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2022年7月、「壱岐分校」として約3年ぶりに壱岐で開催することとなった逆参勤交代。
2019年の受講生、他地域での逆参勤交代経験者、地方創生やワーケーションに関する活動を展開する方など、壱岐や地方に対する強い思いを持つ人が多く集った今回のフィールドワーク。多様な名産品や観光資源、パワースポットなど、多くのポテンシャルを秘めた「元気な離島」であると同時に、「地域課題最先端の島」とも言われる壱岐島で、受講生たちはどのような発見をして、地域に何をもたらしたのでしょうか。
<2日目>
壱岐の華訪問→ACBリビング→辰の島クルージング→地域の観光資源視察→Island Brewery→壱岐イルカパーク&リゾート
イルカと触れ合える人気スポット「壱岐イルカパーク&リゾート」にて
2日目は、前夜に堪能した壱岐焼酎の蔵元のひとつである「壱岐の華」の訪問からスタート。代表の長田浩義氏直々に壱岐焼酎の歴史や製造方法などについてレクチャーいただき、朝から試飲を楽しむメンバーもいました。
写真左:壱岐の華の代表商品のひとつ「海鴉」。長崎限定の壱岐焼酎で、受講生たちからも高い人気を獲得していました
写真右:試飲を楽しむ受講生たち
続いて訪れたのは壱岐の玄関口・芦辺浦につくられたカフェ&コワーキングスペース「ACB Living(アシベリビング)」です。2022年4月にオープンしたこの施設は、単にシェアオフィスやワーケーション施設として利用できるだけでなく、施設の運営会社であり人事コンサルティングを手掛けるColere(コレル)が提供する研修を受けられたり、地元の人たちとの交流を楽しめる地域交流拠点となっています。一行は、ACB Livingの創設メンバーであり、それぞれ壱岐でまちづくりや、地域人材の育成などを手掛ける2名のキーパーソンのお話を伺います。
写真左:真ん中の建物がACB Living
写真右:「Living Outdoors」というコンセプトのもと、屋内空間を最小限にして、自然エネルギーを最適な形で活用できるように設計されています
最初にプレゼンテーションしてくれたのは、ACB Livingの設計も手掛けたLIGHTHOUSE設計代表取締役の篠﨑竜大氏です。篠﨑氏は前回の逆参勤交代でもご登場いただきましたが、一級建築士として働きながら「たちまち」という任意団体を立ち上げ、「芦辺浦を人と人の交差点にする」ために地域活性化に取り組んでいます。例えば、地域住民を巻き込んで食堂を造ったり、子どもたちの居場所となる施設を設置したりと、建築を通して地域住民のコミュニケーション活性化を図っています。そうした活動の中でも、昨今特に力を入れているのが空き家の活用です。その背景を次のように説明します。
「芦辺浦に住みたいという人も少しずつ増えてきましたが、なかなか住む場所がありません。そこで周辺地域の空き家を調査していたところ、市と空き家の活用促進に関する連携協定を結ぶことになりました。その後、地域おこし協力隊の力を借りたり、国の定住空き家活用促進事業の助成金を受けたりしながら事業を展開し、芦辺浦の3軒の空き家を改修して賃貸住宅として活用しています」(篠﨑氏)
リフォームした3軒の住宅には、いずれも島外から移住してきた家族が居住しています。このように芦辺浦地域の再生に取り組む篠﨑氏には、大切にしているキーワードがあります。それは「ゆっくり」というものです。
「急速に観光が盛り上がってバーっと人が来たとしても、おそらくすぐにバーっと落ちるだけになってしまうでしょう。僕たちの目的のひとつは、自分たちの生活の日常をいかに良くするかでもあるので、ゆっくりゆっくり取り組んで、人と交わりながら楽しい経験ができ、人を受け入れられる街をつくっていきたいと思っています」(同)
最後に篠﨑氏は、「今後は『旅行者を囲い込む』から『旅行者が地域の生活エリアで地域の人々と交流する』観光をつくりたい」と話しました。
「もともとJTBが提唱している考え方ですが、これからはまさに『地域の人々との交流』が大事になってくるでしょう。そこで僕たちは、『こどもの旅プログラム(仮)』というものを展開していきたいと考えています。これまでのワーケーションは働く大人のためのものでしたが、家族をターゲットとして設定し、子どもに色々な場所で様々な経験をしてもらいたいという親のニーズを満たすプログラムを提供します。こうしたプログラムは、島外から訪れる子どもはもちろん、壱岐の子どもたちにとっても面白い体験ですし、芦辺浦も外の人を受け入れられる土台が整ってきているので、この地域自体を体験プログラムに組み込みながら、壱岐の良さを伝えたり、僕たち自身が再発見するきっかけになればと思います」(同)
写真左:LIGHTHOUSE設計代表取締役の篠﨑竜大氏。自身も壱岐で生まれ育った分、自分たちで地域を再 生させたいという思いを持っていると言います
写真右:篠﨑氏が今後取り組んでいきたいという「こどもの旅プログラム(仮)」の概要図。島内外の子どもたちが貴重な体験を積めるプログラムとなりそうです
篠﨑氏に続いてプレゼンテーションを行ったのは、ACB Livingを運営するColereの共同創業者である中村駿介氏です。もともと中村駿氏は、リクルートにおいて中長期の人事戦略の策定や、ヒトラボという社内組織の活動を展開。2020年からは壱岐市役所に出向し、教育改革や住民自治活動の活性化、民間人材登用、市役所の組織改革等を手掛けています。さらには慶應義塾大学SFC政策・メディア研究科に入学し、各組織での活動を理論化するための研究も行うなど、多岐に渡って活動しています。このうち、ACB Livingに込めた思いについて次のように説明します。
「ACB Livingで得た利益は芦辺浦の皆さんの活動を活性化するために再投資し、施設を使ってくれた方のエンゲージメントを向上させ、利用者増加を図ります。エンゲージメントが高まれば、壱岐への好感度も上がりますので、長期滞在者や移住者、起業・開業希望者の増加、企業進出なども期待できるようになっていくでしょう。ACB Livingは、こうした循環を作っていくための施設として位置づけています」(中村駿氏)
このように精力的に活動する中村駿氏ですが、その核にはヒトラボの活動趣旨である「人と人、人と仕事、人と組織、人と社会の新しいつながり方を実証的に実験しながら生み出し、そのソリューションを発信・提供していく」という考え方があります。その活動は「教育」「キャリア形成」「地域のサステナビリティ」の3つの切り口から展開されていますが、さらに前提として、変革の対象である社会を(1)政府、(2)市場、(3)コミュニティ、(4)アカデミアというセクターに分けて認識していると言います。
「社会は政府から始まっていますが、政府がすべてを担ってしまうとコストが高くなるため、市場原理を導入して民営化を進めていきました。しかし、人口減少によって民営化も維持できなくなっていくため、コミュニティが補うことになります。そして、これらの減少を理論化して横展開していくためにはアカデミアが必要となります。冒頭で説明したように、僕はこの4つのポジションそれぞれに関わっていますから、それぞれの立場から包括的に取り組むことでどのような価値を生み出せるのか、この壱岐で実証実験をしたいと考えているのです」(同)
具体的に取り組んでいるのは、「自分たちが暮らす地域を愛し、地域のために活動したいという気持ちを持った『主体的な市民』を行政が育み、その人々と共に地域づくりを展開していく」流れを創ることです。
「この流れの中で行政が行うべき役割は、主体的な市民がチャレンジしたいと考えた時に『エンゲージメントを獲得したり、島外からの支援を結びつけること』『しっかりと事業を立ち上げること』『立ち上がった事業が地域に受け入れられるようにすること』の3つです。これらを実現するために、Slack導入を始めとした市役所の組織改革や、壱岐なみらい研究所を通じた人材育成、複業クラウドなどのサービスを使いながら、外部専門人材を活用する仕組みの構築などを行っています」(同)
一方で主体的な市民育成に関しては、子どもたちに対するアントレプレナーシップや地域へのエンゲージメントを育む教育機会を提供したり、壱岐にある13のまちづくり協議会に関わりながら、組織内のエンゲージメントを高める施策の開発などを行っています。こうした活動を通して「持続的な地域社会の鍵」が見えてきたと、中村駿氏は言います。
「地域の持続性のコアは、エンゲージメントとアントレプレナーシップを兼ね備えた人材がいるかどうかだと思うようになりました。この2つを持った人材は市場の中に偏在しているので、政府やコミュニティにも還流させていき、社会全体の生産性と持続性を高めることがキーになります」(同)
「このように考えると、会社は社会から市民をお預かりしているという認識をすべきですし、その市民をエンゲージメントとアントレプレナーシップを持った個人に育成していくことが会社の務めであるべきです。そして、彼らの社会貢献意欲に基づいて、会社に留まったまま短い時間からでも行政や地域コミュニティに送り出していくような仕組みをつくる。このようなサイクルが構築できれば、結果的に会社もビジネスインパクトが得られますから、これが当たり前になるような社会にしませんかとリクルートに対して提案をしています」(同)
このような新しい形の社会をつくる場所として壱岐を選んだのは、自治体としての規模が最適だったからです。
「例えば京都や横浜のような都会、あるいは1万人以下の小規模な自治体であればイノベーションは起きやすいですが、1700以上ある日本の自治体のうち約60~70%は人口2万人台です。大多数を占める2万人台の自治体からイノベーションを起こすことに意味があると考え、人口約2万5000人の壱岐をチャレンジのフィールドとして選択しました」(同)
「ゆっくり」とまちづくりに取り組む壱岐出身の篠崎氏と、最先端の手法や独自のメソッドを駆使してこれからの地域のあり方を探求する移住者の中村駿氏。一見正反対のようにも見える二人ですが、「壱岐を良くしたい」という思いで繋がり、共に活動を続けています。そんな二人のプレゼンテーションからは、受講生たちも大いに刺激を受けている様子でした。
写真左:マルチな形で壱岐で活動する中村駿介氏
写真右:「持続的な地域社会の鍵はエンゲージメントとアントレプレナーシップ」と中村駿氏
ACB Livingを後にした一行は、壱岐で人気のアクティビティの一つである辰の島クルージングを体験。エメラルドグリーンの海の上を移動しながら、自然が生み出した荘厳な断崖の数々を目にし、壱岐の観光資源のポテンシャルを改めて体感していました。
写真左上:この日は一般の観光客も多く、クルーザーはほぼ満員状態に
写真右上:天候にも恵まれ、美しい海を楽しむことができました
写真左下:クルーザー上で記念撮影
写真右下:美しい自然に目を奪われがちですが、多くのゴミが流れ着いている様子も見られ、これを解決できないかと考える受講生もいました
約40分の遊覧を楽しむと、次は陸上の観光資源の視察や、「壱岐らしさ」を追求するために日本一魚に合うクラフトビールを醸造するIsland Breweryを訪問。地元の人々とも触れ合いながら、ここまでとは一味違った壱岐の魅力を体感しました。
写真左:1300年以上の歴史を持つ聖母宮では、宮司さん自らに神社の解説をいただきました
写真右:壱岐市だけでなく、長崎県内唯一のクラフトビール醸造所である「Island Brewery」
この日最後に向かったのは、壱岐イルカパーク&リゾート(以下、イルカパーク)です。イルカパークは、イルカとの触れ合い、サップやシーカヤックなどのマリンアクティビティ、キャンプやバーベキューなどのアウトドアを楽しめるだけでなく、テレワークやワーケーション利用、子どもたちを対象としたプログラムも展開するエンタメ&エデュケーション施設です。前回の逆参勤交代でも訪問しており、逆参勤交代関係者にとっては馴染み深い場所でもあります。
写真左:IKI PARK MANAGEMENT代表取締役の高田佳岳氏
写真右:2022年7月時点で、イルカパークでは4頭のイルカを飼育。来場者は、ご飯をあげたり、タッチしたり、一緒に泳げるプログラムも
このイルカパークを運営するのはIKI PARK MANAGEMENT代表取締役の高田佳岳氏です。高田氏は仕事で壱岐に携わったことがきっかけで2018年に移住、2019年から中村勇氏に請われて経営難に陥っていた施設の再生事業をスタートさせ、同年見事に入園者数の増加を実現します。しかし、翌年から巻き起こったコロナ禍の影響で、2020年、2021年は大幅に入園者数が減少に転じてしまいます。そこで、前回、そして今回の逆参勤交代にも参加しているデンソーの光行恵司さんと連携してオンラインショッピング、オンラインイルカツアーの実施や、支援者を募るためのサポーターズクラブの設立など新たな取り組みを展開します。こうした状況は「間違いなくつらかったけれど、本当に良いことに気づいた」とも振り返ります。
「経営に携わり始めた頃、売上を上げるための基本的な考え方は『来場者数×客単価』でしたが、これをベースに経営するとこの場所で待つしかないので、ディフェンスの動き方しかできなくなってしまいます。そこで、オンラインツアーを実施してみたり、地域の農家さんと連携して東京の友人や知人に野菜の販売をしてみたりと、新しい取り組みを展開していきました。ある時旅行会社と連携して障害者施設を対象としたオンラインイルカツアーを行った際には、イルカが映ると見ていた方がすごく喜んでくれていました。それを見た時、『旅行に行きたくても行きにくい人々に対して、こうやって僕たちの方から届けに行くことにも大きな意味があるんだ』と気づくことができました。この点は、これからもさらに補強していきたいですね」(高田氏)
「イルカだけでは絶対に食べていけませんし、そもそも現在4頭しかいないイルカに負荷を掛けてしまうといつか破綻してしまいます。そのため、イルカに頼らない稼ぎ方にトライできたこの3年間はとてもいい経験でした。そのおかげもあって、来場者数自体はまだ回復していませんが、客単価がコロナ以前から比べると1.5倍ほどになったため、売上をアップさせることには成功しました」(同)
特に壱岐のような離島の場合、コロナ禍では内陸部の施設以上に訪問のハードルが上がります。そのような状況下でも新しいチャレンジで売上アップを実現させた高田氏の手腕にも多くの受講生が感嘆の面持ちでした。こうした動きができるからこそ、松田氏もイルカパークに対して「壱岐の活性化のエンジン」として期待を寄せているのでしょう。最後に高田氏は今後の展望を紹介してプレゼンテーションを締めくくりました。
「この施設内にホテルを建設することを将来的な目標として掲げています。日本にはイルカが泳いでいる様子を見ながら泊まれるホテルはありませんから、ここを日本初の存在にしたいと思っています。それと、壱岐は観光資源は多いものの、レンタカーの数が足らなかったり、ホテルで提供する食事のバリエーションが少なかったりと、宿泊面で改善点が幾つもあります。そのような課題を解決していくには、僕のようなまったく違う事業をやっている人間だからこそできることがあると思っていますので、少しでも壱岐が良くなるための活動をしていきたいと思います」(同)
写真左:イルカと触れ合えるのも、イルカパークの魅力のひとつ
写真右:高田氏のプレゼンと施設見学を終えると、幾つかのグループに分かれてディスカッションを実施
こうして2日目のフィールドワークは終了を迎えました。逆参勤交代壱岐分校も終盤に入り、ここまでに受講生たちはどのような感想を持ったのでしょうか。何名かに話を聞いてみました。
「壱岐は、逆参勤交代を知る以前から来てみたかった憧れの島」と話すのは、JR西日本で地域活性化事業に取り組む山内菜都海さんです。実際に壱岐を訪れてみて地域の人の熱意や観光資源の豊富さに感銘を受けた一方で、ある課題も感じたと話します。
「市役所の方々は土日にも関わらずアテンドしてくださっていますし、地域の魅力を伝えるためにしっかりとポイントを押さえてくださっている印象です。ここまでフルプロデュースできる行政はなかなかないと思うので驚きました。これだけ高いポテンシャルがある一方で、他地域に対する露出はまだまだ低いとも思っています。それであれば、例えば敢えてターゲットを絞ってしまうなど、プロモーション方法のやり方も考えてみてもいいのかなと感じました」(山内さん)
カネカでエネルギーソリューション事業に取り組みながら、一般社団法人プラチナ構想ネットワークで逆参勤交代の分科会の事務局を担当している奈須野善之さんは、エネルギーの観点から壱岐の自治体規模に注目をしていると教えてくれました。
「ACB Livingで中村駿介さんが『2万人台の自治体からイノベーションを起こすことに意味がある』と話していましたが、エネルギー事業においても2万人ほどの自治体に対して効果的な施策が打てるかどうかはとても重要です。特に壱岐のような離島の場合、他地域とは距離があるので、ここで成立できるようなエネルギービジネスが興せれば、他の地域にも水平展開がしやすいと言えます。その意味でとても良いモデルケースになり得ると感じました」(奈須野さん)
ライターの古地優菜さんは一般社団法人日本ワーケーション協会の理事としても活動しており、「地域にお金が落ちるワーケーションのあり方」を考えるため、この壱岐分校に参加したと言います。同協会が提唱する「お金が落ちるワーケーション」とは、単に観光資源の豊富さよりも、その地域にイノベーションを起こせる素養があるかが関係しているそうです。その観点では、壱岐には大きなポテンシャルと"のりしろ"を感じると話してくれました。
「外部の人間を受け入れ、一緒にやろうと言ってくれる土壌や雰囲気があるかどうかが、お金が落ちるワーケーションには大事だと思っています。その意味で壱岐は、自治体の人も地域の人も、私たちのような外部の人間と交流する接点を作ろうと頑張ってくれていると感じます。それに、無理に良い面だけを見せようとしたり、課題を隠すようなこともしていません。そういった点を見せてくれるということは、私たちにも関われる"のりしろ"があると思わせてくれますし、大切なポイントだと思います」(古地さん)
古地さんが指摘した「無理に良い面だけを見せず、課題を隠すようなこともしない」という点は市役所側も意識しているそうです。中村勇氏は言います。
「課題も含めて地域のリアリティですし、別に隠すようなものでもないと思っています。古地さんが言うように、課題にこそ関わろうという余地があるはずなので、そういった部分も訪れた方には見ていただきたいと思っています」(中村勇氏)
また、複数の人が称賛した「市役所担当者の熱意」について伺うと、「特別なことをしているわけではない」と壱岐市役所 企画振興部 政策企画課 課長の横山将司氏は答えました。
「逆参勤交代だからというわけではなく、来島された方にしっかりとおもてなしをすることは市長からも大事にしなさいと言われている部分です。私たちだけではなく、地元の観光事業者もそういった気持ちで対応していますので、旅行会社の方からも『壱岐は対応がよかった』と言っていただけることは多いです」(横山氏)
ここまでの行程で、受講生にとっては現地に来たからこそ気づけたことが、受け入れ側にとっても外部の人々と触れ合ったからこそ見えたことが数多くあったようでした。この日の行程をすべて終えた一行は、そのままイルカパークでバーベキューを開催。壱岐牛や海産物、新鮮な野菜、壱岐焼酎など、壱岐のグルメを堪能しながら旅程を振り返り、同時に壱岐の"明日"を語り合っていました。
写真左上:乾杯の様子
写真右上:壱岐自慢の海の幸に歓声がわきます
写真左下:壱岐焼酎は受講生たちにも大人気でした
写真右下:夕暮れとイルカを見ながらお酒を飲めるという唯一無二のロケーションもイルカパークの魅力のひとつです
<3日目>
松永安左エ門記念館→壱岐テレワークセンター(課題解決プランまとめ)→壱岐の島ホール(課題解決プラン提案)→猿岩→郷ノ浦港にて解散
郷ノ浦港で記念撮影
最終日となった3日目は、壱岐出身にして「電力の鬼」と称された松永安左エ門の業績を称え、後世に伝えるために建てられた「松永安左エ門記念館」の見学からスタート。再生可能エネルギーは壱岐市の重要な施策であり、また受講生の中にはエネルギー問題に強い関心を抱くメンバーも多かったことから、明治から昭和に掛けてエネルギー分野から日本の経済成長を支えた松永安左エ門に良い刺激を受けていたようでした。
写真左:松永安左エ門記念館本館。館内には松永安左エ門にまつわる品々や、写真家・杉山吉良によって撮影された安左エ門の名ショットなどが展示されています
写真右:敷地内には、松永安左エ門が1909年に設立した福博電軌が福岡市に走らせた路面電車なども展示されています
松永安左エ門記念館の見学を終えた後は、壱岐テレワークセンターへ移動。受講生それぞれが課題解決プランを取りまとめる作業に掛かりました。アイデアをまとめるに当たって松田氏から要望があったのは次の2点です。
●「あなた(壱岐)主語」ではなく「私主語」で考えること
●(1)What(何をするのか)、(2)Why(なぜするのか)、(3)Who(自分は何を担うのか)、(4)Whom(誰を対象にするのか)、(5)How(どのように実現するのか)を網羅すること
これらのポイントを押さえながら、壱岐で見聞きしたことを、自分自身のやりたいことや、技術や経験といったバックグラウンドと融合させながらアイデアを練っていきました。その中でも一際強い思いを持っているのは、前回の逆参勤交代にも参加し、その後も個人的に壱岐を訪れ、今回が4度目の来島となったデンソーの光行恵司さんです。光行さんは今回の壱岐分校には具体的な目標を持って参加したと教えてくれました。
「2019年のトライアル逆参勤交代以降にも壱岐を訪れる中で、どうやったらこの地域と持続的な関係を持てるだろうかと考えるようになりました。その一つの答えとして、自分自身で空き家に投資をしてゲストハウス化したいと考えています。私が壱岐に来た時に使うのはもちろんですが、不在時には来島者に貸し出していけば、逆参勤交代のような活動拠点を作れますし、投資分の回収もできて、空き家対策にもなる。意義があるものになるでしょう。こうした考えをイルカパークの高田さんに話したところ是非協力したいと言ってくださったので、具体的に動いていきたいと考えています」(光行さん)
光行さんの動きは、まさに「私主語」での活動だと言えるでしょう。では、このように逆参勤交代の理念を体現する光行さんの目には、これから逆参勤交代を広めていくにはどのようなことが必要になると映っているのでしょうか。
「企業の活動として逆参勤交代で社員を地域に送り込むのは、まだハードルが高いとは思います。ただ、逆参勤交代のいいところは、行政や地域のキーパーソンとの関係性が構築しやすい点にあります。個人で地域に行こうとしても簡単に中には入り込めませんが、逆参勤交代を通じてならば出会いやすいので、そこに意味を感じて、私のように投資とセットで動けるようになると、面白くなっていくのではないかと思っています」(同)
写真左:プレゼンの概要を説明する松田氏
写真右:プランを練る受講生たち
それぞれがアイデアをまとめ上げたところで、一行は昼食を挟み、壱岐の島ホールへ移動。この日は事務局の3名も含めた計12のプランを発表しました。聴講側は白川市長を始め、市役所職員や地域住民、地元メディアの人など30名以上が参加。壱岐での逆参勤交代は二度目ということもあって、受講生や事務局メンバーと顔見知りの人も多く、和やかな雰囲気となりましたが、発表側はもちろん聴講側も真剣な表情で臨んでおり、心地よい緊張感が会場を満たす中での開催となりました。
今回提案されたプランのタイトルは以下の通りです。
(1)デジタル市民参加プラットフォームで「誰一人取り残さない。協働のまちづくり。」をDX
(2)台湾に向けて、壱岐市をプロモーションする。壱岐市の親善大使プロジェクト
(3)逆参勤交代 壱岐屋敷プロジェクト
(4)「壱岐 実りの島」から「壱岐 実りの島 くらし満喫隊」へ
(5)「SDGsデスティネーションプロジェクト」~SDGsと観光による首都圏からの若年層の移住の実現~
(6)壱岐ドラマチック街道プロジェクト
(7)火力発電リプレース時の再エネ化プロジェクト
(8)学ぼう!楽しもう!保育士留学プロジェクト
(9)行きたくなる壱岐 ふるさと納税コンテスト
(10)IKI × MIYAZAKI 焼酎マリアージュイベント
(11)「カーボンクレジットをつくろう、環境価値の創造を壱岐から」/ヴァーチャルで「逆参勤交代壱岐分校(仮称)」
(12)IKIGAI創出プロジェクト~「域外」のメンバーと共に、壱岐の「生きがい」を創りあげる~
受講生たちの発表の様子
各プランは、受講生たちが持つスキルやノウハウ、人脈といったものを活かすことで、壱岐の魅力を伸ばしたり、課題解決につなげるためのものでした。例えば(1)の「デジタル市民参加プラットフォームで『誰一人取り残さない。協働のまちづくり。』をDX」は、Liquitousというベンチャー企業で市民参加型の合意形成プラットフォームを開発・提供している栗本拓幸さんのアイデアで、2日目に中村駿氏が紹介した壱岐における「主体的な市民づくり」と自身の持つスキルやノウハウをかけ合わせ、壱岐の住民参加を加速させるようなプランでした。また、2019年の北海道上士幌町でのフィールドワークに参加した縁で同町のSDGs推進アドバイザーを務めることになった大野雅人さん(アクサ生命保険/北海道大学公共政策大学院)の提案した(5)の「SDGsデスティネーションプロジェクト」は、SDGs未来都市に選定されている壱岐と、大野さん自身のSDGsに対する知識やノウハウをかけ合わせたアイデアで、SDGsの取り組み自体を観光資源にすることで人口減少や産業衰退といった壱岐の課題を解決しようというものです。
聴講者からの注目度が高かったのは、光行さんが提案する(3)の「逆参勤交代 壱岐屋敷プロジェクト」でした。上記したように光行さん自身が投資をして壱岐の空き家をゲストハウス化するというアイデアで、自身にとっては観光以外の形で地域と関わりが持ちやすくなる点や、宿泊収入を得ることで6~10年ほどで投資回収ができる点などのメリットがあると同時に、地域にとっても外部プレイヤーを招きやすくなるメリットなどがあることを訴えていました。このアイデアには、多くの市役所関係者も興味を示している様子でした。
講評の様子
すべてのプレゼンテーションを聞き終えた白川市長にお話を伺うと、受講生たちの「自分ごと化」と「実効性」に感銘を受けたと話してくれました。
「今日皆様にご提案していただいたプランは、どれも自分ごと化して考えられたものですし、2019年の逆参勤交代の時以上に壱岐の現実や課題を見てくださったアイデアだったと思いました。地域の課題解決に向けて実効性があるご提案をいただき本当に感謝しています」(白川市長)
二度目の開催で、複数回の来島者もいたように、壱岐は他地域と比較しても逆参勤交代の浸透が進んでいる地域だと言えます。そのような"逆参勤交代先進地域"の首長としては、白川市長は今後どのような展開をしていきたいと考えているのでしょうか。
「江戸時代の参勤交代は、地方から大名が江戸に赴くことによって街道が整備され、宿場町が栄えました。経済や社会資本の活性化に繋がり、国の発展に繋がっていったわけです。逆参勤交代の場合は、一極集中になっている東京から地方に対して人が移動することで知識が届き、経済効果を生み出します。これを続けていくためにも、今日ご提案いただいたような壱岐に合ったアイデアをひとつでも実現したいと思っています」(同)
一つのブレイクスルーが起こると後続事例が飛躍的に増えるのはどの業界にもあることです。逆参勤交代においても、この機会で生み出されたプランが具体的に形になれば、後に続くアイデアが続々と出てくることでしょう。
講師の松田氏と白川市長
プレゼンテーションを終えた一同は、最後に壱岐の観光名所のひとつである猿岩を見学。名残惜しい様子を見せながらも、2泊3日の行程をやり切った清々しさを見せていました。
写真左:その名の通り、猿の横顔に見えることから名付けられた「猿岩」
写真右:猿岩の前で集合写真
そして最後の目的地である郷ノ浦港へ。ここで一行は解散となりました。最後に、2022年最初の逆参勤交代を終えた松田氏に今回の感想を伺いました。
「2021年度に新型コロナ感染症の影響で2度の延期がありましたが、今回は無事に開催できたことに、まずは市役所の皆様に感謝をしたいと思います。今回の特徴の一つに、過去の逆参勤交代にも参加いただいた方が複数名参加されていたことがあります。リピーターが増えていますね。またこういった地方創生のイベントでのプレゼンでは、「あなたの町はこうすべきだ」の『あなた主語』が多く、言いっぱなしのような状態になっていますが、逆参勤交代ベテランとも言える皆様のプランはまさに、「私が主体的に何ができるかという」私主語で、とてもリアルなものだったと思います。一方で初参加だった方々も目的意識を持って臨んでくれたと感じています」(松田氏)
松田氏は、常々逆参勤交代の推進をしていく上で「続けること、深めること、広めること」の重要性を説いています。二度目の開催、過去受講生の再訪などが示すように、壱岐は「続けること」「深めること」に関してはとても順調に進められていると言えるでしょう。一方で、「広めること」は課題となっています。そこで松田氏は、今後は「離島連携型逆参勤交代」を提唱していきたいと語りました。
「壱岐を始め、例えば新潟県・佐渡島や、北海道の礼文島や利尻島など、日本の離島をつなぐ『離島連携型逆参勤交代』を実施したいと思っています。近々、全国の離島を有する市町村で設立された公益財団法人全国離島振興協議会とのイベントなども予定していますので、そういった場で離島同士の広域連携の意義をアピールしていきたいと考えています」(同)
そして松田氏は最後に、逆参勤交代に掛けるこんな思いも口にしました。
「僕も50歳を超えて『人生は縁と運と恩』と感じるようになることが多くなりました。白川市長と東京でお会いしたのも縁ですし、壱岐に来てイルカパークの高田さんのような方と会えたのも縁だと思います。そうした方々に会うことができた自分は運が良いんだと。そして逆参勤交代に参加してくださる方々は、負のオーラを撒き散らすようなこともなく、真面目に明るく取り組んでくれる方ばかりというのもとても運がいいと感じています。これからも、こうした縁と運に対して、逆参勤交代という恩返しをしていきたいです」(同)
世の中は驚くべきスピードで変わっていますが、逆参勤交代もまた、着実に進化を遂げています。そのような中で必要になってくるのは、松田氏がポイントに挙げるように、継続し、深堀りし、そして地域間の連携を強めることで逆参勤交代を広めていくことでしょう。松田氏が最後に口にした「離島連携型逆参勤交代」のように、今後も逆参勤交代は様々な形で全国に広まっていくことになります。同時に、2022年度も複数の地域での開催を予定しています。逆参勤交代や地域活性化、新しい働き方などに興味のある方は、ぜひ今後の展開にご注目ください。
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