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【レポート】アスリートの能力・スキルはビジネス界を変えうるもの

アスリート・デュアルキャリアプログラム~総括編~ 2020年1月21日(火)開催

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2019年末より4回に渡って実施してきた「アスリート・デュアルキャリアプログラム(※)」。これまで、実際にデュアルキャリアの道を歩んだ元アスリートや、他に類を見ないセカンドキャリアを築いて来た元アスリートなどを招いて講義型のプログラムを開催。各人の経験を振り返りながら、デュアルキャリアを考える上での様々なヒントを教えていただきました。

そして今回、「アスリートのデュアルキャリアを考えよう」と題し、総括となる会を開催。日頃からアスリートのキャリア支援を行ったり、つい最近までトップレベルで活躍していた元アスリートなどをゲストに迎え、アスリートの未来を考えるトークセッションイベントを実施しました。その模様をレポートします。
※「アスリート・デュアルキャリアプログラム」は、東京都が2013年度より実施する創業支援事業である「インキュベーションHUB推進プロジェクト」のプログラムです。高い支援能力・ノウハウを有するインキュベータ(起業家支援のための仕組みを有する事業体)が中心となって、他のインキュベータと連携体(=インキュベーションHUB)を構築し、それぞれの資源を活用し合いながら、創業予定者の発掘・育成から成長段階までの支援を一体的に行う取組を支援し、起業家のライフサイクルを通した総合的な創業支援環境の整備を推進します。

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アスリートだからといってストレス耐性が強いわけではない

アスリートだからといってストレス耐性が強いわけではない

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キーノートスピーチのマイクを握ったのは平地大樹氏です。自身もプロバスケットボール選手として活動し、引退後2つの企業を経て、株式会社プラスクラス、プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社を起業。現在は両社の代表取締役として、「日本のスポーツ全会場を満員にする」ことをミッションに、約60のプロスポーツクラブのマーケティングやクリエイティブ支援を手掛けています。このように紹介すると、一流のアスリートが引退後に起業して華々しい第二の人生を送っていると見えるかもしれませんが、そのキャリアは決して順調なものではありませんでした。

大学卒業後にプロバスケットボール選手となるために渡米したものの、日雇い選手として年収80万円ほどの生活を送ります。その後帰国し、アパレル店員として働きながらトレーニングを続け、25歳で3人制バスケットボールのプロ選手となります。ただしこの時もバスケットボールだけで生活できていたわけではなく、リーグスタッフとして働きながらプレーするというもので、「年収は250万円ほどで、スポーツ業界の中ではリアルな数字だと思います」と平地氏は振り返ります。そして2シーズンプレーした後、所属チームから戦力外通告を受け、アスリートを辞めることとなります。

その後、セカンドキャリアとして選んだのは人材業界でした。しかし、やり切った思いを抱けず、半ば強制的に引退することになった中で、それでも家族のために働いていかなければならなず、「特に興味やゆかりがあったわけではない」人材業界に入ったことで、間もなくうつ状態に陥ってしまいます。当時のことを振り返りながら、平地氏は「アスリートだからといって、ストレス耐性が強いわけではない」と説明しました。

「学生時代には監督から厳しいことや理不尽なことを言われることもありましたが、それは耐えられました。当時の監督にも感謝していますし、今でも大好きです。なぜならば、バスケットボールが好きだからです。でも、そんな経験を持っているからといっても、自分の中で関心度を高められないと頑張ることができず、普通につらいんですよね。これは他のアスリートの方も同じだと思うので、"アスリートはストレス耐性が強い"という考えは捨ててもらいたいと思っています」(平地氏)

体育会系と聞くと「根性がある」「多少の無理は利く」といったイメージを抱きがちかもしれませんが、決してそうではないと平地氏は訴えました。この点は、アスリートのキャリアを考える上で重要なポイントの1つと言えるでしょう。

現役アスリートのキャリアを助ける「PDCA」と「SNS活用」

引退後、"望まぬ"セカンドキャリアへと進んだ平地氏ですが、結果的には勤め先の経営状態悪化の影響もあって8ヶ月ほどで解雇されてしまいます。次に選んだのが、現在の仕事にもつながるWeb業界でした。Webの経験はなかった中での再就職でしたが、ここで転機を迎えます。

「入って3ヶ月ほどで結果を出すことができ、いきなり給料も上がったんです。そこで"Web業界なら結果を出せる"と思い、そこからますます頑張るようになりました。将来的には起業して自分のやりたいことをやろうというビジョンも描くようになり、技術的な勉強やマネジメントの経験を積み、実際に35歳の頃に起業しました。選手時代よりも年収は大幅にアップしましたし、今は最高に楽しいキャリアを歩んでいます」(平地氏)

こうした紆余曲折のキャリア変遷は、平地氏に「キャリアを考えるとき、必ずしもWill型である必要はない」という気付きを与えたそうです。

「近年、就職活動などのシーンにおいては夢を追い求めるWill型の思考(Will:自分のやりたいことを考え、そこに対してCan:できること、Must:やるべきことを考えていく思考)が求められる傾向にあります。でも、とにかく今やるべきことを頑張っていくMust型の思考でもいいと思うんです。もちろん、自分がどちらに当てはまるのか、自分にやりたいことはあるのかなど、現状の把握は必要ですが、無理に夢を持たなくてもいいと思っています」(平地氏)

「例えば、人伝に聞いた話やメディアなどの情報を見ると、元プロ野球選手のイチローさんはシーズン目標を立ててそこに向けてMustを落とし込んでいくWill型で、松井秀喜さんは1試合に1本でも打つと考えてプレーするMust型だと思います。タイプは違いますがふたりとも素晴らしいアスリートでしたし、成功を掴んでいます。だから、自分に合う思考で進められればどちらのタイプでもいいはずですし、いずれの形でも成長できると思っています」(同)

では、デュアルキャリアを歩む上で、あるいは将来を見据え、現役のアスリートができることは何なのでしょうか。平地氏は(1)PDCAを意識してトレーニングを積む、(2)SNSを活用してファンマーケティングにチャレンジする、というアドバイスを送りました。

「PDCAを意識したトレーニングとは、試合で勝つ、ゴールを決める、相手のエースを止めるといった目標を掲げたら、そのためにすべきことを考え、トレーニングにブレイクダウンしていくことです。目標が達成できたら継続すればいいですし、達成できなければなぜできなかったのかを検証し、新たなトレーニングを行い、次は達成できるようにしていく。このサイクルは、ビジネスにおけるPDCAサイクルと同じなんです。これができるようになると、別のキャリアを歩むことになっても素早く成長していけるでしょう」(平地氏)

「もうひとつは現役時代から積極的にSNSを活用することです。どのような情報やコメントを発信していくと喜ばれるのか、動画と静止画だとどちらの反応がいいのかなど、自分のファンを相手にマーケティングの実践をしていくんです。我々のようなWebの会社の場合、企業やブランドのアカウントから同様のことをしますが、それよりもアスリートが自分を材料にマーケティングをしていく方がより実践的だと思います。そこでコツをつかめれば、その後のキャリアにおいて貴重な武器になるはずです」(同)

自身のことを「アスリートとしては三流だった」と評し、引退後も決して順風満帆なキャリアではなかった平地氏ですが、それでも現役時代から自然とPDCAを回す癖を付けていったことで今のキャリアに役立てていたと言います。これらのアドバイスは、現役アスリートにとって今日からできることでもあり、大事な気付きにつながるはずです。

image_event_200121.003.jpegキャリア思考は必ずしも「Will型」である必要はないと平地氏

企業側にもアスリート側にも求められる意識の変革

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キーノートスピーチに続いてはパネルディスカッションへと移ります。登壇したのは、平地氏に加え、バドミントン元日本代表の福万尚子氏、元サッカー選手でこのアスリート・デュアルキャリアプログラムの企画者である槙島貴昭氏(B-Bridge プロジェクトマネージャー)、エコッツェリア協会から田口真司が参加。モデレーターはB-Bridge代表取締役社長の桝本博之氏が務め、アスリートとキャリアについてや、アスリートとビジネスの関係性などをテーマにトークセッションが行われました。

桝本氏は「企業側はどのようなアスリート・元アスリートを求めるのか」という点について言及します。このお題について、ビジネス側代表として、田口が次のように答えました。

「平地さんのプレゼンでも言及されていましたが、スポーツも仕事もPDCAを回していくものですし、Will型であれMust型であれ自分から積極的に取り組んでいかなくてはなりません。その意味で、"やらされる"のではなく"誰に何を言われようとも自分はやりきる"という思いを持っていてもらいたいと思っています」(田口)

その上で、田口は「デュアルキャリア」という言葉を使い時にミスリードをしてはならないとも述べました。

「一口にデュアルキャリアと言っても、複数のことを真剣にやり続けるものと、いくつかのキャリアを片手間的にやるのではまったく意味が違うと思っています。逃げや保険的な意味でデュアルキャリアと言ってはなりませんし、その点は我々ビジネス側の人間もミスリードしないように気をつけなければなりません」(同)

槙島氏は田口の考えに賛同した上で、スポーツ側、アスリート側の意識の変革も重要と説きました。

「アスリートたちが属するクラブや協会は、彼らがキャリアをしっかりと考えられる環境を整えていかなければなりませんし、そのために、僕は色々な活動をしています。そのうえで、アスリート個人のマインドも変化をしなければ、どれだけ環境整備をしても意味がないと感じています」(槙島氏)

続いて桝本氏は、平地氏の講演でも触れられた「アスリートとストレス耐性」について触れます。この点について、バドミントンの全日本総合選手権で優勝した経験を持ち、2019年まで現役だった福万氏は次のように語りました。

「私は英語がまったく話せませんが、これからアメリカに渡って子どもたちにバドミントンを教え、将来的にはアメリカ代表のコーチとしてオリンピックに出場したいと思っています。もちろんやりたいことのために、たくさんのやらなくてはいけないことに立ち向かう不安はありますが、自分のモットーである"生きていくなら成長したい"という言葉と、バドミントンの経験を通して自分は強い人間だと信じているので、頑張っていきたいと思っています」(福万氏)

平地氏が触れたように、アスリートだからと言ってストレス耐性が強いわけではないのでしょう。ただ、自分で目標を定め、そこに向かって突き進むという意味では、アスリートは特異的な強さを発揮できるのかもしれません。

アスリート×デュアルキャリアの課題を打破する方法とは

パネルディスカッションはさらに核心へと迫っていきます。桝本氏は、田口に対して「企業としては、出来上がった人を雇いたいのか、伸びしろがありそうな人を雇いたいのか、過去の頑張りを見て雇うのか、いずれの傾向にあるのでしょうか」と問いを投げかけます。これに対して田口は次のように答えました。

「企業や人によって異なるとは思いますが、私の場合は"伸びしろがありそうな人"を雇いたいと思うでしょう。アスリートは、試合の流れを読んだり、対戦相手を見て戦ったり、仲間と連携したりと、常にイマジネーションをしながらプレーします。ビジネスにおいても、会話の流れや商談相手を見ながら仕事をしていきますから、その能力は相当な強みですが、そうした能力を鍛える場は多くありません。そう考えると、若い頃から場数をこなし続けているアスリートはものすごいイマジネーション力を持っているはずですし、ビジネスの世界でも十分に通じるものだと感じています」(田口)

田口が挙げた"アスリートの強み"は、非常に大事なポイントだと平地氏も話しました。

「実際のところ、多くのアスリートがビジネススキルを持っていないので、すぐに役に立つことは難しいんです。でも、田口さんが挙げたイマジネーション力や、トレーニングとPDCAの関係など、ビジネス界に移っても役立つ素材は持っているんです。だから、企業側には今後、スポーツスキルをビジネススキルに翻訳できる人材が求められてくると思います」(平地氏)

桝本氏は最後に全員に対して「アスリートがデュアルキャリアを歩む上で抱える課題をどうやって打破していきたいか」という質問を投げかけ、それぞれ以下のように回答しました。

「私の最も大きな夢は、高齢者の方でも気軽にバドミントンをできる体育館を造りたいというものです。これから自分がアメリカで新しいキャリアを歩み、実績を積み、色々な人を説得できる力を持つことが、課題を解決することにもつながるのではないかと思っています」(福万氏)

「今回アスリート・デュアルキャリアプログラムを開催しましたが、こうした人材育成プログラムや、アスリートをアクセラレーションできるプログラムにどんどんとチャレンジしていきたいと思います。そうして1人でも多くのアスリートをアクセラレートしていくことで、アスリートのキャリアの後押しをしていきたいです」(槙島氏)

「一般庶民からすると、アスリートの方々はスーパーな人たちなんです。だからこそ、自分たちが持つ能力を理解し、自分を通じて世に問うていく意識を持つ方が増えるといいと思っています。同時に、アスリートやクラブ・協会と、アスリートを受け入れる企業や組織が色々と話しをしたり、お互いに何かできないかとコミュニケーションし続けることも重要です。私たちとしては、そういった場を作り続けていくことで、アスリートや社会に貢献したいと思っています」(田口)

「僕としては、2025年までに今の会社を上場させ、アスリートのセカンドキャリア支援をしたいと考えています。単に転職斡旋というものではなく、アスリートの潜在能力やスキルを活かしていき、さらに彼らが元いたスポーツ業界にも貢献できる形のものです。今、僕の会社は60弱のプロスポーツクラブと連携していますが、例えば各クラブに1人ずつ元アスリートを受け入れていただくことができれば、60人を救うことができます。そうやってスポーツ業界に貢献していきたいですし、彼らを一流のビジネスパーソンに成長させていければ、現役時代に活躍できなかったことで抱く劣等感から解放してあげることもできるはずです」(平地氏)

こうして、2ヶ月に渡って開催されたアスリート・デュアルキャリアプログラムは終了の時間を迎えました。アスリートが持つスキルは、実はビジネスにも活用でき、さらにそれは通常のビジネスの現場ではなかなか身に着けられないものです。これから日本にとって重要なスポーツイヤーを迎えることもあり、アスリート×キャリアの取り組みには、今後も大いに注目すべきだと言えるでしょう。

image_event_200121.005.jpegこの日は現役アスリートも参加。積極的に質問が飛び交いました


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