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【レポート】小菅村の自然から、森林の未来に思いを馳せる

【丸の内プラチナ大学】森と未来を創るコース 山梨県小菅村・フィールドワーク 2023年10月28日(土)開催

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丸の内プラチナ大学の森と未来を創るコースは、日本の森林の現状や地域連携などの視点から新たな森の活用について学び、森林の未来について考えます。講座で森林浴の健康効果に関する科学的エビデンスの知識を身に付けたあと、山梨県北都留郡小菅村の森を楽しむフィールドワークが開催されました。小菅村と大月市の間にある松姫峠を歩きながら、森の持つ力を全身で感じられた様子をレポートします。

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東京を流れる多摩川の源流で、森の可能性について考えよう

東京を流れる多摩川の源流で、森の可能性について考えよう

本コースの講師の小野なぎさ氏(一般社団法人 森と未来代表理事)と石坂真悟氏(NPO法人多摩源流こすげ事務局長)の案内でJR大月駅からバスに乗って小菅村へ向かいます。大月駅を出発し、遠くに富士山を眺めながら山道を進むことおよそ30分。小菅村にある多摩川源流大学へと到着しました。NPO法人多摩源流こすげスタッフ・地域おこし協力隊の青山大我氏も加わり、オリエンテーションのスタートです。

<フィールドワークのスケジュール>
・多摩川源流大学でのオリエンテーション
・小菅村の食材を使ったお昼ご飯
・松姫峠での森林浴
・多摩川源流大学での振り返り
・道の駅へ立ち寄り

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面積のおよそ95%が山で占められ、多摩川源流がある小菅村。現在は人口が650名ほど。豊かな自然環境を求めて移住する方も増えており、現在は貸家が満室になるほどです。山梨県にありながら東京にも面した立地のため、立川方面へ出かける方が多かったのですが、2014年に全長約3キロメートルに及ぶ松姫トンネルが開通したことがきっかけに、大月市へもアクセスしやすく、近年は観光客も増えていました。

2006年に設立された多摩川源流大学は「知識だけでなく、生きた知恵を次世代へ」をテーマに、都市と農山村、源流と下流が一体となって、循環型社会を支えるコミュニティ形成を目指しています。「食べ物や暮らしの根源を、体と心で実感し、生きるための実践力をつける」学びの場として「水源の森再生プロジェクト」や「多摩川源流SDGsツアー」など、学生から社会人までが広く学ぶことができる講座を開催しています。

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「森と未来を創るコース」の講師である小野氏は、認定産業カウンセラーと森林セラピストの資格を活かしながら、誰もが気軽に森に触れられるようなサービスをつくり、人と森が共に健康で豊かになる提案を行っています。

「森の中にはありとあらゆる生き物がいます。自然界からすると、私たちはただの人間。今日の森林浴では、人間の集団として森に入っていきましょう。日常生活で果たしている肩書や役割を置いて、どんな感覚が味わえるか体験しに行きましょう」(小野氏)

今回のフィールドワークでは、自由で安心な場所として、子どものころから好きなものや居心地良く感じることを持ち帰るなど、本来持っている自分の感覚を大切にしてほしいと小野氏。参加者は、仕事をきっかけに環境に興味を持った方、宝のような山が現状どうなっているか知りたい方、森林に関する勉強をしてみたい方などさまざま。自己紹介を通して和気藹々とした雰囲気で、自分の感覚を大切にする下地がつくられていきました。

フィールドワークを案内するNPO法人多摩源流こすげの石坂氏は、2006年に小菅村に移住し、町おこしや大学生の受け入れなどを行ってきました。出身は県外ですが、幼少期から家族で日本全国の農山村に旅行し、川や森で遊ぶなど自然に触れあってきました。それらの経験がきっかけとなり、川の上流や自然環境の保護や、これからの森林がどうあるべきか、その課題解決を学べる大学へ進学しました。

「皆さんが子どもの頃の森はとても綺麗だったと思います。それは、近くにいる人が整備を行い資源としても使われていたからです。しかしライフスタイルが変わり、森が使われない場所になってしまうケースもあります。森は水を綺麗にしたり、皆さんのストレス発散の場所になったりと、様々な可能性を秘めていると思います。これから50年、100年と次の世代にどうつないでいくか一緒に考えましょう」(石坂氏)

10年以上かけて学んでも分からないことはまだある、と石坂氏。動物と森、森と土の関係など詳しく学びたいことはあるが、まずは森を楽しんでもらい、その後に何ができるかを考えてほしいと伝えました。
また、地域おこし協力隊として参加いただいた青山氏は、多摩川や山梨が自身のルーツで、いつか山梨に帰ると考えていたといいます。地縁のある甲府エリアや東京と何ができるか考えていきたいと自身の思いについてお話いただきました。

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昼食は、小菅村の食材で作った「源流弁当」をいただきました。マイタケ、ヒマラヤヒロタケ、ヤモメやワラビ、フキなどのメニューが詰まっています。堪能した後は、いよいよ森林浴を楽しみます。

五感を使って、森を感じる

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午後は雲行きを見ながらのスタートとなりました。バスに乗って小菅村と大月市の境にある峠へ向かいます。森林浴を行う松姫峠は、標高1250メートル、登山ルートとしても有名です。

100年以上にわたり息づいてきた小菅村の木々たち。薪や炭の生産をしていたエリアでもあり、持続的な利活用が行われてきました。かつて、木材が高値で取引されていたころ、木は財産として扱われて、子孫のために木を残す人も多かったそうです。
森の整備には時間と手間、費用も掛かります。1ヘクタールに3,000本ほどの木を植え、そこから何十年もかけて間引きを行い、少ない本数で光が入るように整備します。間伐には人手やお金もかかるため担い手が少なくなってしまい、未整備のままの山があるのが今の日本の現状で、これから先どうするかという課題があります。
バスを降りるとあいにくの雨模様。雨具を装着しストレッチで体をほぐし、インカムを付けて準備万全、森林浴のスタートです。

image_event_231028.006.jpeg森と未来を創るコース講師の小野なぎさ氏

「森林浴の定義は明確ではありません。登山が山頂をゴールとして山に登っていくアクティビティだとすると、森林浴は五感を使って森のなかでのんびり過ごすことですね」(小野氏)

雨の音を聞きながら、湿った落ち葉のクッションを楽しみながら歩きます。少し歩いたところで立ち止まり、「五感を使うワーク」を行いました。参加者それぞれが好きな場所に立ち止まり、目を閉じて深呼吸をします。その後は落ち葉を手に取り嗅いでみたり、木の幹に触ってみたり、雨音を感じたり。集中力を研ぎ澄ますことで、ふだん意識していない感覚が研ぎ澄まされました。

「この森を出た後は五感がいつもより冴えていると思います」と小野氏。あいにくの天気ですが、雨の匂いや瑞々しさを感じます。参加者の方からも「心なしか植物が喜んでいるように見える」「空気が気持ちいいですね」という感想が聞こえてきました。

image_event_231028.007.jpegNPO法人多摩源流こすげ事務局長の石坂真悟氏

「森林は、成長しては伐採するということを繰り返して循環してきました。森を見ていると、木の株だけになっているものあり、かつて炭焼きをしていたことが分かります。手入れをやめることで木々が高齢化し、ナラ枯れなどの病気への抵抗力が衰えることもあります。」(石坂氏)

雲の切れ間から太陽の光が差し、簡単なワークを行うこともできました。白い紙を取り出すと、木漏れ日が反射して美しい影を作ります。葉のかたちによって表情を変える様子が美しく、葉が動く様子に合わせて、影もゆらゆらと動きます。

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続いて、紅葉の仕組みについても話が弾みました。木々は冬に向けて葉の栄養素を吸収し、自らの葉を落として寒さに備えます。葉には葉緑体があり、太陽の光を浴びて光合成を行いますが、葉緑体には緑色のクロロフィルのほかに赤色のアントシアニン、黄色のカロチノイドなどがあり、色素によって紅葉の色が変わります。それぞれ手にした葉を太陽に照らして、黄色い葉、赤い葉など色づく様子を楽しみました。

少し歩みを進めたところで、「皆さん、立ち止まって土を見てみましょう」と小野氏が声をかけました。近くに落ちている木の枝を拾って足元の土を掘り、触れて、匂いを嗅ぎます。

 

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「葉が落ち、微生物が分解すると土になり、木の栄養になります。よく観察すると木の種類や微生物によって香りや肌ざわりが異なります。それぞれ堀った穴を観察してみてください。少し離れているだけでも違う匂いがしますよ」(小野氏)

各自穴をのぞくと「こんなに近いのに土が違う」「香りが違う、不思議ですね」とその違いに驚く声が上がりました。「今日落ちた葉っぱが明日、土になることはありません。木々は同じ状態を維持し続けるのではなく、春になると芽が出て葉は成長し、秋になると葉を落とし微生物が分解して土をつくっていく。それを繰り返すことによって少しずつ成長していきます」と小野氏の言葉に参加者がうなずく姿も見られました。季節を越え、時間をかけてゆっくりと循環して育つ自然のリズムを実感します。

「横に大きな木があります。おそらくこの木は100年近くずっとこの景色を見ています。この木に触ってみたら過去の映像が見えたりしないかな、と思うこともあります」(小野氏)

 

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ここから一気に頂上まで進みました。頂上に着くころもあいにくの雨模様となりましたが、雨を避けるため木陰に入り、持参したレジャーシートを敷いて目を閉じて横になり全身で森の空気を感じます。しばらく深呼吸をして、五感を研ぎ澄ませます。時間の流れもいつもよりも穏やかに感じられ、目を開けた参加者の皆さんもすっきりとした様子でした。雨は止む様子がなく、足元に気を付けながら、山を下りていきました。

100年後の未来に向けて何ができるのか

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源流大学に戻ると、校舎前で焚火の準備ができていました。参加者みんなで焚火を囲み、振り返りの時間です。冷えた体に炎の温かさを感じ、皆さんもほっとした様子です。一人ひとりがフィールドワークの感想を伝える場となりました。

「五感で感じることの大切さに気付くと同時に、どのように持ちかえるかを考えたいと思いました」 「忙しい毎日でしたが、とても癒されました」
「森の匂いが感じられたこと、雨の音を聞き分けたことなどが印象的でした」
「木々も雨が降って喜んでいるような感じがしました。雨のなかで歩くこと、寝転ぶことも普段できないことなので楽しかったです」 普段は気づかない、音・香などを感じることができたという感想が多く聞こえてきました。

石坂氏は、「今日のような曇り空・雨・雨上がりや青空と森や空の変化とさまざまな表情を見ることができる機会はなかなかありません。その意味でも良いワークだったと思います。今日は紅葉を見ていただきましたが、新緑の時期も多彩な緑色を見ることができるのでぜひ体験してもらえたら」と話しました。

雨が降ってきたため室内に移動後、小野氏が最後にまとめました。

「今日1日、『森にいて気持ちがいい』という感覚を体験いただけたかと思います。かつては今より木材に価値があり、その時は森林がきちんと整備できていましたが、現在は木材の価格が下落し、手入れの行き届かない森林が増えています。私たちは先祖から受け継いできた森林を、次の世代に受け継ぐことを考えなければいけません。私が取り組んでいるのは、森林浴という価値を森林の新しい産業となるよう育て、未来につなげることです。100年後の人々が、戦後たくさん植えた木々がその後売れなくなって大変な時期もあったけれど、森林浴という新しい森の価値が生まれ美しい森が維持されているんだと感じられたら良いですね。荒れていく森が残るのではなく新しい価値を生み出して、次世代につなげていきたいです。
また、森に触れることで癒され、体にとっても良いということを知らない方もたくさんいると思います。森林浴で感じた気持ちがいいという感情は、自然から離れ、都心でパソコンと向き合う生活ではなかなか得難い、貴重な体験となっています。参加者の皆さんも今日の感じたことを持ちかえっていただき、自身の活動の中でも何かできるかを考えてほしいです。」(小野氏)

帰路では道の駅に立ち寄りました。「おすすめは、地ビールや昼食に入っていた漬物」だという小野氏の声に、参加者は思い思いの商品をいっぱいに持ち帰りました。そのままバスは大月駅まで参加者を運び、本日のフィールドワークは終了となりました。

森に囲まれた小菅村で行われた1日に渡るフィールドワーク。あいにくの天気でしたが、雨だからこそ感じることができる森の瑞々しい空気や、自然のありのままを感じられる良い機会となりました。森林の持つ力や現状を実感したうえで、これから自分たちがどのように関わっていくかを考える場となりました。

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