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【レポート】起業に必要なマインドセットとは?

ミドルシニア世代 "自分スタートアップ" プログラム〜Program1〜2019年12月12日(木)開催

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40代から60代は、"ミドルシニア"世代と呼ばれます。希望すれば一定年齢までの雇用延長が制度化されるなど、人生100年時代におけるシニア世代の働く環境は大きな変貌を遂げていますが、シニア世代以降になってどのような働き方ができるかは、40代からのミドル世代での準備がカギを握ります。
昨今、そのミドルシニア世代の中で、新しいステップとして「起業」という選択肢を選ぶ人が増えています。「起業」と聞くとハードルが高いように思えますが、実は制度上も現場でも、これまでに比べ最も起業しやすい環境が整っています。東京都が2013年度から実施している「インキュベーションHUB推進プロジェクト」という創業支援事業のプログラムもその一つ。同プログラムにおいて、エコッツェリア協会ときらぼし銀行はパートナーとして採択され、創業支援に関する様々なイベントを実施しています。
その一環として2019年12月から、5回シリーズで「ミドルシニア世代 "自分スタートアップ" プログラム」を開催。40代~60代の方を中心に、自身の人生の選択肢に「起業」という可能性を加えたい方のための講座を提供しています。『ミドルシニア世代の起業』と題した第1回は、株式会社ヒキダシ代表取締役の木下紫乃氏を講師に招き、起業時に必要なマインドセット関する、自己体験を交えた講演やワークショップが開催されました。

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「中高年は元気がない」とは言わせない

「中高年は元気がない」とは言わせない

最初に、本プログラムのファシリテーターを務める塚本恭之氏(ナレッジワーカーズインスティテュート株式会社 代表取締役)が、抱負を述べました。
「多くの人は、『起業して成功するのは、すごく優秀な、ほんの一握りの人たち』と考えがちですが、そんなことはありません。『会社内で優秀な人材』と『起業してうまくいく人材』はイコールではないのです。その意味で、私は『起業は技術』だと思っています。このシリーズで、その技術の一端をお伝えできればと思っています」

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続いて、第1回の講師を務める株式会社ヒキダシ代表取締役の木下紫乃氏が登場。木下氏が株式会社ヒキダシを立ち上げたのは2016年のことで、講演は、木下氏が起業に至るまでの波乱万丈の人生ストーリーを辿ることからスタートしました。
「私が社会人になったのは、バブル真っ盛りのころ。リクルートに入社して7年間忙しく働いていたのですが、身体を壊してしまい、退職を余儀なくされました。その後の人生は、転職したり離婚したりと、浮いたり沈んだりを繰り返していました」

30代半ばのころ、木下氏は、企業に対し人材育成サービスを提供する企業に転職。「若手社員向けから役員向けまで、様々な研修を設計していました」と言い、その会社に10年ほど勤めたといいます。仕事は充実していたものの、『このままでいいのかな』といった漠然とした行き詰まり感を覚え始めたころ、大きな転機に恵まれます。
「慶應義塾大学の大学院に通っていたリクルート時代の先輩から大学院の話を聞き、『面白そうだし行ってみたいけど、もう40代半ばだし...』と逡巡していたところ、その先輩が『受けて合格してから悩んだら?』と背中を押してくれたんです。そのとおりだと思い、大学院を受けてみました」

結果は合格。悩んだ末、木下氏は会社を退職して大学院に通い始めました。周囲の院生は皆20代でしたが、木下氏は、数十年ぶりの学生生活を満喫します。
「前職を10年経験して、『社会には研修設計ビジネスのニーズがあるな』と漠然と感じていたので、辞めても何とか食っていけるさ、という軽いノリで通い始めました。大学院は、楽しかった思い出しかありません。2年間の院生生活のうち、後半の1年間は個人事業主として、前職で培った人脈を活用して、人材研修関係の仕事を請け負っていました」

最初は少なかったクライアントも日を重ねるうちに徐々に増え、大学院卒業後、47歳のときに木下氏は株式会社ヒキダシを設立、現在に至ります。ヒキダシは、法人向けキャリア研修の設計やコーチングなどを提供している企業ですが、設立したそもそもの動機には、「自分を変えたい、変わりたいと思っている人の背中をポンと押してあげるような仕事がしたい」と考えたのがきっかけで、そう考えるようになったのには、大学院の友人(20代女性)が発したある一言が強く影響したと言います。

「彼女に、『木下さんみたいに楽しそうな40代の人、初めて見ました』と言われたんです。逆に言えば、若い人たちには、40代以上の世代は輝いて見えていないということを意味します。いわゆるミドルシニア世代が元気になれることが何かできないか、と考えて、私はヒキダシを起業しました。『中高年は元気がない』と思わせたくないし、言わせたくない、という思いが、私の原動力になっています」

企業は目的ではなく「手段」

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自己・自社紹介が終わり、話はいよいよ本題に入ります。木下氏は、「起業に踏み出す前のステップとして、『これからどんなふうに働いていきたいか』という問いを立てるべき」と話し、それを考えるための軸として、次の3つを挙げました。

①何を実現したいか
②何をどうしたいか
③誰と仕事がしたいか

木下氏は、「私の場合は①の『何を実現したいか』を考えて、起業に踏み出しました。前述のように、私が実現したいことは、40代以上の人々を元気づけて、若い人たちにかっこいい背中を見せてあげられるようにすること。そのような事業を手掛けている会社がなかったので、自分で立ち上げることにしました」と説明します。

②の『何をどうしたいか』について、木下氏は次のように話します。
「海外旅行で出会った製品に感銘を受け、帰国後に同じものを手に入れたいと思って探しても、どこにも売っていなかった、というようなケースの場合、その商品を手に入れたい、その商品を日本中の人に提供して役立ててもらいたい、という思いが起業の原動力になります。このケースでは、輸入代理店を立ち上げる、などが考えられますね」

続けて、③の『誰と働きたいか』については、「いま現在、一緒に仕事をしている上司や同僚、クライアントたちと今後も仕事をしていきたいと思っているのであれば、起業する必要はありません。『どうしてもこの人と仕事がしたい、その実現には会社を辞める必要があり、かつ、独立しなければ難しい』という場合、起業という方法を選ぶべきです」

木下氏が挙げた3つのキーワードは、すべて『目的』に該当します。
「起業すること自体を目的とするのではなく、起業は『手段』と考えるべきです。何でもいいからとにかく起業がしたい、というように、起業ありきで考えるのはNG。3つのキーワードに沿って『何をしたいか』を熟考し、それを実現する手段として、起業を考えるべきです」

「自分で決める」を楽しもう

実際に会社を辞めて独立・起業した場合、どのような状況に直面するのでしょうか。
業績のアップダウンに関係なく固定給が振り込まれる会社員と異なり、起業・独立すると、収入の安定度が失われることは容易に想像できます。それに加え、木下氏は「最も大きな変化は、『すべてを自分で決めなければならなくなること』」と話します。

「社名を決めるのも、顧客を選ぶのも、経営方針を変えるのも、すべては自分です。ネガティブな話で言えば、顧客とトラブルになったとき、相手を訴えるか訴えないかを決断するのも自分になります。極端な話をすると、何もかも自分で決めることができるということは、『お客さんが集まらないから、来月から業態を転換して、たこ焼き屋を開こう』と決断することだって、できてしまいます」

起業・独立すると、収入の安定度はグッと下がる一方で、行動の自由度は飛躍的に高まります。木下氏は、「自分で決める、を楽しめるかどうかがカギを握ると思います」と強調します。

自分の提供価値を常に見直す

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『このスキルを売り込みたい!』『この商品を売りたい!』『このプランを知ってもらいたい!』という思いが強すぎても、起業は失敗しがちだと木下氏は説き、大事なことは「自分の提供価値を見直すこと」だと言います。
「起業当初、個人向け事業を拡大したいと思い、セミナールームを借りてミドルシニア世代向けのワークショップを企画・開催したことがあります。ところが、結果は惨敗。一人も参加者が来なかったのです。このときは悩みに悩み抜き、『もしかすると自分は、お客さんになってくれる人たちが本当は何を求めているのか、実態がわかっていないのかもしれない』と思い至りました」

多くの友人・知人に相談した木下氏、ある人物から言われた一言が衝撃的だったと述懐します。
「ミドルシニア世代と言えば、一定のキャリアと人生経験を積んだ人ばかり。そんな人たちが、ワークショップや研修に参加して、講師から『上から目線』でああしろこうしろと言われたくないのでは?、と指摘されて、確かにそのとおりだなと思いました。『教えてやる』というスタンスではダメだと気付かされたのです」

そこで木下氏は、未来の顧客が何を求めているかリサーチするために、「対等な立場で、徹底的に話を聞こう」と考え、そのための場として『昼スナックひきだし』を始めます。
「知人が営むスナックを借りて、毎週木曜の14~18時にスナックを開くことにしました。見知らぬ人同士が気軽につながる場を提供するのが目的ですが、お客さんとして来てもらえれば、ミドルシニア世代の悩みや思いをダイレクトに聞くことができるのではないかと考えました。『カウンターの前では平等である』というポリシーのもと、ざっくばらんな会話を心がけています。実は今日も、営業を終えてからここに来ています(笑)」

実際に『昼スナックひきだし』を始めてみて、木下氏は大きな学びがあったと話します。
「ミドルシニア世代は、研修やワークショップを求めているのではなく、気軽に話ができる居場所を欲している人が多いことがわかりました。これを機に、自分が思っている自分の付加価値は思い込みに過ぎない可能性があることに気づき、常に自分の価値を見直したりブラッシュアップしたりすることの必要性を痛感しました。加えて、自分のスキルや提供するサービスだけアピールしてもうまくいかず、自分が何を考えているのか、どのような思いでサービスを提供しようとしているかという『熱量』のようなものがセットになっていないと、誰からも共感を得られないこともわかりました。スナックでざっくばらんに話してもらう中で問題意識を共有し、その解決のお手伝いを頼まれるなど仕事につながることも多かったため、思い切ってやってみて良かったなと思っています」

「最初の顧客」は、今日から探し始める

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自分がやりたいことを見つけ、起業しても、『顧客』がいなければビジネスは維持できません。木下氏は、「顧客は起業前、すなわち今この瞬間から始めること」とアドバイスします。では、顧客はどこで探せばいいのでしょうか。木下氏は「半径10m以内」と説明します。
「ミドルシニア世代が起業した場合、見ず知らずの『赤の他人』から案件が受注できる可能性は極めて低いと考えたほうがいいでしょう。ですから、まずは知人・友人から顧客になってもらうこと。会社で言えば、上司や同僚、取引先ですね。半径10m以内という表現はあくまでも比喩で、その距離に入る人を、今のうちから増やすことを心がけることが大切です」

では、その『未来の顧客』はどのようにして増やせばいいのでしょうか。木下氏は「社会関係資本を充実させること」といい、そのための方法として、「3つの居場所を作ること」とアドバイスします。
「ひとつは、すぐに収入になる場所。具体的には、勤務先になります。2つめは、勉強会や読書会など、自分の興味軸で参加するコミュニティなどです。3つめは、もしかすると収入にはつながらないかもしれないけれど、好きなことや好きな人同士で集まる場です」

この3つの居場所を持てば「シナジーが生まれる可能性がある」と木下氏は説きます。例えば、Aという場では『当たり前過ぎて価値がない』スキルが、Cという場では極めて貴重なスキルとして歓迎され、仕事につながる可能性があると言います。
「3つの場を持つことにより、自分の多様性を知るというメリットがもたらされます。教える自分、教えられる自分、助ける自分、助けられる自分、聞く自分、聞いてもらう自分などです。場を変えることで違う顔を持つことができ、言い換えればそれは、自分自身の価値を発見することにつながります。皆さんも3つの場を持つことを意識してください」

参加者ではなく、主催者になろう

3つの居場所ができた暁には、「次のステップとして、ぜひ場の主催者になってほしい」と、木下氏は推奨します。
「コミュニティの参加者にとどまるのではなく、ぜひ自分で『場』や『コミュニティ』を主催してください。起業家というのは、そもそも主催者の最たるものです。いま勤務している会社で主催者になることは難しいという人も、『勉強会やらない?』と誘いをかけたり行動したりすることはできると思います」

木下氏は、主催者になるメリットを次のように述べます。
「何よりも、自分の関心を多くの人に知ってもらえますし、そのコミュニティの中で、最も多くの人とつながることができます。なぜなら、主催者は参加者全員を知っているからで、最も多くの情報を最初から手にしています。ゲストを選んだり呼んだりするなど、自分が好きなように運営できますし、その場を使って実験もできる。メリットしかありません。私の場合、『昼スナックひきだし』がその場になりました。主催者になって多くの人とつながると、誰かが勝手に自分のことを宣伝してくれて、お客さんを勝手に連れてきてくれたりすることも珍しくないので、ぜひ皆さんも主催してみてください」

そして、木下氏は参加者へのエールで話を締めくくりました。
「起業後、順風満帆とはいかないかもしれません。結果が出ず挫けそうになったときは、超有名曲の歌詞を思い出し、自分を奮い立たせてください。ミドルシニア世代なら誰もが知っている『いい日旅立ち』という曲の"日本のどこかに私を待っている人がいる"というフレーズです。挫けそうになったとき、私はこの歌詞を思い出すようにしています。それともうひとつ、執着心を捨てることも大切で、不退転の決意など持つべきではありません。故・いかりや長介さんの"次いってみよう"という名言を胸に刻み、何度もやり直したり修正したりしながら前に進んでください。相談事があれば、『昼スナックひきだし』でお待ちしています(笑)」

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講演終了後、『Will Can Must』のフレームワークを使ったワークショップが開かれました。
『Will Can Must』とは、「やりたいこと」「できること」「するべきこと」の3つの要素から自身の価値や方向性を紐解く考え方で、3つの要素が重なり合う部分が、自身が最もパフォーマンスを発揮できる領域と言われています。もっとも、ファシリテーターの塚本氏は、「重なりは意識しなくてけっこうです。Will 、Can、 Mustそれぞれについて、『無責任』に『適当』に『リラックス』しながら、やりたいビジネスについて書き出してみてください。内容は何でも構いません。実現可能性はさておき、キーワードや思いだけでもOKです」と促します。その言葉を合図に、参加者が一斉に用意されたシートに向かいました。
その後、テーブルごとに書き出した内容を発表。『ミドルシニア向けのフットサル場を経営したい』『シニアがフラッと立ち寄れるスナックを開き、スナックパパをやりたい』『日本の良さを海外にアピールしたい』『日本の環境技術を世界に広める手伝いがしたい』などなど、バラエティに富んだ発表が行なわれました。

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