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【レポート】小さな視点で見つけるローカルの魅力~地域プロジェクトは『好き』から生まれる~ 後編

特別イベント「世界の京都・北山ブランド」創造ワークショップ 2019年2月7日(木)開催

9,15

「全国の地域プロジェクトから京都北山を考える」をテーマに開催された第2回「世界の京都・北山ブランド」創造ワークショップ。前半では、ゲストの指出一正氏(月刊『ソトコト』編集長)が携わる、関係人口をつくるための地域プロジェクトのさまざまな事例が紹介されました。ワークショップ後半は、講座の卒業生が地域と関わるために生み出したプロジェクトの紹介からスタート。続いて、指出氏が生まれ育った群馬県高崎市にある、樫の木を使ってつくられた「ケルナー広場」ができるまでの秘話を紹介したのち、パネルディスカッションと参加者との質疑応答の時間が共有されました。

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広大な山林を駆けめぐる「ワンコの森あそび」

広大な山林を駆けめぐる「ワンコの森あそび」

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和歌山県、奈良県、福井県をはじめ、全国各地で関係人口をつくる講座を受け持ってきた指出氏。すでに総勢500名にのぼる卒業生の中には、Uターンをして高齢者のための音楽療法の社団法人を作った若者や休耕田を金魚の養殖場に作り変えた若者もいるのだそう。

「そうやって地域と自分の距離を縮めていきながら、"自分ごと"としてプロジェクト化していくのが関係人口のひとつの特性。今日これから皆さんに紹介するのは、三重県多気郡大台町で新しいプロジェクトを始動している卒業生の話です」

image_event0207_17.jpeg「トヨタ三重宮川山林」にて。小田明さんと愛犬たち。当日の投影資料より

彼の名は、小田明さん。島根県が雑誌『ソトコト』とコラボレーションした地域づくりのための連続講座「しまコトアカデミー」、指出氏と牧大介氏によるローカルベンチャー講座の卒業生です。当初、小田さんは、地元・島根で森を使ったプロジェクトをやりたいと考えていたそうですが、2007年からトヨタが管理している「トヨタ三重宮川山林」に出会い、新たなアイデアを思いつくことになります。

「トヨタ三重宮川山林は、東京ドーム360個分くらいの広大な森。林業として森林を売るのではなく、この場所を使って、新しい産業を起こしたり、社会貢献につながる活動ができる人を見つけたいという意向から、トヨタから牧さんと僕にご依頼をいただいた。その時に受講してくれたひとりが、小田さんでした。トヨタ三重宮川山林をドッグランやドッグパークに見立てた彼のプランをトヨタが認めたのです」

image_event0207_18.jpeg当日の投影資料より

その名も、「ワンコの森あそび体験会」。昨年11月に開催した体験会には、日本各地のワンコ好きから申し込みが殺到しました。

「本物の自然の中で、ワンコが楽しそうに走れる場所がなかった。それをつくったのが、森とワンコが大好きで、家族思いの小田さんです。ここに放たれたワンコたちは、生き生きとしています。どんな犬種のワンコもこの環境を喜びます。ワンコが笑うんですね。そう、小田さんは、家族の笑顔をつくることに起点を置いたのです」

ドローンを飛ばして、山林を駆け巡るワンコの写真を撮るサービスは大人気。大事な家族の一員としてワンコを愛する人たちに向けて、一時は鬱蒼としていた森がトヨタの力でよみがえり、その涼やかな森を使う新しい考え方が生まれたのです。

image_event0207_19.jpeg(左)ワンコと微笑む80代女性。「この森は健康寿命も延ばす」と指出氏。(右)溌剌と走りまわるワンコたち。当日の投影資料より

「トヨタ三重宮川山林は、広大な杉林。北山杉のようなブランド力はないかもしれないけれど、違う視点で見れば、ここにもグランドをつくれる。ワンコが集まる聖地を伊勢のとなりにつくった。それを考えたのは、この土地には関わりのなかった小田さん。こうやって、新しい視点で新しいものをつくる人たちが、現れてくるんです。小田さんのように、この人工林を喜ぶ人たちを探し出せばいい。一生懸命に育てた北山のブランド杉は、その杉を売ることが目的だったかもしれないが、想定の価値で売れなくなった時代、違う価値観をつくることも大事。例えば、お米が主食でなくなったなら、お米が喜ばれる新しい仕組みやビジネスモデルをつくればいい。そう考えて、自分で育てたお米で香り付けしたクラフトビールをつくった若者もいます」

image_event0207_20.jpegケルナー広場。当日の投影資料より

「ケルナー広場」が、高崎市にできた!

2016年、通称・カッパピアで知られる遊園地の跡地、群馬県高崎市の観音山公園に開園した「ケルナー広場」は、「誰がどう見ても子どもがケガをする公園」と指出氏。しかし、それは、この広場の設計から設置まで手がけたドイツの遊具デザイナー、ハンス・ゲオルグ・ケルナーさんが意図していたこと。

「来日するたび、ケルナーさんは日本の公園にある遊具を見て、胸を痛めていました。これではケガをしないだろうから、子どものうちに自分と他人の身体や能力の差を理解する力が育たないと。だからこそ、ケルナーさんは、ヨーロッパの厳しい安全基準をクリアした子どもが怪我をする公園をつくった方がいいのではないかと思っていたところ、高崎市のある女性たちに出会いました」

image_event0207_21.jpeg「本の家」店主の続木美和子さん(右)と娘さん。当日の投影資料より

女性たちのリーダーは、群馬県唯一の児童図書専門店「本の家」の店主・続木美和子さん。
指出氏が小学生の頃からお世話になっている、「頭が上がらない人」だそうです。

「続木さんは熱い人。ケルナーさんの考え方を気に入ったとたん、市長に引き合わせて、ぜひ作って欲しいとお願いをして、実現させてしまった。それ以前にも、『はらぺこあおむし』で知られる絵本作家のエリック・カールさんに、"あなたの絵が群馬の子どもたちに必要なのよ。だから原画を貸してちょうだいな"と、アメリカにあるカールさんの自宅まで行って交渉し、2000年に高崎市で大原画展を開催しました。続木さんがすごいのは、日本語でまくし立てて、相手にイエスと言わせてしまうところ(笑)」

カッパピアが廃園になって以降、火事が起きたりして、高崎市は更地にすることも検討していましたが、そこに待ったをかけたのがケルナーさんと続木さんでした。

「ここは確かに悲しい出来事もあったが、たくさんの子どもたちが幸せな時間を過ごした場所。子どもたちの楽しい思い出を残したまま、新しく子どもたちが集まれる場所にした方がいい。そうしてできたのが、木製の遊具がそろうケルナー広場です。今、ひと月に3、4万人が訪れていて、お母さんたちはコミュニティを育んで、シフト制で公園の管理を行っています。群馬のお母さんにとっては、かけがえのない時間をつくれる場所がここにまた生まれた。これが、ローカルプロジェクトの醍醐味かもしれない」

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地域プロジェクトは『好き』から生まれる

続くパネルディスカッションでは、佐藤岳利氏(株式会社ワイス・ワイス代表取締役社長)から、指出氏にいくつかの質問が投げかけられました。ひとつ目は、「ワンコの森あそび体験会」を考案した小田さんについて、「普段の仕事をやりながら、プロジェクトをつくり上げていったのか?」。

「そうです。お仕事をされながら、何度も事業計画を立てて、最終的に、大好きなワンコの幸せと日本の林業を重ね合わせたプランが出てきました。それは大事なことで、こうやったら儲かるだろうとか、時代の流れに合うだろうと考えると、自分ごとじゃないから空振る。堂々巡りをした結果、小田さんは自分の原点に返り、ワンコの森あそびにたどり着いたので、ブレがない。昨年のトライアルで確実に手応えを感じて、Wans Laugh(ワンズラフ)という団体を立ち上げられました。もちろん課題も生まれたけれど、実証試験をしてこれは面白そうだとなっているところです。誰もが自分の仕事をしながらプロジェクトを作っていけば、その地域に関わる人たちは増やせるんじゃないかと思う」

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「今、政府も副業・兼業を推奨していると聞くが、現実的にやろうとすると、給料や残業など、問題がいろいろあると思う。その意味では、関係人口という中で、仕事なのか遊びなのか分からないような状態で、ゆるやかに動きが出てきていると、今日の話を聞いて感じたが、フックになるような"最初のひとり"がいないと始まらないのではないだろうか?」と佐藤氏は2つ目の質問を挙げました。

「さすが佐藤さんです。最初のひとりがいないと、確実に始まりません。たったひとりが地域を変えている事例が日本にはごまんとあるのに、行政はその視点を持っていないので、変えるべきだと思う。年間何十人目安で増やしていこうという考え方が、そもそも人を見ていない。たったひとりが現れることで面白いことが起きるなら、そのひとりを探せばいいだけだから。小田さんが、トヨタ三重宮川山林に現れたことで、他の人たちが面白いと思うことが起きているように、数よりも粒を見ることが大事」

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ワークショップ後半では、参加者からさまざまな質問が飛び交いました。「関係人口が増えたとして、地元の人たちとのリンケージをどうやっていくのがいいのか」という問いに対して、指出氏はこう答えました。

「関係人口とは、寸断される属性の真ん中に入る人たちなので、全員がソーシャルバブ。思った以上に、地域の人に会いたい気持ちが強い方は増えています。今、旅に関係する儀業からご依頼をいただき、旅の先にある地域との出会い方という講座を受け持ったりしたが、定員60名のところ、190名の応募があった。しかも、全員20代30代の女性。聞くと、"ステップアップしていきたい、少しずつ成長を感じたい"という時に、これまでは旅をひとつの方法としていたが、いくら旅をしても人と出会わないことが分かってしまったと。だから、人に会うということに力点を置いて、その地域を紹介したり、誘うことで今まで来なかった人たちが現れる。その人たちが関係人口の階段を上っていくことで、今までにない中間の層の人たちが現れるという風に思う」

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次に挙がったのは、「森や木について、これまでは興味がある人も関わっている人も、男性がほとんどだったが、最近は女性が増えている。先ほどのスナックの話もそうだし、あらゆるところで、女性がリードしている感じがする。もし、理由が分かっているなら教えてほしい」という質問。

「女性が出やすくなっているのか、そもそも自分が実現したいものをぶれずに持っているのは女性の方が多いのか分からないが、まちづくり、地域づくりの現場に参加する人たちを見ていると、女性が多いことは確かです。例えば、結婚を機に、東京から少し離れた都市近郊に移り住んだ家族の若いお母さんの場合、お父さんよりも、その地域にいる時間が多い。だから地域のことに接点を持っているのは、属性としては女性が多いのかなと。一概に性別では言えないけれど、男性の場合、組織の中にいる時間が長いと、結果的に自分の地域のことをあまり知ることができない。それは、自分のまちで新しいまちづくりが行われていることをつぶさに観察できてないという僕自身の猛省点でもある」

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ワークショップの後は、恒例の懇親会が開かれました。北山を視察した際にエコッツェリア協会のメンバーが仕入れてきた地元の日本酒、京都ならではのはんなりとしたごちそうを囲んで、参加者は歓談を楽しみました。

いよいよ最終回となる次回のワークショップでは、古川大輔氏(株式会社古川ちいきの総合研究所代表取締役)と、第1回に登壇した森下武洋氏(京都北山丸太生産協同組合理事長)をゲストに迎え、京都北山地域のブランド構築や関係人口を考察していきます。


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