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【レポート】競争優位を実現するSDGs経営とは

【丸の内プラチナ大学】ESG/SDGs実践コースDay3 2023年10月5日(木)開催

丸の内プラチナ大学「ESG/SDGs実践コース」では、サステナビリティを自在に説明できる人材を目指して、SDGs(Sustainable Development Goals持続可能な開発目標)を17の目標レベルにとどまることなく、169のターゲットまで踏み込んで深く理解することを目的としています。講師は笹谷秀光氏。千葉商科大学教授にして、同大サステナビリティ研究所長です。笹谷氏は過去に農水省などの行政や伊藤園でのビジネスと「産官学」すべてを経験してきました。また、各回サステナビリティの最前線に立つ多彩なゲストを迎えて、より実践的に学びます。 SDGsは様々な場面で取り上げられますが、このコースで対象にするのは「ビジネスとしてのSDGs」です。笹谷氏によれば「ビジネスとしてのSDGsも目的は2つあり、1つは競争優位を実現すること。2つ目は利益を上げること」です。企業経営にSDGsを持ち込むと、差別化、収益性や企業レピュテーションの向上、社外ステークホルダーからの高評価、従業員のモチベーション向上などが期待できるそうです。本稿では、Day3「競争優位を実現するSDGs経営」の内容を紹介していきます。

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SDGsは変革の時代の羅針盤

SDGsは変革の時代の羅針盤

「SDGs」は持続可能性(サステナビリティ)について国連合意のある「羅針盤」です。しかし、読者の方々もSDGs以外に持続可能性を意味する用語を聞いたことがあると思います。例えばESG、TCFD、ISO、CSV、パリ協定などの言葉で混乱していないでしょうか。このように企業のサステナビリティ情報の基準やフレームワークが多数存在している状況を指して「アルファベットスープ」と言われたりします。企業経営にサステナビリティを導入するには、このスープをきちんと消化していく必要があります。それぞれの役割を笹谷氏は次のように整理しました。

「パリ協定とSDGsはサステナイビリティのために『すべきこと』を決めたもの。『進め方』を定めたものがISO26000(社会的責任のガイダンス規格)、SDGコンパス、国連グローバルコンパクト(UNGC)。そしてこれらの『情報を整理する』ためESGという言葉が出てきた」

ESGはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の3つの頭文字をとったもので、昨今では投資家が重視する指標になっています。そのほかTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)など特に緊急性が高いといわれる気候変動と自然環境に関する開示ルール(ガイドライン)があります。

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役割を整理したら、それらを独立したものとしてではなく、「相互に関連したもの」(笹谷氏)として理解することが重要です。経営学者マイケル・ポーターが10年以上前に提唱したCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)ですが、その考え方は、現在に至るまで国際機関やサステナビリティの基準作りに影響を与えています。もちろんSDGsも例外ではありません。笹谷氏は「企業のSDGsはCSVであると割り切って、社会課題を解決しつつ、経済価値を求めていく時代だ」とSDGsとCSVの関係性を語りました。他にも統合報告書によく記載される「価値創造プロセス」、いわゆるオクトパスモデルは、SDGsと無関係ではありません。アウトプットの部分にもSDGsマークが記載されているからです。「国際機関ではそれぞれの概念がシンクロしているのに、日本では統合報告書、SDGs、CSVとばらばらに理解するので、消化不良になってしまう」(笹谷氏)と言いました。

概念のシンクロを理解するにあたり、デファクトスタンダード(事実上の標準)が生じていることは重要なポイントです。SDGsの13.3には「気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する」とあり、この制度機能の部分を具体化したものがTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)です。TCFDでは各企業は財務に影響を及ぼす気候変動情報をガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの要素に分けて開示することになっています。このTCFDの開示要素は、デファクトスタンダード化されTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)やDX戦略、人的資本経営などでも同じフレームワークが使われています。つまり一つのフレームワークを理解すれば、他のフレームワークにも応用が利くということになるのです。

さて、話は「ビジネスとしてのSDGs」に戻ります。私たちはビジネスやイベントなどでSDGsバッジやSDGsマークを見かけます。SDGsとはそのような表象的な意味合いで使われるべきものなのでしょうか。笹谷氏は明確にそれを否定し、SDGsは「変革の時代の羅針盤」と位置付けます。DX、GX、D&IX、SXなど、現代は"X"の時代ともいわれ、企業は様々な社会課題に向き合っていくため変革(トランスフォーメーション)を求められているといえます。しかし変革するにも、方向性を定めなければなりません。その水先案内人を務めるものこそSDGsなのです。2015年に国連が策定した「2030アジェンダ」のタイトルにも「我々の世界を変革する」と記載されているように、企業はSDGsを使いながら変革の進むべき方向性を決めることができるのです。

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SDGsはどのような点で変革の時代の「羅針盤」となるのでしょうか。いくつかの事例を紹介します。2030アジェンダの宣言の一項目「我々のビジョン」の中にはウェルビーイング(身体的、精神的、社会的福祉)、インクルージョン(公正で、公平で、寛容で、開かれており、社会的に包摂的な世界)、ディーセントワーク(自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした全ての人のための生産的な仕事)の3要素が盛り込まれており、これらは企業のパーパス経営にあたってヒントに成り得るのではないでしょうか。またSDGsの5原則として普遍性、包摂性、参画型、統合性、透明性・説明責任が定められています。これは「良いことは広げていく。取り残される人がないように。ステークホルダーからの参画を促す。社会・環境に良いだけでなく、経済性を担保して好循環を回す」(笹谷氏)ということです。この原則は企業でいえば社内外エンゲージメントへのヒントになり、また会社の4大経営資源といわれるヒト・モノ・カネ・情報の4つに対して、SDGsは好影響を与えます。つまり、ヒトにはウェルビーイング、モノにはサプライチェーンと人権、カネにはパーパス経営と人的資本経営、情報には開示ルールを実践していくことがそれぞれ有効で、競合との差別化とサステイナブルな経営を可能にします。

SDGsを使いこなすためのケースディスカッション

講義は立場の異なる2人のゲスト講師を迎えて、ビジネスとしてのSDGsをより深堀していきます。ゲスト講師が活躍する各企業の概要を示された後、受講者はSDGsの17の目標レベルにとどまらず、169のターゲットまで踏み込み、どのように企業活動がSDGsへとつながっていくかを考えます。最初のゲスト講師はSDGs研究所事務局長の髙戸良之氏です。髙戸氏はシダックス総合研究所の所長も務め「シダックスグループのSDGs経営推進とSDGs研究所の活動の紹介」と題し、話しました。シダックスグループは「フードサービス事業」「車両運行サービス事業」「社会サービス事業」の三つを中心とした総合サービス企業です。その中でも近年成長著しい「社会サービス事業」では放課後児童クラブ、学校給食、公共施設等の運営管理を行うほか、市役所の窓口業務すべてを請け負っているケースもあります。シダックスグループでは人財、環境、街づくり、安心安全の4つをサステナビリティでの重要課題として位置づけ、事業活動の中で実現に取り組んでいます。

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一方、事務局長を務めるSDGs研究所は、日本企業や外資企業合わせて36社で構成する企業コンソーシアムです。その活動は、ソーシャルプロジェクト、ユニバーシティ、ビジネスセミナーの3つの軸があります。ソーシャルプロジェクトでは、参加企業の垣根を越えてオープンイノベーションを行っています。例えば会員企業であるアサヒビールでは正しく楽しいお酒の飲み方を推奨する「適正飲酒」に取り組み、立教大学の学生とともにワークショップを開催しています。ユニバーシティについては年間4回のセミナーと3月にシンポジウムを開催しています。このセミナーは、2023年8月に農林水産省より講師を招き、食品ロス・リサイクルをテーマとしたほか、カーボンニュートラルやエシカル消費などさまざまなテーマについての講演会も開催しています。ビジネスセミナーではベンチャー企業を応援するために発表の場を提供し、企業同士のマッチングの機会を創出しています。毎年2回のセミナーを開催して、直近では2023年7月に「SDGsビジネスホープ賞」に輝いたのが後段で紹介する株式会社アルファテックの技術でした。SDGs研究所は企業・団体・個人の参加者を集い、オープンイノベーションの充実とSDGsの目標に向けてより良い社会を構築していく組織へと進化させているそうです。

続いてのゲスト講師は、先ほど「SDGsビジネスホープ賞」の受賞企業としてご紹介した株式会社アルファテックのCOO、曵地知夏氏です。同社は山形大学発のベンチャー企業で、コメ、イモ、豆などのでんぷんを含む食物を瞬時にアルファ化(=非晶化)させる技術を持つ会社です。アルファ化とはデンプンの結晶に熱を加え、結晶が崩れ消化吸収しやすい状態に変えることです。アルファテックではこのアルファ化を瞬時にできる独自技術「Amorfast®(アモルファスト)」を有し、そのままでは食べられない生米も瞬時にアルファ化し、生食可能になります。従来、デンプンのアルファ化には加水・加熱など多くの手間と時間を必要としていましたが、Amorfast®を使えばエネルギーコストや時間の節約できます。それだけではなく、曵地氏によればAmorfast®を経た米粉は小麦粉同様に弾力性があり、小麦粉の代替としてパンや麺の原材料として使える可能性があるそうです。他にもAmorfast®を家畜飼料に適応すれば、消化吸収性が良くなるため、飼料コスト低減が期待できるなど様々な用途に使える技術です。Amorfast®は小麦アレルギーやグルテンフリー食品、そして飼料原料価格の高騰などに対して有効性が期待できる技術なのです。曵地氏は「この技術を畜水産飼料、食品、バイオマスなどの分野で活用していきたい」と抱負を語りました。

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受講生は紹介された2社の活動が具体的にSDGsのどのターゲットレベルに該当しうるかをグループディスカッションし、発表しました。受講生はSDGsのターゲットを調べながら熱心に語り合い、企業活動や新しい技術の可能性を探っていきました。イノベーションの促進や途上国支援の可能性等さまざまなターゲットにあてはまると盛り上がりました。

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グループ発表後、笹谷氏から講評が行われ、次のように語りDAY3を締めくくりました。

「SDGs研究所の取り組みが技術革新につながることや質の高い教育にもつながるという観点が出て、非常に良い分析でした。アルファテックは、皆さんの分析に加えて、Amorfast®技術を通じて飼料用作物の栽培に由来する温室効果ガスの発生抑制ができるため、13番『気候変動に具体的な対策を』も加えたいところです。今後のSDGsは目標だけではなくてターゲットまで深める時期に入っています。今日はSDGsの当てはめを深めるという課題に取り組みました。SDGsは適合するターゲットが多ければ多いほど良いというものではありませんが、まずは当てはめてみて、社内の各部署と検討を重ねてターゲットを取捨選択する。大事なコアになるポイントを『レバレッジポイント』といいます。その重点を決めて社外に発信し、仮にリアクションがあったら軌道修正するという柔軟な姿勢で取り組んでほしいと思います」

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