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【レポート】起業は働き方のアドバンテージに。三者三様の女性起業談

女性起業家支援セミナー「START UP セミナーfor WOMEN」 2019年9月24日(月)開催

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株式会社きらぼし銀行と株式会社日本政策投資銀行(DBJ)が主催した今回の「START UP セミナー for WOMEN」のテーマは「女性の起業」。中小企業庁が2012年に発表した日本の起業率は4.6%ですが、これは欧米の約半分ほど。そして、日本の起業家に占める女性の割合は3割にも達していないのが現状です。

ライフステージのイベントによって、生活や環境に大きな変化が生じやすい女性。その変化に応じた働き方の1つとして、起業が女性にとって大きなアドバンテージになると注目されています。今回は現役で活躍する女性起業家の方々を招き、リアルなエピソードを交えた事業紹介と事前アンケートで多かった質問をもとにパネルディスカッションが行われました。

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「起業の選択肢しかなかった」6年間の専業主婦を経て、起業の道へ

「起業の選択肢しかなかった」6年間の専業主婦を経て、起業の道へ

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まず初めに登壇されたのは株式会社ワーク・イノベーション代表取締役 菊地加奈子氏。
菊地氏は6人の子供を育てるママ起業家です。さぞやパワフルな方かと思いきや、「自分は大人しいタイプで起業家には向いていない性格だった」と語ります。
専業主婦が学生時代からの夢だったと話す菊地氏は、6年間の専業主婦を経て起業に乗り出すことになりました。そのきっかけは、夫が会社で受けたパワハラだったそうです。
2人の子供を育てていた当時、夫の給料が減っていくのを目の当たりにし、自ら働くことを考えました。しかし、子供の預け先が認可外保育園しかなく、2人で毎月15万円かかると告げられ絶句。6年間のブランクのある菊地氏がフルタイムで働いたとしても、社会保険料などを差し引かれたら手元に全く残らない計算でした。パワハラで精神的に追い詰められている夫と2人の子供を前にして、自分の無力さを痛感したと言います。

「主婦という立場のもろさを実感しました。何かをしたいというわけではなく、しっかり生きていくためには働きたいと思い、その選択肢が起業しかなかったのです。そして、会社で働く人には、その先の家族の生活もかかっているのだと強く感じた経験から『社会保険労務士』という資格が浮かびました」(菊地氏)

そうして資格を取得し、社会保険労務士として開業した菊地氏。3人目の子供が生まれたタイミングでもあり、保育園の存在に非常に救われたそうです。保育園に子供を預けながら事業に取り組んでいきますが、労務だけにとどまっていた事業にもっと幅をもたせたいと考え、新たな事業を模索し始めます。そこで思い浮かんだのが、自分にとってなくてはならない「保育園」でした。

自主運営という形でスタートさせた保育園は、考えていた以上に資金がかかりました。認可保育園であれば自治体の補助金が入るため、親の自己負担は2〜3万円ほどですみます。それが、自主運営でかかる経費を計算すると、保育料を12〜13万円にしなければ成り立たないという問題に直面。また、経営者として保育士さんと関わっていく中で、別の新たな問題も見えてきたと言います。

「子供の『育ち』を最大限に引き出してくれる重要な役割を担っているはずが、過酷な労働環境という『保育士の犠牲』のもとで保育園が成り立っている。そういった側面が見えてきた時、なんとかしないと自分の子供だけでなく日本の未来そのものが危ないと感じました。また、待機児童解消のために保育園を作っても根本的な課題解決にはならないことにも気づいたんです。多様な働き方に合わせて、子供を預けられるように仕組みを変えていかないと、利用しづらい。長時間働く親の子供が優先して入れるという制度にも違和感を感じます。こういった課題を社労士の立場としても提言していかなくてはと強く思いました」(菊地氏)

初めに作った保育園は事業としては成り立ちませんでしたが、事業を進めていく上での実績としては大きかったそうです。菊地氏は自治体の委員や相談員などを無償で引き受けることで、信頼関係の構築に力を注ぎました。その上で、自治体に課題解決のための提案をして、事業の予算をつけてもらうという、いわゆるプロポーザル方式で補助金事業を拡大していきます。今では保育園事業も安定してきました。

最後に、女性起業家が陥りやすい問題として「事業の拡大への不安」があると菊地氏は話します。
「事務所を借りれば家賃がかかるし、人を雇えば人件費がかかる。さらに銀行からの借金を考えると、事業が失敗する不安で眠れないこともあるかもしれません。でも、やっぱり人がいないと事業は大きくならない。私のやりたい事業のスケールは1人ではできないものだから、今の会社規模は自分にちょうどいいサイズだと思っています。今は規模の拡大よりも、自分自身のQOLを上げるにはどういう仕組みが必要かということに比重を置いていますね」(菊地氏)

自己実現をするための起業、そして働き方の1つとしての起業の側面をリアルなエピソードとともにお話いただきました。

夢だったアフリカでの起業を実現。「ものづくりで人づくり」を志す

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次に講演していただいたのは株式会社RICCI EVERYDAY(リッチエブリデイ)代表取締役 中本千津氏です。アフリカンプリントと呼ばれるカラフルで大柄なデザインが特徴の布を使用したバッグをはじめとする布製品の製造、販売事業を行なっています。
大学時代にアフリカ政治の研究をしていた頃から、漠然と将来はアフリカの開発課題に携わりたいと考えていた中本氏は、大学卒業後に銀行に就職。アフリカへの夢は持ちながらも多忙を理由に見送り続けていたと言います。そんな中本氏に転機が訪れたのは、3.11東北大震災が起こった年。
「自分の人生はいつ終わるかわからない。自分がやりたいことをこれ以上先延ばしにできないと思い立ち銀行を辞めました」(中本氏)
その後、NGO業界に就職し毎月アフリカに出張する生活へと大きく舵を切りました。

アフリカのウガンダに駐在が決まった中本氏は、見聞を広めるために仕事終わりの夜や休日に街へ繰り出す生活を続けていました。そしてある日、ローカルマーケットの一角にうず高く積まれたカラフルな布に目を奪われます。アフリカンプリントと呼ばれるその布は、2014年当時まだ日本のファッション業界に流通していませんでした。中本氏はこのアフリカンプリントを使ったビジネスを思いつきます。

また、ウガンダの街を見て回るうちに、もう1つ別の意味で目を奪われる出会いがありました。その出会いとは、4人の子供を育てていた、あるシングルマザーとの出会いです。ウガンダでは女性が1人で子供を育てている環境は珍しくありません。そして、ほとんどの場合、彼女たちにまともな仕事はなく、子供を学校に行かせることができないのです。しかし、中本さんが出会ったシングルマザーは、家畜を育てて売るというある種の投資を行いながら子供を学校に行かせていました。なんとか知恵を絞って生活を変えようとしている姿勢に、中本氏は可能性を見たそうです。

「ウガンダの最高峰と言われる大学を出ても、定期的な収入が得られる職につけるのは20%ほどです。失業率が非常に高い。個人事業主がほとんどで収入が安定しないから、長期的に人生設計するのが難しいんです。そんな情勢の中でも、実はやる気と技術を持った人材はいます。そういった人材を巻き込んで定期的な収入を得られる環境を提供できないかと思ったのが、この事業を立ち上げたもう1つの理由です」(中本氏)

現地の女性3人と中本氏の4人で始めた製品作り。その現場を顧客にも知ってもらう機会を設けるために、日本の直営店にはVR装置が設置されています。より顧客から見えるブランドを意識し、現地製造スタッフにも積極的に「あなたたちは、ウガンダで1番のクオリティの製品を作っているのだ」と呼びかけているそうです。定期的な収入の提供に付随して、製造スタッフの彼女たちのメンタルにも良い変化が起きています。自分が家族を支えているという自負心と自己肯定感が生まれ、いきいきと働くようになったと言います。「もの作りを通した人づくり」にこれからも注力したいと語る中本氏。
今後は雇用人数を増やしていくとともに、ウガンダで個人事業主として働く多くの人々に対するセーフティネットの仕組みも考えています。

「従業員こそが大事なステークホルダーだと考えています。彼女たちが良い製品を作り、お客様は良いものを手にしてハッピーになる。そしてフィードバックをもらい、彼女たちのモチベーションが上がって、さらに良いもの作りができるという循環ができています。また、経営者として大切にしているのは『鳥の目と虫の目』です。目の前の従業員だけでなく、ファッション業界の流行や再来年に行われる大統領選挙の動向にも広く目を配る。時代の流れにアンテナを張り、自分の仮説を立ててPDCAサイクルを回すことが大事ですね」(中本氏)

中本氏が事業を大きくしていく上で非常に助けになったことの1つが、DBJビジネスプランコンテストだったと言います。資金面でのサポートだけでなく、経営メンタリングや事業相談、女性起業家同士のコミュニティの紹介があるDBJ。
「起業して終わりではなく、起業してから出てくる課題に対して、答えを出すために必要なアイデアや知識が得られるのはありがたいです。外部のメンターや女性起業家のネットワークの中でたくさんの視点に気づかされました。起業を目指している方は、ぜひビジネスプランコンテストに参加すると良いと思います」(中本氏)

起業とはその人の生き方。それぞれが語る起業のエピソード

ここからは、講演をしていただいた菊地氏と中本氏、そして株式会社HERBIO(ハービオ)代表取締役 田中彩諭理氏を加えてパネルディスカッションに移ります。

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田中氏は基礎体温ウェアラブルデバイスと健康管理アプリケーションの企画・開発を行う女性起業家。自身の重いPMS症状の改善のための体調管理の方法として、基礎体温計に着目しました。また、介護していた祖父の体温測定が難しかった経験もきっかけの1つです。さまざまなタイプの体温計がありますが、そのどれもが測る位置が少しずれると正確でなくなったり、測る最中に違和感を感じることに問題点があると語る田中氏。
女性目線で使いやすい製品がなかったので、「だったら私が作ろう」と始めたのが起業でした。

モデレーターを務めるのはDBJ女性起業サポートセンター長 沖田恭昭氏。事業の種類がそれぞれ異なる3方へ、質問形式でパネルディスカッションを行なっていきました。

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沖田:創業期や今現在の苦労がありましたらお聞かせください。

中本:1つは人間関係です。ウガンダで全く価値観の異なる人々と一緒に製品を作り上げるわけですから、まず必要なのは信頼関係を築くこと。自分の価値観や期待値をフラットな状態にして、相手に接することに注力しました。
もう1つは資金調達。投資家からお金を集めずに、自己資本だけでは勝負できませんでした。そこで、政策金融公庫に駆け込み、お金が必要な理由を説明して交渉します。もともと銀行に勤めていたので資料作りは得意でしたが、キャッシュフローの部分を理解するのに苦労しました。
今も苦労しているのは、機会損失をどう埋めていくかです。マスメディアに出ると一気に需要が高まりますが、うちは大量生産モデルではないので売り逃しが発生します。需要と供給のバランスをとるにはどうすれば良いかは今も悩みどころです。

菊地:私は事業をプレゼンすることに苦労しました。企業に飛び込みで営業に行くなんて主婦をしていたうちは考えられなかったけれど、それでも意を決して訪問するわけです。
でも、資料もきちんと作れていないし、うまく説明できない。その部分を学ぶために相談すると、いろんなセミナーを勧められるのですが、子供が小さいので夜は出かけられないし時間自体も限られている。
考えた末にプレゼンに命をかけることはやめました。文章を丁寧に書くことや、聞かれたことにとっさに返すことは、容易周到に準備すれば自分でもできる。割り切って、できることに注力しました。
今でこそ、苦手なことは人に任せられるようになりましたが、最初はなんでも1人でやらなきゃいけないですよね。サービスを提供しているから対価を請求するのは当たり前なんですけど、初めは請求書を送るのも気が引けて......。事務手続きの煩雑さに半日かかってしまうこともあり苦労しました。

田中:うちの場合は製品を開発するので、先行投資が大きかったことに苦労しました。例えば開発費に2千万、薬事承認で数千万かかる時、資金調達のために投資家に説明しなければならない。投資家の方は男性が多いのですが、そこで女性の基礎体温計の説明をしてもなかなか理解してもらうことが難しかったですね。

沖田:資金調達について特に苦労した点はありますか?

中本:私は銀行から融資を受ける以外に、ビジネスプランコンテストで賞金をいただいたり、中小企業庁の創業支援サポートなどの補助金を積極的に受けにいきました。応募して、面接しての繰り返し。民間でも、アフリカで起業する人をサポートする団体があったりします。少しでも事業を前倒しで大きくできる様にしようと資金調達には注力しました。

菊地:保育園をつくる時には資金がたくさん必要でした。銀行に事業説明しに初めて行った時はボコボコに返り討ちにされましたよ(笑)。
ただ、銀行員さんも「それ儲かるんですか?」から始まり、いろんな質問をしてくれるんです。粘り強く根気強く説明して、質問を返されてのキャッチボールの中で、事業計画がすごく整理されていきました。それがあったから考えるクセもついたし、こういう様に交渉しないと事業は成り立たないんだということを学ばせていただきました。

沖田:プライベートとの両立はどうしていますか?

菊地:最初に起業する時に夫と話しました。「自分の時間を自由に使うために起業をするので、家のことはきちんとやります」ということで夫に了承をもらったのですが、仕事をやればやるほど楽しくなってしまうんですよね。タガが外れて何度も離婚危機に陥りました。
でも、仕事で家庭を壊すということは絶対にしないと夫と約束していたので、思いはぶつけても良いけど必ず仲直りするようになりました。自分の本気が伝わると夫も働き方が変わってきて、今では毎日子供の面倒を見てくれています。根気強く話して理解を得ることが大切ですね。

田中:私はもともと働くのが大好きで、土日もいらないくらい仕事に夢中になるタイプ。
でも結婚はしたいと思っていたので、私は相手を探す時点で「自分はバリバリ働きたいタイプ」だと表明していました。「会社と従業員を守ることが最優先だから、あなたは二の次三の次。私の顔を立てて、協力してくれないと会社は死ぬけどあなたは死なないでしょ」という感じで今年結婚することになりました。(笑)

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沖田:これから起業する方にメッセージをお願いします。

中本:あまり怖がらずに、まずは小さく始めれば良いと思います。うまくいけば少しずつ大きくしていけば良い。私は結構臆病なタイプだったので、アフリカで起業する目標を置いてから逆算して、今何をしたら良いかを着実に積み重ねていきました。
不安だったら、自分がやりたい事と同じ事や、似ている事を体験してみるのはすごく良いと思います。お金をもらえるかもらえないかに関わらず経験は大事です。

菊地:私もビジネスプランコンテストをたくさん受けました。3〜4年前に受賞した時のプランが、実は今の事業の方向とは全く違っています。でも、軸が変わっていなければそれでも良いと思うんです。
自分の軸を突き詰めていくと、枝葉のプランは別の形に進化することもある。大事なことは何度もブラッシュアップし、いろんな人にアドバイスを受けることです。そういった機会があればどんどんチャレンジした方が良いと思います。

田中:さまざまな起業家支援プログラムがあると思いますが、私も積極的に利用させていただきました。今ではDBJさんが主催しているコンペでのつながりを駆使して、プランやマネタイズで不安があった時にはどんどん発信する様にしています。
「今、資金調達に困っているので誰か紹介してください」とか「このプランにつながりが持てる人いませんか」など、恥ずかしがらずに相談し、そこで解決したことがたくさんあります。
また、起業はすごいことではなく、1つのあり方です。自分の働き方の延長上に、起業しないと実現できないことがあるならば、どんどんやってみたら良いと思います。

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その後、質疑応答時間が設けられ、会場参加者からのリアルな経営に関する悩みに対しパネラーが具体的なアドバイスを投げかけました。ネットワークの時間では、参加者とパネラー、主催関係者と直接コミュニケーションを交わす場が持たれました。
幅広い年代の女性が参加された今回の女性起業家支援セミナー。女性の1つのあり方として起業が見直されており、具体的な行動のための足がかりを求めている方が多いことが明らかになったのではないでしょうか。
起業は不安が伴うものですが、経験者や同じ志を持った方々とのコミュニケーションで解決することはたくさんあります。今後も3×3Lab Futureでは女性の創業や起業に関するセミナーを積極的に行なっていきますので、一歩を踏み出したいと思っている方々の参加をお待ちしております。


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