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【レポート】SDGsは面白い? ゲーム『2030SDGs』で知る世界

さんさんビジネスクリエイト:テーマ「SDGs(持続可能な開発目標)を知る・体感する」11月8日(火)開催

SDGs(Sustainable Development Goals)は今、世界や日本でクローズアップされつつあります。そしてSDGsで掲げられるそれぞれの課題解決のためには政治目標だけでなく、企業の貢献も欠かせません。3×3Lab Futureでもこれまでに関連イベントがいくつか開催されており、先日のデロイト トーマツグループ主催でSDGsの企業向け説明会が開催された折には、予想以上の申し込みが殺到するなど、切迫感を持って受け入れられている感もあるほどでした。

そんな中、3×3Lab Future個人会員向けに開催されている企画「さんさんビジネスクリエイト」で、SDGsをテーマにした会が催されました。テーマは「SDGsを知る・体感する」。前半に、デロイトトーマツコンサルティング合同会社 CSR・SDGs推進室長 執行役員の田瀬和夫氏からのインプットトーク、後半はこのSDGsを"体験"するカードゲーム『2030 SDGs』(ニイゼロサンゼロエスディージーズ)を、参加者全員でプレイし、SDGsに対する考察を深めました。

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世界はSDGsへ

世界はSDGsへ

田瀬氏は、外務省から国連に出向し人道的支援などに関わってきた人物。もっとも良くSDGsを理解している日本人の一人です。先日のデロイト トーマツグループ主催のイベントでもSDGsの要諦を語りましたが、この日もSDGs実践のポイントとなるキーワードを挙げて解説しました。ちなみにこの日はお子さんも連れてのトークで、その愛らしい姿に参加者はほっこりした様子での聴講となりました。

まず田瀬氏は、SDGsが17分野169ゴールが設定されているものの、それらの課題は「1次方程式ではなく、相互連関性がある」ことを解説。そして、その複雑に絡み合った課題を相互連関的に解決するための行動のポイントがあることを指摘します。それが「レバレッジポイント」です。代表的な事例として開発途上国における「学校給食」があります。学校給食を導入することで、子どもたちの栄養状態が改善し、就学へのモチベーションがアップしライフセービングスキルも向上、給食実施のために周辺農家から購入し、農業支援にもつながる。レバレッジポイントとは、このようにひとつのアクションが、複数の問題領域にまたがり波及していくポイントです。そして田瀬氏は、今後の大きなレバレッジポイントになりうる領域を「教育とジェンダー」と断言しています。

もうひとつのキーワードが「ムーンショット」です。ムーンショットとは「大きすぎる目標」で、そこに向けた「壮大な挑戦」も含む言葉。例えばSDGsの「健康と福祉」では、「2030年までにエイズ、マラリア、結核の撲滅、感染症をなくす」という目標が掲げられていますが、田瀬氏は「現状から考えるととんでもない目標。いろいろな企業・団体が取り組んでいるが、マラリアはいくらやってもなくならないし、バックキャストするととんでもないことになる」と説明。しかし、「欧米の企業ではそういう思考で取り組み始めているし、インクリメンタルに(増加的に)フォローしていては達成できないだろう」と指摘。これはつまり、SDGs達成に向けて斬新でドラスティックなイノベーションが必要だということでもあります。

そしてSDGsとビジネスの関わりについては、「SDGsを推進することが、コーポレートバリューを上げることに繋がる」とし、その例としてESG投資の評価が世界的に拡大していること、日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、国連責任投資原則(PRI)に署名したことなどを示し、投資家たちもSDGsを強く意識するようになっていることを解説しました。また、企業に対して特に強く求められているポイントとして、児童就労や先住民の土地収奪等の人権問題を扱う「ラギー原則(ラギー・フレームワーク)」の遵守、女性のエンパワーメントへの注力、制度的な腐敗防止といった点が取り沙汰されていることも紹介しました。

「世界が求めている」

稲村氏後半のゲーム体験に先立ち、このゲーム共同開発者である一般社団法人イマココラボの代表理事、稲村健夫氏からSDGsの考え方についてのインプットがありました。そのポイントを「すべてつながっている」こと、そして「全員の問題であること」と説明。例えば"開発目標"というと開発途上国を対象にしていると思われがちですが「エネルギーや海の豊かさの問題などから見ると、先進国の課題であることもよく分かる。分断された目で見ずに、広がりを感じてほしい」と稲村氏。その壮大な広がりを体験するのがゲーム『2030SDGs』というわけです。

このゲームは、2016年2月に開発に着手、5月にローンチという素早いスピードで開発、実用化されています。稲村氏自身、「ここまで楽しめるものになるとは思わなかった」と語っていますが、ローンチ後かなりの話題と人気となり、「世の中がこうしたものを欲しているんだ、世界を変えたいというエネルギーに満ちあふれていることを感じた」と話しています。

世界を模した『2030SDGs』

簡単にゲームの解説をすると、チームごとに割り振られた目標(ゴール)を目指すというものです。ゴールは「大いなる富」「マスターオブライフ」「貧困撲滅の聖者」「環境保護の闘士」「人間賛歌の伝道師」などがあり、それぞれゴール達成の条件が設定されています。例えば「大いなる富」ならお金を1200G(ゴールド)以上持ってゲームを終了しなければなりません。

使うカードは、「プロジェクトカード」、お金(ゴールド。100、500がある)、「タイム」(時間を表す)、「意志」を示す3種のカード。プレイヤーは、開始時に規定枚数のプロジェクトカード、タイムカード、お金を割り振られます。

プロジェクトカードは、経済に関するもの(青)、環境に関するもの(緑)、社会に関するもの(黄)の3つにカテゴライズされており、例えば「原子力発電所の利用廃止」「環境保全ボランティアへの参加」などのポジティブな感じのものもあれば、「都市部への一極集中促進」といったどちらの方向か分かりにくいものもあります。

いずれもプロジェクト実施には必要な「お金」や「時間」などの条件が設定されていますが、カードとは別に設定されている重要な条件に「経済」(青)、「環境」(緑)、「社会」(黄)の状況を示す「世界の状況メーター」があります。これは会場のボードにマグネットで示されているもので、数が多いほど良好であり、ゼロからスタートします。例えば「原子力発電所の廃止」は、1500Gのお金と8枚のタイムカードが必要で、世界の状況メーターで、経済(青)が7以上なければ成立しないことになっています。これはある程度世界が進み、経済状況が積み上がらなければ実施できないということ。

そしてプロジェクトを達成すると、引き換えに別のカードが得られるとともに、世界の状況メーターに変化が加えられるようになっているという仕組みになっています。先述の原発廃止だと、見返りに800Gと緑のプロジェクトカード1枚、緑の意志1枚がもらえ、世界の状況メーターに対し、経済がマイナス1、環境にプラス1が加えられるといった具合。

プロジェクト実施は条件を揃えたうえでゲームマスターのもとに提出。その場でマスターから引き換えカードもゲットします。そして間に中間報告を挟んで、この「行動タイム」を2回実施し、ゴールを競うことになります。

そして、重要なルールは、上記を除けば「何をしても良い」ということ。これはゲームがある程度進んでから、ピンと来ることになります。稲村氏は、「これは世界の状況を模したもの。それぞれのチームは村かもしれないし、地域かもしれないし、国かもしれない。それぞれ何をしても良いので自由にゴールを目指してください」と呼びかけます。

夢中でプレイ、世界が回る

最初はおとなしく各チームでプロジェクを実行しているが、ゲームが進むにつれて他のグループにお邪魔して討論したり交渉したり。大声で呼びかける人(左下)や、共同実施を呼びかける人(右下)も

参加者たちも、次第に夢中になり、奥の深いゲームに熱が入っていきます。

最初は、一番分かりやすいやり方として、ゲームマスターのもとに赴き、プロジェクトを実施していきます。最初に配られたカードの運もありますが、結構早い段階で目標を達成したチームもありました。しかし、そのうちに素直にプロジェクトを実施するだけではなく、チーム間の交渉なども始まります。最初は大声で「●●のカードはありませんか~!?」という呼び掛けが起こりましたが、その後各チームを回ってトレードする足で稼ぐプレイヤーも現れます。さらにゲームが進むと、プロジェクトを共同で実施し、分前をシェアしようという動きや、クラウドファンディング的に共同の場を作り、必要なカードを募ろうとする動きも。こうなると「現実を模している」「好きなことをしていい」という設定がよくよく分かってきます。

18分、12分の2回の行動タイムの間で行われた中間発表では、世界の状況メーターの確認と、それに準じたシナリオの公表がありました。この日のゲームでは、経済16、環境8、社会8という状況。状況に応じたシナリオが予め設定されており、経済16は「先進国では経済衰退の予想もあったが、それに反しぐんぐん伸びている」という概況。環境8は「CO2排出量の最大化が起きたが、その後減少に転じている」という状況。社会8は「貧富の格差に対して一定のケアがされている」といった状況です。

みんなで。ひとつの世界で。

世界の状況を解説する稲村氏

この中間発表を受けて、各チームの活動は変化し、さらに活発になっていきます。

各チームの行動変容には面白い点がいくつもありました。あるチームは、「大いなる富」の目標を達成したために、目標額はキープしながらも、他のチームのゴール達成に協力しようとします。またあるチームは、「マスターオブライフ」として15枚以上のタイムカードを保持しながらも、環境・社会のメーターアップのために活動するといったような行動が見られたのでした。

2回目の行動タイムを終えた後、最終発表では経済が16、環境11、社会10という状況となりましたが、これは「169ゴールすべて達成」とのこと。ゴールを達成したのは、13チーム中12チーム。1チームを除いて達成し、概ね皆が笑顔のうちに終了することができたのでした。

そして、ゲーム終了後には振り返りとしてワークショップを実施。それぞれ行動するに至った判断は何か、その判断の根拠となったものは何かを考え、全体でシェア。また、各テーブルで話し合われた気付きなども発表されました。非常に示唆的な意見も多く、ハッとさせられた参加者も多かったようです。

稲村氏は、「今回は各チームが目標を達成し、世界の状況も良かったが、非常に珍しい達成の仕方だった」と話しています。達成される場合ほとんどのケースで全体の意見を集約するような話し合いの場が自然発生的に生まれるのだそうですが、今回はそれがなく「全体が自己組織化しており、ある種バラバラに見える状態で達成していたのが面白かった」とも話しています。

他の事例としてある高校で実施したときは、経済26、環境0、社会0で終わった例や「世界政府的にこうしようああしようと訴える集まりができて、他のチームに"このカードを出せ"と圧力をかける」例などが紹介されていました。

「このゲームの面白いところは、集まる人によって、プレイの仕方も、結末もまったく変わっていくこと。何度もやっても楽しめるのはそういうところにあるのだろう」と稲村氏。

そのうえで改めてSDGsを振り返り、「風が吹けば桶屋が儲かる、のことわざのように、世界はつながっているし、悪循環のループも描かれつつある」と話し、そのループを断ち切るためのレバレッジポイントを探すことが必要であると訴えます。また、そのためには「どうやらひとつになったっぽい世界で、17分野すべてをワンパッケージとして考える必要がある」と述べ、「みんなで課題を可視化し、シェアし、世界がひとつであることを意識して取り組むことが重要だろう」と話します。ゲームはそれを意識させるものであったと言えるでしょう。

そして最後に、SDGsに取り組むためには「全員で同時にやること」「それぞれの立場、文脈でやること」と挙げ、「今ここでやることがある、今ここから変えることができる。いろいろな人、モノ、コトを総動員してはじめましょう」と呼びかけて締めくくりました。
「さんさんビジネスクリエイト」を通じて、また、個人会員同士の新たなつながりが生まれそうです。


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