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【レポート】日本人が学ぶべき、シリコンバレーのイノベーションマインド

グローバルビジネス展開プログラム~Program1~ 2019年12月16日(月) 開催

4,8

東京都が2013年度より実施している創業支援事業「インキュベーションHUB推進プロジェクト」の枠組みで、エコッツェリア協会が2019年度より3カ年で実施する「グローバルビジネス展開プログラム」。本プログラムでは、グローバルビジネスに精通し、その経験や知見をもって、果敢に挑戦を続ける方々をゲストにお招きし、日本と海外との文化的背景の違いや海外進出の成功ポイントなど、グローバルビジネスを展開していくうえで必要なエッセンスについてお話いただきます。
第1回のゲストは、シリコンバレーを拠点に活躍する桝本博之氏(B-Bridge International, Inc. /President & CEO)。インキュベーション事業や教育事業を通して、日本の成長を応援するとともに、世界中に日本の素晴らしい人材、技術、文化を広める"架け橋"となるべく、さまざまな事業を展開されています。シリコンバレーで活躍する企業ならではの特徴から、今後、日本人がシリコンバレーで挑戦するために必要な要素まで、桝本氏の多彩な経験をもとに、これからの時代にイノベーションを生み出すための秘訣について語っていただきました。

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"夢の亡者"が集う世界は、スピードが命

"夢の亡者"が集う世界は、スピードが命

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シリコンバレーに暮らして24年目を迎えた桝本氏。すべての始まりは、シリコンバレーの研究用試薬メーカーCLONTECH Laboratories社(現・Takara Bio USA社)からかかってきた1本の電話でした。1985年の入社以来、東洋紡の生化学事業部で培ってきた実績が買われ、ヘッドハンティングを受けたのです。

「出張でドイツに滞在していた時、CLONTECH Laboratories社の担当者からオファーの電話がありました。幼い頃から、父親の仕事の関係で幼稚園、小学校は3回ずつ転校を経験し、大人になってからも含めると、それまでの人生で24回引っ越しをしてきたので、環境が変わることには慣れていました。また当時、1995年に起きた阪神淡路大震災で被災し、仮住まいに暮らしていたこともあって、期待されているなら挑戦してみようと思い、その場でオファーを受けることを決めました」

CLONTECH Laboratories社は、29カ国の多様な社員120名から成る中小企業でした。1996年に渡米し、International Sales Managerとして入社した桝本氏が、公用語が英語の環境で働くこと以上に驚いたのは、「"英語が話せない"と言う自分が恥ずかしくなるくらい、英語が下手な人がたくさんいた」ことです。

「私の直属の上司だった台湾人の副社長は、ネイティブにも理解しがたい英語を話す人でした。もし、この方と関わっていなければ、英語の面で、最初に心が折れていたかもしれません。言葉の上手い下手ではなく、いかに心を伝えるかということの大切さを学ばせてもらいました。それと同時に痛感したのは、いかにスピード感を持って、目標に向かって突き進もうとしている人が多いかということです。シリコンバレーに集まる人たちは、金の亡者ならぬ、"夢の亡者"です。とにかく、スピードが命。いいアイデアがあっても、市場にローンチするまでに1年以上かかるというようなサイクルを当たり前として経験してきた私にとって、非常に新鮮でしたし、シリコンバレーには俗に言うしがらみを気にする人もいません。スピード感を持って目標に向かうということは、走り続けるということ。走り続ける限り、途中で転ぶことも当然ありますが、その時に再び立ち上がるだけの強い想いを持つことの大切さについても、身をもって教わりました」

危機をチャンスと捉えるマインド

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CLONTECH Laboratories社では、世界43カ国の販売代理店整備を行い、日本現地法人の代表取締役も兼務していた桝本氏。入社して3年が経った頃には、当初の4倍近くにあたる社員数450名を有する企業へと成長していました。

「伸びている企業には人がどんどん入ってきますし、サラリーもどんどん上がります。当初、CLONTECH Laboratories社は、上場を目標にしていましたが、イグジットで会社を売却しました。その半年後には250名が退職し、私を含む他の社員も、まもなく退職しました。特筆すべきは、その多くが、退職時に会社から受け取ったお金を元手に、起業したことです。彼らは、"しばらく休んでから、また他の会社で働こう"とは考えないんですね。その代わり、"よし、これはチャンスだ。会社を作ろう"となるわけです。感化された私も、バイオテックの分野で、日本とアメリカの架け橋になることを目指して、2000年にB-Bridge International, Inc.という会社を作りました。のちに詳しくお話しますが、2003年以降は、同社でインキュベーション事業や独自のR&Dも行っています」

シリコンバレーの本当の意味

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「IT企業の聖地」と称されるシリコンバレー。Google、Facebook、Apple、Intelなど名だたる企業がこの地から誕生し、今もさまざまなグローバル企業を輩出し続けています。ご存知の方も多いと思いますが、実は、シリコンバレーという公的なエリアがあるのではありません。シリコンバレーとは、サンフランシスコ市の南部に位置するサンタクララ・サンノゼ・パロアルト地区の周辺に、かつて多くの半導体(=シリコン)メーカーが集まっていたことと、渓谷の地形にちなんで付けられた通称です。
現在、シリコンバレーの総人口は、約300万人と言われ、そのうち36.8%が外国生まれです。シリコンバレーの雇用人口における海外出身者の比率は、全米と比較して約3倍。科学技術関係職種では、半分以上が海外出身者です。また、シリコンバレーには、日本の総投資額の約50倍に相当する全米のベンチャーキャピタル投資額の約半分が集まっています。カリフォルニア州のわずか1%を占めるエリアであるにも関わらず、州の約半分にあたる特許を取得するなど、チャレンジが実る土壌であることを証明するとともに、今なお、世界のビジネスの中心地として進化を続けています。

「当然ながら、"ヒト"と"モノ"と"カネ"が集まるシリコンバレーでは、ビジネスが起こりやすいです。人種のるつぼと言われるように、インドや中国をはじめとする移民が多く、多様性に富むこのエリアでは、さまざまなネットワークを構築することが可能で、なおかつ、新たなチャレンジを支援する仕組みも整っています。また、シリコンバレーには、何度失敗しても、挑戦できる環境と文化がありますが、日本には失敗が許容される文化がないせいか、残念ながら、シリコンバレーを利用する価値をまだ十分に理解していない日本人が多いのが現状だと思います。裏を返せば、日本が安定した良い国であるからこそ、チャレンジに挑む必要がないというか、そういったモードが醸成されていない気がします」

起業家になるために最も必要なのは、好奇心

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「シリコンバレーの常識は、世界の常識でもなければ、日本の常識でもありません。そのことを踏まえた上で、お伝えしたいのは、"Silicon Valley is not a location. It is a mindset."ということです。つまり、シリコンバレーとは、単なる場所ではなく、いい意味でその環境に感化され、マインドセットが変わる場所。もしくは、マインドセットが形成される場所だと思っています。170年ほど前、人口わずか200人ほどの小さな開拓地だったサンフランシスコに、30万人もの人たちが金を採掘しようと世界中から集まり、カリフォルニア・ゴールドラッシュが起きました。"あそこに行けば、何かが起こる"と信じた当時の人々のマインドは、外国人が多く集まる現在のシリコンバレーにも、確かに受け継がれていると思います」

マインドセットに加えて、シリコンバレーで得られるものは、「起業家精神」と「リーダーシップ」であると桝本氏は話します。

「"Curiosity=好奇心"を持つことがなければ、起業家精神には至らない--こう語ったのは、故・スティーブ・ジョブズ氏のメンターだったレジス・マッケンナ氏でした。マッケンナ氏が80歳くらいの時、お話する機会があったのですが、『起業家になるための一番大切なスキルは好奇心を持つこと。もうひとつ必要なのは、ネットワーク。その2つがあれば、起業家精神は養われる』ともおっしゃっていました。日本では、アントレプレナーシップが起業家精神と訳されることが多いですが、会社を興すための精神としてだけではなく、"挑戦する心"として捉えればいいのではないかと、個人的には思っています。スタートアップのトップに立つ人にとって、お金を集める能力も不可欠ですが、それ以上に、挑戦する心と好奇心を持ち続けることは、極めて重要です。日本にはいい大学が多くあり、その気になれば、どんどん知識を身につけることができると思います。しかし、リーダーシップを含む人間力や挑戦する心というものは、挑戦と失敗を繰り返すことでしか育たないものです。先にも触れましたが、その繰り返しを許容する環境があることも、シリコンバレーの大きな特徴のひとつです」

『Made in USA by Japanese』という新しい考え方

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桝本氏がシリコンバレーに設立したB-Bridge International Inc.は、「がんばれニッポン」をモットーに、インキュベーション事業や教育事業などを通して、日本の成長を応援することをミッションに掲げています。2003年にスタートしたインキュベーション事業では、経済産業省の外郭団体JETROとの共同で、シリコンバレーのマウンテンビュー市内にバイオテックのラボをかまえ、企画運営を担ったほか、2006年からは、グローバル人材育成支援の一環として、日本人大学生、社会人、企業人を対象にした教育サービスを展開。2014年には、教育、研究開発のさらなる加速をテーマにした教育組織Silicon Valley Japan University(連邦政府承認NPO法人)を立ち上げ、米国での4年制大学創設に向けて活動中です。

「アメリカに長く暮らしていますが、私は日本が大好きで、"Made in Japan"という言葉をリスペクトしてきました。1940年の東京オリンピックが開催された頃からバブルの頃まで、常に成長を続けてきた日本が、アメリカを超える日はそう遠くないと本気で思っていました。しかし、今はどうでしょうか?GDPでは、中国には抜かれるも、世界3位をキープしています。それはそれで素晴らしいことですが、安定国の一途を辿りつつある日本の100年後を考えると、かなり不安です」
「そんな中、残念ながら、私の中に強くあった"Made in Japan"へのプライドが薄れていったことは事実です。シリコンバレーの若者たちに聞いても、"Made in Japan=ナンバーワン"とは、今や、誰も思ってはいません。今日、ひとつの提案として、皆さんにお伝えしたいのは、"Made in USA by Japanese"という考え方です。Made in Japanにこだわるのではなく、日本人である私たちが、世界で最も巨大なマーケットを有するアメリカを利用し、ビジネスを展開していく。もっと言えば、シリコンバレーというブランドを利用し、スピード感をもって、ビジネスを展開していくということです。私はよく、アジアの他国の人たちにこう言います。"今、発展途上しているのは私たちの国です"と。かつて発展途上国とされていたその国の人たちは、シリコンバレーにやって来てその場をうまく利用し、挑戦と失敗を繰り返しながら、それぞれが追い求める夢を実現することで、祖国に貢献しています。しかし、先にも述べたように、多くの日本人は、まだシリコンバレーを利用する価値を理解してはいません。人口減少社会となった日本の外にある新たなパイを利用し、外から人々や外資を呼び込むくらいの勢いが、ビジネスを成功させるためにも、この国を成長させるためにも必要ではないかと思います」

ゼロから1を生み出すよりも、無限大から発想できる人を育てていきたい

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近年、桝本氏は、シリコンバレーと日本の架け橋になるべく、さらに活躍の場を広げ、日本に根ざすアスリートやアーティストのマネジメント、ゲストハウスやコミュニティスペースの運営、地方創生支援などを行っています。その根底にあるのは、他ならぬ故郷・日本への思慕です。

「シリコンバレーにいながら、常に、日本のことを考え続けています。これからの時代は、アメリカの良さに日本の良さを融合することで、シリコンバレーの土地や技術・発想・文化性を利用する日本人や日本の企業を多く生み出し、日本からシリコンバレー経由で世界に進出するという新しいカタチを創造していきたいと思っています」

講演後、参加者同士のディスカッションを経たのち、全体での意見の共有と質疑応答が行われました。
「日本の企業は、社員に対して過保護すぎる傾向にある。シリコンバレーへの片道切符を渡し、"あとはなんとか自力でやって来い"というくらいの厳しさがないと、本当の意味での起業家精神は鍛えられないと思う」「今、大学2年生だが、再来年には起業したいと考えている。今日の話を聞いて、"やる気があるなら来てみろよ。成功するかどうかは君次第だよ"と言われているような気がして、奮起した」など、さまざまな声が挙がりました。

「シリコンバレーには、何度失敗しても、挑戦できる環境があるという話があったが、一度失敗した人に対して、投資家はお金を出したくないだろうし、次に挽回するのが難しいのではないか?」という質問に対して、桝本氏は次のように回答しました。

「もちろん、どんな失敗でも許されるというわけではありません。例えば、コーヒーをこぼしたとします。こぼれた理由は、肘が当たるところにカップを置いていたから。それなのに、また同じところにカップを置いて、肘を当ててしまい、コーヒーをこぼしてしまう。この失敗はだめです。でも、コーヒーを棚の上に置いてみる、あるいは、コーヒーを飲まないなど、別の対策を取ることで、こぼさないようになった。これならOKです。つまり、同じ失敗を繰り返すのではなく、失敗したとしても、そこから学びを得て、"次は失敗しないために、こんな取り組みをしていく"ということをきちんと提示できれば、それは基本的には許されるということです」

「ゼロから1を生み出すというよりも、無限大から新しい何かを生み出すという発想ができる人。そんな人たちを育てていくことが、これからの日本には必要だと思っています。そのためには、マインドセットを変えることがやはり重要であり、そのマインドセットを新しい文化として構築していくことに尽力していきたいと思います。一歩、勇気を振り絞って、シリコンバレーにいらしてください。大歓迎させていただきます!」

大盛況のうちに幕を閉じた第1回グローバルビジネス展開プログラム。桝本氏の実体験をもとにした内容は、参加者の胸に強く響いたようでした。


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