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【レポート】逆参勤交代3年ぶりの壱岐開催、継続と深化が進む中で見えた次の一手 前編

丸の内プラチナ大学 トライアル逆参勤交代 壱岐分校 長崎県壱岐市(2022年7月1日〜3日開催)

7,9,13

福岡県の博多港から高速船で約1時間、長崎県の長崎空港からは飛行機で約30分で到着する長崎県壱岐市。「九州出身者でも行ったことがない」「首都圏での知名度が低い」といったようにプロモーション面での課題を抱えている壱岐島ですが、2019年に離島としては初めてトライアル逆参勤交代を実施した島であり、エコッツェリア協会にとっては馴染み深い地域でもあります。当時の受講生の中には、壱岐が持つ資産、そして壱岐で精力的に活動する人々に魅了されて、個人的に再訪する受講生もいたほど、印象的なフィールドワークとなっており、その後もエコッツェリア協会と壱岐市は定期的にイベントを実施し、関係を温めてきました。そして2022年7月、「壱岐分校」として約3年ぶりに壱岐での逆参勤交代を開催することとなったのです。

2019年の受講生、他地域での逆参勤交代経験者、地方創生やワーケーションに関する活動を展開する方など、壱岐や地方に対する強い思いを持つ人が多く集った今回のフィールドワーク。多様な名産品や観光資源、パワースポットなど、多くのポテンシャルを秘めた「元気な離島」であると同時に、「地域課題最先端の島」とも言われる壱岐島で、受講生たちはどのような発見をして、地域に何をもたらしたのでしょうか。

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施策と課題、それぞれに先進性がある稀有な離島・壱岐

施策と課題、それぞれに先進性がある稀有な離島・壱岐

image_event_220701.jpg.002.jpeg「壱岐のモンサンミッシェル」と呼ばれる小島神社にて

<1日目>
博多港→芦辺港→オリエンテーション→小島神社→一支国博物館→壱岐テレワークセンター→懇親会

もともと壱岐分校は2022年2月に開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で二度に渡って延期となっていました。その後、逆参勤交代や壱岐に興味のある人、壱岐市の自治体関係者、地元のキーパーソンを集めてオンラインワークショップなどを実施しつつ、7月になり待望の開催を迎えました。それだけに受講生や事務局関係者のモチベーションは高く、一部のメンバーは壱岐に前泊するほどでした。そんなメンバーとともに、7月1日11時50分、9名の受講生と6名の事務局スタッフが壱岐市・芦辺港に集合します。

image_event_220701.jpg.003.jpeg写真左:博多港と壱岐間をつなぐ高速船 ジェットフォイル ヴィーナス2
写真右:当日入りのメンバーを迎え入れる前泊したメンバーと壱岐市役所の方々

今回のメンバーは、大企業からスタートアップ企業、さらにフリーランスの方まで、20代から60代までの多世代が集いました。一行は芦辺港からほど近い割烹料理屋「豊月」へ移動し、昼食と全体オリエンテーション、受講生同士の自己紹介を実施します。オリエンテーションの場では、壱岐市の眞鍋陽晃副市長から次のような歓迎のご挨拶をいただきました。

「壱岐は、福岡から高速船で約1時間、空路を使えば東京からでも最短4時間で到着できます。朝出発すれば永田町で午後に開催される会議に間に合うアクセスの良い島です。一歩足を踏み入れていただければ、豊かな自然環境や歴史的な史跡が溢れていますし、壱岐牛や多様な作物、水産業など、食材に恵まれた島でもあります。最終日には地域課題解決のプランをご提案いただけると伺っていますので、壱岐のポテンシャルに触れていただき、外からの目線で見た時に足りないものや、もっとブラッシュアップできる事柄をご指摘いただければ幸いです」(眞鍋副市長)

image_event_220701.jpg.004.jpeg写真左:壱岐市の眞鍋陽晃副市長
写真右:三菱総合研究所 主席研究員、丸の内プラチナ大学副学長で、逆参勤交代の提唱者である松田智生氏

全体概要の説明と昼食、自己紹介を終えると、いよいよフィールドワークがスタートします。最初に訪れたのは、弥生時代に栄えたと言われる一支国(いきこく)の海の玄関口であった内海湾(うちめわん)に浮かぶ小島神社です。干潮前後のわずかな時間の間だけ参道が現れる幻想的な神社で、「壱岐のモンサンミッシェル」として多くの人々を魅了するパワースポットです。この日は干潮までに時間があったので完全には参道は拓けていませんでしたが、天候に恵まれたこともあり浅瀬を物ともせず渡って参拝する受講生も見られました。

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image_event_220701.jpg.006.jpeg写真左上:恋愛成就、商売繁盛、五穀豊穣、航海安全などの願い事が叶う御祭神が祀られている島内随一のパワースポット・小島神社
写真右上:干潮には時間があったものの、浅瀬だったこともあり歩いて海を渡ることもできました
写真左下:小島神社をバックにこの逆参勤交代最初の集合写真を撮影
写真右下:人気のパワースポットであるものの、人口減少によって維持・保全が難しくなっている現実もあるようです

続いて向かった壱岐市立一支国博物館は、「魏志倭人伝」にも登場する壱岐(一支国)の歴史を、CG映像、実物大の模型やジオラマ模型、資料や蔵書など、多様な手段を通して学べる場所です。この日は同館の須藤正人館長にアテンドいただき、受講生たちは壱岐の今昔について深く学べた様子でした。

image_event_220701.jpg.007.jpeg写真左:一支国博物館の須藤正人館長(写真左)
写真右:博物館には、160体を越えるジオラマミニチュア模型が設置。弥生時代の一支国の人々の生活を、楽しみながら理解できます

壱岐を代表する観光スポットを巡った後は「壱岐テレワークセンター」に移動し、壱岐の概要説明がなされます。かねてより一次産業や観光業が盛んな壱岐市ですが、昨今ではテレワークやSDGsなど、今ではトレンドワードとなっている領域についても早期から取り組みを進めています。また、2019年には国内の自治体として初めて「気候非常事態宣言」を可決・承認し、2050年までにCO2排出量実質ゼロ、洋上風力発電を中心とした再生可能エネルギーへの完全移行などを表明して大きな注目を集めました。また近年注力している施策としては雇用機会拡充事業が挙げられます。2017年に施行された有人国境離島法に基づき、特定有人国境離島地域である壱岐の地域社会を維持するための交付金制度を創設しており、その一つの柱として、島内における雇用創出事業を支援しているのです。この取り組みを通じて、島外の事業者による古民家再生やゲストハウスの開業などが行われ、2021年までの5年間で14件の創業、124件の事業拡大、219人の雇用創出が実現しています。

このように、伝統と先進性を併せ持つ壱岐市ですが、複数の課題も抱えています。少子高齢化や人口減少はもとより、主力産業の一つである水産業では後継者不足に伴う漁獲量の減少、海水温の上昇などによる磯焼けの進行が深刻化しています。新型コロナウイルス感染症の影響で観光客が減少したことも島内の事業者に大きなダメージを与えました。他方、上に記したような各種施策も効果が現れるまで時間を要しているため、逆参勤交代のように新しい視点を得られる機会を大切にしたいと、自治体担当者は話します。

市の概要説明を終えると質疑応答へと移ります。幾つかのテーマで議論が交わされましたが、受講生の注目度が高かったのはSDGsへの取り組みについてです。2018年にSDGs未来都市に選定された壱岐では、IoT技術を活用した持続可能なスマート農業や、地域の子どもたちに対するSDGs教育の実施などを行っていますが、こうした取り組みを通じて住民にどのような変化が起こったのか?という質問がなされます。これに対して壱岐市役所 総務部 SDGs未来課 主任主事の中村勇貴氏は次のように回答します。

「小学生には身近な存在である海を通じた教育を、中学生にはバックキャスティング思考の手法で自分たちが住む島のために何ができるのか考えるきっかけを提供したり、地域の大人と交流する機会を設ける授業をしています。高校生にはイノベーション教育を展開し、地域と関わりながら活動できるようにしています。このような取り組みで、子どもだけでなくそのご家族や、教育を通じて接点を得た大人たちにもSDGsの考え方はだいぶ浸透してきているの感じています。ただし、一方で、年齢層が上がっていくに連れて横文字に対するアレルギーや、自分たちには関係がないと感じている人が多いのも事実です。大人たちに対しては、壱岐の未来を語り合うSDGs対話会という場を用意していますが、このような形で色々な人を巻き込み、自分ごと化を進めているところです」(中村勇氏)

また、テレワークの推進に伴って注目を浴びている「ワーケーション」については何か取り組みを行っているのか?という質問もなされますが、中村勇氏は「取り組みはしているものの、慎重に進めている」と話します。

「SDGs対話会に参加いただいた島外企業の方を地元の事業者に会わせたり、ワーケーションツアーを実施したりしていますが、闇雲につなぎ合わせればいいとは思っていません。両者の相性を考えて紹介していかないと何も生み出せないどころかトラブルに発展してしまう恐れもあります。そこをしっかりと見極めていくのが行政職員としてやるべきことだと思っています。また、島外から来た人に対して気軽に話しかけてくれたり、有意義な情報を教えてくれたりするコミュニケーターのような人が増える地域を作っていくことも必要です」(同)

image_event_220701.jpg.008.jpeg写真左:壱岐市役所 総務部 SDGs未来課 主任主事の中村勇貴氏
写真右:壱岐市の白川博一市長。「逆参勤交代構想を通じて、定住人口や関係人口増大、壱岐市の地域活性化につながるものと思っています」と期待を寄せてくれました

ただし、島外事業者との連携では好事例もあります。その代表的なものとして紹介されたのが、慶應義塾大学SFC研究所と共に展開している「壱岐なみらい研究所」です。これは、2019年にこの二者とリクルートによる「地方創生に関する研究開発の連携協力協定」を結んだことをきっかけに、壱岐市の未来を創るための地域での実学を推進する場として設置されたものです。慶應義塾大学の教授やSFC研究所の研究員、関連企業の社員などを講師として迎え、市の職員や連携企業の社員、有志の学生等が研究生として参加し、各々が興味のあるテーマについて研究を深めています。中村勇氏も一期生として壱岐なみらい研究所に参加しており、人材育成に関する研究を行ったと言います。そしてこの日は、同研究所の研究生として活動し、壱岐の社会課題解決のためのプロジェクトを展開している2名にお越しいただき、その内容を紹介していただきました。

一人目は、教育事業を手掛けるキャニオン・マインド、未来こども工房という会社に勤め、現在は京都と壱岐で2拠点生活をしている山本真由美氏です。一期生として壱岐なみらい研究所に参加した山本氏は、「閉じこもり高齢者の社会参加と未来を担う子供の育成を目的とする『オンラインコミュニティ』創生」と題し、労働力として社会から離れてしまった高齢者と、島の未来を創る子どもたちの関係性を深めながら地域の活性化を図るプロジェクトを提案しています。このプロジェクトに取り組むことになったのは、他地域以上に進む壱岐の高齢化率が関係していると、山本氏は説明しました。

「2020年時点での壱岐の高齢化率は38.4%で、これは2045年の日本の高齢化率36.8%を超える数字となっています。それだけ壱岐には社会から離れてしまった高齢者が多くなっているため、この人たちに対して、『生きがい』と『今日いく、今日用がある』生活を提供することが必要だと考えました。同時に、将来の地域を担う存在である子どもたちに対しても、将来のビジョンを見ることができる『共育、教養』を提供することを目的としています」(山本氏)

プログラムの具体的な内容は、オンラインを通じて高齢者と子どもたちが集まり、脳トレゲームを行ったり、毎回特定のテーマに精通した講師を招いて「バズセッション」と呼ばれるグループワークを実施したり、受講生同士でコミュニケーションをとるというもの。これを週に1回のペースで実施していったところ、高齢者にも子どもにも良い影響を与え、ひとつのコミュニティが形成されていったことを実感できたと言います。

「壱岐のような離島では、島外の人に比べて情報をキャッチする機会が少ないことが課題です。そこで今後は情報教育を強めていきたいと考えています。例えば高齢者のメンバーの方にYouTuberのようになっていただき、脳トレや体操の動画を配信していただくことなどを検討しています。そうして受講生を増やしてコミュニティを広げていき、より多くのプログラムを展開していきたいと思っています」(同)

image_event_220701.jpg.009.jpeg写真左:キャニオン・マインド、未来こども工房の山本真由美氏
写真右:プロジェクトに参加した高齢者、子どもたち共にポジティブな反応が多かったそうです

続いて登壇したのは、壱岐市役所 農林水産部 水産課の職員でもある長尾康隆氏です。長尾氏の研究テーマは市の中心産業の一つである漁業についてです。上記したように、磯焼け等による漁獲量の低下などの問題を抱えている壱岐の水産業ですが、中でも喫緊の課題となっているのが従事者の高齢化と若年層の担い手不足です。どれだけ深刻な状況なのかは、漁業組合員の正組合員803名のうち、60歳以上が548名なのに対して、29歳以下は11名という歪な構成になっていることからもわかります(数字は2021年3月時点のもの)。この危機的状況の要因は、「漁業では儲からなくなってきている」ことです。そこで長尾氏は、未利用の水産資源を活用して水産業従事者、消費者、自治体等すべての人にとっての「おいしい循環」を創り、持続可能な漁村を実現する「おいしい循環開発プロジェクト」を提唱します。

このプロジェクトは、水揚げされたものの需要が少なく市場に出回らない未利用魚や、藻場の環境に悪影響を及ぼすイスズミやムラサキウニ等の生物を活用して新しい商品を開発するというものです。これが実現できれば、漁業者の所得向上、未利用魚の焼却処分減少によるCO2削減、島内雇用の創出、関係人口の増加、持続的な漁村の維持といった効果が期待できます。実際、島内の加工業者や飲食店、高校生、あるいは島外企業と共に商品開発や販路開拓に取り組んだり、九州大学と連携して壱岐の農作物や焼酎生産の過程で出る廃棄物を活用したアカウニの養殖を行ったりしているそうです。

「水産課には5年在籍していて、漁業組合や加工業者にも知り合いが増えてきましたので、私自身が各関係者をつなぎ、漁獲から消費に至るまでのプロセスを構築したいと考えています。一度つなげることができれば私がいなくなっても回っていくはずなので、いい形で循環を作り、プロジェクトを走らせたいと思っています」(長尾氏)

image_event_220701.jpg.010.jpeg写真左:壱岐市役所 農林水産部 水産課の長尾康隆氏
写真右:長尾氏が目指すプロセス。これを構築することで「水産業従事者から消費者、自治体に至るまでにメリットを提供したい」と言います

逆参勤交代では、毎回最終日にその地域の課題解決や魅力を拡大するための提案を行っていますが、山本氏と長尾氏の取り組みは、まさに地域課題解決に寄与し、同時にSDGsもカバーするプロジェクトです。それだけに、受講生たちは大いに感銘を受けた様子でした。

こうして1日目のフィールドワークは終了となりました。宿泊施設にチェックインした後には、地元の大衆割烹「太郎」にて懇親会を開催。奇しくも7月1日は、1995年に世界貿易機関(WTO)が壱岐焼酎の産地指定した日であり、「壱岐焼酎の日」として日本記念日協会にも認定・登録されています。そのため、この日の午後7時1分には島内の焼酎事業者や全国の壱岐焼酎ファンが一斉に乾杯するのが習わしなのだとか。そこで受講生たちも午後7時1分に壱岐焼酎で乾杯を交わし、縁を深めていきました。

image_event_220701.jpg.011.jpeg写真左:「壱岐焼酎の日」を記念し、WTOに産地指定された7月1日午後7時1分に乾杯を交わす受講生たち
写真右:懇親会には白川市長も駆けつけ、受講生たちと交流を深めていました

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