軸を大切にしつつ、脱炭素・SDGs・デジタルを柱に"グローカル"へ進む。交流が対流を生み、関係人口を広げる。ふるさと住民登録制度なども追い風に、町の資源を生かす仲間と具体化していきたい」
脱炭素・デジタル・SDGsを柱に、教育や循環の取り組みも磨いていくと竹中町長
最後に松田氏は総括として「関係人口は行動人口のステータスに入った。鍵は町民、特に上士幌の子どもたちが東京に来てもらいわが町の魅力再発見につなげて欲しい。さらに各国の頑張っている小さな町のサミットを開催して上士幌で開催したい」と期待を込めて語っていました。
関係人口は行動人口のステータスに入ったと松田氏
デジタルと脱炭素の先進的な取り組みの背後には、挑戦を続ける行政と住民の覚悟がありました。逆参勤交代という越境の学びは、都市と地方の新たな関係性を示す3日間となりました。

丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。
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