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【レポート】新・地方時代へ、地方×都市の新たなカタチ

2019年度エコッツェリア会員総会 2019年6月14日(金)開催

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近年日本が国策として取り組む「地方創生」。今、このテーマに取り組んで活動を繰り広げる自治体や企業は多くいますが、忘れてはならないのは、個々の地域を活性化させることは、その地域だけが繁栄するのではなく、大都市や日本全体、あるいは現在都市で暮らす個人個人にも大きな影響がある点です。

それを考慮した上で、エコッツェリア協会でも長年に渡って「地域を盛り上げる」「地域と都市を結ぶ」というテーマで様々な取り組みを実施してきました。そして2019年6月14日に開催された2019年度の会員総会では、日本人材機構 代表取締役社長 小城武彦氏、三菱総合研究所 主席研究員 松田智生氏をお招きし、地方をテーマにご講演をいただきました。その後行われたエコッツェリア協会理事長の伊藤滋氏とのパネルディスカッションも白熱したものとなりました。

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東京と地方の交流による地域活性と人材育成

東京と地方の交流による地域活性と人材育成

image_event190614_02.jpeg日本人材機構 代表取締役社長の小城武彦氏

▼地方は幹部人材ニーズが高い

最初に登壇した小城武彦氏は、通商産業省(現経済産業省)入省後、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て産業再生機構に入社し、数々の企業を再生させた実績を持っています。そして現在は、地方創生を目的として政府主導で設立された日本人材機構で大都市の経営人材と地方の中小企業をつなぐ動きをしており、地方創生の一翼を担う人物です。小城氏の講演は、次のような問いかけからスタートしました。

「大丸有で働くビジネスパーソンは約28万人いますが、その中で『活躍している人』はどれくらいいると実感していますか?」

日本人材機構が都内の一定規模以上の企業の管理職にこうした調査を行ったところ、半数の管理職が「活躍している人は1〜3割」と回答したそうです。その背景には、多くの大企業では30代までに次の幹部候補は選抜されており、残りのほとんどが役職定年を迎えてしまうという事情があります。小城氏が在籍する日本人材機構では、そうした人材に地方で活躍の場を与え、働きがいの提供と地域活性化に取り組んでいます。

なぜ都内ではなく、地方に移ることを推奨しているのか。それは、民間の人材紹介企業の専門範囲外であることに加え、地方の中小企業が抱える課題を解決するには都内で働く人々が大きく貢献する余地があるからです。

「地方のオーナー企業や中小企業は、今本当に苦しんでいます。少子高齢化の波は既に到来しているし、事業規模の縮小も始まっています。そんな中でビジネスモデルの見直しや業務プロセスの改革を進めなくてはならないものの、社内には相談相手もいない。多くの地方企業では、オーナーが孤軍奮闘している状態です。つまり地方において、幹部人材のニーズは非常に高いのです」(小城氏)

▼東京の"普通"が地方を良くする

小城氏は、幾つかのキーワードを紹介しながら地方で働くことの魅力も紹介します。

「東京の大企業の仕事は、ステークホルダーが多くて個々人の名前と顔が一致しづらく、今取り組んでいる仕事と社会の距離もあります。それに、社内やグローバルなど、競争も厳しいものです。一方で地方の中小企業の場合、手触り感は満載で、長期的に物事を考えられますし、仕事の結果はすぐさま地域社会に反映されます。
どちらが良い悪いという話ではありませんが、地方のスタイルは『事業の原型』と言えるものなのです。ですから、表現は厳しいかもしれませんが、私たちは都内のビジネスパーソンに対して『東京で歯車になるのもいいですが、地方で心臓をやりませんか?』と口説いています」(小城氏)

さらに小城氏はこうも続けます。

「地方の企業では、管理会計やPDCAなど、都内の大企業が普通にやっていることが行われていない実情があります。つまり、東京で普通に実施していることを地方でも取り組めば、会社も地域もどんどんと良くなっていくのです」(同氏)

日本人材機構の取り組みも徐々に浸透しており、地方で働くことに興味を持つ人も増えてきていると、氏は紹介しました。

image_event190614_03.jpeg東京の大企業(左)と地方の中小企業(右)の仕事のイメージをキーワードで紹介。「地方の中小企業の仕事が『事業の原型』」と小城氏

▼地方創生は課題ではなく希望

その後小城氏はいくつかの事例を紹介。中でも今後増加が予測されるものとしてピックアップしたのが、副業・兼業の立場で地方企業と関わる事例です。

「東北のある水産ベンチャーは、主力製品を取り扱う時期が限定的だったため、他の時期にどのようなビジネスを展開すべきか課題を抱えていました。そこで、都内の水産系飲食チェーンで社長を務めた経験を持つ人物を、月5〜10日の副業という形で斡旋しました。その方が新たに開発した商品はあっという間に話題となって県知事賞も獲得し、現在では他の企業も含めた域内副業をしています」(小城氏)

image_event190614_04.jpeg副業・兼業型で地方企業を活性化させた事例

このように単に移住を促すだけではなく、時代に沿った形でのつながりも提案している小城氏。ただ、氏が属する日本人材機構は官が設立した企業であるため、できるだけ早く解散が義務付けられている存在でもあります。そこで、これまで同社が展開してきたビジネスを地域金融機関と地方大学にインストールする取り組みも進めていると言います。

「我々は地方の中小企業に伴走しながら経営課題の解決に取り組んでいますが、本来この事業は地域の金融機関がすべきことなんです。2018年には地域金融機関の人材紹介業参入が認められたこともあり、これまで蓄積してきたノウハウを地域の金融機関に伝え、地域で自走できるような仕掛けを行っています。
また、地方企業に転職する前に、都内のビジネスパーソンに地方大学の客員研究員になってもらい、そこで地方企業との関係を構築する試みも行いました。週に3〜4日は地方企業で働き、残りは大学で勉強をしてもらうというものです。この実験を半年に渡って行ったところ、9名中8名がその後企業への転職が決まりました。今後は他の地域・大学にも横展開していこうと検討しています」(小城氏)

小城氏は最後に、改めて「地方の可能性」を示して講演を締めくくりました。

「日本のGDP543兆円のうち、約6割は地方経済圏が作っています。それだけ地方にはポテンシャルがあるんです。つまり、地方創生は課題ではなく日本の希望と言えます。その鍵を握るのは、今大丸有などの都心で働く人々です。この層が地方に行くことが、日本の新しい成長につながると考えています」(同氏)

地方と都市で人材を共有する「逆参勤交代構想」

image_event190614_05.jpeg三菱総合研究所 主席研究員の松田智生氏

続いて登壇した三菱総合研究所 主席研究員 松田智生氏からは、都市の働き方改革と地方創生を同時に実現し得る「逆参勤交代」について紹介がされました。

松田氏が提唱する逆参勤交代とは、大丸有など都市の大企業で働くビジネスパーソンが、期間限定で地方へ行き、リモートワークで本業に勤しみながら、空いた時間でその地域に関連した仕事をするというもので、「都市と地方で人材を共有するシェアエリングエコノミー」を意味します。
逆参勤交代が実現すると、受け入れる地域やその自治体、送り出す企業、実際に地方に赴く社員には、それぞれ次のようなメリットがあると言います。

●地域・自治体
関係人口・担い手の増加、オフィス・住宅需要の増加雇用・消費の増加等

●企業
働き方改革の実現、地方創生ビジネスの推進、人材育成、メンタルケア等

●社員本人
ワークライフバランスの実現、心身のリフレッシュ、モチベーションアップ、セカンドキャリアの獲得等

こうしたことから、逆参勤交代は「三方一両得の施策」であると松田氏は話します。2018年度には、岩手県八幡平市、茨城県笠間市、熊本県南阿蘇村という三地域で実際にトライアル逆参勤交代を実施。多くの参加者から好評を博しました。さらにはこうした実績も認められ、2019年6月に閣議決定した『まち・ひと・しごと創生基本方針2019』の中で「企業と地方公共団体を効果的にマッチングさせるプラットフォームの構築等具体的な仕組みを検討する」という表現が盛り込まれました。

この流れをさらに加速させるため、今年も北海道上士幌町、埼玉県秩父市、長崎県壱岐市でトライアル逆参勤交代を実施するとともに、国際会議を開催して世界に課題を共有していきたいと、松田氏は話しました。

人材流動に必要なキーワードは「副業・兼業解禁」と「制度設計」

image_event190614_06.jpeg(左上)エコッツェリア協会理事長 伊藤滋氏 (右上)東京大学大学院 総合文化研究科 客員教授 小林光氏 (左下)小城氏 
(右下)松田氏

その後は、エコッツェリア協会理事長の伊藤滋氏、さらには伊藤氏の要望で飛び入り参加した東京大学大学院 総合文化研究科の客員教授・小林光氏を交えたパネルディスカッションが開催されました。

伊藤氏が最初に触れたのは、「東京から地方に行く人間は、売上だけを伸ばせば地方で評価を得られるのか?」ということです。これに対し小城氏は「売上と同時に利益も増やす必要はあるが、東京で働いている人であれば可能」と回答します。

「売上と利益をアップするには、企業の活動領域を見直したり、事業のあり方、売り方を変える必要もあります。つまり、単に営業力があればいいわけではなく、経営ができる人材が求められているのです。
もうひとつ必要なものとしては、人間力です。地方を見下して上から目線で取り組む人はどれだけ能力があっても地域に受け入れられませんから」(小城氏)

この回答を受け、伊藤氏は「例えば大企業から地方の支社に転勤する人の数を数倍にしてはどうか」と提案します。当然余剰人員が増えますが、その人員が地域企業との連携を深めたり、新規ビジネスの開発に力を注ぐことを促せるのではないかというのです。少々ドラスティックな案にも思えますが、小城氏は「例えば大丸有には28万人のビジネスパーソンがいますが、その内の5%でも動けば、この国は変わる」と話し、人材が流動する意義を強調しました。

次に小林氏からは「では、人材の流動性を促すにはどうすればいいのか」という問いが発せられます。小城氏が挙げたのは「副業・兼業の全面解禁」です。企業がオープンイノベーションを求めるのであれば、それを促進する副業・兼業を解禁し、より自由な働き方が推奨することが人材の流動につながると言うのです。さらに、松田氏は「制度設計」が必要であると説きました。

「江戸時代では、参勤交代をやらないとお家取り潰しというペナルティがありました。それと同じように大企業に対して、例えば逆参勤交代をしないと法人税を50%、実施すれば20%にするというように、逆参勤交代減税のような制度の導入が必要でしょう。
また、逆参勤交代のように社員を地方に送ることは、経営者自身が勇気を持つことが必要です。人材を第一に考えて腹を括れる経営者が表れるかも重要と言えます」(松田氏)

最後に小城氏、松田氏、伊藤氏からは会場の参加者に対して次のようなメッセージが投げかけられました。

「地方に行くと言っても、どこに行っても日帰りできますし、言葉も通じます。美味しい料理も待っていますし、何より地方で働く面白さがある。副業・兼業も解禁が進んでいくことになるので、ぜひ今後の人生の選択肢のひとつに、地方で働くことを入れていただきたいと思います」(小城氏)

「今日は"働き方改革"や"地方創生"の文脈で話をしましたが、何より大事な主語は"自分"だと思っています。地方を輝かせるために、企業を成長させるためにというだけではなく、"自分が輝く"ために、逆参勤交代について考えてみてください」(松田氏)

「これからは地方でも世代交代が進んでいきますし、特に農業や林業といった分野ではそれが顕著です。数十年後には大きなビジネスチャンスにつながる可能性は高いので、若いうちから地方に足を運び、そのチャンスを探してみてはいかがでしょうか」(伊藤氏)

来年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、東京に対する関心が高まっていきますが、それは同時に、東京一極集中がひとつの到達点を迎えるとも言えるでしょう。そうすると次に到来するのは地方の時代です。新・地方時代へ向けて、エコッツェリア協会ではこれからも地域活性化、地方×都市の取り組みを推進していきますので、どうぞご注目ください。

image_event190614_07.jpeg総会終了後には、「旅する料理人」比嘉康洋シェフによる料理を楽しみつつ、地方への思いを語り合いました

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