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4月22日、3×3Lab Futureに集うレギュラーメンバーによる「さんさんストラテジックミーティング」がオンラインで開催されました。2時間余りのZoomを使ってのミーティングに、30名を超す参加者が集まり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大している現状の課題、これからの社会観などについて語り合いました。
このオンラインミーティングは、「コロナ禍の今、そしてポストコロナに向けて」をテーマにしたものではありましたが、同時に次のような目的もありました。
ひとつは、3×3Lab Futureの可能性です。エコッツェリア協会プロデューサーの田口氏は、COVID-19のために「人が集まれない」という状況の中で、リビングラボ、ミーティングスペースとしての3×3Lab Futureにどのような活動ができるのかを、オンラインイベントを通して考えたいと話しています。
「予想以上にコロナ禍が続いており、今後すぐにかつてのような活動をすることは難しいだろう。オンラインでどのような活動ができるのか、世の中の課題を共有するところから始めたい」
これはオンラインイベント、オンラインミーティングの手法の検討にもつながります。在宅ワーク増加によって、Zoomを始め、オンラインミーティング、ウェブ会議用のツールが飛躍的に普及しました。トークだけでなく、ホワイトボードや付箋的な機能を持ったツールも多く、そのノウハウをまとめたウェブサイトや記事も雨後の筍のように増えています。しかし、3×3Lab Futureでは一貫して「対話」を重視していること、「予定調和」的なワークショップを避けようとしていることなどから、イージーなツールの導入については懐疑的な部分もあります。
「日本語のハイコンテクスト性、"場"の雰囲気の汲み取りなど、リアルとオンラインでは明らかに異なる部分がある。まずは、見知った顔同士で、フラットに対話する場を一度体験することで、これからのオンラインミーティング、イベントのあり方を考える契機にもしたい」と田口氏。
そのため、今回は次のような手法でオンラインミーティングを準備、デザインしました。
まず、事前段階ではSlackを使用。
「全体論_ポストコロナを考える」
「コロナ禍の現状課題」
「これからの社会観」
「課題解決プロジェクト」
という4つのチャンネルを設置し、参加予定者に自由に書き込みをしてもらいました。これが当日のファシリテーションの材料となります。当日までに全体論では約20件、現状課題は7件、社会観7件、プロジェクト3件のトピックスが書き込まれました(質疑応答は除く、テーマの投げ込み)。
これに基づき、当日は「医療」「教育」「農業」「地方」「オンライン」といったおおまかなテーマを設定し進めていくこととなりました。当日の議論でも指摘されたことですが、現在は「まだアフターコロナを考えるどころではない」という認識もあります。基本的には、上記テーマの枠組みで、それぞれの持つ現状の問題、課題を語ってもらい、情報共有することを主な目的に進めることとなりました。
ちなみに参加者33名の内訳は幅広く、農業従事者、教育者、コンサルタント、ベンチャー、大手ディベロッパー、大手メーカー等々多岐に渡っています。共通しているのは社会課題解決を理念にした第一線の実務者であり、活動家である点。田口氏いわく「地に足のついた人たち」であり、"ふわっとした"議論には縁がありません。
当日のファシリテーターは田口氏が務め、参加者はZoomのカメラ、マイクでトークに参加しながら、グループチャット機能も使って議論を深掘りしていきます。バックヤードでは、3×3Lab Futureのスタッフもチャットを使って田口氏をフォロー、サポートする体制を整えました。
ミーティングの前半は主にそれぞれの立場から現状の問題、課題を語り合う話となりました。際立っていたのは教育、地方、オンラインなど、COVID-19によって大きく変化が起きているジャンルでした。
教育分野では、オンライン授業が進まない現状や家庭での学習意欲の維持といったネガティブな面だけでなく、家庭というヴァナキュラーな領域(固有性のある領域)での教育の可能性や、逆に一部で進むオンライン教育の長所などについても議論が及びました。また、教育事業に関わる事業者の間では、オンライン対応のため急遽スタジオを作るケースが増加しているといった話題も提供されました。
そして、教育の問題からオンラインコミュニケーションの議論も深まっていきました。この日のミーティング開始前にも話題となっていたのが、カメラに自分の顔が映し出されるのはいかにも照れくさいという意見。いわゆる「照れワーク」です。今回は年齢層の問題もあってか、オンラインでのトークにはネガティブな見方をする人も多いように見受けられる一方で、「オンラインだから」よりコミュニケーションが深まった、集中して議論ができるようになっているという意見が聞かれました。また、こういうシチュエーションだからこそ、オンラインで地方の人たちとの紐帯を深める機会にもなるのではないか、という前向きな意見もありました。
また、今回直接医療に携わる参加者はいませんでしたが、間接的に関わっている人がいて、医療現場の緊迫した状況を伺い知ることのできる内容もありました。特に物資・人手の不足は抜き差しならない状況にあり、早急な手当が必要であることが浮き彫りになっています。ある参加者からは、「非常に現実離れした状況で戸惑いもある......制度や仕組みの矛盾が顕在化し、"弱い"人にそのしわ寄せが行ってしまっている」という声も。
そうした問題がある一方で、「手を出せない」特殊な状況だという意見もあります。医療現場は医師・看護師など有資格者のみ働ける現場であること、また、3.11の時は「助ける側」「助けられる側」が明確に分かれていましたが、大局的に見れば現在すべての人が「助けられる側」でもあるのです。その中で、一人ひとりに何ができるのかを考えなければならないという意見もありました。
また、「まだ早いとの指摘は受けつつも考えておきたい」(田口氏)として、未来の社会像を考える議論も行われました。
ここでは、イージーな抽象論ではなく、実務者らしい非常に現実的な意見が多く聞かれました。また、途中段階の、かろうじて方向性が見える程度の"生煮え"の思考も語られ、コロナ禍が「今」の問題であり、進行中であることを強く意識させられました。
「どこに収束するのか、終わりが見えない中で、『復興』という考え方はできないのではないか。これまでとは違う振興の仕方を考えなければならないが、今まで会っていた人と会っていても何も生まれない気がする」
「パラダイムシフトが起きているとも言えるが、これは心地よい変化ではなく、これまでのビジネスモデルや知見がまったく役に立たない状況で、これまでの効率重視、集約的といった常識とは真逆のことを考えなければならないだろう。お金とは逆のところを考えなければならないと思うが、今すぐの答えを出すことはできない」
「MMT理論(Modern Monetary Theory)が注目を集めているが、実は不況に強いケインズ経済学をベースにしており、既存の経済の中で、新たな価値創造をすることができるとしている。中小企業への給付金は正直まったく足りないし、借り入れが必要ではあるが、その新たな価値を作るところに活路を見出していくしかないのでは」
「3.11という社会を変えるチャンスを活かすことができなかったのが日本。復興していく中でなんとなく元に戻るのが良いという趨勢に飲み込まれ、資本主義的な効率重視の社会から変わることができなかった。企業も個人も役割のあり方を考えるところから始めたい」
今回は「顔合わせを兼ねて、全体で情報を共有できれば良い」(田口氏)としており、具体的な活動など一歩先に進めた議論は、場を改めて行いたいとしています。オンラインミーティングの手法やワークショップの手法も、今後さらに変化を加えて、トライアルを重ねていくことになるでしょう。次回のストラテジックミーティングは、間をおかず開催する予定となっています。