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【レポート】心地よい生活を求めて、始まっていた起業

女性アントレプレナー発掘プログラム ~Program3~ 2019年12月16日(月)開催

4,8

東京都の創業支援事業「インキュベーションHUB推進プロジェクト」の一環として開催されている「女性アントレプレナー発掘プログラム」。このプログラムは女性の起業を応援するために、毎回さまざまな女性起業家を講師として招き、創業の経緯や今に至るまでの葛藤など、リアルなお話を伺います。
ファシリテーターは株式会社Warisの小崎亜依子氏。プログラムではシリコンバレーメソッドを取り入れ、起業を成功させるための要素を5つに分けて、ゲスト講師の話を参考に参加者も一緒に考えていきます。

結婚や出産、そのほかの理由で生じるキャリアロス問題で悩む女性が増える昨今、働き方の1つとして注目が集まっている「起業」。今回のゲスト、非営利型株式会社Polaris(ポラリス)取締役ファウンダー・市川望美氏は自身のライフスタイルの変化に合わせて、その時々のベストな働き方を求めて起業に至った女性です。
「何かを始めたいけれど、自信がない」、「何をすればいいのか悩んでいる」そんな女性たちのヒントになるアイデアを伝えていただきました。

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起業は、ライフスタイルに合わせた1つの働き方

起業は、ライフスタイルに合わせた1つの働き方

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まず、ファシリテーターの小崎氏から前回までのプログラムの振り返りがありました。起業における必要な要素としてシリコンバレーメソッドが上げているのは、「アイデア」「プロダクト」「チーム」「実行力」の4つ。これらに加えて、女性の起業を具体的に進めていくには「実現したいライフスタイル」のイメージが必要であると、小崎氏は言います。

「例えば、お子さんとどんな暮らしがしたいか、どんなプライベートを充実させたいかなどのイメージが固まっていないと、起業した後にブレてしまうことが往々にしてあります。どんな人生を歩みたいかのイメージに合わせて、ほかの4つの要素を考えていくと起業も具体的に進みやすいのではないでしょうか」(小崎氏)

第一回目のゲスト講師、田中美和氏(株式会社Waris共同代表)は、女性総合職のキャリア継続の難しさに焦点を当て、それを解決するためのジョブマッチング事業を始めました。創業時に集まった3人が、それぞれ異なる強みを活かせたことがプロジェクトの実行力を促し、会社の掲げるミッション、「Live Your Life」を体現することに成功しています。
特に、共同創業者3人の「チーム」という観点にフォーカスして話をしていただきました。

第三回目である今回のテーマは、「ライフスタイルに寄り添った起業」です。5つの要素のうちのライフスタイルに焦点を当て、実現したい生活を軸に起業をした市川氏に、起業の経緯を話していただきました。

2012年に創業したPolarisでは、多様で柔軟な働き方を創ることをミッションにした3つの事業を現在行なっています。
1つは、既存の枠組みにとらわれない新しい事業モデルの構築と展開、コンサルなどをするソーシャルデザイン事業。2つ目は、毎日の普通の暮らしに価値を見出し、新たな視点で仕事を創り出すロコワークデザイン事業。3つ目は、世田谷や調布など、地域を拠点としてメンバーと呼ばれる登録者たちでワークシェアをする、ワークデザイン事業。

もともとIT系の企業に勤めていた市川氏が、こういったビジネスを始めたきっかけには、自身の結婚と出産がありました。

自分の「心地よさ」や「いいと思う」価値観を持ち続けることが、事業継続につながる

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短大を卒業後に就職したIT企業で働いて9年目、仕事自体は好きだったけれど、この先この会社で何十年と働いていくイメージが持てなかったと言う市川氏。出産を機に一度離職することを決意します。

「次に仕事をするなら自分がやりたいことをしたいと思いながら、どこにも所属しない主婦時代を過ごしていました。始めから起業したくて準備をしていたわけではなく、自分のやりたいことや心地の良さを追求していった結果、17年経ってこのような形になっていたという感じですね」(市川氏)

育児をする前は、地域の交流やママ友の付き合いに苦手意識を持っていましたが、いざ関わってみると非常に多様な背景を持つ女性がいるということに気がつきます。そんななか、自分が得意とするパソコンを使った手伝いをしているうちに、気付けば世田谷の子育て支援のスタッフとして地域のコミュニティ運営を楽しむようになりました。

また、出産後に興味を持ったカラーセラピストの知識を活かし、子育て広場や自宅を解放した子育てサロンでセッションをするようにもなります。同世代のママたちの話を聞いて、悩みや希望を共有していくうちに、会社員時代には得られなかった充実感を感じるようになったと、市川氏は言います。

「自分が好きで始めたカラーセラピーのワンコインセッションで、いろんな悩みや話を共有して喜ばれる経験を通してさまざまなことを感じました。自分が好きで始めたことで、初めていただいた500円の感動は今でもよく覚えています。会社員として与えられた仕事をこなして得る給料ではなく、自分でいいと思うことを提供してお金を得ることが、この先ずっと選べるキャリアになったらいいなと思い始めました」(市川氏)

そうして、仲間と一緒に子育て支援のNPO団体を立ち上げて活動し始めた市川氏は、母となった女性の働き方に興味を持つようになります。そこから多様な働き方の創造に焦点を当てた活動を始め、現在のPolarisへとつながりました。

市川氏は、Polarisを創業してからも、新しく興味がある分野を求めて立教大学の大学院に入学。自分たちの事業の研究を行い、研究から事業に戻すということも経験します。 自分で考え、「こうあったらいい」「こう伝えたい」という軸を中心に、キャリアの変遷を重ねてきた市川氏ですが、事業が続いてきている原点には「当事者性」があると語ります。

「基本的には『ビジネスとして成り立つか』ではなく、『自分が欲しいと思うものか』ということを大事にしています。周りの起業家や活動家を見てみると、結局続けられる人が続いている。そして、続けるには、自分が本当に良いサービスだと思っていることが必要なのだと思います。その思いがブレずにあるから、人にも伝わるし受け取ってもらえるのではないでしょうか」(市川氏)

さらに、自分が子育て中ではないからママ向けのビジネスができないかというと、そんなことはないと言います。当事者として関わりを持ってサービスを届けることが、事業継続に重要なのだと市川氏は指摘しました。

リーダーシップよりもフォロワーシップ!

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続いてPolarisのビジョンと組織、取り組みについて説明いただきました。 当初は、母となった女性のキャリアや働き方を変えていくことを目指していた立ち上げたPolarisですが、当事者としてやりたいことを突き詰めていくことで、最終的には「誰もが暮らしやすく働きやすい社会の実現」につながることを目指しています。

2019年から2人増えて、現在の経営陣は5人。創業時の代表だった市川氏から2代目代表へ変わる際に、経営もリーダーシップから「フォロワーシップ」へと考え方の転換をしました。経営を5人でワークシェアするという方向にしたのです。

5人にはメンバーカラーが割り振られており、それぞれ肩書きを好きなように決めて個性を活かした組織運営をしています。 特徴的なのは、5人の役割を「時間軸」と「視点の高さ」で分けている点です。
例えば、市川氏は物事を長いスパンで考えることが得意なので、50年から100年先の未来を見据えての働き方を考える、ソーシャルデザイン事業部を担当。また、市川氏は「日々現場に足を運ぶ、人に寄り添った仕事」は向いていないけれど、「アイデアや概念を考える」が得意なので、空中戦担当だそうです。

「半年から1年スパンの思考が得意なロコワークデザイン事業部担当や、現場に足を運んでコミュニケーションをとることが得意な地上戦担当などで分けています。それぞれ得意分野を、世の中のものに当てはめずに、自分たちで考えて創ることを大事にしていますね」(市川氏)

暮らしと仕事を同じ平面上に。自分の生活に合わせた働き方が、誰にでも選べるということ

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Polarisが掲げる、「未来におけるあたりまえのはたらきかた」の実現のために、今取り組んでいるのはコワーキングスペースの運営と、世田谷庶務部というバックオフィスチームの運営です。世田谷庶務部では、現在350人ほどのメンバーが登録しており、業務委託でワークシェアをしています。

庶務部でのワークシェアは、クラウドを利用して在宅でできる仕事から、現場に足を運んで手を動かす仕事まで幅広く扱っています。
子供が幼稚園に行っている間だけ働きたい人や、家族が寝静まった後に作業したい人、あるいは関係なく仕事したい人など、時間も場所も制限せずにその人に合った働き方を選んでもらえる仕組みです。

コワーキングスペースでは、打ち合わせや庶務部での仕事などに使われていますが、「おうちから起業」という地域から小さく始める起業講座の開催もしています。
基本的には大人たちが働いたり、座談会などを開く場ですが、夏休みには子供が大人の横で宿題をする姿もあります。子供を連れた「子連れ合宿」も定期的に行っているそうです。

「暮らしと働くが分断されない、子供たちも含めた働き方のコミュニティを作っていこうとしています。もちろん単身で参加する人もいれば、旦那さんが子供を連れてくることもあります。他人の暮らしに触れるということもできる場ですね。地域のフリーランスの方々も利用しているので、女性に限らずさまざまな人たちが集います。いろんな方々と連携して、地域から社会をもっと寛容なものにできる、そんな仕事を一緒に創っていけたらいいねと話すこともあります」(市川氏)

キャリアの空白を新たな視点で価値に転換

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さまざまな仕事をメンバーたちでワークシェアをしている庶務部ですが、その仕事に新しい価値をつけて提供することをロコワークデザイン事業部では行なっています。
1年から5年と、キャリアに空白ができて自信をなくしてしまう人は多いと話す市川氏。しかし、視点を変えて、キャリアの空白を「普通の生活者の目線で重ねた経験」と捉えることで既存の仕事に新しい価値を加えて提供することができると言います。

例えば、その地域に住んでいるお母さんたちを研修して地域コンシェルジュになってもらい、新築分譲マンションギャラリーで購入を検討している顧客に、地域情報を提供する仕事です。リクルートと共同で創り提供したこのサービスは、同じ学区に住むお母さんによる身近な情報が評価されて、2016年にグッドデザイン賞を受賞しました。

「スキルがないならスキルをつけようという発想ではなく、普通に生活してきたことを価値にしたいんです。なので、普通の人が経験したものにお金を払ってくれる人たちはどこにいるのかを考え、その人たちがきちんと納得して仕事として発注してもらえるようにビジネスモデルを創っています。それがロコワークデザイン事業ですね」(市川氏)

しかし、普通の人こそが価値であることを、クライアントに納得してもらうまでは大変だったと続けます。

「ビジネスの直接的な課題に答えつつ、共感訴求や社会価値の提供もできることを伝えるという、コミュニケーションは非常に大事です。時間はかかりますが、自分たちが大事だと思うこと、『プロじゃないからこそできるいいサービス』にフォーカスし続けることが、ブレずに事業を続けていくことにもつながっていると思います」(市川氏)

事業性と社会性を持ち合わせた会社、ポラリス

最後に創業のきっかけとなった、ビジネスコンペについての具体的な話を伺いました。
2010年頃に当時の内閣府は、社会起業家を増やすためのビジネスコンペや創業スクールを多く開催しており、その一つである内閣府の「地域社会雇用創造事業ビジネスプラン・コンペティション」に市川氏は応募。支援案件として採択されます。

採択されてから1年間、コーディネーターによる起業コンサル支援や起業支援金を受けながらビジネスのプロトタイプを創っていきました。
そのプロトタイプをプレゼンして、さらに補助金を受け、コワーキングスペースの場所を借りるための資金にあてたり、最初の共同創業者2人の人件費にあてて事業を形作って行ったそうです。

Polarisは社会性と事業性を追求する企業として、非営利型の株式会社の形をとっているため、地域の中小企業向けの補助金の他に、社会性を高める領域に取り組む企業向けの補助金や、ソーシャルベンチャー向けの銀行融資も受けたことを市川氏は説明しました。

市川氏のこれまでの歩みやPolarisの組織づくり、そして事業の話を終えて、エコッツェリア協会の田口が感想を述べました。

「Polarisの多様な経営陣組織の根底には、しっかりとした価値観の共有がなされているのだと思いました。それがない"多様"はバラバラになってしまいがちです。また、単に課題解決をするのではなく、価値を自分たちで創っていくことをしているのは、非常に高度なことです。自分たちの価値を持ちつつ、マネタイズしていくバランス感覚は、課題感を感じている方が多いと思うので、市川さんの話はとても参考になったと思います」(田口)

まだまだ男性社会の価値観が根強く占めている中で、自分らしく成功している女性たちがどんどん増えています。
このプログラムでは、創業予定者の発掘、育成から成長段階までの支援を一体的に行う取り組みを支援しています。エコッツェリア協会では、今後も起業を応援するプロジェクトを開催していきますので、ぜひご参加ください。


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