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【レポート】デザインの視点から見据える「東京農業」の未来とは?

「第4回 東京ファーマーズイノベーション2020」2021年1月25日(月)開催

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東京の生産者たちの販路開拓や商品開発など、イノベーション推進を応援するプロジェクト、「東京ファーマーズイノベーション2020」。第4回は、「農業×デザイン」をテーマに開催。第1部の東京アグリ・イノベーショントークには"農業デザイナー"の南部良太氏が登壇し、第2部のファーマーズトークには、清水農園の清水雄一郎氏、野村植産の野村幸子氏が登場しました。また今回はスペシャルゲストとして、JA東京青壮年組織協議会(都青協)委員長で都市農業のキーマンである須藤金一氏と、副委員長の中村克之氏にもご登場いただきました。

司会はコーディネーターの中村正明氏(6次産業化プロデューサー、関東学園大学 教授、東京農業大学 客員研究員)。アドバイザーは、国民公園協会皇居外苑 総支配人・総料理長の安部憲昭氏、日本の御馳走 えん マネージャーの有馬毅氏のお二人です。

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東京アグリ・イノベーショントーク―農業デザイナー 南部良太氏

東京アグリ・イノベーショントーク―農業デザイナー 南部良太氏

南部氏は、デザイナーとして都心で勤務していましたが、子どもが生まれたことを機に国分寺に移住。周囲に農地がある環境の中、暮らしと仕事とまちづくりをデザイン視点で考える「つくし文具店」(萩原修氏主宰)に出入りするようになったことで、「農業とデザインをつなぎたいと考えるようになった」といいます。

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「大きなきっかけは、国分寺・中村農園さんとの出会いです。いちごの収穫体験をしたときに、『ロゴを作らせてください!』とお願いしたことを皮切りに、農業関連のデザインの仕事をするようになりました」(南部氏)

農業デザイナーとは、「農を生業とする人たちをデザインの力で応援する仕事」。生産者の支援はもちろん、飲食店やまちづくりに関わる事業者の支援などもその範疇に含まれます。南部氏は農園や生産品のロゴ、パッケージ、チラシ等のデザイン・制作を手掛けており、今では東京だけでなく、北海道や大阪の生産者の方からも依頼を受けるようになったといいます。

「制作会社で仕事をしていたときは、作ったものの先が全然見えない。『僕じゃなくてもいいんじゃないか』と思った時期もありました。でも農業デザインの仕事は、目の前の人と二人三脚で共に歩んでいくことが多い。デザインで農の取り組みを形にする喜びが、本当に楽しいんです」(南部氏)

その活動のひとつが、赤坂見附にある「東京農村」。東京の農業を考える食と農のコワーキングスペースで、ロゴなどのビジュアルデザインの他、イベントの運営まで手掛けており、毎月第3水曜日には、食と農の関係者をつなぐトークイベントを継続的に開催しています。

また南部氏は、この農業デザイナーとしての活動を始めてから、自身が畑に出て農作業することも増えたといいます。

「生産者の方と一緒に体を動かして汗をかくと、農業が一気に自分ごとになるんですよね。直接話を聞けば農業が抱える課題も分かるし、何か新しいことができないかと考えるようになるんです」(南部氏)

そんな南部氏が手掛けるのが、国分寺市の地産地消を進める取り組み「こくベジ」。国分寺の農業はまちなかにあり、消費地も近いことから、さまざまな工夫をしている生産者が多く、多品種少量生産や、ユニークな無人・有人直売所があるなどの特徴があります。つくり手の誇りとこだわりを引き継ぐ形で、生産者と飲食店をつなぐプロジェクトとして模索しているそう。

「国分寺市内の生産者と飲食店をつなぐ仕組みとして、野菜の配達を始めました。生産者側の品目や生産数、飲食店側のニーズの需給バランスを調整するのはとても難しいのですが、農業をよく知る人に間に入ってもらい、週に2回の配達を行っています」(南部氏)

「地方創生プロジェクトにありがちな一発花火にしたくない」という思いで地道に活動を続けた結果、5年で生産者数は5倍、飲食店は4倍にまで増加。こくベジメニューを手掛ける飲食店は100店舗にのぼるまでになったといいます。また、コロナ禍で飲食店の客足が激減したことから、個人宅への配送サービスを、飲食店経由で行う新たな取り組み「こくベジ便」を開始。飲食店にとってはテイクアウトの増加だけでなく、お客さんとの新たなつながりが生まれる機会になっているそう。

「こくベジ便は、ただの野菜配達ではなくて、農のあるまちと、人をつなぐ手段だと思っています。300年の歴史のある農業の魅力を、300年も先の将来に向けて、届ける。お客さんも、自然と農を身近に感じて、国分寺の直売所で野菜を買うようになってくれればいいなと思っています。日常に溶け込むことを意識して、毎日続けています」(南部氏)

「こくベジ」はひとつのブランドとして定着しつつあり、マルシェ「こくベジのじかん」では建築家とコラボしたり、大学生とコラボしてフェスを開催したりと、その活動も多岐に広がっています。

「こくベジは野菜を育てる"土"のようなもの。そこを土台として、いろいろなモノ、コトを一緒に育てていくことができればと考えています。プロジェクトとして自立させるにはまだ課題もありますが、地域の皆さんと結びついて、農のある暮らしを全国に広げていくことができればと考えています」(南部氏)

東京ファーマーズトーク―清水農園・清水雄一郎氏、野村植産・野村幸子氏

続くファーマーズトークは、国分寺市とデザインに縁のある清水農園の清水雄一郎氏と、野村植産の野村幸子氏のお二人からお話しいただきました。

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清水氏は国分寺で5代続く農家で、年間100種以上の野菜を栽培し、主に自分で運営する直売所で販売しています。

「都市農業にはいろいろな農家がいて、すごく工夫をして頑張っている。うちは機械化していなくて昭和の匂いが残る農家ですが、20年ほど前から直売所で、お客さんと直接話して販売する経営スタイルに切り替えています」(清水氏)

「売っている人が、どんな食べ方がいいかをお客さんにお伝えする」というスタイルで、それが人気の秘密になっているようです。

清水氏は国分寺市の農家について「人と人のつながりが肝になっている」と指摘。清水氏も南部氏に出会い、こくベジに関わるようになったそうです。

「この東京ファーマーズイノベーションを見てもらっても分かるように、国分寺市には都市農業に熱心な人が多く、美大生も多くて、デザインの力で農業を変えようという人がたくさんいます。そういう人たちが関わり、支え合うことで、農業がすごく素敵なものに変わっていく。そして外部の新たな人が加わることで、広がりが生まれています。ご覧になっている方々も、ぜひ国分寺市に来て、関わってほしいと思います」(清水氏)

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続く野村氏は、もともと武蔵美大出身のデザイナー。家業を継ぐ形で、あきる野市の種苗屋・種子屋「野村植産」を経営し、自ら種の生産も行っています。

「元々は父が興した種屋で、農業が近い環境で育ったのですが、多感な時期には田舎が嫌で、飛び出して吉祥寺に住んでいました。それが種屋を継ぐことになって、自分たちで農業をやってみたら、こんなにクリエイティブなものだったのかと驚きました」(野村氏)

「種屋を継いだ当初は素人だったので、種を買いに来る生産者、家庭園芸をやりたい一般の方の質問に答えられるようにならなくては」と感じた野村氏は、種の生産も行うようになったそう。

「ベテランの農家さんが教えてくれるようになるし、私たちも種苗メーカーさんからいろいろな知識を仕入れられるようになって、伝えることができる。知識のキャッチボールができるようになって、農業が本当に楽しくなってきました」(野村氏)

今では飲食店向けに、余剰となったビーツをジャムにする6次産業化の取り組みも始めているそうです。

スペシャルトーク――JA東京青壮年組織協議会委員長・須藤金一氏

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東京都市農業のキーマンのひとりである須藤氏は、植木の栽培農家で、三鷹を拠点に柑橘類やオリーブを使ったジャム作り、オリーブリーフパウダーの開発などを手掛けています。本シリーズイベントの企画にもご助言をいただいており、今回は都市農業の現状と課題についてお話しいただきました。

都市農業とは「市街地及びその周辺の地域において行われる農業」と定義されており、実質的には1968年の新都市計画法で定められた市街化区域を中心とした、その周辺を含む農業を指しています。東京に限らず、三大都市圏、各県の県庁所在地等、市街化区域が指定されているエリアは、どこでも都市農業と呼ぶことができるそうです。

東京の都市農業の特徴として須藤氏が挙げたのが「住宅に囲まれた市街地での農業」「単位面積あたりの産出額が高い」「少量多品種生産が多い」ということ。

「非常に狭い面積で、効率的に生産し、売上を出している農家さんが多いのが特徴。消費地に近いために、直売所など、市場に出すよりも高い値で売ることもできます。単位面積当たりの産出額は全国4位と非常に高い。一方で、市街地に近いため、土埃や匂い、機械の騒音などの問題も生じやすい。逆に災害時には避難所として機能したり、高温抑制や景観保全といった利点もあると言えます」(須藤氏)

また、農業における現状で最大の課題は相続税。東京は地価が高く、相続税も非常に高くなるため、土地を手放して支払いに当てるよりほかないのが現状です。この10年で800ha、東京ドーム170個分の農地が減少しているそう。

「東京の8割が市街化区域に指定されていますが、それは今後10年以内に市街地にしますよという意味です。つまり、農業をするなと言われている地域でがんばって農業をしているのが、東京の都市農家なのです」(須藤氏)

都青協は、1968年の新都市計画法以来、農地を守るためにさまざまな活動をしてきました。反対運動や国へのロビー活動はもとより、市民へのアピールとして、東京都農業祭の開催や丸の内味わいフェスタへの参加など、さまざまな情報発信にも力を入れています。

また、2015年の都市農業振興基本法の制定、2017年の生産緑地、都市緑地法の改正と、特定生産緑地制度の新設、2018年の都市農地貸借の円滑化に関する法律の施行などを見ると、都市における農地の存在を認め、振興しようとする方向に舵を取りつつあるように見えますが、「相続税に関してはなかなか手を入れられておらず、農地減少を食い止めるのは難しい」状況であるそうです。

「ただ、ここで皆さんに知っておいていただきたいのは、国民にとって、農地が重要で、必要であるということが明確になったということ。農地には、景観が良い、コミュニティが形成されるといったさまざまな面で、暮らしが豊かになるさまざまな、多面的機能があるという価値を知っておいてほしい」(須藤氏)

農地の多面的機能として知られているのは、「景観創出機能」「交流創出機能」「食育・教育機能」「地産地消機能」「環境保全機能」「防災機能」の6つ。農業体験や出前授業、マルシェの開催、学校給食への提供等、須藤氏ら都青協や生産者団体が取り組むさまざまな活動は、そうした都市農業の価値を高めるためのものと言えます。

「中でも最近注目されているのが防災機能や、環境保全機能。農地は避難所になりますし、ハウスなどで寒さをしのぐこともできます。環境保全では、ヒートアイランド効果に対して気温を下げる機能があることとも認められています。農地は公共性を色濃く持つものであるということを発信していきたいと思っています」(須藤氏)

来年度はフィールドへ、そして食べて、農体験

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際立ったプレイヤーによる盛りだくさんのトークが続き、刺激の多いイベントとなり、最後にアドバイザーを務める有馬氏と安部氏のお二人から以下のコメントがありました。

「以前、ある農家さんに丸の内のお店に来ていただき野菜を販売したことがあるのですが、東京で野菜を生産している農家さんがいることを知らない人が、圧倒的に多かったんです。東京の野菜の新鮮さや親近感をもっと出して、東京ならではの農業をアピールできたらと思います」(有馬氏)

「都市農業には、相続などさまざまな問題があることも良く分かりましたが、そういったことも含め、もっと消費者に知らせる機会があったほうが良いと思いました。本当の意味での都市の有利さを磨けば、さらに可能性が広がると思います」(安部氏)

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2020年度の東京ファーマーズイノベーションは、新型コロナウイルス感染症の影響で、オンラインでの開催となりました。昨年度のように「農家さんと会う」「農家さんの作ったものを食べる」という直接的な体験は難しかったものの、コーディネーターを務めた中村氏は「充実した議論ができた」と語っています。状況次第ではありますが、来年度には、実際に農地を訪問したり、試食したりといった体験の再開を予定しているそうです。

2019年度から始まったこの一連のシリーズは、都市農業という世界的にも非常にホットなテーマをごく身近に考えることのできる貴重な機会となっています。ぜひ、2021年度の東京ファーマーズイノベーションの活動にもご期待ください。

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