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【レポート】これからのアスリートに求められる"創業"と"お金"の知識

アスリート・デュアルキャリアプログラム2020 ~Program2~ 2020年12月1日(火)開催

4,8

年俸が数億円というアスリートがいれば、アルバイトで生計を立てながら競技に臨む選手もいるように、競技や実力・知名度によってアスリートの収入は大きく変わります。ただし、収入にどれだけの差があろうとも、「お金の知識」を持たないと上手な資金運用はできません。さらに、セカンドキャリアやデュアルキャリアとして起業を考えるアスリートにとって、ビジネスファイナンスの知見は必要不可欠と言えるでしょう。

そこで、「アスリート・デュアルキャリアプログラム2020(※)」の第2回目では、「ビジネスに必要なファイナンス(お金)の基礎知識」というテーマでトークセッションを実施。金融、そして創業支援のプロフェッショナルをお招きし、「アスリート✕お金」「アスリート✕創業」を考える機会を創出していきました。

※「アスリート・デュアルキャリアプログラム」は、東京都が推進する創業支援事業「インキュベーションHUB推進プロジェクト」によるプログラムです。「インキュベーションHUB推進プロジェクト」とは、東京都が2013年度より実施する創業支援事業。高い支援能力・ノウハウを有するインキュベータ(起業家支援のための仕組みを有する事業体)が中心となって、他のインキュベータと連携体(=インキュベーションHUB)を構築し、それぞれの資源を活用し合いながら、創業予定者の発掘・育成から成長段階までの支援を一体的に行う取組を支援し、起業家のライフサイクルを通した総合的な創業支援環境の整備を推進します。

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創業のはじめの一歩は「動機づけ」から

創業のはじめの一歩は「動機づけ」から

image_event_201201.002.jpeg 左:きらぼし銀行SF部創業支援グループの西須克己氏

右:きらぼし銀行SF部創業支援グループの瀬島信之氏

今回ゲストにお招きしたのは、きらぼし銀行SF部創業支援グループの西須克己氏と瀬島信之氏、そして棒高跳び選手と同行の社員という二足のわらじを履く澤慎吾氏です。実際にお金や起業、スポーツに携わる三名に対して、ファシリテーターの槙島貴昭氏(株式会社B-Bridge プロジェクトマネージャー)が提示した最初のトークテーマは「起業とは何か」というもの。西須氏と瀬島氏は次のように答えます。

「起業とは、すなわち経営者になることです。会社員の場合は組織の経営方針や社内の役割分担の中で求められることに対応していきますが、経営者はすべての事柄に対して自由に対応できます。逆の観点で言えば、すべてに対して自分で責任を負う立場になることです」(西須氏)

「起業にも大きく2つのパターンがあると言えます。ひとつは、いわゆる『ユニコーン企業』と呼ばれるような創業から短期間で飛躍的な成長を遂げるベンチャーを起業するものです。もうひとつは、業種や規模にかかわらず夢を実現するための起業です。どちらのタイプが良いということではなく、起業によって何を成し遂げたいのかによって変わってくるでしょう」(瀬島氏)

事業のすべての責任を自分で負う一方、夢の実現や相応の収入が期待できる起業家という存在。では、「起業家になるには何から始めるべきなのか」、そんな澤氏からの質問に、西須氏と瀬島氏は「きっかけ」というワードを挙げました。

「大事なのは創業のきっかけ、つまり動機です。世の中には困っている人がたくさんいますが、そうした人々の役に立つために、自分だからこそ提供できる製品やサービスがあるんだというストーリーを描けると、その手段として創業に行き着くでしょう」(西須氏)

「大きな社会課題だけでなく、生活の中で感じる不便さなどに対して、自分が何らかの解決手段やアイデアを持っているとします。その時、『誰かがやってくれるだろう』と思うか、『自分が解決するんだ』と思うかが、創業するべきか否かの分かれ道だと思います」(瀬島氏)

資金調達方法と銀行との付き合い方

image_event_201201.003.jpeg 左:棒高跳び選手ときらぼし銀行の社員という二足のわらじを履く澤慎吾氏

右:ファシリテーターを務めたB-Bridge プロジェクトマネージャーの槙島貴昭氏

動機の次に必要になるのは、より具体的な三つのポイントです。一つめは、事業を形にし、展開していく上で手助けしてくれる「ヒト」。二つめは、業種によって内容は異なりますが、製品や仕事道具、あるいは自動車や店舗など、ビジネスに必要な「モノ」です。そして三つめが、ヒトを雇うため、あるいはモノを調達するための「カネ」です。これらを経営資源といい、どれかひとつが欠けても事業は上手く回りません。中でもこの日は、元々のテーマである「カネ」にフォーカスしていきます。澤氏より「資金はどうやって調達すればいいのか」と問われた瀬島氏は、次のように回答します。

「起業のための資金調達には、(1)自己資金、(2)借りる、(3)もらう、という3つの手段があります。(1)は文字通り元々自分が持っているお金のことです。お金を借りる上でも、自己資金があるかないかは重要なポイントになってきます。(2)は、我々のような銀行から融資を受けたり、最近ではクラウドファンディングで資金を集めるというケースも出てきています。(3)は、行政からの補助金や助成金を受けたり、ベンチャーキャピタル等からの出資を募るというものです。『もらう』と表現していますが、将来的に利益を出すことで出資元に報いる必要があります。創業支援を手掛ける日本政策金融公庫の調査によると、開業資金のうち、2割ほどが自己資金、7割ほどが金融機関や、親族や友人・知人からの借り入れで賄っているそうです」(瀬島氏)

「事業を展開していくためには、最低限必要なお金を自分で用意するのは経営者の基本だと、私は思っています。もちろん足りない分の資金を親族等から借りるのは構いませんが、その場合もただ借りるのか、それとも贈与を受けるのかによって返済の義務や掛かる税金も変わってきます。そうした点も含めて、どうやって資金調達をするのかは重要な点です」(西須氏)

こうした点は、知識がないと行動に移しづらいことでもあるため、資金調達方法の段階から銀行に相談することも可能だと、西須氏は言います。ただし、ネットワークがない状態で訪れても、時間を割いてもらえなかったり、話が進まない可能性も大いにあります。そのため、「まずは地元の商工会議所などを訪れた上で相談に乗ってもらい、そこから銀行を紹介してもらう方がいい」と、瀬島氏は勧めました。

image_event_201201.004.jpeg起業のお金は大きく3パターンに分けられると、瀬島氏は説明しました

魅力ある創業計画書とは「等身大」を記したもの

image_event_201201.005.jpeg魅力ある創業計画書に求められる6つのポイント

銀行の融資担当者とのコネクションが出来たとしても、すぐに資金を貸してくれるわけではありません。借入れを申し込むには次のような書類を用意する必要があります。

(1)借入申込書
(2)創業(起業)計画書
(3)資金繰り計画書
(4)登記簿謄本(会社を立ち上げる場合)
(5)見積書(設備資金を申し込む場合)
(6)その他、銀行から提出を求められた書類

この中でも最も大切なのが、どういう事業をするのかをまとめた(2)創業計画書です。魅力ある創業計画書を作れるか否かが、銀行からの借り入れを左右するのです。理想的な創業計画書は、既存の考えのウラに眠る「意外性」、あれば良いと感じさせる「必要性」、将来を感じさせる「時代性」、発展・展開を感じさせる「将来性」、必要なものとして共感させられる「社会性」、ビジネスとして十分成り立つ「収益性」を兼ね備えたものです。
ただし、「すべてを兼ね備えている創業計画書はなかなかない」(瀬島氏)ものでもあるため、「等身大で、あるがままの思いを書いてもらえると、審査する側はやりやすい」(同)そうです。西須氏も、「実情を書いてもらったほうが支援がしやすい」と続けます。

「銀行はお金を貸すだけではなく、経営に足りない部分をサポートしていかなくては成り立たない組織です。そのため、創業計画書には自分に何が足りないのか、どううサポートを受けたいのかといった点も盛り込んでいくことで、より良いスキームを構築できると考えていただきたいと思います」(西須氏)

目指すビジネスの実情と可能性を誰よりも理解する

image_event_201201.006.jpeg澤氏と西須・瀬島両氏によるロールプレイングは、さながら本番の創業計画のような盛り上がりを見せました

ここまでは創業の方法や銀行との付き合い方などについて紹介してきましたが、それらを踏まえた上でロールプレイングが行われました。テーマは「澤氏が引退後に起業をするなら」というもの。氏が挙げたのは、自身もプレーする棒高跳びのポールの製造・販売に関する事業です。

「現在、棒高跳びのポールは日本では開発されていないため、選手たちは海外企業のものを輸入して購入しています。その分価格も高く、入手にも時間が掛かるなど不便な点が多くあります。そこで、国内でポールの製造・販売を手掛け、選手たちに安く早く届けたいという思いを持っています」(澤氏)

これに対して、西須氏と瀬島氏からは「なぜ国内ではポールの製造・販売がされていないのか」「ポールはどのように造られるものなのか」「どこの国の企業が市場の中心なのか」等、矢継ぎ早に質問が飛びます。その上で両氏は次のようにアドバイスを送りました。

「日本にはミズノやアシックスなど、世界的なスポーツ用品メーカーがありますが、そうした企業でもなぜポールの製造・販売を行っていないのか考える必要があります。この場で確かなことは言えませんが、大手企業が取り組んでいないからには、マーケットが狭い、参入障壁があるなど、何らかの問題があるからかもしれません。もしも本気でこのビジネスに乗り出したいと考えるなら、なぜ日本企業が取り組んでいないのか理由を調査し、自分が持つ経営資源をどうやって活かせばビジネスとして成立させられるのか等を考えていく必要があるでしょう」(西須氏)

「調査という点では、他の陸上競技で使われる道具はどうなっているのかなど、広い視点で見ていくべきです。金融機関の人間はお金のプロですが、その業界のプロではありませんから、どうしても一般的な観点から考えがちです。今回のポールの話でいうと、現在日本企業が取り組んでいないことなどから、『ビジネスとして成立しないのではないか』と、マイナス方向に考えてしまうでしょう。それを覆すためにも広範囲のデータを提示していき、ビジネスとしての可能性をプレゼンテーションすべきでしょう」(瀬島氏)

自分がやりたいビジネスに対して、誰よりも詳しく理解・把握した上で、そこにどのような可能性が眠っているのか、その可能性を広げるためにはどんな行動を取るべきか考えていくことが、創業初期段階で求められるものとなるのです。

アスリートならではの創業への道筋

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トークセッションを終えた後、この日の参加者が幾つかのグループに分かれてディスカッションし、その後感想のシェアや質疑応答が行われました。最初の質問は「アスリートにとって最適な事業パートナーとはどのような人か?」というもの。瀬島氏は次のように回答します。

「自分を理解し、応援してくれる人だと思います。そうした人は、あなたから発信する情報を広めてくれますし、評判を高めてくれる存在です。さらに、その人を介して色々なつながりも生じる可能性があります。もちろんただの『お友達』で終わってしまってはなりませんが、応援してくれる存在は大事にすべきでしょう」(瀬島氏)

また、「アマチュアアスリートや、競技活動で大きな収入を得られないアスリートは創業のためにどうやって資金を捻出すればいいのか」という質問もなされました。西須氏は、自治体からの補助や、アスリート活動を通じて得たファンの力を借りることを提案します。

「多くの自治体では創業者に対する補助金や助成金の制度がありますので、それを活用するのが一番良い方法でしょう。またここ数年では、クラウドファンディングを活用し、数十万円規模の小口投資家を複数募り、資金を集めるケースも見られます。アスリートのようにファンがいる方の場合、こうした形もひとつの手段と言えるでしょう」(西須氏)

ただし、どのようなケースで行うにしても、創業に向けてコツコツと自己資金を貯めていくことは忘れてはなりません。「創業に対する姿勢を見せることで、銀行をはじめとした関係者に真剣な思いを伝えられる」(瀬島氏)からです。

参加者との掛け合いも盛り上がりを見せた中で、この日のプログラムは終了の時間を迎えます。最後に西須氏と瀬島氏からは、「創業する上で最も大切なこと」を伝え、幕を閉じました。

「まずは『自分がやってやるんだ』という、他人には負けないパッションを持つことです。それに加えてアスリートの方は、現役時代から自分の応援団を一人でも多くつくることに尽きると思います」(西須氏)

「アスリートの方々は身体的にも精神的にもタフだと思いますが、それでも、創業すると、心身ともにきつい場面を迎えることになるため、健康には十分気をつけてください。そして、やはり熱意も欠かせません。創業計画書には創業の動機を書く欄があるのですが、私は創業支援をする際、『創業計画書の動機欄は必ず書いてください』『創業した後に厳しい場面を迎えたら、それを見直してみてください』と伝えています。最初に抱いた熱い気持ちが、いつか自分を助けるからです」(瀬島氏)

数年前まで、スポーツ界では「スポーツを通じてお金を稼ぐのは卑しい」と考える風潮が少なからずありました。しかし近年、スポーツを通じたビジネスを展開することで社会課題を解決しようとするクラブやアスリートが増えてきています。今後、そうした活動ができるアスリートの需要はますます高まっていくはずですし、自らの思いを叶えるために創業という道を選択するアスリートも増えていくでしょう。その際、「お金」にまつわる知識の有無によって、創業のスピードや実現可能性も変わっていきます。この日参加したアスリートはそのことを強く認識したはずですから、このプログラムが将来の創業につながること期待したいと思います。

image_event_201201.008.jpeg参加者からも積極的に質問が飛び交いました

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