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【レポート】起業につながる"副(複)業"の始め方とは?

ミドルシニア世代 "自分スタートアップ" プログラム〜Program2〜2020年1月8日(水)開催

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40代から60代は、"ミドルシニア"世代と呼ばれます。希望すれば一定年齢までの雇用延長が制度化されるなど、人生100年時代におけるシニア世代の働く環境は大きな変貌を遂げていますが、シニア世代以降になってどのような働き方ができるかは、40代からのミドル世代での準備がカギを握ります。
昨今、そのミドルシニア世代の中で、新しいステップとして「起業」という選択肢を選ぶ人が増えています。「起業」と聞くとハードルが高いように思えますが、実は制度上も現場でも、これまでに比べ最も起業しやすい環境が整っています。東京都が2013年度から実施している「インキュベーションHUB推進プロジェクト」という創業支援事業のプログラムもその一つ。同プログラムにおいて、エコッツェリア協会ときらぼし銀行はパートナーに採択され、創業支援に関する様々なイベントを実施しています。
その一環として2019年12月から、5回シリーズで「ミドル・シニア世代 "自分スタートアップ" プログラム」を開催。40代~60代の方を中心に、自身の人生の選択肢に「起業」という可能性を加えたい方のための講座を提供しています。

第2回は、一般社団法人Work Design Lab(ワークデザインラボ)代表理事で、多様な働き方の実現を目指して活動している石川貴志氏を講師に招き、巷間で話題となっている「副(複)業」の最新動向と起業につながる副業実践法の解説、参加者を交えたパネルディスカッションなどが開催されました。

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「副業人材市場」という新たなマーケットが誕生した

「副業人材市場」という新たなマーケットが誕生した

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日本政府が働き方改革を推進していることに伴い、「副業解禁」に舵を切る大企業が増えており、副業(複業)や兼業、パラレルワークといった働き方に興味を持つビジネスパーソンも増加の一途をたどっています。講師の石川氏が代表理事を務めるWork Design Labは、約80人のメンバー全員が"複業"という形で参画しているユニークな団体で、「働き方をリデザインする」をテーマに、多くのプロジェクトを推進しています。講演の冒頭、「そもそも副(複)業とは何か」というテーマについて、石川氏は次のような定義を掲げました。

「Work Design Labでは、金銭の授受にかかわらず、会社など組織外の活動を、すべて"副業"と呼んでいます。もうひとつの重要なポイントは、会社からの命令や指示ではなく、自分の意思で行なう活動が副業です。Work Design Lab自体、"イキイキ働いている大人を増やしたい"というシンプルな思いから活動が始まりました」

石川氏自身、大手出版流通企業に勤務しながら、Work Design Labの活動で行政や企業と連携した副業のプロジェクトを多数手がけています。聞けば、「Work Design Labに参画しているメンバーの大半は会社員ですが、別の会社と雇用関係を結んでいるメンバーはいません」とのこと。石川氏によれば、副業で別の会社に社員として雇用された場合、"上司と部下"の関係性が生じてしまい、個人の意思や裁量の余地が狭まるため、厳密な意味での副業とは言えないそうです。
副業や兼業が注目を集めるようになった要因として、石川氏は、"人口減少""産業構造の変化""人生100年時代"という3つのキーワードを挙げ、それらと副業の関係性を明らかにしていきました。まずは、"人口減少"からです。
「推計では、日本では2030年に労働人口が600万人以上不足すると見積もられています。その対策として、日本政府は先端技術の活用、副業・兼業の推進を掲げています。例えば厚生労働省は、企業に策定を義務付けている"就労規則"の規定例を公開していますが、数年前まで"副業禁止バージョン"の規定例をひな形として公開していました。しかし現在の規定例からは、副業禁止規定が削除されています。これは、日本政府が"副業・兼業を推進する"と宣言していることを意味しており、実際に、2027年度以降に、希望者は原則とし副業・兼業を行なうことができる社会を目指す、と謳っています」

次に、産業構造の変化について、解説します。
「環境変化のスピードが劇的に速くなっていて、顧客のニーズや課題が移り変わるスピードも増しています。業界間の垣根も低くなっており、他業界の企業がいきなり競争相手として登場するケースも珍しくなくなっています。すると、社内の自前人材だけでその変化に対応することは難しく、外部人材の力を借りる必要が生じてきます。アウトソーシングもひとつの手ですが、課題解決の担い手として、副業人材に期待が集まっているわけです。最近、シェアリングエコノミーが盛んですが、今後は、企業間や組織間で"人材"をシェアする動きが加速するでしょう。それに伴い、日本には"副業人材市場"ともいうべき新たな労働マーケットが誕生し、拡大していくに違いありません」

石川氏は、多くの団体から副業に関するセミナーや講演に招かれるそうですが、大企業は例外として、中小企業、特に、地方の中小企業の経営者には、"副業"に対してネガティブなイメージを持っている人がまだまだ少なくないと言います。
「"副業なんて、もってのほかだ!"と思っている中小企業経営者が多いのですが、"副業人材という新たな労働市場が生まれつつある。人材確保に苦労している地方の企業にとって、チャンス到来ですよ"と話すと、眼の色が変わりますね」

最後に、3つ目のキーワードである"人生100年時代"について説明します。
「定年延長が当たり前になった現在、60歳定年制はすでに過去の話になりつつあります。人生100年時代が現実になった場合、多くの人が75歳くらいまで働くようになるでしょう。60歳を過ぎてから副業をスタートさせたり起業したりするのはハードルが高いため、ミドル世代のうちに少しずつ準備を進めたいと考え、その一環として、副業に興味を持つ人が増えている現実があります。加えて、現在は技術がすぐに陳腐化する時代で、企業や事業の寿命と職業寿命の長さの逆転が始まっています。そのため会社にキャリアや将来を丸投げすることがリスクとなり、ビジネスパーソンは"常に学び、変化する"ことが求められるようになってきています。その手段として、否応なしに副業に目を向けざるを得なくなっている現実があるようです」

中には、副業人材の知識やスキル、経験に注目し、"会社員限定"で職員の募集に踏み切った広島県福山市や長野県塩尻市のような自治体も現れています。大手企業にも、"副業人材こそイノベーションを生み出す鍵"と捉え、優秀な副業人材を自社に取り込むべく、様々な施策を打ち出すケースが目立って増えてきていると言います。

"興味開発"から始めよう

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講演の後半に入り、石川氏は"起業につながる副業"の実践と課題について説明しました。石川氏は、「副業の良い点のひとつは、お金を稼ぎながら、自分がやりたい活動に参加して成長できること」と話す一方で、「ただ、いきなりビジネス化すると、自分を追い詰めてしまうことにもなりかねない」と、注意を促します。

「例えば、知り合いから『福岡でイベント、あるいは勉強会を開催するので参加してみない?』と誘われたとき、『面白そうだ』『勉強になるかも』と思えば、個人として立場なら、フラッと出かけることができますよね。けれど、会社の仕事で九州に行くとなると、"フラッと"出向くことはできません。上司から"なぜわざわざ九州に?"と聞かれますし、その問いに対し、論理的に回答することが求められます。このように、社員という立場ではせっかくの"学びの機会"を失ってしまうことがあるのに対し、副業の場合、学びの可能性が広がるわけです」

こうした学びの場にたくさん参加することの効用は、"自分が本当にやりたいことは何か"に気づくことができる点だと言います。企業は、社員の"能力開発"を目的とした各種研修を提供していますが、石川氏はそれに加えて、「多くの人が"イキイキ働ける社会"を実現するには、"興味開発"が欠かせない。そのために、できるだけ多くの学びの場に参加する必要がある」と強調します。
「社会人が、興味開発を体系的に学ぶことができる場はありませんから、各人が能動的に行動する必要があります。私もいろいろな場に顔を出してきましたが、話を聞いたときには面白そうだと思っても、実際に参加してみると、"向いていない""面白くない"とわかるケースが少なくありません。ですから、興味のあることが10個出てきたら、まずは全部やってみることです。そのうち、自分が本当にやりたいことが絞られてくるはず。3個程度まで絞られたら、それを深く掘り下げていくことによって興味開発の段階が進んでいきます。一方、会社の場合は、向いていないことや面白くないことでも、指示された場合は、基本的には従わなければなりません。興味がないことや向いていないことを延々と強要されるのは厳しく、精神的なバランスを取る意味でも、副業の実践により、自分がやりたいことを探したり発見したりすることをお勧めしたいですね」

コミュニティづくりが副業起業の第一歩

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石川氏によると、大手銀行で初めて副業を解禁した新生銀行が、社員に副業についてアンケート調査を実施したところ、副業に関心を持つ人は50%にのぼったのに対し、実際に副業を実践している人は3%に過ぎなかったと言います。「つまり47%の人は、興味があるにも関わらず、副業ができていないのです」と石川氏。その理由について、石川氏は「副業の始め方やアイデアの出し方、実践のステップがわからないからではないか」と述べます。では、具体的にどう始めればよいのでしょうか。石川氏は、「副業のアイデアは、企業の新規事業創出のイメージで捉えるとよい」と、アドバイスします。

「独自技術を持っている企業は、先に商品やソリューションを作ってしまい、すぐに"それを売れ!"という話になってしまいます。商品やソリューションだけ渡されても、どこにどう売りにいけばいいかわからないですよね。必要なのは、まずビジネス課題を探すことで、見つけたらその課題の質を上げていき、そのうえでソリューションや商品の質を上げることです。もちろん、それには時間がかかります。企業は既存事業の売上があるため新規事業創出に時間をかけることができますが、個人の場合は、どこかで収入を担保する必要があります。その意味で言えば、起業の前段階としてのアイデア探しに、副業は相性が良いと思います。会社員として給料を受け取りながら、ビジネスのアイデアや芽を少しずつ育てていけばいいのです」

そのための方策として、石川氏は「とにかくコミュニティに参加する、あるいは、コミュニティを作ることを勧めたい」と、話します。
「アイデアが煮詰まっていない段階で、見切り発車的にいきなりビジネス化してお金を稼ごうと思っても難しいので、まずは興味を持ったコミュニティに参加することから始めましょう。コミュニティとして考えられるのは、勉強会などです。僕の場合も、最初は勉強会からスタートしました。例えば会社から『ヘルスケアで何かできないか』と相談を受けた場合、コミュニティ内の仲間で、その分野に詳しい関係者から徹底的に話を聞くようにします。その分野にはどういうプレイヤーがいて、現在のトレンドや課題は何か、という全体像がわかりますし、解決のヒントが浮かぶことも少なくありません。コミュニティはメリットだらけですから、会社に勤務しながら、少しずつコミュニティ活動を広げていってください」

多くのコミュニティに参加しているうちに、自分の興味・関心の方向性、自分の適性、自分の提供価値などが具体的になってくると言います。
「私の場合、コミュニティでの活動が広がっていくにしたがい、有志が集まって『これやってみようぜ』という感じで自然発生的にプロジェクトがいくつも誕生し、そのプロジェクトで付加価値が生み出せることができそうだ、と明らかになったときにビジネス化して、企業や行政などのクライアントからお金をいただくケースがほとんどです」

企業に所属していると、異なる領域の知識やスキル、例えば広報やマーケティングについて学びたいと考えても、基本的には異動を待たなければ実現しません。一方、副業では該当するプロジェクトに参加することで当該分野について学習することができ、実践を通じて経験を積み重ねていくことができると言います。逆に、自ら専門知識や保有しているスキルをボランティア活動を通じて社会に提供する"プロボノ"活動も、コミュニティ拡大に役立てることができるそうです。

いずれにしろ石川氏は、副業を通じて起業を考える際には、「①コミュニティ→②プロジェクト→③ビジネスという順序を意識すべき」とアドバイスします。
「ITのスキルを持っているからといって、いきなり副業でシステム開発の仕事を請け負ったりすると、もしバグが見つかった場合に瑕疵担保責任を負わなければならない可能性もあります。そういったリスクを避ける意味でも、副業はコミュニティ参加から始めるのがベター。あるいは、地方創生の手段として副業人材に注目している自治体がたくさんありますから、その案件を探して応募することもお勧めしたいですね。私の経験上、地方自治体とのプロジェクトはとても楽しいです」

また、副業では基本的に、企業における上司と部下の関係のような"上下関係"が発生しません。そのため、参加したコミュニティ内で意見が衝突した場合、どちらかが折れないかぎり対立が解消されることがありません。「そこで我を張って自分を押し通すのではなく、あえて相手の意見に従う"健全な自己否定力"を発揮することが、副業を成功させるカギになります」と石川氏は話します

石川氏のように、大手企業に勤務しながらの副業は、活動時間が平日夜か週末に限られます。ここで問題となるのが、"家族の理解"です。3児の父である石川氏も、「家族から、平日も休日も仕事をして...」と揶揄された経験があるそう。「いきいきとした人生を送るには、家族の存在が大切。絶対にないがしろにしてはいけない」と石川氏。子育てと仕事、副業を両立させる秘訣として、それぞれが重なる部分を見つけることの重要性を強調し、「地域での副業と家族旅行を組み合わせた"複業旅行プロジェクト"の実践に取り組んでいます」というアイデアを披露して、講演を締めくくりました。

講演終了後、石川氏と本プログラムのファシリテーターを務める塚本恭之氏(ナレッジワーカーズインスティテュート株式会社 代表取締役)、そして参加者との間にインタラクティブな場が設けられました。

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「複数の活動を並行されているが、タイムマネジメントのコツを教えてほしい」という参加者からの質問に対し、石川氏は「これはもう、会社員としての仕事の生産性を高めて、在社時間を圧縮するしかありません。私も以前は苦労しました。例えば、"自分が参加する必要がない"と思った会議への出席は避けるなど、いろいろなアイデアを試しましたが、これに関しては、人によって正解が異なると思います」と回答。「自治体と連携したプロジェクトをいくつも手掛けていらっしゃるが、最初の接点は何だったのか」という質問に対して、石川氏は「セミナーやイベントを通じて知り合い、話しているうちに自然発生的に始まったという感じです。だから、とにかくいろいろな場に顔を出すことが大切だと思います」と、答えました。他にも、「金銭の授受が伴わないプロジェクトも手掛けておられるが、それとボランティアの違いを教えてほしい」「Work Design Labに参加したいが、どうすればいいか」などなど、多数の質問が寄せられ、活発な意見交換が行なわれました。

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