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【レポート】スタートアップと大企業の摩擦熱が、これからの日本を変えていく

経団連・経済産業省共催 「J-Startup×経団連懇談会」 2018年11月27日(火)開催

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2018年11月27日(火)、一般社団法人 日本経済団体連合会(以下、経団連)・経済産業省共催の「J-Startup×経団連懇談会」が開催されました。世耕弘成経済産業大臣いわく、「大企業と一緒にビジネスをしたいけれど、トップや経営者の方に直接会うのは中々難しい。スタートアップの皆さんとお話していると、多くの方がそんな悩みを抱えていることが分かった。それならば、経済産業省が間に入って、出会いの場を作ろうじゃないか。(経団連の)中西宏明会長に折り入ってお願いしたところ、快くお受けいただき今日という日が実現した」――またとない貴重な場には、J-Startup企業や経団連企業の代表者の方々が一堂に会し、3つのスピーチをもとに活発な議論が交わされました。

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Society5.0 -ともに創造する未来-

Society5.0 -ともに創造する未来-

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冒頭、中西経団連会長は、昨年11月13日に発表した経団連提言「Society5.0 -ともに創造する未来-」について触れました。Society5.0とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、人類社会発展の歴史における5番目の新しい社会のことであり、AIやIoT、ロボット、ビッグデータなどの革新技術をあらゆる産業や社会に取り入れることによって実現する新たな未来社会の姿。デジタル革新と多様な人々の想像・創造力の融合によって、社会の課題を解決し、価値を創造する「創造社会」を意味しています。

AIやロボットに支配・監視される未来でも、一部の先進国だけが成果を享受する社会でもなく、「世界のあらゆるところで実現でき、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができる新たな人間中心の社会」、それがSociety5.0の目指すあり方です。

中西会長は、「イノベーションの力を大いに活かして、まずは日本の社会を活性化させていくことに役立てていきたい。新しい未来の夢を皆さんと共有できることを大きな狙いとしているが、そのためにはまず企業が変わらなくてはいけない。変わるためには、さまざまな枠組みにとらわれず、より活発に動いていくことが必要。そこで、"大企業に出島を作る"ことを提言のひとつに上げた。ルールから自由な場所、すなわち出島を作り、そこで自由に新事業を生み出すことが奨励されるような社会になることがSociety5.0のひとつの重要なキーであると考えている」と語りました。

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大企業とスタートアップ企業の"摩擦熱"から
日本を大きく変える何かが生まれることに期待している

続いて、世耕大臣が来場者に挨拶を述べ、経済産業省が推進するスタートアップ企業の支援プログラム「J-Startup」について紹介しました。日本のスタートアップ企業約10,000社の中から、推薦委員・外部審査委員による厳正な審査を経て選ばれた92社のスタートアップ企業を官民の連携により集中応援する本プログラムでは、現在、主に3つの形で支援を行っていると同大臣は話します。

「まずひとつは、J-Startupに対して、すべての政府調達に無条件で参加できる体制を作ったこと。従来、政府が何かを発注する際は、過去の経験値や実績が厳しく問われるが、各省と交渉した結果、それらがなくても参加できるようにした。経済産業省においては、さらに門戸を開き、すべての日本のベンチャー企業が参加できるものとしている」

「次に、徹底的にJ-Startupを応援すべく、経済産業省が持ちうるリソースを使うこと。海外での経済ミッションへの参加をはじめ、規制官庁とスタートアップ企業がスムーズなコミュニケーションを図れるよう、当省が通訳として間に入らせていただく形を取ることもある」

そして3つ目は、冒頭でも触れた通り、出会いの場を作ること。「大企業とスタートアップ企業との出会い、あるいは"摩擦熱"の中から思いきり日本を変え、成長させる何かが生まれるのではないか。これが私の期待しているところである」と熱く語りました。

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新しい未来の創造に向けたそれぞれの熱い想い

髙橋 誠氏(KDDI代表取締役社長/経団連起業・中堅企業活性化委員会企画部会長)の進行のもと、車座ディスカッションがいよいよスタート。4名のスピーカーによる3つのスピーチが順次行われました。

①社会的価値の増大
泉谷直木氏 (アサヒグループホールディングス代表取締役会長/経団連審議員会副議長/経団連起業・中堅企業活性化委員長)
中村友哉氏(アクセルスペース代表取締役)

②イノベーションプラットフォーム
谷澤淳一氏(三菱地所代表執行役 執行役副社長)

③スタートアップが大企業に望むこと
康井義貴氏(Origami 代表取締役社長)

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①社会的価値の増大

泉谷直木氏は、経団連が推進する提言「Society5.0 -ともに創造する未来-」のコンセプトについての説明を行い、"ともに創造する未来"におけるスタートアップ企業への期待を述べました。「大企業に出島を作る」ことと同様に、Society5.0が最も重要視しているのが「スタートアップの新興」です。

「ご周知の通り、AIやIoTなどの技術の急激な進展、さらには経済、地政学的な変化、ひいてはマインドセットの変化など、今世界では大きな変化の波が起きている。この変化の時代にこそ、創造力や想像力を発揮して未来を切り開くことが重要。中でも、デジタル革新は社会を根本から変えていくポテンシャルを秘めているが、将来、どのような社会が訪れるのかを予測するのではなく、デジタル革新をいかにうまく駆使し、どのような社会を作っていくかというビジョンが問われるのがこれからの時代。明確なビジョンしかり、その実現のためのアイデアや既存の企業に比べてはるかに高い熱量を持つスタートアップ企業の皆さんと共に新しい社会のビジョンを作り、共有し、その実現を目指していきたい」

Soceity5.0を担うスタートアップ企業を次々と生み出すことができる体制に変えていくと共に、既存企業もスタートアップ企業と共創を進めていく上で、自己変革が不可欠になると氏は話します。

「既存の大企業では、多くの場合、現状のオペレーションに最適化をされており、イノベーションを迅速に進める構造にはなっていない。大企業にとっての課題のひとつは、共創によるオープンイノベーションを通じて、旧来型からSociety5.0型のビジネスモデルにアップデートしていくこと。スタートアップ企業と同じ目線やスピード感で仕事をし、そしてイノベーションを起こしていく。そのために、既存の組織とは切り離し、独立した"出島"の体制を作るという取り組みも出てきている。Society5.0は、国連が採択したSDGsの達成にも貢献するものであるが、スタートアップ企業の皆さんは、企業活動として戦略的にSDGsに取り組んでいる強みを持っていると我々は認識している。そうした強みと大企業が持つ強みを融合させることが、今後、極めて重要であると考えている」

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続いて、アクセルスペース代表取締役の中村友哉氏が登壇。社会的価値の増大に貢献したいからこそ、会社を設立するに至ったベンチャー企業の一例として、これまでとこれからの取り組みを紹介し、同社が提供する新しい社会価値について披露しました。

同社は「Space within Your Reach ~宇宙を、普通の場所に~」をミッションに、2008年に創立した宇宙ベンチャー。超小型衛星技術のパイオニアであり、その技術を駆使した独自衛生の開発を行っています。

「宇宙というと、今はあまりにも遠く、身近に感じられないかもしれない。我々は宇宙ビジネスの先頭に立ち続けることで、従来の宇宙利用の常識を打ち破り、地球上のあらゆる人々が当たり前のように宇宙を使う社会の実現を目指して、日々活動にあたっている」

昨年創業10周年を迎え、世界初の民間商用超小型衛生を含む5つの実用衛星開発・運用を行ってきた同社では、2015年以来、精力的に取り組んできたAxelGlobeプロジェクトがついに最初の打ち上げを迎え、構築が本格的にスタートしています。

「2022年までに数十機単位で衛星を打ち上げ、世界中を毎日観測できる新しいインフラを完成させたいと考えている。今後、軌道上の衛星機数が増えるにつれて観測頻度が向上すれば、地上で起きている変化をいち早く見つけることが可能になる。それがあらゆる産業にとって重要なインサイトとなり、インテリジェンスとして使われていく。これが、当社が提供できる新しい社会的価値である」

データの蓄積が進むことで、新しいインフラに発展し、そのインフラからは、海洋監視、都市計画、精密農業、局地気象予報など、多様なアプリケーションが生まれてくることも示唆しました。

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②イノベーションプラットフォーム
谷澤淳一 三菱地所代表執行役 執行役副社長

谷澤氏からは、日本を牽引するオフィス街である大丸有地区で三菱地所が運営するCSVビジネス創発プラットフォーム「3×3 Lab Future」についての紹介が行われました。

「3×3 Lab Futureは、『経済』『環境』『社会』の3つのテーマをもとに、自宅でも職場でもない第3の場所"サードプレイス"として、ビジネスの中心地、東京・大手町に誕生した、業種業態の垣根を越えた交流・活動の拠点。"出島"的にここに来て、色んな方と出会い、新しいビジネスの種をぜひ見つけていただきたい」

近年、かつてのようなビジネスだけの街ではなく、家族連れや外国人観光客などで週末も賑わう街として生まれ変わってきた大丸有エリア。さらに発展させるべく、「"オープンイノベーションフィールド"を目指すというポリシーのもと、30年後にどんなまちにしたいか、どういうまちを作っていくかということを日々考えながら、開発にあたっている。世界中の多彩な人々が集まり、出会い、交流できる場、コラボレーションをして新たなビジネスが生まれるような、そんな新しい場をこれからも作っていきたい」と谷澤氏は熱く語りました。

「例えば、自動運転をまちの中で実証実験しようとすると、さまざまなハードルが考えられる。大丸有地区は約120ヘクタールのある程度まとまったエリアなので、より実施しやすいと思う。行政とうまく連携しながら、さまざまな実証実験の場としてもぜひご活用いただきたい」

スピーチの終盤では、同社を中心に現在、準備を進めているイノベーション・エコシステムについても触れました。

「このエリアでさまざまなイノベーションが起き、うまく循環していくような体制を作るべく議論を重ねており、来年度から本格的に加速が始まる状況にある。絶対的価値と可変をテーマに、他にはない価値を追求しながら、この街のあるべき姿を探っていく次第である」

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③スタートアップが大企業に望むこと
康井義貴 Origami 代表取締役社長

最後に登壇した康井氏は、これまでの自身の経験を交えながらスタートアップが大企業に望むことについて語りました。幼少期よりアメリカ東海岸に暮らし、その文化に触れて育ってきた康井氏。大手投資銀行リーマン・ブラザーズでM&Aアドバイザー業務に従事したのち、アメリカ西海岸に渡り、シリコンバレーの大手ベンチャーキャピタルDCM Venturesで米国、日本、中国のスタートアップへの投資を手掛けていました。

「非常に極端な考え方かもしれないが、自身が慣れ親しんできたアメリカ東海岸では、外資系の金融機関やコンサルティングファームで働くことがカッコいいとされる文化が強くあった。優秀な学生たちは皆、それを目指して邁進していたが、2010年にアメリカ西海岸に渡った時に衝撃を受けた。リーマンショックが起きたことが関係していたかもしれないが、特にスタンフォード大学周辺の学生たちが、"ベンチャーこそがカッコいい"と言い始めていて、社会全体がそういう風潮に変わっていったことに大変驚いた」

一方、日本はと言うと、氏が一時帰国した2008年9月当時は、スタートアップやベンチャー企業という言葉すらまだほとんど知られていない状況だったと振り返ります。

「近年、皆さんのおかげでスタートアップコミュニティが大分盛り上がってきたように感じる。日本にも"スタートアップってカッコいいよね"という文化が根付いていけば、本当に素晴らしいと思う」

そして2012年、「お金、決済、商いの未来を創造する。」をミッションに、QRコード式電子決済サービスを行うOrigami(オリガミ)を設立。社名の由来は、「富士山と天ぷらに比肩する、海外に認知してもらえる日本由来の数少ないキーワードだったから」と話します。

「事業提携・連携、あるいは資金調達の面において、多くの大企業が支えてくださったからこそ、ここまでやってくることができた。その支えがなければ、今ある姿にはなっていないと日々痛感している。今後もお力をお借りしていきたいと思うがそれ以上に、大企業の皆さまには、"スタートアップって、カッコいいよね"という文化の醸成にぜひお力添えいただきたい。"息子や娘をスタートアップに入れたい""スタートアップで働いているうちの夫って、カッコいいでしょ?"と全国のお母さんが言ってくれるような社会になった時、真の意味でのイノベーションが起きるのではないかと思っている」

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人と人のネットワークをどう膨らませるか。
それこそが、日本経済の活力そのものになっていく

車座ディスカッションでは、参加者からの活発な発言や提案、質問が飛び交いました。時間の関係上、詳細については、あとに続く昼食会で各自が議論する流れとなりましたが、その一部をここにご紹介します。

大企業の代表者からは、「我々の知財や顧客・マーケットの基盤を活用していくのはどうか」「(大企業の)既存のテクノロジーだけでは、新しい事業は立ち上がらない。今後もスタートアップとの交流を積極的に図り、可能性を追求していきたい」といった声が上がった一方、スタートアップからは、「サービスや技術は使ってくれる人がいてこそ、初めて新しい未来を作っていくことができる。積極的に新しいサービスや技術を使っていこうとする気運を醸成するためにも、それらを導入しようとするユーザーに対する支援があると嬉しい」、「既存のビジネスに傷をつけてでも、このビジネスが5年後にどう伸びるのかという事業計画やKPIのセッティングなどについて、より真摯に考えることのできる人材を育てていただきたい。そして(スタートアップと)共に力を合わせることで、日本は初めて、新しいステージにいけるのではないだろうか」など、より具体的な要望や提案が見られました。

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車座ディスカッションの締めくくりとして、中西経団連会長と世耕経済産業大臣はそれぞれ次のように語りました。

「人の問題が最大の課題であると、皆さんが明確に意識されておられると感じた。新しい価値に挑戦してネットワークを作り、そこをいかに広げていくかということは、スタートアップであろうと大企業であろうと共通の課題。それを真に加速させるのは、ネットワークが豊かに育まれていく多様性のある社会ではないかと思う。スタートアップだ、大企業だ、という枠を超えて、人のネットワークをどう膨らませるかということが、日本経済の活力そのものになっていくだろう」(中西経団連会長)

「私も中西会長の意見にまったく賛成で、昨今、人のあり方がガラッと変わってきている。例えば、経済産業省を辞めてスタートアップに行く人がいるが、戻ってくるケースがないというのが現状。そこをちょっと出入り自由にして、色々な人がさまざまに混ざり合っていくことができれば、大企業とスタートアップの交流もより良く図れるのではないかと思っている」(世耕経済産業大臣)

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参加者一同はエントランスエリアに移動し、昼食会がスタート。中央に置かれた大きなテーブルに並ぶのは、彩り豊かな料理の数々。中西氏、世耕大臣を囲んで、参加者は立食のビュッフェスタイルを大いに楽しんでいる様子でした。

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「今日、スタートアップの皆さんと交換した名刺は、"アポ自由"であると社長室の方にぜひご指示をいただきたい。全社が来たとしても92社ですから」――
経団連関係者へのお願いとして世耕大臣が放ち、会場の笑いを誘ったひと言は効果てきめんだったようで、活発な名刺交換が行われる中、同大臣が言うところの大企業とスタートアップの"摩擦熱"を感じる場面が多々見られました。

大盛況のうちに幕を閉じたJ-Startup×経団連懇談会。「Society5.0 -ともに創造する未来-」を担う人々が一所に集まる今回のような機会をより濃密に重ねていけば、日本は加速的に変わっていくことでしょう。今後の展開に期待が募ります。

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