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【レポート】過去最多を実現した2022年度の逆参勤交代、地域で得たものとは

逆参勤交代コース 2022年度総括講座2023年2月28日(火)開催

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2023年2月28日(火)、2022年度のプラチナ大学 逆参勤交代コース(講師:松田智生)の総括講座が開催されました。2022年度は逆参勤交代初上陸となる5地域に加え、前年度に延期になっていた2地域でも開催したため、過去最多となる計7地域でフィールドワークを実施しました。この日の総括講座では、各回の振り返りと逆参勤交代参加者によるパネルディスカッション、さらには初代地方創生担当大臣を務めた衆議院議員の石破茂氏をスペシャルゲストにお迎えしてご講演をいただきました。

いよいよ実装フェーズへ向けて走り始めた逆参勤交代構想の未来を占うセッションの模様をレポートします。

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経営層を動かすために必要な逆参勤交代の制度化

経営層を動かすために必要な逆参勤交代の制度化

image_event_230228.002.jpeg特別講演を行った石破茂氏

この日の総括講座は、「地方創生の本質と逆参勤交代への期待」と題した石破茂氏の特別講演からスタートとなりました。高度経済成長の頃から本格的に始まった東京一極集中は、首都圏に多大な恩恵をもたらすと同時に、大量生産大量消費のビジネスモデルを日本に定着させました。地方にも企業誘致や公共事業を通じた雇用提供などの恩恵を授けたものの、結果的には地方から都市部への人口流出を招いたことは現代の東京と地方の歪な関係性へと繋がってしまっています。こうした状況を是正すべく様々なアイデアが練られていますが、石破氏は「東京一極集中は天から降って来たものでも地から湧いたものでもなく、国策としてわざと採用したものですから、わざと壊さなければ世の中は変わりません」と話します。その上で、関係人口の増加や地方と都市で人材のシェアなどができる逆参勤交代構想が乗り越えるべき課題は、東京の経営層の固定観念にあると指摘しました。

「私が地方創生担当大臣の頃、観光以上移住未満の関係性を作るために動いていましたが、一番ノリが悪かったのが経団連です。東京の会社員の中には、出世はできなかったけれども高い能力を持っている人たちは多くいます。そういった人たちが地方に帰れば地方のポテンシャルはすごく上がりますし、企業の人事管理上も悪い話しではありません。しかし、なかなかうんと言わなかった。逆参勤交代は素敵な取り組みだと思いますが、これが定着しないのはおそらく同じ理由で、経営層の人々が東京で成功したからなんです。東京で成功した人たちにとっては今が一番いいと思っているわけで、そこに対して『地方がいい』『関係人口を作ろう』と話しても、『それは面白いね』で終わってしまい、共感までは起こらないんです。ですから、こうした動きはしっかりとした制度として仕組んでいかなくては定着しないのではないかと思い始めています」(石破氏)

石破氏は例えば、逆参勤交代に取り組んだ企業に税制優遇を施したり、鉄道会社や航空会社の閑散期における逆参勤交代は割引をしたりといったことを制度に組み込むことが考えられるとも話しました。同氏は最後に、次のように述べて特別講演を締めくくりました。

「日本ほど農業、漁業、林業に向いた国は世界にはありません。逆参勤交代はこれらの産業のポテンシャルを最大限引き出すためにも必要なものだと感じていますし、これを制度化することが日本を変える一手になるのではないかと思っています。日本に残された年数は実は長くありません。10年経ったらおそらく無理だと思いますが、今なら変えられます」(石破氏)

image_event_230228.003.jpegこの日はリアルとオンラインのハイブリッド開催ということもあり、会場には多くの人が詰めかけました

逆参勤交代を通じて"俺の代で終わりだ症候群"を止める

image_event_230228.004.jpeg左上:デンソーの光行恵司氏
右上:三井不動産の清水朝一氏
左下:資生堂インタラクティブビューティー勤務の大類優子氏
右下:事務局の田口真司

続いて、2019年の長崎県壱岐市での逆参勤交代に参加して以降、壱岐での継続的な活動や、他地域での副業経験などを行い、「逆参勤交代を通じて人生が変わった」と話す光行恵司氏(デンソー)。2022年度の逆参勤交代7地域中6地域に参加している清水朝一氏(三井不動産)。2021年度の長野県小諸市でのフィールドワークに参加したことをきっかけに、小諸市に関わるボランティア活動への参加や、勤務先である資生堂インタラクティブビューティーで小諸市に関する社内イベントなどをボランティア活動の一環として開催する大類優子氏の3名の受講生が登壇します。講師の松田智生氏(三菱総合研究所 主席研究員/丸の内プラチナ大学 副学長)、エコッツェリア協会の田口真司、そして石破氏を交え、フィールドワークで得た気づきや感じた課題、逆参勤交代普及のために必要なことなどについてパネルディスカッションを行いました。

最初に質問を投げかけたのは石破氏です。自身も日本中の自治体を巡っている石破氏は、最近になってある種の諦念が地方にまん延していると感じるそうです。

「日本には、素敵な景色、美味しい食べ物、気持ちのいい温泉など豊富な資源を持つ地域が数多くあります。ですが、地元の人々に『もっと積極的にアピールしていけばいいじゃないか』『地元の名産品をネット通販すればもっと売れるのではないか』と言っても、『いやあ、そこまでは...』と返されたり、『盆と正月に子どもたちが帰ってきてくれば十分』と言われたりします。そういった"俺の代で終わりだ症候群"のようなものはどうやったら止められるのだろうかと考えています」(石破氏)

この"症候群"についてどう思うか問われ、光行氏と清水氏は2022年度に訪れた地域を引き合いに出しながら次のように所感を述べました。

「壱岐では朝市が観光の目玉の一つとなっていますが、たしかに2019年と2022年を比較すると活気や元気さが少し乏しくなっていると感じました。コロナで壱岐に行けなかった時期、私は自社で適用研究を進めていたテレカンファレンスの技術を活用して壱岐で『バーチャル朝市』を開催しましたが、そういった取り組みも地元の方々が朝市を続けてくれるからこそできるものです。そういったことを考えると、私たちのような外部の人間が地域に入り込んで一緒になって朝市を盛り上げていくような活動も大事になると思いました」(光行氏)

「今年度訪れた新潟県妙高市では、イエナプラン教育という、一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶ教育方法を市内の新井南小学校で実施し、従来とは違った考え方ができる未来人材の育成に力を入れています。こうした考えに行き着いた理由は、人口減少に対する『諦め』だそうですが、この画期的な教育方法で育った子どもたちが成長していくことで、地域が変わっていくのかもしれません」(清水氏)

続いて逆参勤交代参加者へのアンケートを紹介。「逆参勤交代を阻む壁」に関して、(1)費用対効果の見える化、(2)上司や同僚の理解、(3)費用負担といったことが挙げられたことについての考えを問います。事務局の田口と3名の受講生たちはそれぞれ次のような考えを述べます。

「(1)については、再生可能エネルギーや食料自給率アップなど、テーマを絞ることで対応していけるだろうと考えています。例えば、東京で再生可能エネルギーを作ろうとしてもせいぜい太陽光パネルを設置するくらいしかできませんが、地域によっては色々な資源があるので、その資源と東京の人々が持つ知識やノウハウを掛け合わせていくことができればと思います。ただし、即効性があるものではないので、まずは私たち自身が価値があると感じるものに取り組み、それを徐々に広めていくことが必要でしょう」(田口)

「企業もESG投資やSDGs推進が求められる時代ですが、そのテーマにも旬があります。これまではコロナや気候変動対策が主流でしたが、今後は『ダイバーシティ』が重要になると思います。逆参勤交代参加者や、各地域で活躍する方々の中には、本当に色々なバックボーンを持った多様な人材がいるので、こうした点を、経営者にアピールできれば良いのではないでしょうか」(清水氏)

「普段私たちは会社の中でしかめっ面をしながら『PDCAを回せ』などと言っていますが、イエナプラン教育に取り組む妙高市の新井南小学校の子どもたちは、自発的に学習プログラムを構築し、自分で進捗度合いを管理しながら、笑顔で楽しそうに学習をしていました。私にとってあの体験はとても鮮烈なもので、企業人としての自分を振り返る良いきっかけになりました。逆参勤交代を通じて、子どもと大人、企業と地方という交流が、ダイバーシティやマネジメントの学びの場として活かされるチャンスはあるんじゃないかと思っています」(光行氏)

「(2)に関しては、私が勤める会社は理解があると思いますが、個人としても、日頃から自分自身の趣味や思いを包み隠さず周囲に発信したり、自己開示したりしていくことが大事なのかなと思っています。自主的に社内で小諸市の魅力を発信するボランティア活動をしていますが、それも、私が逆参勤交代に参加したことや、その後も小諸市に関わっていることを周囲に伝えているので話がしやすくなっている部分がありますから」(大類氏)

こうした意見を受けて、石破氏は「逆参勤交代が企業や企業人にとっての幸せや発展につながるストーリーを描いてもらえると、一歩突き抜けられるのではないか」と話します。

「企業の健康保険組合は赤字が多いですし、一人の社員が病気になるとその分会社の能力も落ちてしまいます。そこで、逆参勤交代を通じて地方を訪れてリフレッシュして、再び会社の戦力となって働いてもらえるようになると、会社経営としてもその人の人生にとっても素敵なことですよね。そういったストーリーを描き出してもらえると、企業としても、政府としても逆参勤交代を推奨する納得感を得られるようになっていくのだろうと思います」(石破氏)

image_event_230228.005.jpeg石破氏も交えたパネルディスカッションは大いに盛り上がりを見せました

逆参勤交代が「異次元の政策」となるために必要なこと

image_event_230228.006.jpegセッションの最後に講師の松田智生氏は、2023年度は長野県諏訪市、栃木県那須町、高知県須崎市で逆参勤交代を開催することを発表しました

では、これから逆参勤交代を深め、広め、継続していくためには、どのようなことが必要になってくるのでしょうか。大類氏は、逆参勤交代参加経験を持つ人々が自発的かつ継続的に地域とつながることが次のアクションにつながると話しました。

「私は遠慮がない性格なので(笑)、逆参勤交代が終わったあとに小諸市長にFacebookの友達申請をして、その後も小諸市の方々とコミュニケーションを続けていった結果、現在の関係性に繋がっています。もちろん全員が全員こうした動きができるわけではありませんから、例えば逆参勤交代小諸分校のようなイベントを開催していただき、過去に小諸に行ったことがある人や、参加者を通じて小諸に興味を持った人が集まれる仕組みがあればと思っています」(大類氏)

光行氏と清水氏は、逆参勤交代を受け入れる地域側の動きも欠かせないと指摘します。

「逆参勤交代を一過性のものとして終わらせてしまうのは極めてもったいないことで、いかにしてリピート性のあるものにしていくか考えなくてはなりません。そのためには、現地の行政やキーパーソンの方々が継続的に受け入れてくれる姿勢を持つことも大事だと思いますし、これまで訪れた地域に逆参勤交代のための根城があると、過去の参加者も訪れやすくなるでしょう。そのために私は、壱岐の空き家に投資をして、逆参勤交代の活動拠点兼ゲストハウスのようなものができないものかと動いているところです」(光行氏)

「企業人をやっていると、何かしらのきっかけがないと関わりづらいところがありますが、受け入れてくれた自治体の方々から『もう少し関わってくれませんか』と声を掛けてもらえると、継続的に関わっていく人が増えていくのではないかと感じます。また、"逆参勤交代アンバサダー"のようなポジションをつくり、地域と関わっていきたいという思いを抱く人を後押しすることも必要かなと思います」(清水氏)

そして田口は、今回登壇した3名のように、逆参勤交代や地域に強い思いを抱き、積極的に活動を展開する受講生たちとの連携、受け入れ地域への情報提供などをしていくことが、事務局として果たすべき役割だと宣言しました。

「事務局のメンバーや予算を一気に増大していくというのは現実的ではありませんが、今日登壇してくれた光行さん、清水さん、大類さんたちのような方々を運営側に手繰り寄せ、一緒に逆参勤交代を作っていってもらえるようなことをやっていきたいと思っています。また、受け入れてくれた地域に対して、他地域の好事例や、都市圏との上手な付き合い方などを伝えていくことも大切です。地域によってはよそ者を受け付けなかったり、何度も足を運んでようやく話ができるようになったりというところもあります。でも、そんなことをやっている場合ではないんです。もちろん上から目線で接してしまうと水掛け論になってしまうので、伝え方には注意が必要ですが、真実は真実として受け入れることが大事ですから。そのための地域とのコネクションのあり方などをさらに丁寧に進めていきます」(田口)

パネルディスカッションの最後には、石破氏が次のように総括をしました。

「江戸時代の参勤交代は徳川政権を265年保たせた制度でしたが、皆さんのお話を聞いて、やはり制度を作っていく大事さを改めて感じました。制度から変えていかないと時代は変わっていきませんから、そのためにも制度が必要になるでしょう。また、地元の人が面白くないと思っているものでも、外から来た人たちが指摘することで魅力が再発見されるということはよくある話です。そうしたものを見つけ、地域に伝えていくことも、逆参勤交代の大きな役割だと思います。まだまだ日本には可能性がありますから、制度を作り、面白く、楽しく、ワクワクするものができたらと思います」(石破氏)

こうして2022年度の総括講座は終了の時間を迎えました。2023年度には、長野県諏訪市、栃木県那須町、高知県須崎市での逆参勤交代開催が予定されています。講師の松田氏は、「逆参勤交代こそが『異次元の政策』となるように、ビジネスとしても回していけるようにしたい」、さらに「首相の所信表明演説に逆参勤交代という言葉が出るまでやり抜きます」と、次なる一歩を見据えながら語りました。ますます地方創生の切り札としての期待が大きくなる逆参勤交代に、今後もぜひご注目ください!

image_event_230228.007.jpeg左:講座を終えた後は懇親会を開催しました
右:懇親会では、2022年度に訪れた各地域の食品を使った料理やお酒が振る舞われました

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