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【レポート】東京農業、流通のイノベーションとは

「第3回 東京ファーマーズイノベーション2020」2020年12月14日(月)開催

東京の生産者たちの販路開拓や商品開発など、イノベーション推進を応援するプロジェクト、「東京ファーマーズイノベーション2020」。第3回のテーマは、第2回でも話題に上がった「流通」です。前回は東京NEO-FAMRERS!の活動を通して、東京の農家の多くが、事業規模が小さく生産量も小さいことから、「自分たちに都合の良い売り場を確保する」ことが、農業を続けていくうえでも重要であることが語られました。それを受け、今回は東京野菜ネットワーク 代表取締役の堀将人氏を"東京アグリ・イノベーショントーク"に迎え、東京の生産物の流通の現状と課題についてお話しいただきました。

続いて、生産者が登場する"東京ファーマーズトーク"には、堀氏の盟友ともいうべき、いちご農家の関口俊一氏、野村ファームの野村浩敬氏のお二人です。流通を見据えた生産のあり方、流通から見た東京農業のあり方を考えます。

司会はコーディネーターの中村正明氏(6次産業化プロデューサー、関東学園大学 教授、東京農業大学 客員研究員)、アドバイザーは国民公園協会皇居外苑 総支配人・総料理長の安部憲昭氏、日本の御馳走 えん マネージャーの有馬毅氏というメンバーで開催します。最初のトークから最後まで、対談形式で和気あいあいと進められるイベントとなりました。

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東京アグリ・イノベーショントーク――堀将人氏

東京アグリ・イノベーショントーク――堀将人氏

堀氏は、大田市場の仲卸企業で東京野菜の流通に携わった経験から、「東京の生産者のつながりを作ろう」と思い立ち独立、2020年6月に「東京野菜ネットワーク」を設立しました。

「生産量は少ないが、つぶよりの野菜を作っている農家が多いのが東京の農業の特徴。都心の人たちに、その魅力を伝えたいという思いから東京野菜ネットワークを設立し、現在では62生産者・団体にご参加いただいています。遠くは小笠原、檜原村からの出荷もあります」

東京の農業の魅力は何か?との司会からの質問に答えて、「消費地に近いこと」と堀氏は話します。

「都市部からの距離が近く、とれたてを召し上がっていただけるのが東京野菜の特徴。収穫から1時間以内で口に入れるものに加工もできなくない。都市であってもなかなかできるとは限らないものだと思います」

もうひとつは、規模が小さいために生産者が専任になることもメリットだと指摘。「手を動かす分だけ、味わいが深くなる」と話しています。

一方で東京農業の課題は何か。一番は「継続性」です。

「農地の扱いは複雑で、新しい人が入りにくい。以前に比べれば改善はされたものの、借りられる農地を探すのも難しい。また、代々続ける人も、相続の問題があって、続けたくても続けられないというケースもあります。長く都市農業を続けていくためには、続けられるように、農家も変わっていかなければちょっと厳しいのが現状かと思います」

また、かねて東京ファーマーズイノベーションで問題になっていた東京野菜の「ブランド化」についてはどう考えているでしょうか。

「実際、ものが少ないのが一番の問題ではないでしょうか。1千万都市ですが、食べたことがある人は、地方の人が地元のものを食べる頻度よりはるかに低い。練馬など近くに生産地、畑があるところはまだしも、非生産地は完全に隔絶されているのではないでしょうか」

そのため、東京野菜ネットワークでは、非生産地へ東京野菜を届けることをミッションのひとつに設定しています。飲食店への営業や、東京野菜のイベントを開催するなど、さまざまな努力を重ねています。

アドバイザーの安部氏は「一度食べれば、きっと美味しさが分かるはず」と思案顔にコメント。

「生産量が少ないことがかえって価値になるという面もあります。お客様は想像以上に生産地に興味を持ちますから、流通させることとともに、語ることも一体で進める体制をとると良いのではないでしょうか」

同じくアドバイザーの有馬氏も、販売時のコミュニケーションが大事であると指摘しています。

「都心部ほど、東京で野菜を作っていることを知っている人は少ない印象。だからこそ逆に目に触れる機会を作れば、販促のチャンスはすごくあると思う」と話し、小山農園のカラフル野菜を『日本のご馳走 えん』で店頭販売した際に動画を流し、小山氏にも立ってもらったところ、大変好評で売れ行きも良かったとか。

東京ファーマーズトーク――関口俊一氏(いちご農家)、野村浩敬氏(野村ファーム)

生産者が語るファーマーズトークのゲストはいずれも堀氏の盟友です。関口氏は、堀氏が前職のときからのお付き合いで、かつては多品種を栽培していましたが、現在はハウスいちご一本という生産者。「東京野菜ネットワークにご加入いただいている生産者の多くが、実は関口さんのツテで紹介していただいたもの」(堀氏)ということで、その付き合いは長く、深いようです。

関口氏は、最初は市場のセリ人として就職し市場流通を学んだ後に、27歳で家業の農家を継承。当初は年に30品目を栽培し、直売所や庭先で販売していましたが、2004年、39歳のときにいちごだけの単品生産に移行し、現在に至っています。

なぜいちご単品生産に絞ったのか。それは価格と販路です。堀氏によれば、野菜の価格は市場流通の需給バランスで決まるため、自分で値付けができないうえに、安く値段交渉されるケースも決して少なくありません。2020年秋から冬の葉物野菜の価格下落は皆さん記憶に新しいところ。

「販路があって、ちゃんと価格がつけられるものは何かと考えたときに、仲卸の方とのお付き合いを通して、東京の農業のメリットである鮮度の良さを活かせて、情報発信力があって、他の生産者と差異化できるものが良いと考えるようになりました。それで出た答えがこだわって作るいちごだったのです」(関口氏)

参加者からは、「よく単品に絞り込めた」「周りからの反対はなかったのか」という声が上がりましたが、「多品種でも野菜は周囲とかぶってしまうし、品もダブつきがち」という市場動向を踏まえての選択であり、病気等の栽培の難しさはあるものの、「大根などの野菜と比較しても単価が高い」のも魅力だったそうです。

「難しい作物ですが反収も上がるし、絞ればより磨かれた世界に入っていけると思いましたし、自分も探求して技術を自分のものにしていく楽しさがあって、家族も最後には賛成してくれました」(関口氏)

もうお一人のゲストは、野村浩敬氏。清瀬市で、ハウスと露地栽培両方でさまざまな野菜を生産。生産者同士のネットワーキング、協力体制の構築にも意欲的で、こちらも、堀氏が清瀬市で生産者のネットワークを作ろうとした際に協力したそうです。

「18年前に父がやっていた農業を継いで、小松菜、ブロッコリー、とうもろこし、枝豆などを栽培しています。継ぐ中で、若手の農家の交流が少ないなと思い、若手中心の団体を作って、みんなで一緒に頑張りましょうと運営しています。また、農業は土をいじる体力勝負ですが、そこをなんとか変えたいと、スマート農業、IoTなどにも取り組んでいます」(野村氏)

しかし、農業のIT化の道はまだまだ遠く、「結局まだまだ体力勝負。もう少し体力が衰えたらまた考えたい」と野村氏は笑いを誘いました。

ディスカッション

アドバイザー・安部氏後半のディスカッションでは、会場からの質問で「6次産業化」と販売における「コミュニケーション」が話題に上がりました。

「こだわりの生産物でも、農家さんが口下手でなかなか魅力が伝わらない」「6次産業化も、良いものならアンテナの高い人に伝わるのでは」といった声に対して、「難しいのかな」という声。

同・有馬氏「産直会やイベントを通して、お客さんともコミュニケーションをしているし、一番いいところのトウモロコシを使ってドレッシングを作ったりしましたが、なかなか売れないですね。ハードルが高い」(野村氏)

「生産者からの相談を受けて6次産業化もやったことはありますが、農家にとって一番大事なのは、やはり畑であり農作業。農家は農家でビジネスマンではないから、6次産業化も難しさがある」(堀氏)

今回の参加者にはお手伝い、ボランティア等で農業に携わっている方が複数おり、6次産業化を農家に丸投げしてしまうのは無理、生産者には生産に集中してほしい、という意見が次々と聞かれました。「外部の協力企業と6次産業化の環境を整備したらどうか」といった声も上がるなど、活発な議論が広がります。

また、6次産業化はブランド化とも密接な関係にあることも確認され、流通事業者はもちろんのこと、シェフやパティシエ等、東京野菜の魅力を発見し引き出す人たちとの協力体制をつくることで、6次産業化とブランド化を同時実現できるのでは、といった意見も聞かれました。

この日は最初から最後まで、登壇者、参加者が入り混じり、自由に議論し合うアットホームな雰囲気で進められ、温かく、深い議論になった会となりました。


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