イベント特別イベント・レポート

【レポート】北海道・十勝 朝ドラを起爆剤に、"メディアとしてのホテル"を目指す

旅のはじまりナイト@東京 with 地域創生de丸の内  2019年1月31日(木)開催

11,17

地方創生に取り組む各地域について学び・交流・体験を行うエコッツェリアの【丸の内de地方創生】シリーズと、北海道十勝地方の中心都市「帯広市」にある「HOTEL NUPKA」(ホテルヌプカ)が全国各地で開催している「旅のはじまりナイト」がコラボして行われた本イベント。十勝を舞台にした短編映画の上映に、トークセッション、さらに十勝のローカルフードをオリジナルのクラフトビールとともにいただけるといった盛りだくさんの内容に、この夜のチケットは前売りだけで早々に完売するという人気ぶり。会場は関係者も加えておよそ100名もの人々で溢れかえりました。

モデレーターは「HOTEL NUPKA」の柏尾哲哉さん。実はすでに20年以上東京で弁護士をされているという柏尾さんですが、故郷・十勝への強い思いから、数年前よりホテルをはじめ、次々とおもしろい取り組みを展開しています。

「十勝は、東京から約1000キロ離れた食の豊かな場所です。そこにあるHOTEL NUPKAが、なぜ東京でイベントをしているのかということについて、少し歴史を振り返ってお話したいと思います。まず、2013年のことですが、東京で活躍する十勝出身者の仲間が集まって、何かおもしろいことをしよう、と。特に地元・十勝の魅力を世界に発信したいというような思いがありまして、そこから映画をつくろうということになりました」

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「最初は軽い気持ちでしたが、クラウドファンディングで資金調達をして、十勝出身の逢坂芳郎さんが監督を引き受けてくれて、そして出来上がったのが本日ご覧いただく、『My little guidebook』。とても素晴らしい作品です。当初は映画のことしか考えていなかったのですが、映画を見て世界から十勝に来てくれる人をおもてなしする場所を自分たちでつくりたいと思い、急に飛躍するんですが、ホテルを始めました。2016年3月に、帯広の駅前にある古いホテルの建物を買い取って、フルリノベーションでHOTEL NUPKAをつくりました。併せて、NUPKAを訪れてくださるゲストに飲んでもらうクラフトビールをつくろうということで、ビールも一度もつくったことはなかったのですが、今日お飲みいただく『旅のはじまりのビール』もつくりました。こういう形で、ゼロから始まって3年間に映画、ホテル、ビールと相次いで生まれていきました。
今年2019年、ホテルの開業から3年経って、だいたい2万泊以上のゲストにこれまで滞在いただいています。オープンした時は不安でしたが、幸いにも多くの方にご利用いただいている状況です。そんな中で思うのが、数多くある観光滞在先の一つに留まる、それを超えていきたい、という思いが沸々と湧いているところです。すぐに忘れ去られる場所にはなりたくない、もう少し強い関係性を持てないだろうかと思っていて、そういうような目で時代の流れを見ていくと、おそらく旅と暮らしと仕事とがニアリーイコールで接近していく時代が生まれつつあるんじゃないかと感じています。東京の暮らしと地域の暮らしについても、もっと新しい関係性があるんじゃないかなと思っています。今日は東京で暮らす皆さんの中で、どう十勝なり、地域が見えてくるのかという問いかけ、語り合いができるような場、時間にできればと思っています」

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ホテルのオリジナル、クラフトビールで乾杯

ホテルのオリジナル、クラフトビールで乾杯

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柏尾さんのあいさつに続いて、『旅のはじまりのビール』での乾杯になります。

日本では珍しく国産の大麦を使ったこのビールは、十勝・士幌町にある岡田農場でとれた大麦だけを使用。これを精麦して、麦芽になったものが、「小樽ビール」の醸造家の手によって醸造されています。「クラフトビールを片手にこれから始まる旅の話をしよう」というコンセプトで、十勝のデザイナー「チームヤムヤム」がデザインを担当。麦の香りとコクが口いっぱいに広がるこのピルスナーは、農林水産省のフードアクションニッポンアワードというコンテストでは、1000商品もの中からトップテンに選出された一品です。この日は技術指導としてこのビールの誕生にかかわった醸造家の本庄啓介さんも来場されており、柏尾さんに紹介され、笑顔で手を振っていました。

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そして、おつまみに用意されたポップコーンももちろん十勝産。本別町の前田農産さんの『十勝ポップコーン』は、電子レンジでチンするだけでポップコーンができてしまうというユニークな品だと、柏尾さんが説明をします。
そしていよいよ、全員で「乾杯!」
参加者の各テーブルではそれぞれがビールを注ぎ合うことで、徐々に打ちとけ、交流がはじまっていきます。

世界の人に十勝の魅力を伝える映画の上映

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続いては、「My little guidebook」の上映です。この映画は、台湾の旅行社で働く若い女性が、新しい観光資源を発見するため、十勝を訪れる。言葉もよく分からない中で、地元の人々に助けられ、ドラマが生まれていく...というストーリー。ほぼ全編中国語で展開する、27分の短編映画です。画面に美しく雄大な十勝の自然が映し出されると、来場者の感嘆の声も聞こえてきます。地元出身監督ならではの、十勝の魅力を存分に伝える映像でした。上映後には、その逢坂芳郎監督と主題歌と音楽を担当されたロビンさんが登壇しました。逢坂監督が、「この映画を見て十勝に来たくなった人、手を挙げてください」というと、場内のほとんどの人が挙手。「これでこの映画の成功が証明されたということで」と、おどけながらも、とても満足そうな逢坂監督でした。

厳選された素材だけを使った十勝のローカルフード

そしていよいよ、十勝のローカルフードが提供されます。プレートの上に並べられた品は、次の通り。

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●十勝牛のロースト
●音更鶏のレバーペースト&風土火水柚子パン
●しあわせチーズ工房 幸
●折笠農場無農薬さやあかねと自家製アンチョビのサラダ
●ふたば農園無農薬のピクルス(紫人参、菊芋、大根など)

HOTEL NUPKAの所村シェフが、料理の説明をします。
「まずは、十勝牛のローストですね。やはり寒暖の差があるので、お肉は美味しいです。次にポテトサラダ。これは帯広の幕別町の折笠農場さんの、無農薬自然栽培のさやあかねというお芋を使っています。自然栽培というのは肥料も使っていません。土の中の微生物を最大限に活かして野菜を成長させるという、無農薬で、さらにその上をいったようなつくり方をしています。続きましてピクルスですが、根室町のふたば農園さんというところの野菜を使っています。こちらも先ほどの折笠さんと一緒で、自然農法と無農薬なんですが、こちらはさらにローエネルギーをうたっていて機械も使っていません。手作業です。1ヘクタールくらいの農場ですが、ほとんど一人で、年間200位の野菜をつくっています。チーズは足寄にあるしあわせチーズ工房の「幸」というもので、三角形のチーズが8か月、四角形は18か月熟成させています。たぶん味覚のあまり鋭くない人でもすぐわかるチーズになっていますので、ぜひ味を食べ比べてみてください」

プレートの上に何気なく置かれた食材ですが、自然と共に生きる十勝の生産者さんたちのこだわりがたっぷりつまっていることが伝わります。

image_event0131_07.jpegさらにドリンクにワインも加わるということで、提供された「深川ワイナリー」の中本社長が3本のワインについて説明をします。深川ワイナリーはその名の通り、東京の会社なのですが、中本社長はHOTEL NUPKAが大・大・大好きというリピーターで、最後には「いい人といい食べ物と美味しい空気と楽しいことしかない。都会の喧騒と慌ただしさとストレスに疲れたときには、ぜひNUPKAに行っていただければと思います。今年私は北東が鬼門なんで、来月は西新井大師さんに行ってからNUPKAに行こうと思っています」と語って会場の笑いを誘っていました。

朝ドラ『なつぞら』を契機に、特別な一年に

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ここで15分程度の歓談タイムを挟み、<トークセッション>が行われました。 来場者は十勝のローカルフードに舌鼓をうちながら、耳を傾けます。

まずは柏尾さんが、「2019年、十勝に何かが起こる」と題して、話の口火を切ります。最初に口にしたのは、4月から放送される、十勝を舞台にしたNHKの朝ドラへの期待でした。
「2019年という年は、十勝にとって、とても大きな意味のある一年になりそうだということで、その一つですが、今年の4月から約半年間、『なつぞら』という十勝を舞台としたNHKの朝ドラが放送される予定です。しかも主演が広瀬すずさん。これを一過性の注目にしないで、きちんとした関係を持てるように、いろいろ仕掛けていきたい、取り組んでいきたいと思っています」

「特別な一年となりそうです。その中で、旅と暮らしと仕事というキーワードの中で新しい関係が生まれていくのではないかと思っています。ちょっと専門的な話をすれば、マズローの欲求5段階説というものがありますが、物質的要求からもっと高次の自己実現的なものに向かっていくという流れがあります。それはおそらく都心、都会で暮らす人たちがもっと自分自身のストーリー、人に言われたことをやるんじゃなくて、自分自身が信じることをやりたいという流れが生まれるんじゃないかと思っています。そういうものがワークシフトとかライフシフトみたいな形で語られるようになってきましたけれども、私たちはそういうものを、十勝の大自然と街を旅するホテルという形で受け止めたい。普通ホテルはベッドを貸して泊まる場所というイメージがありますが、僕らはホテルを拠点に自然と街を旅して欲しいと、そういう考え方で取り組みを続けています」

「具体的には、都市圏に住んでいる方がとりあえずNUPKAに来て、そこから街を歩くという体験を楽しんだり、あるいは車で郊外に出かけて、犬ぞりを滑ったり、馬と戯れたりする場所、そんなモデルを作って行きたいなと思っています。その帯広の街中体験ですが、たとえばNUPKAから徒歩30秒くらいのところにある『北の屋台』なんかは、すごく楽しい場所なんですね。もともとは誰も使われていない駐車場だったところを屋台にしたことによって、人のにぎわいが生まれてきたというもので、僕らも大好きな場所です。我々の考え方というのは、そういう楽しい場所が街全体に拡張していくというもので、街全体を一つのホテルとして見るという、"まちやど"という考え方がありますけれども、街をにぎやかにして、人が集まって、という形を作っていきたいと思っています。そういうやり方をすることによって、町に対するホテルからの影響力というものもつくれたかなと思います」

「法律的にはサテライト型簡易宿所(注:異なる場所に立地する複数の客室を一つの玄関帳場で管理、運営するスタイルの宿)という規制緩和があったりしたことも踏まえてなんですけれど、具体的な取り組みとして、町中にあるお店は僕らのレストランですよ、という形で絵葉書を作ってみたりとか、NUPKAとは違う建物のなかにONNAY(オンナイ)というラウンジを作ってみたり。これはぜひ皆さん来ていただきたいのですが、ホテルに宿泊された人は朝7時から、夜11時まで無料で使うことができ、仕事をする場としてもとてもいい場所になっております。月に1~2回、映画上映会のイベントをここでやっていたりします。2月22日から24日は、『とかちリトル映画祭』ということで、さっき登壇された逢坂さんのプロデュースで映画祭を開催する予定です。また、街を楽しめる、帯広の夜の探検ツアーも不定期でやっています。そして、ご注目いただきたいのが、『馬車BAR』です。馬車を夜の街で走らせる。しかも馬車の中がバーになっているというものなんですね。十勝には、帯広のばんえい競馬という、そりをひく農耕馬をモチーフにした競馬のレースがありますが、その馬に新しい仕事をしてもらうということで、この『馬車BAR』を始めようということになりました。今年の4月1日にはスタート予定、4月のNHK朝ドラ放送開始から馬が走っているという感じにしたいなと思っています」

メディアとしてのホテルになりたい

馬車BARのコンピューターグラフィックスによる動画を見た場内は、ちょうどお酒も入っていることもあってか、「行きたい」の声が飛び交います。柏尾さんも思わず「すごい!」と驚くほどの好感触です。この後も、いま大人気の「犬ぞりツアー」を動画で解説。これは海外の人にも大人気で予約困難になっているほどだといいます。さらに100頭もの自然放牧をされた馬の群れに入っていくという新たなツアーの企画も紹介されました。

「ここから話の方向が変わるんですが、いまホテルで皆さんをおもてなしするということだったんですが、NUPKAとして、十勝というものを世界の皆さんに伝えるという取り組みもしたいと思っております。たいてい地域の取り組みといって考えたときに、地域の中の課題を解決するというふうに捉える方が多いと思うんですが、僕らはやっぱりホテルというものを基盤にしているので、地域の在り方、世界における位置づけそのものを変えていきたいなということで、地域が自立するために観光で外貨をとりこみ、輸出で外貨をとりこむと。いまはNUPKAのホテル業、あるいは観光業ですけれども、これから十勝の資源を世界の人に届けていくというところもやっていきたいなと思っています。例えばチーズの生産者さんの商品を僕らの方でプロデュースし、こういう形で皆さんに近いところでご紹介していくという役割を担って、目にふれにくい素敵な取り組みをしている人たちをサポートする、そういうような取り組みができればと思っています。この取り組みに関しては十勝大学さんの方から、いま事業助成をいただいている状況です。
最後に、振り返っていくと映画から始まり、ホテル、クラフトビール、馬車BAR、まちやど、地域商社という形でやってきて、この後どうするのかについては、よく分かりません。ただ、おそらく僕らがやろうとしていることは、単純な接客業ではなくて、皆さんの旅と暮らしと仕事が近づいてワクワクするような人生、生活ができるような意味でのメディアとしてのホテルになりたいんじゃないかなぁというふうに思っています。今日、このイベントでずっと皆さんとご一緒しているのも、そういう意味があるんじゃないかと思います。そういう観点で、ホテルが全国、世界にポップアップしていくという考え方を僕は追求していきたいです。またこういう機会を持てるようでしたら、全国津々浦々、いろんなところへ伺いたいと思っていますので、ぜひお声掛けをいただければと思っております」

十勝愛にあふれた人々の熱いトークが続く

image_event0131_09.jpeg航空会社、AIR DOの須藤さん、佐藤さん

この頃には、キッチンでは十勝のソウルフードといわれる「インデアンカレー」が提供され、会場内にはカレーのいい香りが漂います。カレーについては、NUPKAの看板娘、帯広からやってきたミミちゃんが、その魅力、おいしさを語ってくれます。そしてデザート、ハーブティー...、続々と十勝から運ばれた食材が、来場者の口に運ばれていきます。その間にも、ステージでは十勝に魅せられた人々のトークが続いています。

長野県佐久市に在住の江原政文さんも、NUPKAの魅力にハマった人のひとり。帯広の魅力は人の良さ、だという江原さんは、NUPKAを拠点にしたアクティビティの楽しさについて自身が撮った画像を交えて熱く語ってくれました。

帯広と東京を一日に3往復している航空会社、AIR DOの須藤さん、佐藤さんは、十勝へのお得なチケットの紹介や、買い方。ポイント制度などについて説明してくれました。

image_event0131_10.jpeg帯広市東京事務所 井上所長

そして、帯広市東京事務所の井上所長も登壇。
「よく地方創生は"ドーナッツ"といわれます。どういう意味かというと、行政が周りだけを固めるんですが、実際に中で取り組む人がいない。空洞化している状況なんですが、おかげさまで帯広、十勝の場合は、非常に中が充実しておりまして、いわばとても美味しいアンパンのよう。そんな人たちがたくさんいらっしゃる地域です。実は十勝は北海道でも珍しく、公務員である屯田兵ではなく民間人によって開拓されたところで、民間のフロンティアスピリッツがあるといわれています。そのチャレンジ精神がいまも脈々と受け継がれている地域なんです。今年は朝ドラもあるので、この好機を逃さずに行政もプロモーションしていきたいと思っています。また、10連休もありますので、その頃は季節もよいのでぜひ十勝にお出かけください」とPRしました。

最後の歓談タイム。BGVには、十勝とNUPKAに魅せられて、4か月もの間長期滞在したという東京のデザイナー、森山さんの撮影による十勝の画像が流れています。

長時間の立食パーティーとなりましたが、会場を埋め尽くした参加者たちも食事に、話に、多いに盛り上がっていました。そんな会も全員での記念撮影で、いよいよお開きです。
NUPKAからのお土産を手に、参加者はみな満足そうな足取りで会場を後にしていました。
熱い地元愛にあふれた人々に支えられた十勝、そしてHOTEL NUPKA。4月からの朝ドラ開始でどう変化していくのか、目が離せません。


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