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【レポート】スポーツは最高の人材育成ツール

アスリート・デュアルキャリアプログラム ~Program3~ 2019年12月23日(月)開催

4,8

現役引退後、次に何をすればいいのかわからず、結果的に満足行くセカンドキャリアを歩めないアスリートは少なくありません。彼らがそのような状況に陥ってしまうのは、社会的にアスリートの価値を誤解していたり、それによってアスリートも自ら選択肢の幅を狭めてしまう傾向にあることなどが関係しています。そうした状況を改善するための機会が、東京都が推進する創業支援事業「インキュベーションHUB推進プロジェクト(※)」を通じ、アスリートのデュアルキャリアについて考える「アスリート・デュアルキャリアプログラム」です。

今回の第3回目のプログラムでは、元柔道家で、現在は企業やスポーツクラブ、アスリート、学校などを対象に組織改革のコンサルティングを行う菊池教泰氏(デクブリール代表取締役)をお招きし、「人生を切り拓くチャンスのつかみ方」と題し、逆境をバネに困難を力に変える方法、そして自分との向き合い方を知るために必要なことを紹介していただきました。ファシリテーターは株式会社B-Bridge プロジェクトマネージャーの槙島貴昭氏が務めました。
※インキュベーションHUB推進プロジェクトとは、東京都が2013年度より実施する創業支援事業。高い支援能力・ノウハウを有するインキュベータ(起業家支援のための仕組みを有する事業体)が中心となって、他のインキュベータと連携体(=インキュベーションHUB)を構築し、それぞれの資源を活用し合いながら、創業予定者の発掘・育成から成長段階までの支援を一体的に行う取組を支援し、起業家のライフサイクルを通した総合的な創業支援環境の整備を推進します。

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スポーツはビジネスにも通じる能力が磨かれる「実学」である

スポーツはビジネスにも通じる能力が磨かれる「実学」である

image_event_191223.002.jpegデクブリール代表取締役のの菊池教泰氏

大学時代に団体戦で日本一になった経験を持つ菊池氏ですが、高校生までは本番で実力を発揮できず目立った成績は残せていませんでした。しかし大学進学後に書籍を参考としたメンタルトレーニングに取り組んだところ、緊張せず実力を発揮できるようになったと言います。大学卒業後、菊池氏は日本屈指の名門柔道部を持つJRA(日本中央競馬会)に進みます。しかし柔道と仕事の両立に挫折してうつ状態となってしまったそうです。こうした"心"の変化によって良いことも悪いことも経験した菊池氏は、やがて人間の心の変化がパフォーマンスにどのような影響を与えるのか、また組織など環境要因と心との関係性などに注目していくようになりました。それらの経験を活かし、現在は認知科学コーチングをベースに、企業やスポーツクラブ、アスリート、学校などを対象とした組織マネジメントや、メンタルコーチ、改革のコンサルティングなど多領域に対応するデクブリールの代表取締役として分野にとらわれない活躍をしています。

そんな経歴を持つ菊池氏は「本来、スポーツは実学である」と説きます。

「明確に定義されているわけではありませんが、"スポーツ"と"体育"は異なるものだと思っています。どちらも19世紀に軍隊を対象として生まれたものですが、スポーツは個人でリスクを取り、判断できる"将校"を育てるために用いられたものである一方、体育は指示を正確に実行する"兵士"を生み出すことが目的でした」(菊池氏)

かつては兵士的な人材を求めて"体育"を経験した人材を求める企業も多くありましたが、近年は状況も変わり、より自分で考えて動ける人材を求める傾向にあります。それらの企業の需要を満たすために、自分で考えて動き、困難があっても自ら修正する能力を持つ人材を育成できる"スポーツ"は、ビジネスに活きる実学でもあるのです。

image_event_191223.003.jpegスポーツは「知育+徳育+体育」を包括したものであり、つまり体育はスポーツの一部と菊池氏

しかし日本において、「スポーツ=実学」というイメージは未だ成立しません。それは「指導者と選手」、「スポーツとビジネス」の関係性に問題があるからです。

「スポーツにおける指導者と選手は"互いに尊重する関係"ですが、体育のそれは"上下の関係"です。前者に比べると、後者は自分で物事を考える力が身につきづらいのです。柔道の世界でも、高校時代に日本一となって将来を嘱望されながら、大学進学後に鳴かず飛ばずになってしまう選手がいます。なぜそうなるかというと、高校時代の指導者が手取り足取り教えていたため、選手自身で考える力が養われず、大学で違うタイプの指導者の下についた途端、何もできなくなってしまうからなんです。他の競技でも同様の話はよく聞きます。そうした状況を変えるには、スポーツの価値を多くの人に知ってもらわなくてはなりません」(菊池氏)

「また、日本においてはスポーツとビジネスは別世界と認識されています。両者の間に架け橋が掛かっていないことも、スポーツが実学と捉えられない大きな要因です。アメリカでは大企業の研修にアスリートが招かれて講演をするということが普通に行われています。日本ではそのようなことはありませんし、むしろ"アスリートはビジネスパーソンから学ぶべき"という考えの方が一般的ではないでしょうか。しかし、繰り返しになりますが、スポーツは"自分でモノを考えて、修正しながら行動する"というビジネスにも通ずる訓練ができる最高の人材育成ツールなのです。まずは今日参加いただいた皆さんがその価値を認識していただき、世の中に広めていく伝道師となってもらいたいと思っています」(同)

「スポーツの真の価値」を知った参加者たちは、深く感銘を受けたようでした。ある参加者は次のように話します。

「頑張っているアスリートを見て感動したり、自分でプレーすることで健康増進につながったりと、そういったものがスポーツの価値だと思っていました。しかしそれだけではなくて、相手や状況に応じて変化する力や、相手や周囲を観察する力、あるいは直感力など、ビジネスにおいても重要な能力が磨かれる。これは、とてもいい気づきでした」(参加者)

キャリアの途上で成長を促す3つのポイント

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スポーツの真の価値が世の中に広まっていないのは、現役時代に培った能力を引退後のキャリアで上手く発揮できていないアスリートが多くいることも関係しています。では、アスリートはどのようなセカンドキャリアを歩めば、自分の能力を発揮できるようになるのでしょうか。そのヒントを提供するために、菊池氏は自身のキャリアの変遷を紹介していきました。

JRAでは人事の業務に携わり、「これが天職だ」と感じたという菊池氏。退職後には、母校の中央大学でコーチをしながら塾講師のアルバイトに就いて「教える仕事」のやり甲斐を感じたといいます。その後、労務業務の外部委託業者や、上場企業において総務・人事業務に携わるなどして、順調にキャリアを歩み続けます。しかし「現役時代と比べると輝きが負けている」と感じたそうです。そんな頃に菊池氏が出合ったのが、現在の専門である認知科学コーチングでした。

「認知科学を学んだことで、学生時代にメンタルトレーニングを学んで日本一になれたことや、その後うつ状態になった理由が一気に理解できました。そして、自分は人事の中でも特に教育領域の人間だと気づき、その分野もカバーしていくために起業を決意しました。デクブリールという社名は、フランス語で"見出す"とか"発見"という意味を持っていますが、人や組織の可能性を見出し、発見することが自分の使命だと考え、この名を付けました」(菊池氏)

その後、2012年から中学校の授業で必修となった柔道の外部講師として携わりながら活動の幅を広げていき、現在では、企業やスポーツクラブ、学校教育に対する組織コンサルティングを行う一方、近年スポーツ組織で頻発しているパワハラやいじめ、体罰等の外部チェック機関・一般社団法人 日本スポーツチームアセスメント協会(JSTAA)を設立し、日本のスポーツ界を変えるための活動に奔走しています。こうしたキャリアの変遷を歩んできた菊池氏ですが、その中でも3つのことを重視してきたそうです。

「ひとつめは、"常にチャレンジして、自身を成長させ続ける"ことです。何かチャレンジをするときにはゴールを設定するものですが、人間の認知は成長するに連れて変化していくものなので、チャレンジの途上でゴールも変化します。私はその変化を繰り返すことで、真のゴールを目指し続け、自分を成長させ、可能性を広げ続けて来ました」(菊池氏)

「ふたつめは、"そのゴールに感情(情動)が乗っているか?"という点です。例えば、1日に何人の客を入れられるかというビジネス優先のレストランと、世界一の料理を提供すると考えて仕事に取り組むレストランでは、どちらか充実感を得ながら働けるでしょうか。やはり、ワクワクとか、楽しいとか、そういった感情は無視できないものだと思いますし、それがあるから自分の可能性が引き出されていくのだと、私は考えています」(同)

「最後が"自身の使命に従って、分野をまたぎ統合することで、進化成長する"ということです。例えば文武両道という言葉がありますが、"文と武を両立する"という意味に捉えている人が多いと思います。しかし真の文武両道とは、文と武、それぞれで学んだことを組み合わせて化学反応を起こすことで新しい視点を持つことだと思います。それと同じように、複数の分野に携わり、それぞれの良い点を掛け合わせることで、さらなる成長ができるのです。

昨今、ワークライフバランスという言葉が使われますが、今の時代、プライベートから仕事に発展することも珍しくありません。そう考えると"ワークライフインテグレーション"という言葉を用いながら、分野をまたぎ、行動していくことが、成長につながると言えるでしょう」(同)

アンテナを立て、人に会い、感情に注目することで選択肢を広げる

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続いて菊池氏は、日本にけるアスリートのキャリアの問題点を指摘します。その問題点とは、「選択肢が狭い」ことです。アスリートは引退後、「競技生活で培った粘り強さを活かして営業職に就く」「体力を活かして警察官や消防士になる」といった定型的な進路がありますが、それは「それらの職に就きたいというよりも、そこしか選択肢がなかったというケースがほとんど」だと言うのです。

「もちろん、本当に好きでそれらの職業を選ぶのであれば何の問題もありませんが、他の道に進んでいればもっと活躍できるかもしれない、というケースは非常に多くあります。では、なぜ選択肢が狭いのでしょうか。まずは単純に職業に対する知識がないことが挙げられます。さらに、"自分は体育会系だから"と考え、自分の可能性に蓋をしてしまうケースもあります。こうしたことでアスリートの可能性が小さくなるのは、個人やスポーツ界だけではなく、日本全体の損失であると言えるでしょう」(菊池氏)

では、そんな課題を乗り越え、アスリート自身、そして日本全体の可能性を広げるにはどうすればいいのでしょうか。菊池氏は「現役中・引退する前・引退後」の3つのタイミングで考察することが鍵だと説きました。

「現役中は"自分は何が好きで、どのようなことに興味があるのか"を考え、引退前には"狭いスポーツ村を飛び出し、多様な人と会って自分の世界を広げる"、そして引退後は"自分の感情に注目してゴールを再設定し続けて継続的に進化する"ことが重要です。こうした心がけが、アスリートのキャリアの選択肢を広げることにつながるはずです。

ただ一方で、まだまだ日本はアスリートの可能性が制限されている状況にあります。そこで、今日参加してくれた皆様によって、スポーツの価値、アスリートの可能性を世の中に広めていただきたいと思います」(同)

このように話し、菊池氏は講演を締めくくりました。かつての日本では、ひとつのことに集中し続けることが美しく正しいと思われていましたが、現代はひとつの能力だけでは荒波を超えることは難しい時代でもあります。特にアスリートのようにひとつのものにかける時間が膨大であるほど、それを失った後のダメージは大きくなってしまいます。そのような事態に陥らないために、現役中から興味の幅を広げ、業界内に留まらない人脈形成が必要だということでしょう。菊池氏が講演で話したように、アスリートの持つ能力は他の領域にも転用可能なもので、むしろスポーツでしか育てられない能力も存在します。こうしたアスリート、そしてスポーツが持つ価値を広く世の中に役立てるためにも、デュアルキャリアの推進がなくてはならないのです。

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