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【レポート】人生を幸せなものにするヒント、人としての成長とは

【丸の内プラチナ大学】ウェルビーイングライフデザインコースDAY3 2023年10月16日(月)開催

左:ウェルビーイングライフデザインコース講師の前野マドカ氏
右:Day3ゲスト講師の岩波直樹氏

4,8

「自分らしさってなんだろう」「幸せって何だろう」「愛って何だろう」生きていれば誰しも一度は考えたことがあるのでは。そんな誰もが抱く「らしさ」や幸福について考えを深め、いきいきと幸せな人生をデザインするためのヒントを、丸の内プラチナ大学ウェルビーイングライフデザインコースでは学びます。前野マドカ氏を講師に今年で3年目を迎え、「人としての成長」を基本テーマに据え、仲間とともに人生を共創します。この「仲間とともに」という部分が特長的で、本コースは座学だけではなく、チャットチャレンジと呼ばれるチーム内交流会や講義内容についての意見交換、感想の共有を頻繁に行います。話し合いや意見共有の機会を設けることで、受講生は各回のテーマについて内省と言語化を行い、また他の受講生たちと理解・共感しあうことでつながりを深めていくことができるのです。

今回は非営利株式会社eumoの代表取締役岩波直樹氏をゲスト講師に迎え、「成人発達理論と愛とウェルビーイング」をテーマにDay3の様子をお届けします。

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「成人発達理論と愛とウェルビーイング」 ゲスト講師:岩波直樹氏

「成人発達理論と愛とウェルビーイング」 ゲスト講師:岩波直樹氏

本日のテーマについて、ゲスト講師の岩波氏は先日訪れたというアイヌ文化で感じた大らかさの話題から始めました。

「仮に僕がここでお酒を飲んでいて、(隣にいる)前野さんの洋服にお酒が少しかかってしまったら、皆さん『一大事だ!』と思いますよね。みんなで洋服を拭いたり、謝罪したりしますよね。でもアイヌの方々はもしそんなことがあってものんびりとしています。彼らの文化では『前野さんの洋服のカムイ(神)が今日はお酒を飲みたかったのだろう。急いで拭かないでいいよ』と、そんな反応をするのです」

アイヌ社会ではすべてのモノに神様が宿ると考えられ、起きた事象の半分は神様の影響だと考えるためです。お酒が洋服にかかったのは、人間が起こしたというよりは、神様がお酒を飲みたかったために起こってしまったと解釈されるのです。振り返って私たちはどうでしょう。

「今、僕らはすごく忙しく、早いこと、合理的、効率的なことが良いこと教えられて育っている。だから粗相や失敗をすると相手を責めたり、責任追及したりしてしまう。同じ事象が起きてもアイヌ文化のような世の中の見方や考え方が一つあるだけでその後に起こることが全く変わってしまう」

私たちの社会では摩擦を起こしてしまうかもしれない出来事が、アイヌ文化の解釈ができれば、許しや融和、その後の友好関係になるかもしれないということです。岩波氏は「目の前で起こることをどう捉えるかということがウェルビーイングではすごく大事。その捉え方次第で人生は本当に楽しくなっていく」と語りました。

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岩波氏は、このアイヌの事例にみられる一つの事象に対する独特の見解は、その社会が持つ文化的な側面だと言います。現代社会は合理性や効率性を優先し文明の発達によって便利で快適な生活を得た一方、文化的側面を失いつつある社会でもあります。例えば「神様」というような不確実で曖昧な文化的な価値を排除していないでしょうか。私たちは全ての人が幸福で安心して暮らせる社会を実現するという名目のために、合理性や効率性ばかりを優先し、わずかな曖昧さや不確実性さえも許さない「不寛容でぎちぎちな管理社会」(岩波氏)を作り上げてきてしまったのではないでしょうか。岩波氏は、現代社会で必要なのは「不確実性とか曖昧さを許容できるようにすることだ」と強調します。まさにアイヌ文化での大らかさが示すように、不確実なリスクとうまく付き合っていくことがウェルビーイングをもたらしてくれるのです。

不寛容さや不確実性への許容がウェルビーイングに繋がるということはお分かりいただけたのではないかと思います。ではそれが愛や成人発達理論とどのように関連するのでしょうか。岩波氏はエーリッヒ・フロム著「愛するということ」を引用しながら「愛」について紹介しました。恋人、配偶者、友人など様々な形の愛がありますが、ここでいう「愛」はそれとは少し異なります。フロムが言う「愛」とは世界全体に対して人がどう関わるかを決定する態度もしくは性格の方向性と言い換えることができます。フロムの言葉を借りれば、「一人の人を本当に愛するということは、全ての人を愛することであり、世界を愛し、生命を愛するということ」なのです。つまり個人と社会・世界との向き合い方こそが「愛」ということになります。そしてフロムは、この「愛」で世界全体と個人が結ばれるまで私たちは孤独や不安に襲われることがあるとも言います。

「愛」という重要テーマが紹介されたところで、受講生同士の対話の時間挟みつつ、「愛」で結ばれるまでの成長プロセスをより論理的に説明する「成人発達理論」へと話は進みます。

ハーバード大学のロバート・キーガン教授が提唱した成人発達理論は、人間の成長を縦横の二軸に分類しています。まず横軸、水平方向の成長は、能力、知識、スキルの獲得であり、量的な成長と定義されます。これは先に述べた文明的側面の成長とも言い換えることもできるでしょう。対照的に、縦軸となる垂直方向の成長は心の成長、意識の変容、枠組みの変容になり、文化的な成長ともいえます。現代社会では能力やスキルといった水平方向の成長ばかりに注目が集まります。学校教育や仕事のキャリアアップなどはその典型といえるでしょう。しかし岩波氏は「今起きている社会問題のほとんどは水平方向の成長では解決できず、私たち一人一人が垂直方向の成長をしていく必要がある」と言います。では垂直方向の成長とはどのようなものなのでしょうか。成人発達理論では縦軸が5つの発達段階に分けられています。

<成人発達理論における5つの発達段階>
段階①:具体性を持ってしか思考できず、概念のようなものは扱えない成人以前の段階。
段階②:自分の欲求が最優先で、他者をその欲求の道具とみなす自己中心的な状態。
段階③:自己中心的から脱却し、他者の心情を理解し、一緒に働くことができる。しかし自らの意思決定基準を持たず、他者(組織や上司、親など)に依存する形で意思決定する。
段階④:自分の価値観や意思決定基準が確立され、またそれを社会に許容される形で表現し価値を提供できる状態。
段階⑤:一度確立した価値観や基準を手放して、多様な価値観を受け入れることができ、また他者の成長を自らの成長という認識を持てるような状態。

このような各段階を経て、人は認識を成長させていくのですが、ロバート/キーガン氏によると現代社会では段階③に属する人が7割と大多数で、段階④は20%くらい、段階⑤は数%ほどとのことです。

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成人発達理論は別名「主体客体理論」ともいわれており、人間は主体(自分を中心とした考え方・価値観)と客体(相手を中心とした考え方・価値観)との関わり方を行き来しながら成長していくとしています。

 例えば段階②では主体側に重心があるため、自分の欲求を満たすことのみに焦点が当たり、他者の気持ちを理解することは困難な状況です。それが段階②の成長限界を知ることで、人は社会適応力や、素直に学ぶ力など客体視することを覚えていき、段階③に至るという具合です。岩波氏は、この成人発達理論は各段階が「良い」「悪い」というものではなくて、それよりも各段階をしっかり経験することが重要だと話しました。段階②で学んだ自分の欲求源泉は、段階③で他者を知ることにより、段階④で自分の欲求を社会に適合するように作り変えることができます。主体も客体も学んだからこその段階④なのです。そして段階⑤では客体を主として考えつつも、自身の考えをしっかりと持っている、自分は他者によって成長させられるという関係性です。このような主体と客体の比重や関係性を段階②から④で色々と試行錯誤したからこそ、最も理想的なバランスといえる段階⑤に到達できるのです。

岩波氏が「成長発達理論の成長と、愛の成長と、ウェルビーイングはすべて相関しており、ほぼ重なっている部分もある」と語るように、フロムの言う「愛を知るまでのプロセス」と成人発達理論というのは実は同じことを表しています。

段階②は自己中心的な愛です。そして段階③では他者に合わせる自己犠牲の愛。フロムの文脈でいえば、孤独を知り、不安が生まれるのがこれらの段階です。そしてそれが段階④で自らの愛を他者に許容される形で表現できる「自愛」になります。さらに高位の段階④から段階⑤への変化は、「世界を愛し、生命を愛した」状態です。岩波氏はこの変化を「自愛から慈愛への変化。さまざまなものに対する許容度が上がっている。不確実性に対する対処の仕方や曖昧さをどれだけ受け入れられるかというのは愛の度量の一つ」と話しました。

フロムや成人発達理論の示すことは、私たちの垂直方向の成長(文化的な成長)は、自己と世界(あるいは社会)との関わり方を学んでいくプロセスだということなのでしょう。当初は自己中心的な欲望や愛という形から出発し、様々な段階を経ることで、世界全体の多様な価値観を受け入れて自身を変化・成長させられる糧とするところまで到達する。それはアイヌ文化の例でみたような不確実性や曖昧さなどを許容できるようになったということでもあります。そしてこのような成長が、私たちにウェルビーイングをもたらしてくれます。

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岩波氏は「自分の人生で葛藤が生まれているということは次の段階への成長のサインで、見逃さないでほしい」と話しました。例えば自分は好意を寄せている相手がなぜか離れていってしまうことへの葛藤を感じているのであれば段階②から段階③への、あるいは周囲に合わせるのが辛くなり、仕事などで本質的ではないことをやっているような気がすれば、それは段階③から段階④への成長のサインが表れているということです。

葛藤は身体的不調、人間関係や仕事の不調となって表れることもあります。このような葛藤が現れたら対話が必要です。自己との対話、自然との対話、他者との対話などを通じて気づきを得ることが可能になるからです。そして対話を通じて、これまで身に着けてきた既成概念や固定概念に気づき、それらを手放していくのです。成人発達理論を知ったうえで、各人が何を大事にして、相手をどのように受け入れながら生きてくのかを考える機会にしてほしいと、最後に岩波氏は締めくくりました。

学びを得て、言語化し共有し、そして実践する

講義では受講者同士の対話の時間が設けられました。各グループでここまでの学びや気づきを共有し、それを発表します。いくつかの意見を紹介しましょう。

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「私自身は感覚的で、直感的な人間なのだけども、ロジカルで合理的であることを心がけて生きてきた。これからは本来の自分である文化的な側面を出していけたら」
「(発達理論の)上の段階に行ったり、下の段階に行ったりしていいのだっていうことを聞いて安心したし、ほっとした」
「一番響いたのは、葛藤は自分の垂直方向の成長を獲得するチャンスというところ」
「現状のもやもやした現状を変えるきっかけになればと思って受講したが、(成人発達理論を聞いて)自分は段階③ぐらいにいて、段階④に行きたいのかなということが分かった」

最後に講師の前野氏は次のようなコメントでDay3を締めくくりました。

「ウェルビーイングの学びをした場合に、具体的な行動に落としていくという一歩が非常に大切です。皆さんもちょっとした行動でいいので、それを必ず続けていただきたいと思います」(前野氏)

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