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【レポート】"地方創生"はすぐそばに

丸の内プラチナ大学 ヨソモノ街おこしコース DAY4(8月30日開催)

毎回さまざまな視点が導入され、新しい世界が開けてくるのが丸の内プラチナ大学の知的な楽しみのひとつですが、8月30日に開催された「ヨソモノ街おこしコース」のDAY4は、三浦市をテーマに、「都市近郊」「半島」という地理的・地勢的特徴と街おこしの関係について新たな知見が得られ、触発された参加者たちが大いに盛り上がる回となりました。

インプットトークは、三浦市役所政策部市長室の室長兼行革担当部長の徳江卓氏、ヨソモノとして活躍する株式会社スマートコミュニティ代表取締役社長の染野正道氏、そして三浦市の中核病院である三浦市立病院総病院長、小澤幸弘氏の三氏。行政+先輩ヨソモノの組み合わせは本コースの定番ですが、今回プラスアルファで医療関係者が登壇するのは、講師の三菱総合研究所松田智生主席研究員が指摘するように、これから高齢化が深刻化する都市近郊では「健康なまちづくりを産業化することがポイント」になるからです。

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恵まれた自然環境、立地

恵まれた自然環境、立地

同市のプロモーション映像には市長も登場する

まず登壇した徳江氏は、三浦市の現況と課題を詳らかに語りました。

三浦市役所 徳江氏現在三浦市が抱える問題とは、他の地方自治体と同じく「人口減少」です。これに対し、2060年までに2万1000人台にまで自然減する人口を、2万6000人台に止めようとする「人口減少抑制」策を講じたいとしています。そのために市民アンケートを取るなどし、有効な施策を検討した結果、「雇用がもっとも重要な柱」としながら、「4つの大きな視点を策定した」と徳江氏。

それが「三浦市における安定した雇用を創出する」「三浦市への新しいひとの流れをつくる」「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを守るとともに、地域と地域を連携する」の4つです。雇用については、近隣の市にある大手企業の工場撤退などが問題となっており、企業誘致を図り造成された二町谷地区の8.6haの埋立地の活用が大きなテーマになっていることが語られました。

しかし「ここまではどの地域でも見られるよくある話」。三浦市が取り組みたいユニークな展開こそが「CCRC」なのだそう。「三浦市には大きな企業がない。だからこそ逆にCCRCが有益で、市を上げて取り組みたいテーマだ」と徳江氏は話します。

「東京から90分という近さ、小網代の森に代表される豊かな自然、三方が海に囲まれた温暖な半島の先端」という地理的な特性に加え、「専業農家が多く、水産物も豊か」という一次産業比率の高さ、そこに由来する「地域活動の充実」などがCCRC構想の実現を後押しすると徳江氏は分析します。医療・介護体制も充実しており、CCRCを後押ししますが、「この件は小澤院長に譲りたい」とし、バトンを小澤氏に渡しました。

最期の地、三浦

冒頭「そうだ! 三浦で死のう」というややもするとエキセントリックに響くキャッチで口火を切った小澤氏。「もちろん自殺ではなく、人生の最期を三浦でという意味」と笑いを誘い、急性期医療機関である三浦市立病院が、三浦市の地域包括ケアシステムの中心的役割を果たすようになった経緯と現状を説明しました。

同病院創立は昭和27年。「マグロで賑わっていたころで、街には映画館もあった」そう。平成16年に老朽化した施設を更新。そして「医療崩壊が進み、大学医局から派遣されていた医師が引き上げられてしまった」平成19年に総院長に就任しました。「もうヤバイなと。そんなときに考えたのが"三浦市ならでは"の地域医療を目指すということ」で、辿り着いたのが「医療と介護を一体化した、地域密着型の総合病院」という姿でした。

三浦市立病院総病院長 小澤氏目指す姿のポイントは2つあります。ひとつは医療崩壊後の状況でも急性期医療を全うするための方策として、県全域のメディカルコントロール協議会に参画するとともに、中核病院との連携を深めること(メディカルコントロール協議会=高度救急医療システム。救急医療、搬送体制の充実を図る。中核病院=診療所など小規模医療機関ではできない高度な医療を担う)。

もうひとつは三浦市における地域包括ケアシステムの構築です。「神奈川県立保健福祉大学と連携し、リハビリの先生を出してもらった」ことを皮切りに、リハビリテーションを軸に、医療と介護を一体化させたケアシステムの構築に取り組むようになりました。同大学からは、リハビリで三浦を元気にする「風の谷プロジェクト」が発足、三浦市立病院では、65歳以上を対象にした「市民健康大学」を設立し、未病など予防医療、市民の健康意識の向上などに務めるようになっています。

また、そこから派生したのが、三浦市を高齢者向けの製品開発プラットフォームにしようという「リビングラボ事業に関する協定」。同大学、市、社協、商工会議所、その他民間企業らとともに締結したもので、これからの活動に期待が寄せられています。また、地域の診療所や小さな病院との連携も深め、より包括的な医療体制を築くなど、「高齢化率35%でもびくともしない、ライフサポートタウン」実現に向けて取り組みを続けていることも紹介されました。

"コミュニティ"の可能性

スマートコミュニティ稲毛のサイトより

最後のプレゼンテーターは、千葉県でCCRC「スマートコミュニティ稲毛」を運営するスマートコミュニティ社の染野氏。同社は先ごろ、三浦市のCCRC構想に参画することを決定。「数年のうちにスマートコミュニティを設立したい」とし、この日は先行事例として稲毛の取り組みを紹介しました。

スマートコミュニティ社 染野氏スマートコミュニティ稲毛は「よく高級老人ホームと勘違いされる」が、そうではないことを染野氏は説明。「マンションとコミュニティ機能がセットになったもの」で、「生き生きとしたセカンドライフを送るためのもの」。「心と体、お金という高齢者の不安を解決する」とともに、孤独や体力の低下に伴う「生活不活発病を予防」します。そして、健康を守り、「寝たきりにならない」ことも目指します。現在「約700名のコミュニティに成長した」が、要介護はわずか5%以下とのこと。

もっとも大切なのがこの「コミュニティ」としての機能です。「クラブハウスがあり、たくさんの人が集まり、好きなことを探し、同じ趣味を持つ人が集って活動する」そうで、「僕らの大学時代のサークル活動と同じ。恋愛もあれば友人との些細な諍いもある」、そんな"第二の青春"ともいうべき暮らしを送っているのだそうです。「100人くらいだと(人間関係が)濃くなりすぎてしまうけど、700人いれば良い感じになる」。

スマートコミュニティ稲毛が軌道に乗ったことで、地域に200名を超える新たな雇用が生まれました。「消費も拡大して新たにイオンもできるなど、街の利便性は向上している」など、CCRCが地域の活性化に貢献している好例となっています。「医療費も下がっているし、楽しいし、消費は拡大しているし、全員がよくなる仕組みになっている」と染野氏。

これからスタートする三浦市については、自然環境、東京から近い立地などすべてが「すばらしい場所」。「誰にとっても良い土地だと思う。数年のうちに発足するので、楽しみにしていてほしい」と締めくくりました。

"脱悲惨な住宅すごろく"

インプットトーク終了後は、登壇者が揃って、ミニパネルディスカッションを行いました。松田氏のファシリテーションで多岐にわたる刺激的なセッションとなりましたが、CCRCを巡る議論が興味深いものとなりました。

例えば、稲毛の事例では、発足時に「行政はネガティブな反応だった」(染野氏)そう。当時はシニアが集まるということは医療費が増大するということで「財政を痛める」ことだと思われていたからです。後に稲毛市行政も考えが変わったが、三浦市でも今なお「CCRCは介護」というイメージを持つ者が少なくないそう(徳江氏)。「総研に依頼して、CCRCで元気な状態を長く保つことで、どれだけ経済効果があるか試算を出してもらって」理解を進めているとのこと。

CCRCでは健康を守ることが何よりも大切になりますが、三浦市では「地域医療の担い手をどう育てるか」が目下の課題になっています(小澤氏)。「病んだ人を治すだけでは医療は成り立たない。健康管理、データ管理からしっかりと進めたい」。興味深いのは、ICTではなく、アナログベースのデータ管理、健康管理をしている点かもしれません。

会場からも「健康」をめぐっては熱心な質問が出されました。CCRCが「不健康な高齢者」を排除するものであってはならないという意見も。その点、三浦市は小澤氏が言葉を重ねたようにあくまでもベースは急性期医療にあり「病んだ人を治す、がもともとの姿」です。スマートコミュニティ稲毛も寝たきりの人を排除しているのではなく、「夫婦の片方が寝たきり」という例もあるし「施設内に訪問介護の事業所もある」そうです。

最後に松田氏が「要は"脱悲惨な住宅すごろく"ではないか」と発言。「家族が少しずつ減っていき、突然脳卒中になって、体が動かなくなって、家に帰れなくなって、特養に入って......と、終末期に向けて悲惨に転々としていくようなことを避けること。CCRCが目指すのもそういうことなのでは」とまとめました。

充実のアウトプット

パネルディスカッションの後は、各テーブルでグループディスカッションを行いました。特にテーマを設定することなく、登壇者たちもテーブルに混じってのフリートーク。現状分析、三浦市への提案、感想の共有など、思い思いに考えを口にし、活発に意見を交わしました。全体シェアでは、「水産資源の活用」「舟運の活用」といった提案や、「危機意識が薄いのでは」といった厳しい分析、「分かりやすいプロモーションを」といった要望などが飛び出し、登壇者たちを戸惑わせ、あるいは喜ばせたのでした。

そして議論の後は、これまた恒例となった懇親会。この日は三浦の幻の特産品「大根焼酎」の瓶が並び、酒好き揃いの受講生たちを喜ばせていたようでした。

次回からはビジネスプランの発表

終了後の取材に答えて、講師の松田氏は今回の"近郊モデル"の講義が、「ヨソモノまちおこしは、近場でもあることを知ってもらうためのもの」であると話しています。「地方創生は東京から遠くはなれた街や、離島や高原ばかりと思われがちだが、そうではない。茨城でもあるし、埼玉でもある。いっぱいある、特殊なものじゃないということが見えてくるだろう。多摩ニュータウンでもあるだろうし、23区内でも起こりつつある問題と言えるかもしれない」。さて、我々が立つべき視座とは、どんなところなのでしょうか。

受講生たちも「近いこと」にビビッドに反応していたようです。ある受講生は「近いぶん、やりようもあるし、難しさもある」という感想。「今回は行政、病院、事業者がそれぞれの立場からCCRCを語ったので、自分なりに課題を絞り込みやすいと感じた」と宿題に向けて意欲を見せました。また別の受講生は、「イメージしやすかった」と今回の講義の感想を話します。三浦市には何度か行ったことがあるそうで、「ヨソモノとして活動するにしても、自分がリタイアしてそこに暮らすにしても、そこを知っていることですごくリアルに考えられる」。逆に言えば、地方創生に関わるならば、地域を問わずその地を深く知らなければリアルに考えることができないのが道理ということなのでしょう。

三浦市立病院の小澤院長にも話を聞きました。実は、病診連携や地域包括ケアシステムは、都市部よりも(そして人口密度が低い地方よりも)ベットタウンなどの郊外エリアでうまく機能している例が多いようです。その地勢的な理由を聞いてみると、三浦市の場合は「半島で上(北)にしか行けない、という地理的な事情があるからではないか」と分析しています。「半島性、とでも言えばいいか、交流が限定的になる分、関係性強化が特殊になる」。伊仙町のプレゼンテーションで、奄美諸島で唯一の地質学的特殊性が生物多様性を、そして人々の生きる力を与えているのではないかという考察があったように、我々の思考や行動が半島という地理・地勢的要因に依存する部分が多いという考察は興味深いものがあります。

次回からはいよいよビジネスプランの発表へと移っていきます。さまざまな視点、考えが得られたこれまでの講義を踏まえ、どんなビジネスプランが立ち上がって来るのでしょうか。受講生たちの発表を楽しみに待ちたいと思います。


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