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【レポート】強みも不安も共有できる。チームで挑戦する起業のメリット

女性アントレプレナー発掘プログラム ~Program1~ 2019年10月24日(木) 開催

4,8

東京都の創業支援事業「インキュベーションHUB推進プロジェクト」の一環として、女性の起業を支援する「女性アントレプレナー発掘プログラム」。さまざまな経験を持つゲスト講師を招き、「起業」にまつわる苦労や経緯をお話いただきます。
プログラムは全5回。「女性」と一括りにしても、人それぞれあるライフスタイルに応じた、さまざまなテーマからヒントを探ります。会場には、お子さんとともに参加されている女性も見受けられ、和やかな雰囲気の中イベントはスタートしました。

第1回目となるこの回には、冒頭にエコッツェリア協会の田口真司がプログラム全体の趣旨を説明。名目は「女性アントレプレナー(女性起業家)」ですが、実際には「ライトなデュアルキャリアの提案」だと話します。デュアルキャリアとは、スポーツ分野から派生した、複数の軸を持つ働き方の概念です。 「起業してバリバリ働こう、世界をまたにかけて働こう、というのではなく、今ある仕事を活かしながらちょっと新しいことにチャレンジしてみよう、を全体のコンセプトにしています。チームでチャレンジしたり、フリーランスから始めたり、創業・起業を気軽に始めませんかと提案するものです」

ファシリテーターである株式会社Warisの小崎亜依子氏からは、「起業はいまだに男性の世界です。私たちとしては、女性ならではのビジネスや作りたい社会の実現を応援したいと思っています。講師に招いているのは、さまざまな立場で、楽しくフリーランスをしている方です。小さく始め、リスクを最小限に抑えながら始めることもできます。このプログラムを通じて、起業に向けて一歩踏み出してみようかなと思っていただけるとうれしいです」と、メッセージを送ります。

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「伝える側」から「現場」への転向

「伝える側」から「現場」への転向

初回の講師は株式会社Waris代表取締役の田中美和氏。「新しい働き方を創る」を掲げる「Waris」は、2013年に自身を含めた3人での共同創業といった形でスタートしました。フリーランス女性と企業とのマッチングサービス「Warisプロフェッショナル」と、女性のための再就職サービス「Warisワークアゲイン」と大きく2つのサービスを展開しています。

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「Warisプロフェッショナル」は、ビジネス系のフリーランスを中心とした女性プロ人材と企業とのマッチングサービスです。年々、フリーランスで働きたい女性は増え、2019年秋現在で登録者数は1万人近く、毎月200名ほどの新規登録があるといいます。
「通常の人材紹介と違う点としては、まず登録数の規模です。さらに"ビジネス系のフリーランス"に強みを持っています。フリーランスといえばクリエイティブ職のイメージが強いと思いますが、弊社では広報やマーケティング、人事などの領域に力を入れています。また時間と場所の自由度が高い仕事。リモートワークもできる多様なワークスタイルを提案しています」

登録者は50〜60歳代が中心。成果に対して報酬が立つフリーランス。ある程度成果が出せることを約束できる人がメインとなるといいます。また非クリエイティブ職種でも十分にフリーランスとして活躍できる上、そのニーズも高まりつつあるそうです。

一方の「Warisワークアゲインサービス」では、離職中の女性を対象にした再就職支援を行っています。
「約14,000人の登録があり、離職経験5年以上の方が多いですが、なかには15〜6年以上の方も2割弱いますね。年齢的には40歳代を中心に30〜50歳代。具体的な支援として、インターンシップや講座、企業の採用イベントを開催しています。例えば、企業とのインターンシップでは、参加者の約9割が終了後にそれぞれの企業に採用されました。チャンスさえあれば、多くはまた働けるということを表しているのではないでしょうか」

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田中氏は大学卒業後、日経BP社に入社し、編集記者として働いていました。女性のキャリアや働き方に興味があり、自ら希望して『日経WOMAN』を担当。11年の会社員生活ののち、2012年にフリーランスとして起業、翌2013年にWarisを立ち上げることになります。2016年からは「一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」の立ち上げから参画し、現在は理事としてフリーランス支援の活動にも励む田中氏。起業のきっかけを次のように話します。

「前職では、働く女性のキャリアやライフスタイルを取材する毎日でした。その中で気付いたのは、日本の働く女性たちが非常にモヤモヤとした気持ちや葛藤、ジレンマを抱えながら生きていること。彼女たちがイキイキと仕事を続けるための支援をしたいと考えるようになりました。メディアは非常にやりがいのある素晴らしい職ですが、社会課題を解決する仕事ではなく、課題やその解決方法などをお伝えする側。10年以上伝える仕事をしてきた上で、次の10、20年は、具体的に解決する仕事―直接的な支援をしたいと思いました」(田中氏)

不安を乗り越え、共同創業へ

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会社員とは違い、安定した収入の保証がないフリーランス業。会社を辞めて起業する当初、「不安や迷いはもちろんありました」と田中氏は話します。

「当時は結婚していませんでしたので、女性一人で生活することや年金問題など、不安は尽きませんでした。裁量次第で金額はいくらでも増減しますし、入金のタイミングもまちまちです。どうリスクヘッジするかが非常に重要なポイント。不安を乗り越えるために、私はフリーランスの先輩たちにリサーチしました。どう仕事を得ているのか、どんな生活を送っているのか...。不安や迷いは"曖昧な状態"の中で生まれやすいので、具体化することが非常に重要です。今回のプログラムのように、最近はさまざまなイベントやセミナーがありますので、ぜひ活用してください。もう1点考えたいのが"サバイバル金額"です。結局稼げるのか、将来どうなるのか......多くの方が不安なのはお金ですよね。そのために、実際自分はどの程度あれば生活できるかを明確に計算することが大切。一度しかない人生、やりたいことはやれるうちにチャレンジしたいという気持ちが、最後に背中を押してくれました」(田中氏)

具体的に仕事を探す際に、大切な要素として挙げたのは「人とのつながりや発信していくこと」。常につながりを通じて仕事を獲得したといいます。自分の専門性が活かせ、時間や場所の自由度が高い働き方がマッチしていたという田中氏。
「フリーランスってすごく楽しいな、ワクワクするな、という感覚が、実はWarisの起業に結びついていきます」

現在、田中氏はWarisの共同代表として働いています。創業のきっかけは「女性がイキイキ働き続けることが非常に難しい国だと思ったこと」だと話します。毎年、世界経済フォーラムが発表している「ジェンダーギャップ指数」、男女間格差を図った指数は149カ国中110位(2018年)と先進国では非常に低いことが知られています。なかでも政治や経済のカテゴリーでのポイントが低く、賃金の格差もあります。また、女性の管理職の比率や第1子出産前後の女性の継続就業率の低さも指摘します。

「今後も向き合っていかなければいけない社会的課題の1つです。私たち創業メンバーは、なぜ女性がイキイキ働き続けることが難しいかを考え、当時、大きく3つの要素にたどり着きました。1つは根強い性別役割分担意識です。男性は仕事がメインで、女性はたとえ仕事をしていたとしても家事育児の大部分を担う。残りは、長時間労働と固定された場所。育児や介護によって短時間勤務を選ぶと、責任ある仕事を任せてもらいづらくなり、また働く場所も会社に限られていました」
Waris創業には、このような状況を改善、解決したいとの思いがありました。

「女性の働き方」にある課題

今回のテーマは「チームでチャレンジしよう」。田中氏はWarisを米倉史夏氏、河京子氏と共同創業しました。社長は立てず、女性3人それぞれが共同代表という非常にユニークな形です。かつメンバーの拠点もさまざま。東京にいるのは田中氏のみで、米倉氏はベトナムのホーチミン、河氏は福岡に住んでいるそうです。3人が出会ったのは友人を通じてでした。

「出会いは私がフリーランスとして活動している時でした。女性が働く環境を応援したい、と常日ごろから周囲に話していたところ、『同じようなことを言っている人がいる』とそれぞれ別の友人から紹介してもらったのが2人でした。夢を口に出して続けていたらつながったご縁。"叶う"という文字は口に十。何十回でも何百回でも、口に出して発信し続けることが大切です」

初めは、身の回りで働く女性向けの小規模な勉強会やワークショップを開催。働き方に対して感じる課題感などをシェアする場を設けていました。このような運営を通じ、「価値観もコミュニケーションのスピード感も合うし、何より一緒にいて楽しい」と実感して、一緒に創業するに至ったといいます。

「女性向けに何かビジネスやりたいよね、というところから、女性たちの働き方に課題があるのではないかという考えにたどり着きました。時間と場所の自由度が高く、専門性の活かせるフリーランスの仕事を女性に紹介するビジネスができるといいね、と。自身のフリーランス経験を通じ、異業界や未経験分野で仕事を獲得することの難しさを実感しました。世の中には、クリエイター以外のフリーランスが仕事を探す先が足りていないのではないか......。正社員や派遣社員、パートアルバイトの仕事にはさまざまな求人媒体やエージェントはありましたが、フリーランスでかつビジネス系の職種ではなかなかありませんでした。そこを救えるプラットホームを作りたいというのがビジネスアイデアとしてありました」

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このように日々、3人で意見を交わしていたころ、ある人に言われたひと言が大きな転機になったといいます。「話しているだけだと話すだけのままで終わっちゃうよ」。具体化するには、ビジネス「アイデア」をビジネス「プラン」に落とし込む。言葉や数字で表す方法として勧められたのがビジネスコンテストだったそうです。

「ビジネスコンテストの利点は、事業内容を明確に考えられること。多くのコンテストでは、応募するにあたって『事業計画書』を出さなければなりません。考えている事業に対し、どのような市場やニーズがあり、どう達成するのか。すべてを言葉や数値で示さなくてはならず、その作業を通じて、自分自身の考えを整理することができます。また、審査員からいただくフィードバックも現実的で、非常に参考になりました。コンテストにもよりますが、メディアとのコネクションにつながる可能性もゼロではありません」

副賞として、賞金やメンタリングが用意されていることもあるビジネスコンテスト。積極的に参加することを田中氏は勧めます。また、資金は3人の共同出資。シェアオフィスでのスタートだったといいます。創業当初に苦労したこと、乗り越え方については「非常に重要なポイント」としながらも「魔法のような解決方法はない」と説きます。
「最初は、それぞれのツテに頼る日々です。本業のマッチングサービスだけで売上が立つまでには1年ほどかかりました。その間、私たちは個々でフリーランスの仕事していました」

人数の分、パワーは何倍にも

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「チーム創業のメリットは、大きく3つある」と田中氏。
まず2つのポイントとして、「知恵とネットワーク、実行力が数倍になる」、「自分の好きなことや得意分野にフォーカスできる」点を挙げます。

「創業期のベンチャーは、人、モノ、資金あらゆるリソースが足りません。どう自分のアイデアや目標を形にしていくかが非常に重要なポイントになりますが、リソースが限られている状況で頼りになるのは知恵。戦略を練った先には、ビジネスをするにあたってお客さまとの関係構築が重要で、そこにはネットワークや実行力が欠かせません」

3つ目のポイントは「寂しくないこと」。起業家には孤独感を感じる人も少なくないそうですが、最初から仲間のいるWarisは寂しさとは無縁、現在も同じ熱量で語れることが大きな事業の支えになっているといいます。またそれぞれのバックグラウンドや強みの違いがよかったとも話します。

「米倉は、金融機関勤務を経て外資系のコンサルティング会社でリサーチャーをし、その後、新規事業の立ち上げをしていました。今は数字面を中心に、取りまとめなどの管理を担当。河は人材紹介の会社出身で法人営業をしていたので、現在も営業面をお任せしています。編集記者をしていた私はマーケティングやPRを担当。このように個人の経歴を活かす形で役割分担をしています」
また、チーム創業において仲間を見極める大切なポイントは「理念や価値観への共感」、「コミニケーションスピード」、「共同作業でのフィット感」だと話します。

幸福度と比例するのはお金?

働く環境や働き方が変化してきていると田中氏。例えば、現在、フリーランス人口は400万人前後ですが、リクルートワークス研究所のデータによると、2030年までには1.8倍、780万人ほどになるとの予測。Warisは、慶應義塾大学の前野隆司教授との共同研究のもと、2017年に「活躍フリーランスの幸せ実態調査」を発表しました。そこで明らかになったのは、フリーランスの幸福度の高さ。一般的な日本人の平均値と比べ、非常に高いスコアが出たといいます。

「なかでもおもしろかったのは、幸福度と、報酬や働く時間との相関関係が見られなかったことです。一方で、相関関係が高かった調査項目が『今の自分は本当になりたかった自分かどうか』。結果的に『幸せであること』に重きがあり、何となく独立・起業するのではなく、それによって『どんな自分でありたいのか』が重要だと感じたデータです。フリーランスという働き方は、もはや限られた人の特別な働き方ではありません。長寿化している現代では、ライフスタイルの変化に合わせて多様なキャリアを歩む方が増えています。毎日家族と一緒に食事したい、などきっかけは小さなことからで十分です。独立や起業によって、どんな自分になりたいのかを大切にすれば幸福につながると思います」

「Waris」はアフリカのソマリアの言葉で、「砂漠に咲く花」の意味。「砂漠のようにどんなに厳しい環境でも、ひとりずつが能力という花を咲かせて生きていけるような社会を実現したい」との思いが込められているそうです。

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「チーム創業」ならではの話を中心に、フリーランスの魅力をわかりやすく話してくださった田中氏。小崎氏を迎えた質疑応答時間にはたくさんの質問が飛び交い、前向きな参加者が目立つ有意義な会となりました。


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