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【レポート】丸の内プラチナ大学 第2回 ~ 輝くシニアを目指してビジネスステージをデザインするマルチキャリア構想

2015年2月20日開催

セカンドキャリア、そのファーストステップは

2月20日、「丸の内プラチナ大学 ~輝くシニアを目指してビジネスステージをデザインするマルチキャリア構想」の第2回が開催されました。講演者は3名。(株)三菱総研主席研究員の松田智生氏と合同会社志事創業社(しごとそうぎょうしゃ)代表の臼井氏は前回に引き続いての登場。そして、今回初めて講演するジョニー・K氏。ジョニー氏は50代の現役サラリーマン。数年後に定年を控えており、同世代が抱く悩みを同じように持っていましたが、自身はその解決への1歩を踏み出しています。その経験を熱く語ってくれました。

今回の参加者は老若男女合わせて20名以上。定年を間近にしたサラリーマンだけでなく、定年後に地域に戻った人たち、セカンドキャリアの場を提供している方や地域に溶け込むためのサポートをしている若者たちの姿も目立ちました。

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定年世代とセカンドキャリア

定年世代とセカンドキャリア

松田智生氏の本日のテーマは「続・失敗しないセカンドキャリアデビュー」で、前回から続く内容です。この日掲げたキーワードは「生きがい」「25%」「60歳」「人生二期作・二毛作」。いずれも、自分の人生を振り返り、次のステップであるセカンドキャリアを考える上で参考にできる視点です。

最初の「生きがい」の意味するところは、それとなく感じることができるでしょう。何かをするためにもモチベーションは大切。このモチベーションにつながるものを持ちましょうということです。では2つ目の「25%」はどうでしょうか。ピンとこない方もいるかもしれませんが、この数字は現在の日本の高齢化率。日本には4人に1人の割合で65歳以上の人がいるという現状があるということです。さらに「60歳」。言わずと知れた、定年年齢です。

かつて1970年代の定年は55歳。これが今は60歳になり、さらにまた65歳に延長しようかという状況にあります。では、元気あふれる世代が定年を迎えるとどうなるのでしょうか。

松田氏定年を迎えるとサラリーマンは家に戻る――と言えば、聞こえはいいですが、その実態はあまり芳しいものではありません。松田氏はその点を厳しく突いてきていました。
松田氏の所属する三菱総研が発表したデータを掲げ、定年を迎えた夫を、妻は「お荷物」だと思っているというのです。妻である奥さんは、家に戻った夫の面倒ばかりを見ているわけにはいかないのです。これを回避するためには夫は外に出ればいい――セカンドキャリアの必要性のひとつがここにあります。しかし、セカンドキャリアは、妻のためのものだけではありません。夫本人にも、日本の社会にも必要なのです。

少子高齢化や労働人口の減少で日本は、定年を迎えたサラリーマンに大きな期待をかけられています。しかも、「社外には定年世代に対するニーズはたくさんある」と松田氏は指摘します。例えば、東北のリンゴの海外需要。海外で1個1,000円という高価格で売れるリンゴですが、現場に輸出経験のある人材がいないという現状。枕崎市の鰹節に対する海外需要もしかりです。いま、フランスで大人気の鰹節ですが輸出ができない。そこで、フランスのブルターニュに鰹節工場を建設して、現地生産をしようとしているが人材が不足している。高知県の柚子も同様で、このように少し視野を広げれば、シニア世代の経験が生きる世界はたくさんあるようです。

家にいるだけでなく社会に目を向ければ必要としているところがたくさんあり、活躍できるのです。しかし、そこに踏み出すには周到な準備が必要ということも指摘していました。現場を知り、その地域やその場にある課題を理解することが大切で、仲間づくりも重要性についても指摘していました。

さらに、これはセカンドキャリアだけではありませんが、モチベーションの持てる職場という観点からは、「自分が成長している実感」をもてて、「誰かの気づき」で励まされる。たとえば、「よくやった」の一声をかけてくれる職場であること。そして、最も重要と指摘していたのが「深い話し合い」ができるということでした。これは、表面的な話し合いではなく、青春期を思い起こさせるような「青臭さ」が見えるぐらいの話し合いのことです。こうした環境では離職率は高くなく、高いモチベーションを維持して仕事を続けられるそうです。

まとめで松田氏が指摘した「人生二毛作・二期作」という考えは、若さを獲得した定年世代にはドンピシャリあてはまる発想ではないでしょうか。経験を活かせるのが二期作なら、新天地に踏み出すのが二毛作。いずれの可能性も定年世代の目の前には広がっていることを実感できる講演でした。

カッコいい定年世代

松田氏の後を引き継いだのは、臼井氏。テーマは「嗚呼(あぁ)シニア起業 勘違いでもいいじゃん!」。松田氏と同じく、前回に引き続いての講演ですが、今回初めて参加した人たちのために、前回の振り返りから講演を始めてくれました。第一生命が小学生に行ったというサラリーマンの意識調査の中に見つけた「真面目にこつこつやって、いつかリストラされる人」という小学校低学年の女の子の声にショックを受けたのだと言います。「これはまずい」から始まり「かっこいいサラリーマンになればいいじゃん!」と思い立ったこと。そして、実際にカッコいいサラリーマンになり、会社の中では若手のホープとして先頭を走っていたことも紹介されました。しかし、好事魔多し。立ち上げた新事業の挫折とともに社内失業という辛酸も味わったそう。軽妙な語りで、自身のサラリーマン人生の浮き沈みを紹介していましたが、居場所が会社しかないサラリーマンにとっては大変なことです。

失敗の原因をいろいろ考えた結果、臼井氏がたどり着いたのは「勘違い」ということだったそうです。会社の中で経験を重ねるサラリーマンは、それを財産と考えています。たしかにそうです。しかし、局面が変わると、それはお荷物にもなることもあるのではないか。つまり、会社という枠組みの中にいると、そこで通用する話しかしない。そこで交換されているのは同一波長の意思疎通。この周波数が異なると突然、コミュニケーションが取れなくなる。これは、チューニング機能の衰えではないか――という気づき。現役時代のもっと早くに持っていればよかったと感慨を持ちつつ退社、1万人を超える社員を抱える企業から、社長と社員合わせて1人の超零細企業に。臼井氏は、自身の会社を「0(れい)歳企業」と紹介して、参加者の賛同を得ていました。

臼井氏また、「シニアの起業は、一旦決断してしまえばなんてことはない!」という前提で、起業の厳しい現実をデータで示してもいました。日本政策金融公庫が2012年12月25日にクリスマスプレゼントで発行した「新規開業実態調査」から、次のようなデータを示し、参加者の意識も現実に引き戻されたようでした。
「そもそもなんで起業するのか」という質問に対して、シニア起業(55歳以上の起業)をした人の回答した動機の1番は「仕事の経験・知識や資格を生かしたかったから」が51.1%。2番目は「社会に役立つ仕事がしたかったから」で、3番目に「年齢や性別に関係なく仕事をしたかったから」が続いているそうです。なかでも、2番目と3番目の割合は、ほかの年代に比べるとシニアに多い傾向もあったそう。では、起業にあたって経験はどれくらい必要なのか。これを起業したシニアに聞くと、17.8年経験という数字になるそうです。つまり、20年近い経験をベースに起業している人が多いことがわかります。さらに、30年以上の経験を元にしたシニアも32.3%を占めていると言います。では、経験がないとダメなのかという落胆の声も出そうですが、22.6%は経験なしという、こちらもけっこうな割合でいました。もう1つ、起業で関心が高いのが、儲かるのか/儲からないのか――シニアの起業で黒字基調の企業は54.5%。つまり、赤字基調の企業は45.5%という厳しさもあるということです。こうした厳しさを軽減するには、松田氏の講演にもあった助走期間の重要性を指摘していました。いきなりでは赤信号がともる。慌てて起業してはいけない。

一方で「サラリーマンは守られている」と言われていて、それに対して起業したときは、その保護が亡くなるというイメージがあるが、これはウソだと指摘しています。起業しても社会福祉や仕事環境は決して不足していないし、狭くもない。シニアの起業には意味はあると締めくくっていました。

サラリーマンが定年を考えるとき

3番目のスピーカーは、現役サラリーマンのジョニー・K氏。54歳であった昨春、ふと定年を意識し、寂寥感に似た空しさを感じたそうです。「あと、5年でサラリーマン人生も終わってしまうんだな」と。会社の中で育ってきた自分。定年を迎えたらどうなるのか――そうだ、何かをしなければ。という思いから、運命に導かれるように丸の内朝大学に参加するようになったのだといいます。

この日のトークは「ストーリーテリング」という手法で行われています。原稿なし、スライドもなし。思いをそのまま口にするので、ありのままの姿が見えてきます。

丸の内朝大学は、社会人向けの学習プログラムが組まれていて、ジョニー氏はそのなかで1年という長いプログラムが組まれていた農業に関する講座を受講することにしたといいます。その講座では、東日本大震災の後遺症の残る東北3県の農業支援を実践することになっていて、K氏によっては初めての会社以外での活動を経験することになります。 この活動経験で、ジョニー氏の意識は大きく変革します。肩書も所属も関係なく、個人として活動し、その活動そのものにお互いがリスペクトし、共感する――こうした人たちが世の中にいることを見せつけられた時間だったと言います。

その後、ジョニー氏は社外の活動に積極的にかかわっていきます。丸の内朝大学の関連からエコッツェリアや3×3Laboに顔を出すようになり、サードプレイスとして運営されている各地のフューチャーセンターでは"荒らし"と思われるくらい、積極的な参加をするようになったといいます。いまは、3×3Laboに落ち着きどころを得ていると言いますが、こうした活動の変遷の中で、自分のなかにある種の目覚めが起きたことを実感しているそうです。

「もともと正六面体であった自分が、いまは十六面体ぐらいになった感覚です」 と、眠っていた何かが目覚め、自信を深めているということです。

ワークショップとまとめ

いま日本は少子高齢化が進み、それにともなって労働人口もどんどん減少しています。労働人口の減少は国内生産の低下だけでなく、多くの経済活動にも悪影響を及ぼすことになります。こうした状況の中、定年を迎える世代がセカンドキャリアに目を向けることは大きな意義があり、国としても期待のかかるところです。

しかし、セカンドキャリアに踏み出すには、課題もあります。軽い気持ちだけでは踏み出すことはできないことが三者の話から理解できたと思います。共通していた視点が、松田氏の「過去の自慢話をする人は嫌われる」や臼井氏の「衰えたチューニング機能」の話、ジョニー氏の講演にあった「肩書や名刺を必要としない個人としての付き合い」の中に感じたのは筆者だけではないでしょう。セカンドキャリアに踏み出す上で心得ておかなければならない個人の姿勢の在りようが示されていたように感じます。

今回のワークショップでも初めて顔を合わせる人がたくさんいました。グループごとの自己紹介から始まり、それぞれの思いを伝えあう様子は、まさに個人の付き合いの始まりでした。個人がうまく社会に溶け込む仕組み――これは、定年後世代を受け入れる側にも大いに研究してほしいテーマです。事務局でも、そんな視点で工夫をしていたようです。最後に行われていたワークショップで、その一端がわかります。

用意されたのは10枚の写真。その写真の中から「将来ありたい自分の姿」を選び、ワークシートに、その写真につけたい「タイトル」やそこに表現されている「イキイキ度(%)」、そして、その写真に感じたことを簡単に説明する文章を記入してもらうというワークです。
そこには、参加者がこの日の講演でつかんだ定年後の自分やセカンドキャリアへのイメージを具体的に表現してもらうという狙いがあります。講演を一方的で終わらせない、次のステップにつなげる効果が期待できる仕掛けです。事務局で用意したサンプルも示され、参加者は思い思いにイメージを膨らませて写真を選んでいるようでした。写真を選び、ワークを進める参加者の脇には、お菓子やビールなどの飲み物も登場し、会場の盛り上がりも最高潮。決まりきったことだけをするのではなく、雰囲気づくりも重要と考えていることが伝わってきます。

最後は、多く選ばれた写真を使ってワークをした人が、どんなことを考え、書いたのかを発表しました。もっとも票を集めたのは、老男性2人が笑顔でお酒を飲んでいる写真。複数の人が共同作業をしている写真や、老夫婦と思しき2人のキスする写真などにも票が集まり、参加者の多くが定年後に対して、前向きなイメージをつかんだことが伝わってきました。

今回のワークショップには、これから定年を迎える世代の人たちだけでなく、そうした人たちを受け入れる人たち、支える人たちも参加していました。地域の定年後世代の受け入れをサポートしている若い男性からは、「すごく参考になりました」という言葉も聞けました。おそらく現場には多くの課題もあるのでしょう。今回のワークショップはそうした立場を超えた人たちに大いに参考になるものだったようです。


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