イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】さがデザインとさが創生が生み出す画期的プロジェクト 〜自発の地域づくりから生まれる自信と誇り~

【丸の内プラチナ大学】 繋がる観光創造コースDAY6 2026年1月15日(木)開催

8,14,15

1月15日、東京・大手町の3×3Lab Futureにて、丸の内プラチナ大学"繋がる観光創造コース" Day6の講座が開催されました。「無いものねだりよりも、あるもの(人)探し!」Season3と題する今回の講座、その6回目となるテーマは「佐賀」。ゲスト講師である堀岡真也氏 (佐賀県政策部 政策総括監)は、行政にクリエイティブな視点を取り入れる「さがデザイン」や県内各地域の自主性を重んじる「自発の地域づくり」といった先進的な取り組みの数々を紹介。食料自給率100%を超える豊かな食文化や陶磁器といった歴史、文化など既存の地域資源を掘り起こし、磨き上げていくことの重要性についても語りました。補助金や前例に頼るのではなく、地域に「あるもの」を再発見し、官民が連携して素晴らしさを発信する革新的な手法を提示。そこには、佐賀だけでなく日本全体を明るく、豊かにするヒントがありました。行政のOSをアップデートする「デザイン思考」と、住民の「自発性」が融合して起きている、地方創生のパラダイムシフトとは!

続きを読む
行政の「当たり前」をぶち壊す「さがデザイン」

行政の「当たり前」をぶち壊す「さがデザイン」

ゲスト講師である堀岡氏 (佐賀県政策部 政策総括監)は、まず2015年度に誕生した「さがデザイン」という全国的にも類を見ない取り組みについて紹介しました。「お役所仕事」、この言葉を聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、前例踏襲、形式主義、縦割り社会ではないでしょうか。そんな固定観念を根底から覆す地方自治体が佐賀県であり、佐賀県庁は大胆でクリエイティブな挑戦を次々と仕掛けているのだといいます。そのひとつが「さがデザイン」という思想であり佐賀を磨く「仕組み」です。その役割は、単に見た目を美しくすることではないといいます。事業が抱える課題の本質をえぐり出し、「前例がない」「形式が整っていない」といった官僚主義的な壁を突破して、大胆な解決策をスピーディーに実現すること。つまり、見た目だけでなく「仕組み」そのものをデザインするのです。

platinum260115_image1.JPG ゲスト講師:堀岡真也氏 (佐賀県政策部 政策総括監)

通常の行政組織では、優れたアイデアも「係長、課長、部長......」と、いくつもの決裁を重ねるうちに角が取れ、気づけばすっかりしぼんでしまいます。こういった課題を打破するため、知事直轄のハブ組織として「さがデザイン」は機能しています。
驚くべきは、その実行体制。
「さがデザイン」は、建築家、書道家、デザイナーなど、全国で活躍する100〜150人もの外部クリエイターと独自のネットワークを構築しており、「さがデザイン」が県庁組織とクリエイターとのハブとなって、事業をよりクリエイティブで面白い発想へと導きます。この行政らしからぬ仕組みはグッドデザイン賞を受賞しました。

 platinum260115_image2.JPG 左:さがデザインの役割図
右:勝手にプレゼンフェスについて話す堀岡氏

「さがデザイン」の取り組みの中でも象徴的なのが「勝手にプレゼンフェス」です。
通常、行政への提案には予算の確保や正式な依頼といった高いハードルが存在しますが、佐賀県はその常識をも覆しました。「勝手にプレゼンフェス」では、外部のクリエイターたちが県からの依頼や予算の裏付けなしに、「勝手に」佐賀を面白くするアイデアをプレゼンテーション。知事や県職員が見守る中、クリエイターたちは自らの情熱をぶつけます。そして、そのアイデアが「面白い!」と知事や担当者の心を動かせば、庁内において事業化に向けた検討が始まります。事業のこれは、行政が「発注者」であるという力学を放棄し、外部の情熱を最も価値ある資源と捉える思想的な転換を意味しています。
この前代未聞、常識破りのプレゼンフェスから生まれた代表例が、佐賀にあった江戸時代の藩校「弘道館」を現代に蘇らせる企画です。一人のクリエイターの提案が、今や多くの子どもたちが佐賀を学ぶ事業へと発展、8年ほど続いているといいます。
こうして「さがデザイン」は、約150名の外部クリエイターとのネットワークが生み出すクリエイティブな視点で、行政の常識を覆すプロジェクトを次々と生み出しているのです。
ではなぜ、行政の常識を覆す「さがデザイン」は成功しているのか?
堀岡氏はこういいます。
「多くの自治体に視察に来ていただいていますが、数年後どうでしたかと聞くと、なかなかうまくいかないというのです。なぜかというと財政から『これは何のためにやるんだ?』と言われて理解されないというんです。予算の裏付けとか、そういったものがなかなか説明できない。トップがデザインの重要性というのをわかっていないと難しいのですが、その点、うちの知事はすごい理解もあって、逆に率先してそれを導入したいということでうまくいったんです」
トップや財政によるデザイン思考の理解、それこそが「さがデザイン」成功の鍵といえるのです。

platinum260115_image3.JPG 「さがデザイン」について食い入るように話を聞き、メモを取る参加者たち

佐賀版地方創生は「自発の地域づくり」

次に堀岡氏が紹介したのは、地方創生、地域活性化についてでした。地方創生というと、行政が主導し、補助金を配って進めるトップダウン型の事業を想像しがちですが、佐賀県はその逆のアプローチこそが重要だと考えました。それが「自発の地域づくり」という哲学です。
核となるのは、「地域を本当に元気にするのは、補助金ではなく住民の自発性だ」という強い信念でした。佐賀県では、住民自らが地域にある地域資源を探し、それらを磨き上げていくという佐賀版地方創生が息づいています。

事例1:規格外のコハダが町の宝に
実は、豊洲市場のコハダの約3割は佐賀県産なのですが、地元ではあまりその価値が認識されていませんでした。そんな中、漁師の奥さんたちが、サイズが不揃いなために豊洲市場へ出荷できずに自家消費するしかなかった「規格外」のコハダに注目、価値を見出しました。「東京で人気なら、地元でも何かできるはず」と一念発起し、新鮮なコハダを味わえる様々なメニューを開発し、地元で食べられる仕組みを構築したのです。これが話題となり、モニターツアーが実施されるなど、新たな産業として今注目されています。

事例2:廃校から生まれた、三方よしの石鹸事業
ある地域では、住民たちが廃校をコミュニティカフェとして再生。さらに、放置されていた茶畑のお茶の実からオイルを抽出し、地域の高齢者たちが石鹸を作る仕事を生み出しました。これにより、高齢者の孤立、耕作放棄地、地域の交流拠点不足という3つの課題を同時に解決。この取り組みは国土交通大臣賞の最高賞を受賞し、全国的なモデルケースとなりました。

これらの事例に共通しているのは、「自分たちの住む場所には何もない」という否定的な考え「なんもなか」を撲滅し、地域住民が自ら地域に愛着と誇りを持って自発的に行動している点です。
―では、地域住民の自主性を引き出す「行政の関わり方」のコツは何か?
それは、「否定せず応援する姿勢」と「失敗の許容」だといいます。
地域づくりを「トライアンドエラー」のプロセスと捉え、失敗しても良いから挑戦しようと呼びかけるのです。補助金を出す際に、厳格なKPIや即座の成果も求めません。「頑張るなら応援する」という柔軟な姿勢を持つことが、住民の自主性を守ることに繋がっています。
そして、そんな佐賀版地方創生である「自発の地域づくり」は、結果として住民たちのなかに地元への愛着と誇りを醸成させ、より魅力的な地域へと発展、磨かれているのです。

未来への投資と環境保護

次世代による地域づくりとして、佐賀県では高校生の政策企画コンテスト「佐賀さいこう!企画甲子園」を通じ、若い世代のアイデアも事業化しています。
ある高校生は、全国でもトップクラスの生産量を誇る「たまねぎ」のフードロスを減らすため、規格外の玉ねぎを冷凍加工して販売する事業を提案。もともと売られていた中国産のものより価格は高かったにもかかわらず人気となり、地元のスーパーで定番商品化されました。また、地域づくりの担い手を増やしていく事業も推進。地域づくりを行う大人がローカリストという先生になって、ネクストローカリストとなる若い世代がそのプロセスなどを学ぶといった講義を行う。
自発的な地域づくりの灯が消えないよう、こうした未来への投資が佐賀県では積極的に行われているのです。

 platinum260115_image4.JPG 佐賀の名酒と出張佐賀バー

また、佐賀県の魅力は、世界的に評価される日本酒、そして食料自給率102%という数字に象徴される豊かな農水産物にあります。全国トップクラスの品質を誇る佐賀牛、全国2位の生産量の玉ねぎ、ブランド苺のいちごさん、そして伝統的な嬉野茶など。特に、質・量ともに全国トップクラスである「佐賀海苔」の美味しさは格別。有明海には112もの河川が流れ込み、山からの栄養分が豊富に集まります。さらに、最大6メートルにも及ぶ干満差により、干潮時には海苔が日光を浴びて光合成を行い、満潮時には海の中で栄養を吸収することを繰り返すため、味わいが深く口どけの良い海苔が育つのです。
こうした自然と食の豊かさを有する佐賀県で行われているのが「山の会議(仮)」と「森川海人っプロジェクト」です。「山は全ての人に恩恵をもたらす源流」「山を大事にしないと、山とつながっている川も海もダメになる」という考えのもと、山に住む人だけでなく平野部の人も交えて山の未来について語り合ったり、佐賀海苔の養殖業者などの海の関係者が山へ植林を行ったりする活動を行っています。また、こうした自発的な取り組みをより多くの人に知ってもらい、広げていきたいと、令和10年に開催されるのが「山の博覧会」と「全国都市緑化フェア」です。堀岡氏は「『両大会を通じて自然を敬い大切にする想いだとか、源流である山への感謝の気持ちを持つ人が増えてほしい』という想いや期待を持ちながら両大会を作り上げていきたいと思っていますので、ぜひ皆さん来てください」とのメッセージで今回の話を締め括りました。

platinum260115_image5.JPG 繋がる観光創造コース講師:吉田淳一氏(株式会社NTTデータ 経営企画本部 シニアスペシャリスト)

そして最後に、講師の吉田氏が登壇。佐賀でこんな取り組みを住民と一緒にしたらどうかといった提案、提言がされました。
ひとつは、令和8年に佐賀で行われるツールドフランスを受けて、まだ日本では行われていない女性だけのツールドフランスを、佐賀を聖地にして九州をぐるっと回ってみるといった企画はどうかという提案。数日かけて多くの自治体を通過することになるこのレースは市民の協力なくしては実現できないものであり、かつ行った先々で、その地域の景観ダイナミクス、文化といったものを世界に示せる、体験できるという実に魅力的な提案でした。

食料自給率102%の佐賀へのこんな提言も。

①革新的な長期保存技術で佐賀の食材を世界へ
「ZEROCO」という企業は、低温・高湿の保管環境を安定的に生み出すことが可能な技術を開発。これによって、食品に含まれる水分を温度抑制し、生鮮食品の新鮮さを保ったまま長期間保存することができるようになりました。つまり佐賀産の食材をその技術サービス「ZEROCO」で保管し、「ZEROCO」でコンテナ輸送し、受け入れ側の海外でも「ZEROCO」に入れることによって佐賀の唯一無二の美味しいものを新鮮なまま輸出できるというのです。

②養殖にAIを
7つの離島を有する佐賀県。その中で養殖業を営む人に向けて「UMITRON CELL(ウミトロン セル)」という自動餌やりシステムの提案がなされました。AIが魚の状況を見て、自動で餌やりをしてくれるため、今までのように雨や風の日に漁場に行かずに済む。実際に現場にいなくてもいいので、海外旅行に行ってもいい。こう言った技術を離島で取り入れていくことで、養殖業をやろうという若者が全国から集まってくることが期待できるというのです。

ただし、やはり補助金頼りじゃなくて、自発を重んじて、最終的には市民自身が誇りに思えるぐらいの形で行動変異を起こすために背中を押してあげるのが行政の役割になる、とし、吉田氏は最後にこう言って今回の講座全体を締め括りました。
「また、観光的なことで言うならば、一度行くともう絶対に好きになっちゃうんですよね。なので、その後、旅の後のところでどうやって経済を回すかが大事になる。ご紹介した色々な技術などを使っていただくと非常に面白い取り組みになるんじゃないか、デザインになるんじゃないかと思っています」
そして、講座後は、佐賀のお酒と山の幸、海の幸を使った料理が振る舞われ、口福感の中、佐賀県の革新的なプロジェクトについて参加者たちは対話と交流を楽しんでいました。

 platinum260115_image6.JPG 佐賀の食材で作った本日の鬼丸食堂と出張SAGA BAR

「さがデザイン」と「自発の地域づくり」。
前例や常識に縛られず、本質的な課題解決を目指す姿勢と、佐賀に息づく住民ひとりひとりの「やりたい」という情熱を信じ、応援する文化。もしも日本各地の行政がこれらの仕組みを導入することができたならば、まちに眠るどんな可能性が解き放たれ、磨かれていくのでしょうか?
豊かな日本の姿、新たな観光を創造するヒントに多く出会えた時間でした。

(取材・執筆:鈴木留美)

丸の内プラチナ大学

あなたの「今後ありたい姿」「今すべきこと」とは?

丸の内プラチナ大学では、ビジネスパーソンを対象としたキャリア講座を提供しています。講座を通じて創造性を高め、人とつながることで、組織での再活躍のほか、起業や地域・社会貢献など、受講生の様々な可能性を広げます。

おすすめ情報

イベント

注目のワード

人気記事MORE

  1. 1さんさんネットワーキング~2026春~
  2. 2【大丸有シゼンノコパン】都心の緑地に春の目覚めを「覗る(みる)」~生きものとの共生のヒントを探して~【まちの生きもの/親子・初心者の大人向け】
  3. 3【丸の内プラチナ大学】2025年度開講のご案内~第10期生募集中!~
  4. 4大丸有でつながる・ネイチャープログラム大丸有シゼンノコパン 春
  5. 5【レポート】生きものとしての物語を取り戻す「生命誌」の世界観
  6. 63×3Lab Future個人会員~2026年度(新規・継続会員)募集のお知らせ~
  7. 7【レポート】マーケットイン思考がもたらす食農ビジネスの可能性
  8. 8【レポート】島根県有数の観光地を舞台に地域課題を掘り下げ、都市と地方の付き合い方を考える
  9. 9大丸有ゼロカーボンスクール第4クール~丸の内で学ぶ地球と未来のこと~
  10. 10【大丸有シゼンノコパン】色彩豊かな冬の鳥を「観る(みる)」 ~極寒の今こそ絶好の"鳥"日和!~【まちの生きもの】