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【レポート】ビジネスをスケールアップさせる「アクセラレータ」とは?

グローバルビジネス展開プログラム~Program2~ 2020年2月26日(水)開催

4,8

世界の人口は77億人を超え、著しい経済発展により海外市場でのビジネスチャンスが拡大しています。一方で、日本企業の中には海外でのノウハウや経験に乏しく、正確な現地情報の入手や人脈形成が難しいことから、海外進出に踏み切れない企業が少なくありません。そこでエコッツェリア協会は、東京都の創業支援事業「インキュベーションHUB推進プロジェクト」の枠組みの中で、「グローバルビジネス展開プログラム」を企画実施。海外での職務経験や起業経験を持ち、今なお挑戦し続ける方々をお招きし、「日本と海外の違い」「海外進出の成功ポイント」等についてお話しいただくイベントです。
第2回では、海外の大学で教育を受けた経験を持ち、さらにドバイやアメリカのアクセラレータ(スタートアップのビジネス拡大に焦点を当てた資金投資などのサポートをする組織)での職務経験を経て、国内でスタートアップ支援や講演者として活躍する小豆澤祐氏をお招きし、「世界のスタートアップエコシステム」をテーマに、世界のトレンド、日本と海外のビジネス文化の違い、世界規模でみる成功するビジネスについて、アクセラレータで勤務した実体験に基づき講演していただきました。

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「スモールビジネス」と「スタートアップ」の違い

「スモールビジネス」と「スタートアップ」の違い

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「最近、あるセミナーに参加したのですが、講師がどれだけ素晴らしい話をしても、その講師自身のパーソナリティについて知らなければ、話が頭の中に入って来ないことに気付きました。そこで、まず自己紹介から始めたいと思います」

そのように話した小豆澤氏は、講演を自己紹介からスタートさせました。
茅ケ崎出身の小豆澤氏は、大学に入るまで、ほとんど英語を学ばずに過ごしたそうです。大学時代に貿易について学んでいた際に『アクセラレータ』の存在を知り、海外のスタートアップやアクセラレータのことを知りたいという思いが募り、一念発起してイギリスへ。一か月間の短期留学でしたが、現地で出席した大学の授業に衝撃を覚えたと言います。

「海外の教授の役割は、ファシリテーション。授業は、学生同士が議論することによって勝手に進んでいきます。つまり教授が一方通行的に教える場ではなく、みんなでディスカッションするための場なのです。日本の授業とのギャップにカルチャーショックを覚えると同時に、もっともっと海外で学びたいという意識が高まり、日本の大学を卒業後に、海外へ旅立ちました」

小豆澤氏は、アメリカのハルト・インターナショナル・ビジネススクールに進学、その後、ドバイに拠点を移し、現地のアクセラレータに勤務。それからアメリカのサンフランシスコへ移り、有名アクセラレータのひとつ『Alchemist Accelerator』で仕事を始めました。同社が日本法人を設立する運びとなり、その立ち上げに関わるため小豆澤氏は2018年に日本へ戻りますが、現在は日本のベンチャーコンサルチームに勤務しています。同コンサルでは、これまでに4社の起業を手掛けたと言います。

「ここで、僕の目標を皆さんに共有させていただきたいと思っています。将来的に、僕は『学校』を作りたいという目標を持っています。もちろん、作ることが目的ではなく、最終的には学校を中心とした都市計画、端的に言えば『学園都市』をつくりたいと思っています。そこでは、アクセラレータとして活動した経験を存分に活かしたいと考えています」

自己紹介を終えた後、小豆澤氏は本プログラムの参加者に自己紹介を求めました。
「今日はシリコンバレーのように、インタラクティブに進めていきたいと思います。シリコンバレーにいると、膨大な数の人と出会います。そうした中で自分のことを相手に覚えてもらうためには、自己紹介の中に、自分を象徴するキーワードを3つ入れ込むことが大切。それを前提に、将来やりたいこと(未来)、これまで何をしてきたか(過去)、いま何をしているか(現在)という順番で話してください」

小豆澤氏に促され、参加者が一人ずつ自己紹介。大学生から社会人、起業家、公務員、今年還暦を迎える人まで、多様な顔ぶれと立場のメンバーが集まっていることがわかりました。

ここから、話はいよいよ本題に。小豆澤氏は「ベンチャーは2つのタイプに分類できます」と、話を切り出しました。
「簡単に言えば、『スモールビジネス』と『スタートアップ』です。前者はレストランや居酒屋などで、料理を提供するとき、基本的にはお客さん1人につき1つを作る必要があります。2人なら2つですよね。つまり、顧客ごとにその分コストが発生します。一方のスタートアップは、Uber社を例にとると、ひとたびサービスを構築すると、そのサービスを何百回、何千回と利用できます。1000人にサービスを提供しても、コストが変化しないのです。そのため、スタートアップは成功して認知されると、売上が爆発的に増えていく特徴があります。今回のテーマは『世界のスタートアップエコシステム』ですので、スタートアップについてお話していきます。インタラクティブに進めていきたいと思っていますので、不明点があれば、その都度、質問していただいて構いません」

スタートアップのスケールアップに貢献

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アメリカでは、次から次へとスタートアップ企業が生まれる『スタートアップ文化』が根付いています。その理由のひとつとして、スタートアップを支援する組織の層が分厚く、それらが「エコシステム」として機能していることが挙げられます。小豆澤氏は、スタートアップを支援する4つの組織『インキュベータ』『アクセラレータ』『スタートアップスタジオ』『ベンチャーキャピタル』について、「それぞれ支援するフェーズが異なる」といい、定義を以下のように説明しました。

●インキュベータ
直訳すれば、卵を孵化させる機械のこと。起業まもないスタートアップの成功を手助けするために様々なサポートを提供し、収益化への道筋をつける。目的はイノベーションの実現で、支援は長期間にわたることが多い。

●アクセラレータ
直訳すれば「加速する」の意。その名のとおり、スタートアップの成長を一気に加速させるために短期間の支援プログラムを提供する。シーズ段階を過ぎたスタートアップが、ベンチャーキャピタル(VC)からの投資を受けるまでの橋渡し役を担う。

●スタートアップスタジオ
スタートアップの成功には、マーケティングからエンジニアリング、ファイナンスまで様々な専門知識を持つプロフェッショナルの存在が不可欠。その人的リソースを提供し、新しい事業を連続的かつ同時多発的に生み出すための仕組みで、モデルはハリウッドの映画スタジオと言われる。

●ベンチャーキャピタル
急成長が期待できるスタートアップなど未上場会社に対し資金を提供する。その企業が成長した後に株を売却することで収益を得る。一方、資金提供を受けたスタートアップは、経営の自由度が下がるというデメリットもある。

その後、アクセラレータに関するより詳細な説明が行なわれました。小豆澤氏によると、アメリカではおよそ160社のアクセラレータが活動しているとのこと。ひとくちにアクセラレータと言っても、大きく『独立系』『バックアップ/プラットフォーム』『政府系』『企業系』の4つのタイプに分かれると言います。

「『独立系』はその名のとおり、国家機関や大企業が関与していないアクセラレータで、独立した資本により運営されています。有名どころとして、アクセラレータの先駆者である『Yコンビネータ』という企業があります。Yコン社の評価はすこぶる高く、同社への入社は、ハーバード大学への入学より難しいとされています。ちなみに、僕が所属していたアルケミスト社も独立系になります。『バックアップ/プラットフォーム』は、主にマッチングの支援を行なっています。『政府系』は政府資本のサポートがあり、『企業系』は大企業が展開するアクセラレータです」

これらのアクセラレータがどのように事業を運営しているかは、内部で働いていた人でなければ実態がなかなか掴めません。小豆澤氏が解説します。
「簡単に言えば、ビジネスモデルのブラッシュアップや、事業方針に関する専門的なアドバイス、スタートアップ運営のノウハウなどを、経験豊富なメンターたちが提供します。アルケミスト社を例にとると、まずスタートアップが『アクセラレーション』というプログラムに応募します。審査に合格したスタートアップに対し、アルケミスト社の場合、およそ6か月間のプログラムを提供します。このプログラムは、成長し始めたばかりの事業を拡大させ、生み出したイノベーションを社会に送り出すことを目的にしています」

スタートアップとして成功した有名企業にUberやAirbnb、メルカリなどがありますが、これらはB to CあるいはC to Cのサービスを提供している企業です。小豆澤氏によれば、アルケミスト社はB to Bのスタートアップに特化した活動を展開していると言い、「近年の特徴として、特定の分野や事業に特化したアクセラレータが増えてきています」と説明します。

小豆澤氏が言うように、アクセラレータにはそれぞれ強みがあります。アルケミスト社の場合、スタンフォード大学の現役教授がファウンダーとなっています。そのため、大学の卒業生が立ち上げたスタートアップが多数、同社のプログラムを受講しているとのこと。スタンフォードというブランドに基づく『信用』がプラスされることが、アルケミスト社のプログラムを受講するメリットの1つになっているようです。

近年では、日本でもアクセラレータプログラムを積極的に運営する企業が相次いでおり、民間企業だけでなく、地方自治体などが主催するケースも増え、その数は年々増加しています。では、アクセラレータ自体はいったいどのように収益を獲得しているのでしょうか。小豆澤氏は、「基本的には、株式投資です」と解説します。

「数%程度のスタートアップ株式(エクイティ)を取得し、スタートアップの企業価値を上昇させることによって株式価値を高め、差分の利益を獲得します。『ユニコーン企業』という言葉を聞いたことがある人もいると思いますが、これは資産10億ドル以上に急成長した未上場スタートアップ企業です。スタートアップがユニコーン企業になれば、アクセラレータは莫大な収益を手にできることになります」

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ここで、参加者から「日本発のスタートアップで、アメリカのアクセラレータを活用した例はあるのか」という質問が飛び出しました。小豆澤氏は、「アルケミスト社に限れば、僕がアメリカにいたときに該当するケースはありませんでした。聞くところによると、現在は日本発スタートアップが何社か支援を受けているようです」と回答。

気になるのは、約6か月間のプログラムの具体的な内容です。アルケミスト社はセールスやファンドレイジングの分野に強みを持っており、そのノウハウを提供しているとのこと。前述のように、スタンフォード大学の教授がファウンダーを務めており、その教授は経営とプロダクト双方への理解が深く、「メールを1本打てば、すぐに的確なアドバイスが返ってきます」と小豆澤氏。また、ベンチャーキャピタルとの資金調達交渉時、話すべきことと話すべきではないことのポイントなどについても、かつてベンチャーキャピタリストとして活動していたメンバーから生の声としてのアドバイスが受けられると言います。

「プログラムのスタートから20週目に、成果を発表する『デモデー』というイベントを開催します。参加企業には1社ずつ7分間の時間が与えられ、自分たちは何者で何を作っているのか、自分たちがそれに長けている理由、アクセラレータプログラムで何を身につけたかなどを、そこに集まった投資意欲満々のベンチャーキャピタルを前にプレゼンします」

この発表の後に、交渉のテーブルが設けられ、スタートアップとベンチャーキャピタルとの間で資金調達に関する話し合いが行なわれます。アクセラレータはこのフェーズでもスタートアップを手厚くサポートすると言い、「ひとくちにベンチャーキャピタルと言っても千差万別で、中には好ましくない人物が運営するベンチャーキャピタルもありますから、どこから資金調達を受けるべきか、そして付き合うべきではないベンチャーキャピタルはどこかなどをアドバイスしてくれる人がいます。こうした多角的な支援を受けて鍛え上げられたスタートアップが、より大きなビジネス市場へ向けて力強く羽ばたいていくのです」と説明し、小豆澤氏は講演を締めくくりました。
この「グローバルビジネス展開プログラム」は、エコッツェリア協会が展開する3カ年のプログラム。日本人の海外ビジネスを後押しする企画として、今後の活動に注目です。

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