イベント特別イベント・レポート

【レポート】環境の変化に左右されない、社会課題を解決する起業アイデア

START UPセミナー for WOMEN オンラインセミナー 2020年11月25日(水)開催

8,10,17

女性の起業を支援することを目的に、定期開催している「START UPセミナー for WOMEN」。今年度はオンラインにて開催されました。
コロナウイルス収束の見通しが立たない中、経済の先行きも不透明な状況が続いています。実際に、今回の事前アンケートで一番多く寄せられたのは、「コロナ禍での起業をどのようにすればよいか聞きたい」という意見でした。起業には多くのチャレンジがつきものですが、現役の起業家の方々は、今の状況をどのように見ており、どのような戦略を立てているのでしょうか。

今回は、コロナ禍の状況下で躍進を続けている3名の女性起業家の方々に登壇していただきました。起業に至った思い、乗り越えた様々な壁などを含め、これから起業する女性への「金言」を伝えていただきました。

<登壇者>
■黒田千佳氏/株式会社137/代表取締役社長(写真左上)
■杉本亜美奈氏/fermata株式会社/代表取締役(写真左下)
■石原亮子氏/株式会社Surpass/代表取締役(写真右上)
<モデレーター>
■星義明氏/株式会社きらぼし銀行/連携推進部創業支援グループ長(写真右下)

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事業アイデアのヒントは「なくてはならない」サービス

事業アイデアのヒントは「なくてはならない」サービス

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黒田氏は、1歳半と3歳の孫を持つ女性起業家です。起業のきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災でした。残りの人生をどう生きるべきか考え、社会人向けの学校である事業構想大学院大学への進学を決めました。大学の授業で、環境問題をはじめとした社会が抱える課題の重大性を目の当たりにし、「頭をガンと殴られた」気がしたと黒田氏は振り返ります。

黒田氏がまず着目したのは、東日本大震災で露わになった、記録と情報共有の脆弱性でした。大事な情報を誰一人取り残すことなく伝え、誰もが簡単に記録を残す。これらをテクノロジーで可能にするための仕組みを考えました。2014年に世界銀行が主催した世界防災減災ハッカソンで、黒田氏はプロトタイプを発表し、見事グローバルファイナリストとなりました。

「私は『あったらいいね』というサービスは作りません。『なくてはならない』サービスをテクノロジーのデザインに落とし込みます。」(黒田氏)

ほどなくして、防災減災ハッカソンで発表したシステムを使いたいとの要望があり、横浜市と共同で実証実験をすることになりました。しかし、行政との契約は法人でないとできないことや、慣れない法人の設立手続や特許の出願など、当時学生だった黒田氏は多くの壁に直面しました。しかし、開発資金集めや仲間集めも並行して行い、チャレンジを重ね、完成した事業が「学校連絡・情報共有サービスCOCOO(コクー)」でした。

image_event_201125.003.jpeg 学校連絡・情報共有サービスCOCOO(当日の発表資料より)

日本の学校現場では、学校と家庭の連絡方法が50年前からほぼ変わらず、紙のプリントや電話連絡で行われ続けています。コクーの主な機能は、24時間欠席連絡自動受付や学校連絡のデジタル配信と返信、行事やカレンダーのリアルタイム共有の3つに分類されます。
デジタル配信・リアルタイム共有により、情報共有の非効率・不確実性を解消・教師の負担軽減を図り、欠席傾向の可視化により、不登校傾向にある児童の早期対応を可能にします。
マーケティング戦略と、国による教育のICT化の推進を背景に、問い合わせが殺到。サービス開始から半年間で、すでに100近い学校での導入準備が進められています。

「私たちのターゲットは全国3万7千校です。今後は、より豊かな学びのプラットフォームへの進化を考えています。様々な分野の事業連携の模索も開始しています。起業に興味を持っている方に伝えたいのは、自分の強みを知って、それを生かし、志高く自信を磨き、実践をし続けるということです。私は、これまで目の前のことに全力投球してきました。無駄なことなど一つもなかったと言えます」(黒田氏)

「女性の健康と性」の問題に切り込み、新たな市場を開拓

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fermata(フェルマータ)株式会社の代表である杉本氏は、大学在学中から起業についての興味を持っていましたが、本格的に志したきっかけは、単純にリターンを求めず、社会が享受する利益などを考慮するベンチャーキャピタルのことを知った時でした。

杉本氏が創業したフェルマータは「フェムテック」の会社です。フェムテックとは、フィメール・テクノロジーの略で、「女性が抱える健康問題を、技術で解決するモノやサービス」を指します。
2012年頃にできた言葉で、当初は非常に小さなマーケットでした。しかし近年急激な成長を遂げており、全世界で10社ほどだった参入会社が、2020年現在は484社。資金規模は20倍以上にまで拡大しています。
世界中にフェムテックの会社はあります。しかし、そのほとんどが日本に入ってきていない状況だと杉本氏は言います。

「これまでになかったプロダクトであること、海外から日本に入ってくるときに薬事法の問題が生じることが要因です。言葉の壁もあります。私たちは、その間に入ってフェムテック製品へのアクセスをスムーズにする事業を行っています」(杉本氏)

image_event_201125.005.jpeg フェムテックの製品例(当日の発表資料より)

フェルマータの予測では、2025年にはアメリカでの市場は5兆円規模、日本での市場は1.4兆円ほどの規模にまで成長することが見込まれています。しかし、これはまだ氷山の一角。これまでタブー視されがちな分野であったからこそ、これから次々に新しい製品やサービスが出てくる可能性がある、と杉本氏は考えています。

「自分の体や性の悩みに気づいていない」、「気づいているが、解決できる選択肢を知らない」、「商品を知っていても入手方法を知らない」という、3つの課題を解決するために、フェルマータでは、ユーザーとフェムテック企業をつなぐプラットフォームを製作中です。

「商品の購買データやユーザー情報を集約し、将来的には、妊娠可能性や更年期が始まる時期などを予測するアプリケーションを作ろうと考えています。今、日本で3人に1人の女性が、更年期障害を理由に昇進をあきらめていると言われています。将来的な体の変化を予測できるようになれば、仕事と生活の両立がしやすい社会が実現されるのではないでしょうか」(杉本氏)

営業ワークシェアで働き方改革を促進

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石原氏が創業し、今年13年目となる株式会社Surpass(サーパス)は、BtoBに特化した女性営業のアウトソーシングを行う会社です。
2019年のエンジャパンの調査によると、各社で一番不足している人材としてあげられた職種は「営業職」でした。原因としては、高い離職率と採用の難しさ、育成の難しさなどがあげられます。特に、女性の営業職を増やしたいと思っている業界は多いものの、育成の方法に関して定着化・戦略化できている会社は非常に少ないのが現状といえます。

「まだまだ私たち女性からすると、男性が作ったルールや器の中で、社会が回っている部分があると感じます。社会のルールを変えることは難しいですが、事業のプロセスを変えることで、活躍できる人を変えていくことはできます。そこで、私たちはワークシェアリングという形で、営業の仕事を分けて、私たちの営業メンバーと依頼企業の営業社員とで共同して仕事を進めていくやり方を採用しています」(石原氏)

image_event_201125.007.jpeg 営業のワークシェアリングの仕組み(当日の発表資料より)

サーパスでは、「お客様を最初に訪問して、信頼を構築するフェーズ」で女性メンバーを入れ、「キーマンと直接会って進めるフェーズ」に進んだら、依頼企業の営業社員の方にパスするといったスキームで事業を展開しています。依頼企業の社員の方には、提案受注に注力してもらい、受注したお客様のフォローや紹介に関しては、サーパスのメンバーが担当。営業をワークシェアリングすることで、女性のコミュニケーション力やヒアリング力を活かした働き方が可能となる仕組みです。

サーパスの社員は8割が女性で、そのほとんどが営業未経験で入社します。接客業やサービス業出身の人材を、BtoBの営業ができるよう育成するためのシステムを独自に構築しており、事務スキル・テレアポスキル・営業スキル・PCスキルの全4教科217項目を体系化した仕組みにより、営業力の平準化を可能としています。

「私たちの強みは、女性ならではの営業力と、営業の生産性向上です。お互いワークシェアリングすることで、働き方改革も実現します。私たちが目指す世界は、日本社会から『女性活躍』という言葉をなくし、女性だけでなく、男性だけでもない、誰もが活躍できる社会を実現することです。しっかりとした事業実績を持ちながら、社会に一石を投じ続けたいと考えています」(杉本氏)

仲間づくりから資金調達まで、コロナ禍での起業に必要なこととは?

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第二部では、公演していただいた3名の登壇者によるパネルディスカッションが行われました。今回は事前アンケートで質問の多かったものをまとめ、会社組織編と事業戦略編に分けてディスカッションしていただきました。

<会社組織編>
Q仲間づくりについての考え方やポイントがあったら教えてください。

黒田氏:メンバーを探しつつも、サービスをリリースする直前まで、闇雲に声をかけるのは控えていました。大切な人生の時間を預かるという思いもありましたし、目指す方向や理念をしっかりと共有できることが何より大切だと思っているからです。今も探していますが、私自身は小さなチームで仕事をする方が好きなので、規模を大きくしなくても続けられる組織にしていきたいと考えています。

杉本氏:私たちの会社は、私が代表を務めていますが、コミュニティの感覚の方が強い組織です。所属しているメンバーもほとんどが業務委託で、リモートで仕事をしています。現在メンバーは8カ国から21人が集まっています。

投資してもらうことを考えたときに、「ヘルステック分野で働いた経験がある人がCEOについた方がいい」というアドバイスをいただいたので、外向きでは私が代表となっています。

Q報酬はどのように決めているのでしょうか?

杉本氏:以前の会社では、みんなの報酬を全部シェアする考え方を採用していました。実際に、それぞれが生活していく中でかかるお金は違います。家族形態にもよりますしね。
なので、仕事の役割や内容で報酬を決めるのではなく、その人がどれくらい必要なのかを、間に社労士さんが入って決めています。

黒田氏:今、会社がどのフェーズにいて、どのくらいの資金がかかっているかを含めて、報酬額は相手と話し合います。決める際には、その前段階として、会社の理念や目指すビジョンについての共有が不可欠だと思います。賃金だけではないところでつながることは、長い目で見て重要だと思うからです。

Q採用やコミュニケーションに関して注意していることはありますか?

石原氏:私は、創業時からボードメンバーを探しつつも、社員が80人になるまでずっと1人でやってきました。なので、面接も私が全員会っていました。

実は、組織が10人ほどになった時に、一度崩壊して、1人で再び始めた経緯があります。それまでは小手先で面接していましたが、会社が潰れるか潰すかの状況の時は、目の前の相手の人生を間違えさせてしまうのではないかと考えながら対面していました。

なので、履歴書をいただいたらそれを裏にして、全く確認せず「私は昨日まで失敗だらけだったので、あなたの昨日までも気にしません。この状況でも来てくれるなら、私はこれから死ぬ気で再起するけど、一緒にやってくれますか?」と聞いていました。

黒田氏:人が財産だと思っているので、会うことは大事にしています。本音でぶつかって、合うか合わないかも相手に聞きます。

採用のタイミングに関しては、「これ以上は誰かに助けてもらわないとできない」となった時に、どういう人が必要かをメンバーと話し合います。履歴書やPRは、意外と客観的な視点が入っておらず、わかりにくいのであまり参考にしません。その人に強みを聞いて、その強みを私たちがどれだけ活かせるかを考えます。

<事業戦略編>

Qコロナによって経済が急にストップするなど、環境が変化した時には何をするべきでしょうか? または何をしたかを教えてください。

黒田氏:コクーのサービスをリリースしたのが2020年の4月でした。まず真っ先に取り組んだのは、コロナでどのような具体的な課題が出てくるかの洗い出しです。
例えば、営業が学校に訪問しにくい状況になることがわかりました。そこで、速やかにオンラインの動画コンテンツを作るための補助金制度を探しました。
社会の動向をいち早く察知して、訪問しなくてもオンラインでマニュアルを整えられる仕組みを整えたことが分岐点になったと思います。

石原氏:2008年8月に創業して2週間後にリーマンショックに見舞われ、その3年後、勢いづいてきたタイミングで東日本大震災が起こりました。そして、今回のコロナを経験して、大切だと感じるのは、やはり「資金」です。
創業時の借り入れ以降、融資制度なども利用しながら、小さな額を借りては返していました。日頃からの金融機関とのコミュニケーションは大事です。
また、「ピンチの時ほど人に会う」ことも、私が心がけていることです。経営経験が長い方に、同じような危機をどのように切り抜けたかを聞きます。本物のチャンスは、人からしか来ないと私は考えているからです。

Qオンライン化で起きたメリット・デメリットがあれば教えてください。

杉本氏:もともと会社内のコミュニケーションはオンラインでしたので影響はありませんでしたが、フェムテック商品を紹介するイベントが開催できなくなりました。
イベントをオンライン開催に切り替えたのは3月末です。すると、以前よりも多く、200から300人近くの人が集まったのです。
全国から参加できるという理由もありますが、フェムテック関連のイベントはオンラインの方が入りやすいという気づきがありました。

黒田氏:学校にシステムを導入する際の説明授業をオンラインに切り替えたことで、コストが格段に下がりました。そのため、利益率が変わってくることが予想されます。
もちろん、直接訪問して欲しいと要望があった場合はお応えしますが、ほとんど電話サポートかオンラインサポートです。
導入さえしっかりと行われれば、あとはシステムが動いてくれますので、ずっとサポートが必要になることもありません。

Qこれから起業をする方にアドバイスをお願いします。

黒田氏:一歩外に出ると、競合する会社が海千山千とあります。自身のサービスの優位性と選ばれるポイントを徹底的に磨くことが大事です。
同じく、小さなトライ&エラーを積み重ねることはとても大切です。いきなり事業を始めるよりも、副業でベンチャーに入って、実践でノウハウを蓄積させていくことをおすすめします。

石原氏:私は、初めから社長に向いている人はいないと思っています。今でこそ、「社長っぽいですね」と言われることもありますが、試練を乗り越えるたびに覚悟が備わり、リーダーらしくなっていくのだと思います。
本を何百冊読むよりも、1つの試練に勝る学びはありません。転んでも立ち、諦めないことです。最初から強い人はいないので、思い切って始めてみることですね。

杉本氏:お世話になった方に起業の相談をしたことがあります。「最後までやり遂げられるのか?」と問われて、私は即答できませんでした。
その後、半年ほどモヤモヤした気持ちを抱えて過ごし、「もういっそやってしまおう」と、それほど深く考えずにやってみることにしました。すると、これまで他人事だった起業が自分事となり、とても楽しくなったのです。
会社は潰れたら、また作れますし、どこかで雇ってもらうこともできます。心配事は、やりながら解決していけばいいんです。最後までやり遂げられそうなものが見つかったら、あとは行動あるべきだと私は思います。

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コロナ禍に揺れる状況が続いていますが、3名とも一致していたのは、「まずは、やってみる」ということでした。失敗したら、再チャレンジすればいい。実践で学ぶことは、どんな経験よりも糧になるはずです。
とはいえ、なかなか踏み出せないのも事実。3×3Lab Futureでは、女性の起業に関するセミナーを定期的に開催しています。今後も多くの女性起業家を招いて行う予定ですので、まずは体験談を聞き、イメージを膨らませるのはいかがでしょうか?

ぜひ、ご参加お待ちしております。

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