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【レポート】リビングラボは「手法」ではない

第4回 さんさんストラテジックミーティング@オンライン  2020年7月31日(金)開催

8,10,11

7月31日に、第4回さんさんストラテジックミーティング@オンラインを開催。30名弱のメンバーが集まり、今回のテーマ「リビングラボ」について活発な意見交換を行いました。

「リビングラボ(Living Lab)」とは、一般に市民参加型のイノベーションシステムや拠点とされていますが、その有り様は多様で、今回のゲストである東京大学先端科学技術研究センター(以下、東大先端研)特任助教の近藤早映氏は「いろいろな形があって答えはないもの」としています。東大先端研は、2018年に「地域共創リビングラボ」を設置、日本各地で地域との協業によるリビングラボを実践し、さまざまな実証事業を展開しています。この日は、近藤氏の活動紹介を聞いて触発されたメンバーが「自分は地域でこんなことをやっている」とレポートしあう、今までにはない形の議論となりました。

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未来社会をデザインする

「未来社会をデザインする――東大先端研の地域連携―」東京大学先端科学技術研究センター 特任助教 近藤早映氏

東京大学は11の附置研究所を持っていますが、先端研はその中でも特殊な研究所です。文理融合型で多岐にわたる専門分野の研究者が横断的かつダイナミックに連携している点に特色があります。近年では、センター所長・神崎亮平氏のリーダーシップの元、科学研究の新しい方向性を探っています。

「附置研究所の所長は1期で変わるのが普通だが、神崎先生は2期目。それだけ方向付けが認められているということだと思う。神崎先生は、科学研究の価値を多様化し、多様な人々に対し有用性を高めることが重要であり、そのためには人々に寄り添い、心を開いて対話しなければならないとしており、リビングラボはそのつながりのための場」だと近藤氏は話します。

もともと東大先端研は地方との結びつきが強く、自治体と包括連携協定を締結して進めている研究事業が多数ありました。リビングラボはその成果のうえに開設されたもので、現在14の地域でプロジェクトが進められています。地域共創リビングラボは、地域側では行政、地域企業、市民、地域大学など多様なプレイヤーが参画する「参加型」で、先端研側では地域課題に対する研究者を起点に、先端研内部のさまざまな研究者が横断的に連携するというスタイル。分野横断的に連携するのは非常に珍しいうえ、さらに先端研以外の東大の附置研究所・機構も連携することもあります。

「思いを共有する人たちが集まって共創するのは決して簡単なことではなく、常に試行錯誤ではあるのだが、このダイナミックでフラットな関係性が、リビングラボを意味のあるものにしていると言えると思う」

と近藤氏。また、各地域でのリビングラボの活動は、地域ごとの課題にフォーカスしていくため「フレームに当てはめてやるものではないし、常にオーダーメイド」であるのですが、どの地域でも「らせん型」の運動体を目指しているのが共通している点だと近藤氏は話します。

地域共創リビングラボで展開しているリビングラボのスポット(東大先端研・地域共創リビングラボのサイトより)

「研究者が解決を提示して終わりのような一方通行ではなく、地域が主体的に動けるようなサイクルを作らなければならないのがリビングラボ。そして、実験的にテストをしながら体制をつくり、今度は違う形・地域で実施したりするような横展開をして、さらに新しいテーマを見つけていく、そんならせん型を作るのが理想の形である」と近藤氏は述べました。

そして、具体的なリビングラボの実施例として、福島県いわき市の「エコプロフィット事業」、熊本県の「GBER(ジーバー)熊本版」、東京都渋谷区を舞台にした東急不動産とのリビングラボ共同研究などを紹介しました。

いわき市のエコプロフィット事業は、福島県の「福島イノベーション・コースト構想」に基づき市が進めている、風力発電による持続可能なまちづくりを支援する形で設定されたもの。「風力発電」「エネルギー事業」と区切ってしまうと関連する企業が限定されてしまいがちですが、持続可能なまちづくりの実現に必要なのは、すべての業種業態、企業が参画することで、「街のパン屋さん、雑貨店のようなプレイヤーにこそ入ってもらう必要がある」と考えたそうです。そこで、環境経営を地域の中小企業に指導・教育するドイツのエコプロフィットを日本で初めて導入し、多様なプレイヤーとワークショップを重ね、具体的なアクションプランの策定まで進めました。

「たかがワークショップだが、されどワークショップで、非常にイノベーション思考の強い、出口を見据えたアクションプランを生み出すことができた。うまく回せたのは、いわき市から先端研に職員が派遣されており、地域メンバーとして入ってくれたという理由もあっただろうと思う」

いわき市版エコプロフィット事業(当日の資料より)

続いて、熊本版GBERとは、高齢者の社会参加機会を拡張する取り組みで、東大柏キャンパスで開発されたプラットフォームアプリのGBERを、熊本版にバージョンアップして導入したもの。高齢者の興味関心に基づき、仕事の場を提供するマッチングプラットフォームで、高齢者の活躍、社会参加だけでなく、孤独死防止、高齢者の引きこもりを防止するといった健康面でも一定の効果が認められたそうです。

最後に、東急不動産との共同研究では、再開発でリニューアルオープンした東急プラザの新しいサービスを、運営母体である東急不動産、テナント企業、東大先端研の研究者の3者で検討・協議したというもの。リニューアルにあたり「都会で暮らす40代以上の成熟した大人」をターゲットにするとコンセプトを立てたは良いものの、どんなサービスやデザインができるのか、まったく白紙であったため、一からディスカッションしたそう。「東急不動産としては、テナントと新しいサービスを議論することがなかったため、新しい対話の場ができたと高く評価していただいた」と近藤氏。このプロジェクトについて、コロナ禍の現在はオンラインではあるが、継続して取り組んでいくそうです。

そして、「まだ2年」「試行錯誤」とはいえ、リビングラボの活動は研究者の間でも高く評価されており、地域共創リビングラボに参画している小泉秀樹氏(先端研・共創まちづくり分野教授)、牧原出氏(同・政治行政システム分野教授)が語っている期待の言葉を紹介。

「研究者の力を必要とする地域があることは感じていたが、研究者がそれを一手に引き受けるのは難しかった。しかし、リビングラボとして先端研が引き受けてくれることで、まさに先端的な連携・活動ができる。一般的なリビングラボとは異なるが、先端研ならではのリビングラボを生み出していきたい」(小泉氏)

「リビングラボを舞台に、研究者同士がつながり、地域のつながりが生まれていることを感じている。このつながりをダイナミックに広げていきたい」(牧原氏)

近藤氏も今後のリビングラボのあり方について、次のように述べて話題提供を締めくくりました。

「研究機関とはいえ、上から目線で『こんなシーズがありますよ』と言うのではなくて、我々も一緒に手を動かし、汗をかいて、地域の皆さんと、その地域だけのリビングラボを作りたいと思っているので、ぜひ、地域で頑張っている皆さんと連携していきたい」

地域で活動するストラテジックミーティングメンバー

話題提供を受けて、後半はストラテジックミーティングメンバーが順番に、それぞれが取り組んでいる地域での活動、それもリビングラボ的な事業について紹介していきました。以下、主だったメンバーの発言を取り上げます。

吉田敦也氏。当日の発表資料より抜粋

吉田敦也氏は、地方創生、教育等を専門とする研究者で、徳島大学では地域創生センター長を務めた人物。退官後は地方創生を主業とする「テクサラダ」を起業、2018年に徳島県小松島市と共同で科学技術振興機構(JST)のプロポーザルを取り、「こまつしまリビングラボ」を設立。そこから、地域の古民家、酒蔵を利用したホテルを作りだそうというプロジェクト「こうのとり学校 酒蔵ホテルワークショップ」をスタートさせました。これは旅行者が地域を知り、感性を磨き、農業にチャレンジするまでのステップを提供するプログラムツアーの計画でもあります。紆余曲折を経て、現在では小松島市だけでなく3×3Lab Futureでもワークショップを開催し、今後も活動を横展開させていこうとしています。

吉田氏は3×3Lab Futureでのワークショップの成果を「当事者や仲間を拡大していくには、地域の課題を社会に大きく拡大する必要があるが、3×3Lab Futureにはその機能があるのではないか」と述べ、その機能が、世界的なリビングラボ研究でその重要性が指摘されている「スケールアップ」と呼ばれるものであるとも指摘しました。

また、オンタイムでの実践を通して得られた気づきとして、「リビングラボはテクノロジーベースで進めると動きやすい」「リビングラボは『手法』ではなく集合知」「ファシリテーションが重要」「強力な意志が必要」の4点を挙げ、次の議論への話題提供としました。

NTTデータの吉田淳一氏は、ITによる人のつながりを提唱していますが、特にコロナ禍の現在では、東京都等の大都市部の行政から、サーキュラー・エコノミー、スマートシティの構築についての依頼を受けることが多いそうです。「地域をどうするかというより、都市の課題についての相談が多い」と吉田氏。その解決策のひとつとして、「ITによる期限付き擬似的養子制度」を提案しており、その例としてブラジルと北米をつないで行われる英会話教室の例を紹介しました。

吉田淳一氏が紹介したブラジルのオンライン英会話サービス(当日の発表資料より)

大成建設の小野眞司氏は、定年を前に退職する予定で、生まれ故郷である広島県福山市にUターン移住、氏が「シェア・リビングラボ」と呼ぶ施設(場)を開設するための準備を進めています。小野氏はこの7年、福山市でフューチャーセッションを開催するなど、地域活性化の活動に取り組んできました。「アカデミックでも企業でもなく、ボトムアップ的に地域の人が入ってきて、一歩を踏み出し、未来のステークホルダーになれるような場所を作りたいと考えてきた」と小野氏。地域のために何かしたい、しかし誰とつながっていいか、どこから着手していいか分からない。そんな情熱ある地域の人が「最初の一歩を踏み出すための場」、それがシェア・リビングラボというわけです。「都会のコワーキングスペースのようにドーンとではなく、小さな空き店舗などを使って始めたい」と話しており、移住先の新しい自宅のデッキもそのために開放する予定であることも紹介しました。

富山市も、コロナ禍の現状を受けて、新たな活動拠点「スケッチラボ」を開設します。富山市の中村圭勇氏は、新型コロナウイルス感染症によって、富山市のコンパクトシティとしての都市経営が困難に直面している今、新たな戦略が必要であり、そのための活動を生み出す場としてスケッチラボを活用したいと述べています。「富山市はコンパクトシティとしてハード寄りの政策で、いわば『密』を作り出すことで都市経営を効率化させてきた。そこへ「密」の管理が不可欠となり、新たな発想が必要とされる今、市全体をラボに見立て、さまざまな人が集まってイノベーションを起こすことが求められている。スケッチラボはその策源地としたい」。また、2019年には、3×3Lab Futureにゆかりあるメンバーによる富山視察も行われ、そこで「行政課題」と「地域課題」は違うものでは?と指摘を受けたことが、官民連携を推進するうえでの大きな気付きだったとも語りました。

富山市のスケッチラボのパース、ロゴ(富山市のサイトより)

通称「パチさん」で知られる八木橋昌也氏は、勤務するIBMでの東京電機大と共同でリビングラボを設置している活動を紹介。主眼は行政の持つデータを活用したデジタルプラットフォームの構想にありますが、重要なのは「住民」であると指摘。「長野県の小谷村でのリビングラボの活動を通して、アカデミックも企業も行政も、実は意外と地域住民のことを分かっていないことが見えた。地域の人々を真ん中に置いて、彼らがハッピーになるにはどうしたらいいのか? イシューを解決するのではなく、地域に人材を作っていくことが重要なのではないかと思った」と話しました。

昭和女子大学現代ビジネス研究所 研究員の大賀暁氏は、犬を中心とした成熟社会の形成に取り組んでおり、これを「INUVATION(犬ベーション)」と呼んでいます。犬をペットとして飼う人は日本ではマイノリティですが、もしマジョリティになったとしたら、どうなるか。行政、産業、金融等、さまざまなレイヤーで、犬を軸にした結びつきが生まれ、コレクティブインパクトを生み出すことができるのではないか。「今日のテーマであるリビングラボは、INUVATIONで構想していることにぴったりマッチすると思った。すでに秋田県大館市では秋田犬を中心とした観光拠点が設置されるといった事例があるため、ペットの犬を軸にしたリビングラボ、まちづくりには可能性があると改めて感じた」と大賀氏は述べています。

次回に向けて

他にも多くの活動内容紹介や、それぞれの立場からのリビングラボへのアプローチなどが語られ、これまでのストラテジックミーティングよりも、各メンバーの活動が浮き彫りになり、「3×3 Lab Futureのリソースを活用する」というストラテジックミーティング本来の目的に近づいたようにも思われます。冒頭で話題を提供した東大先端研の近藤氏は、今回のミーティングに対して次のように感想を述べています。

「リアルに地域でリビングラボの活動をしている人、アイデアを持っている人の話を伺えて、非常に学びになった。リビングラボは手法ではないが、何をするところなのか、という手法についての質問も多い。そこをどう位置づけ、どう伝えるかは、今後のアカデミアの課題だと感じた。

また、今日はスケール感の違いも如実に感じた。それぞれの実例のスケールが異なり、地域によって、行政が感じる課題と市民が感じる課題のスケールに違いがある。その点で思ったのは、行政、市民と強い線引をしなくて良いのではないかということ。行政職員だって市民だし、地域企業の人だって市民。大切なのは、その人達が自分事にして継続的に取り組む体制をつくることで、そのためには『切り口』を作ることと『日常化』させることが重要。これを意識的につなげていくことが大事かと思う」

本ミーティングを主催するエコッツェリア協会の田口は、リビングラボを巡って活発に議論が交わされ、それぞれの活動が浮き彫りになったことは良かったと話す一方で、「課題が深まった部分がある」と感想を述べています。

「リビングラボは、フューチャーセッションとは違って『何かやった感』が出やすい。今さまざまな地域で実践に動く声が多く上がっているが、リビングラボはソリューションではないということを皆で認識して進めていく必要があると感じた」

次回のストラテジックミーティングは、田口が「待ったなしの問題になった」と言う「複業」をテーマに開催する予定です。さらに高いステージでの議論となることが期待されます。


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