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【レポート】未来の丸の内を作り上げる3日間(前編:大学生・大学院生編②)

丸の内サマーキャンプ2019 大学生・大学院生の部 2019年8月14日(水)~16日(木)開催

4,8,12

8月の「夏休み」期間中に開催された学生向け「丸の内サマーキャンプ」。8月14~16日に開催された、大学生・大学生向けの3日目の様子のレポートです。

前編:大学生・大学院生向け①
後編:高校生向け①
後編:高校生向け②

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<3日目>自然に生き抜くビジネスパーソン――小崎亜依子氏/ビジネスプラン発表

<3日目>自然に生き抜くビジネスパーソン――小崎亜依子氏/ビジネスプラン発表

3日目となると、ビジネスプランの発表に向けて緊張感も高まってきます。その中で最後のインプットに登場したのが小崎亜依子氏。「これまでのインプットではソーシャル、グローバルと、ちょっと身の丈を超えるようなテーマを扱ってきましたが、ここではすごく自然に生きている大人の様子を見てほしい」と紹介に立った田口氏。小崎氏の柔らかい雰囲気も相まって、学生たちはのめり込むように話に聞き入ります。

▼小崎氏の講演

小崎氏は、主に女性に向けた、文系フリーランスのマッチングプラットフォームを運営する「Waris(ワリス)」のメンバーのひとりで、現在はその他、社会貢献活動や研究活動にも勤しんでいます。今回はWarisの活動とご自身の経歴を通して、「自然に生きる」ことの大切さを語りました。

小崎氏はまず冒頭で一番大切なメッセージを伝えています。
「結論から言えば、とにかく夢中になれることをやろう!ということ。それも、起業を目指すとか社会を変えるとか、そんな壮大なことじゃなくて、自分の興味関心から出発して、探索していこう、ということなんです」

社会人になって仕事をしながらも、何かモヤモヤとした気持ちを抱えていて、でも、何をしていいか分からないという人がいます。社会に良いことをしたいと思っても、そんな大それたことはできない、と思って一歩を踏み出せない人も多いのです。しかし、その一歩は小さくていいと小崎氏は語ります。

「壮大なビジョンを描けるとか、壮絶な原体験を持っているとか、そういう人じゃなきゃ一歩を踏み出せないのかといったら、そんなことはないんですよね。そして生きている間に、目指す場所が変わっていっても良いのだと思います。固執したってしょうがないじゃないですか。まず自分の興味のあるところから、一歩を踏み出してはどうでしょうか」

今、小崎氏はWarisで、文系の人材支援サービス「Warisプロフェッショナル」に携わっています。Warisプロフェッショナルは、ビジネス系プロフェッショナル領域のフリーランスのマッチングサービスで、経理、マーケティング、経営企画などのスキルを持つ人材を企業に紹介・派遣するもの。主に女性のフリーランスを対象にするものですが、パラレルキャリア志望の女性や男性の利用も見られるようになっています。

「女性は、出産育児でキャリアから一旦外れると、復職してもフロントに戻ることがないのが一般的で、誰でもできるようなルーティンワークしか担当させてもらえなくなってしまうケースが多いです。だったら一旦辞めて、フリーになって自由に選択できるようにしたらいいんじゃないか、というのがこのサービスの発端です」

この背景には働き方改革などの社会の動きがあります。複業を認める流れや、案件ごとに必要な人材が集まる「プロジェクト型」の働き方の普及など、雇用形態や働き方が大きく変わろうとしています。また、イノベーションを生み出すには、多様な人間が携わるオープンイノベーションが有効であるという考え方が広がり、柔軟な就労形態が求められるようになっていること、キャリア形成の方法が変わってきていることなど、さまざまな要因もこの流れを後押ししています。フリーランスや複業ワーカー、パラレルキャリアなど、さまざまな働き方が生まれ、社会的に認められつつあるのはそのためです。

「もちろん、闇雲にフリーランスになることを推奨するわけではありませんが、この流れはさらに拡大するでしょう。Warisがやりたいのは、そうやって働くワーカーが困った状況にならないようにすること。例えば、フリーランスは人の付き合いが大事で、そのネットワークで相互に助け合うことができる。そういうことも支援していきたい」

実は、現在の日本には、大卒・大学院卒の学歴と確かな職歴があるにも関わらず、無業で再就職を希望している主婦が44.5万人いると推計されています。これは大学・院卒の就活生42.3万人を上回る数字。

「日本の社会は離職期間に対するペナルティがすごく厳しい。出産育児で離職した女性には、以前のような仕事や給料を与えることはないですし、正規雇用も認めないこともある。そういうペナルティのない社会を実現したいと考えています」

こうした理念は小崎氏自身のキャリアで養われてきたものかもしれません。大学で金融工学を学んだ後は大手運用会社に就職。その後結婚を機に退職し、夫の米国留学に合わせ、自分も留学してESG投資を学び、出産、育児。そして復職の際には、ESG投資の知識をもとにシンクタンクに就職し、現在ではWaris、研究所、大学でスタートアップ支援と、有為転変な人生。しかし、そこで、「自分自身」の大切さに気づいたとも話しています。

「一回辞めて主婦になってまた仕事をしようとすると、『勝ち負け』という問題じゃないことが分かりました。変なプライドは持たずに、またゼロから始めればいいんです。その時々の興味関心で、少しずつ広げてきたし、面白いと思ったことをつなぎ合わせて、今の姿があります」

そして、そのような生き方だからこそ大切にしてきたこととして、「出会いを大切にする」「興味あることは口に出す」「面白そうな案件はまずやります!と言う」「チームで動くこと」「それでも家族が最優先」の5項目を挙げて解説し、締めくくりました。軽やかに自然に生きる小崎氏の講演に、学生からの質問もいつになく多く挙げられ、議論も活発に行われました。

▼発表

3日目最後のプログラムは、チームで検討してきたビジネスアイデアの発表となりました。課題は「サーキュラーエコノミー」。大丸有を舞台に、どのような循環型ビジネスが可能なのか。初日に各チームでテーマを決め、2日目、3日目で少しずつワークショップを重ね、アイデアを形にしていきました。発表にあたって、Facebookで3×3Lab Futureの個人会員のみなさんに参集を呼びかけたところ、大勢のメンバーが集まり、発表の際には熱心に質疑応答にも参加。学生たちが知る普通の「大人」とはちょっと違う「大人」たちの姿は、学生たちにとっても、参考になるものだったに違いありません。

以下、発表された内容を発表順に記します。

●「世界一健康なビジネス街へ」

「健康と趣味」をテーマに集まったチーム。スポーツ、医療、健康寿命といったキーワードから検討しました。健康の数値化による企業価値の向上を図るものです。「政府が健康を推進しているのに、日本のオフィスワーカーは長時間労働による運動不足などのために健康増進ができていない人も多いのではないかと考えました。健康の数値化は、政府が進める健康情報のオープン化にも沿うもの。これを義務化することで、心身ともに健康になるし、やる気もアップして、企業価値がアップするという循環を描くことができる」と発表者。

●「オリンピックによるモノの廃棄を減らす」

「オリンピック」をテーマにしたチーム。オリンピックに伴うゴミの発生を抑制し、リサイクル利用しようとするプラン。着目したのはボランティアが着用するユニフォーム。これを廃棄せずに再利用を目指すとしています。「ボランティアは8万人、ユニフォームの量も相当なものになる。これを効率的に回収して、次のオリンピックで使うためのユニフォームに利用すれば資源をどんどん循環させることができる」と発表者。質疑応答では、オリンピック・パラリンピックで使われたユニフォームとして高付加価値を付ける商品化はどうかという議論もありました。

●「丸の内サマーキャンプ」

「自然」をテーマにしたチーム。丸の内にある豊かな都市緑地を活かし、丸の内でアウトドア・キャンプをしようというアイデア。対象は大丸有のオフィスワーカー。環境意識を身につけるとともに、企業間の交流、連携を促進するという狙いがあります。環境意識の醸成から都市緑地の保全という循環、企業間の交流がビジネス創発の循環を生み出すというダブルの循環というアイデアです。1泊2日のタイムテーブルまで想定する念の入れようで、「すぐにプロトタイプを実施できそう」という感想が聞かれました。

●「『好き』でつながる大丸有」

「趣味」をテーマにしたチームで、趣味の「サークル」を、企業の枠を取り払って作るというプラン。大学生らしさがありつつも良く練り込まれているプラン。大丸有をひとつの大学のように見立て、在籍企業の壁を越えてサークル活動を促進します。彼ら自身はサークル本部を担当し、新歓イベントの企画運営、サークル活動の支援などを行います。「仕事じゃなくて趣味でつながることで、活力も生まれる。さらにオープンイノベーションの促進にもつながると、世界と戦う力を身につけることができるし、サークルの飲み会をやれば大丸有の域内経済も活性化する」とは発表者の言。

●「キャンピングカーで日本人を体感する」

「ポジティブなつながり」をテーマにしたチーム。外国人ツーリスト向けというアイデアは早くから出ていたが、最終的なプランへの落とし込みに時間が掛かりました。日本への旅行をもっと深く楽しんでもらうこと、それによりリピーターの獲得を目指し、着地型の新しい観光のスタイルとして、地元の人が運転するキャンピングカーを利用しようというアイデアです。地元の人との距離が近く、地元理解も深めることができるというもので、「これまでの見て回るだけの観光とは違って積極的な交流が生まれる。帰国してからも口コミで広がるし、ディープな交流だから、また来たくなるという効果がある」と説明しています。

●「マッチング・クッキング」

「食」をテーマにしたチーム。大学生、大丸有の飲食店のシェフ、オフィスワーカーという3プレイヤーを想定し、それぞれの強みを活かしつつ、ペインを解消しようというもの。具体的には料理教室という形を取ります。地方出身の大学生が、地域色の強い料理を紹介し、シェフがその料理の再現レシピを開発し、オフィスワーカーに教室で教えます。オフィスワーカーはユニークな料理を学び、地域理解から地方ビジネスの機会を得ることができます。大学生は、社会人との交流の機会を得て、就職や将来を考える契機を得ることになるでしょう。シェフは、大学生から新たなレシピを手に入れ、オフィスワーカーという顧客を得る機会を持つという、三者がウィンウィンになるアイデア。

●「シンパシーアイランド」

「人とテクノロジーの共存」がテーマのチーム。コミュニケーションや関係性といった社会関係資本の価値を高め、向上させる方向へ社会を導くために、社会関係資本を数値化し、通貨として利用できる「アイランド」を設定するというアイデア。地域通貨的に「共感」を数値化、データ化して社会で活用するなど、近未来的なアイデアも盛り込まれています。「人との間に生まれるものを大切にする社会を実現するには、お金だけじゃなく、感謝などの気持ちを価値あるものとして循環させることができればと考えた」と発表者。発表では、シンパシーアイランドの利用法をショートプレイ(演劇)で見せる工夫もありました。

▼夢の持てる社会

プログラムをすべて終えた後は、参加した学生も準備を手伝って交流会へと突入しました。キッチンスタッフと協力しながら山盛りの料理を作り、お酒を並べ、そして乾杯へ。会場には、講師や関係者のほか、3×3Lab Futureの個人会員のみなさんもそのまま残り、大人と学生がいい感じに入り混じって、講義についての感想や将来のこと、これからの社会のことなどを熱心に話し合う姿が見られました。

初めて会ったメンバーが3日間でアイデアを話し合い、形にする作業は、学生同士の距離を縮め、見知らぬ大人たちを前にした発表は、学生たちを不思議なハイテンションにしたようでした。交流会の合間に、学生一人ひとりにマイクを渡し、感想を発表してもらいましたが、「すごくいろいろな面から考える観点を教えてもらい、イノベーションはこうやって起こすのかと感動した」「チームで取り組むと、アイデアもたくさん出せるし、新しいことを生み出すことができる可能性を感じた」「大企業で働く人のイメージがすごく変わった」と、非常に前向きな声が聞かれました。

ある学生が取材に答えて話した内容が印象的でした。

「大学の卒業を前に、この先どうやって生きていけばいいのか、悩んでばかりいました。そこにこの丸の内サマーキャンプのことを知って、ちょっと興味が湧いて受けてみたら、普段の生活では出会うことのない大人の皆さん、学生の仲間と出会えて、いろんな生き方があるんだと教えられて、大人になることに対して、将来に対して、希望が持てるようになりました」

「これまでは、将来は『もう決まったこと』をただやっていくだけの人生になると思っていました。でも、そうじゃない、主体的に動いて良いんだ、職場の形や、社会の仕組みを、変えていっていいんだと教えてもらえたと思います」

「自分の興味のあること、好きなことを大切にしていいということ、それを語って、仕事に活かして良いんだということも教えてもらいました。就職とか、将来の生き方に夢を持てずにいましたが、希望を持って生きていくことができそうです」

生きる希望、夢。考えてみれば、3×3Lab Futureに集まるのも、夢や希望を追い求める大人たちだったようにも思います。丸の内サマーキャンプは、「学生たちが丸の内を創り上げる場」でしたが、同時に、学生たちにそういう生き方を教える場であったのかもしれません。

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