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【レポート】サイクルロードレースがもたらす地域活性化とデュアルキャリアの可能性

アスリート・デュアルキャリアプログラム2021 ~Program3~ 10月4日(月)開催

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デュアルキャリアを歩むアスリートや、アスリートのキャリア形成を支える人々をお招きし、デュアルキャリアやアスリート・スポーツの活かし方を考える「アスリート・デュアルキャリアプログラム2021(※)」。

10月4日に行われたプログラム第3回では、2021年に発足した日本のプロサイクルロードレースリーグ「ジャパンサイクルリーグ」に加盟しているレバンテフジ静岡の代表兼GM・二戸康寛氏をお招きし、「スポーツチームと地域の連携がもたらす競技発展の可能性」についてご講演いただきました。自転車という日本で馴染み深い乗り物とスポーツの力で地域に何ができるのか、そこにアスリートはどのように寄与していくのか。実際の取り組み事例を紹介いただきながら考えていきました。

※アスリート・デュアルキャリアプログラムは、東京都が2013年度より実施する創業支援事業である東京都インキュベーションHUB推進プロジェクトとして2019年からスタートしたものです。東京都インキュベーションHUB推進プロジェクトは、高い支援能力・ノウハウを有するインキュベータ(起業家支援のための仕組みを有する事業体)が中心となって、他のインキュベータと連携体(=インキュベーションHUB)を構築し、それぞれの資源を活用し合いながら、創業予定者の発掘・育成から成長段階までの支援を一体的に行う取組を支援し、起業家のライフサイクルを通した総合的な創業支援環境の整備を推進します。

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世界でも類を見ない全チーム地域密着型のプロサイクルロードレースリーグ

世界でも類を見ない全チーム地域密着型のプロサイクルロードレースリーグ

image_event_211004.002.jpegレバンテフジ静岡の代表兼GM・二戸康寛氏

レバンテフジ静岡の代表兼GMとして競技面のみならず運営面でもチームを牽引している二戸氏。もともとは自身もプロのロードレース選手として活動していましたが、23歳のときにスランプに陥ったことがきっかけで一度は競技を離れます。その後、自分がやりたいことを考えて建築設計事務所で働きますが、再び自転車への熱が高まりスポーツサイクル専門店に転職し、ショップ店員として働きながらレース活動を再開。「プロの時よりも時間が限られるようになったことで逆に集中できた」ことから、プロ時代よりも高いパフォーマンスを発揮できたと言います。このように、デュアルキャリアを歩み、社会人としてもアスリートとしても充実した生活を送っていた二戸氏でしたが、より地域に密着した活動をしたいと考え、2014年に勤務先を退職して東京の地域密着型プロサイクリングチーム「東京ヴェントス」を設立。東京ヴェントスは2019年まで6年に渡って東京都立川市を拠点に活動した後、一旦チーム活動を終了し解散。その後、静岡県を拠点とするプロサイクリングチーム設立の企画が立ち上がり、2020年1月、静岡県富士市に誕生した「レバンテフジ静岡」の代表に就任、チーム立ち上げの2年を経て現在に至っています。

このレバンテフジ静岡が加盟する日本のプロサイクルロードレースリーグ「ジャパンサイクルリーグ(JCL)」には、2021年時点で9つのチームが参戦していますが、そのすべてが地域密着型のチームとして運営されています。これは世界でも類を見ないリーグのあり方ですが、全チームが地域密着型を標榜する理由を二戸氏は次のように説明します。

「日本の自転車競技は、参加人口としては910万人(「レジャー白書2017」より)いてサッカーや野球よりも格段に多いのですが、見るスポーツとしてはまだまだで、野球やサッカーのように大きな入場料収入はありません。チームの収益構造はスポンサーからの広告料収入がメインで、それに加えてイベントの委託費などの独自収入で成り立っています。こうした事情があるため、チームや選手が地域と共存・連携を図り、地域の問題解決に貢献することでチームが支援されるようなサイクルをつくることがとても重要になってくるのです」(二戸氏、以下同)

image_event_211004.003.jpegプロサイクリングチームの収益構造。入場料収入の比率が低い分、地域との連携を深めてスポンサー収入を増やしたり、独自事業収入の強化が必要となる

レバンテフジ静岡が地域をつなげるハブになる

image_event_211004.004.jpegレバンテフジ静岡の活動理念

地域密着を標榜する一員としてレバンテフジ静岡も「自転車による地域創生」という活動理念を掲げていますが、こうした考え方を後押ししているのが国土交通省が推進する「自転車活用推進計画」です。この計画は、環境負荷低減や災害時の交通機能維持、国民の健康増進などを目的に2017年に施行された自転車活用推進法に付随して策定されたもので、具体的には「自転車交通の役割拡大による良好な都市環境の形成」「サイクルスポーツの振興等による活力ある健康長寿社会の実現」「サイクルツーリングの推進による観光立国の実現」「自転車事故のない安全で安心な社会の実現」などに取り組むことを奨励しています。レバンテフジ静岡の場合、チームの拠点のひとつである富士市や沼津市と連携協定を結び、「競技」「観光」「福祉」「社会」という観点からこれらの活動に取り組んでいます。

「『競技』については、JCLのレースを地元で開催することで地域のプライドにつながるようなチームの醸成に努めています。JCLは今年から始まったばかりですし、コロナ禍の影響もあって現時点では無観客レースが続いていますが、日本でも大きなレースになると1日で30万人近くの観客を集める力があるので、競技を通じて地域に経済効果をもたらすことを目指しています。『観光』面では、我々の拠点・富士市を通る太平洋岸自転車道は富士山や駿河湾、茶畑、富士川、工場夜景などを臨みながら自転車を走らせることができ、2021年5月には国が定める『ナショナルサイクルルート』に指定されました。また富士市には駿河湾から富士山の5合目まで一気に登るヒルクライムコースもあり、このようなコースを使って行われるヒルクライムレース(山や峠を頂上に向かって登り続けるレース)では1万人近くの参加者が集うものもあります。チームを通じてこうした観光資源を活用し国内外にアピールしながら、地域に自転車文化を根付かせる活動にも取り組んでいきたいと思っています」

「『福祉』に関しては、例えば子どもたちへのスポーツ教育、障がいを持った方との交流、市民に向けたライドイベントなどがあります。これらを通じて市民の方々が自転車に親しむ環境を創出し、クオリティ・オブ・ライフの向上、健康増進に働きかけています。『社会』という観点では、自転車を使うことでCO2削減や環境負荷低減につながるのでSDGsにもつながるものだと思っています。その他にも静岡県内の各自治体と連携協定を結んでライドイベントを実施したり、交通安全活動を行ったり、あるいは選手の見聞を広めるために地域の企業を訪問するなど地域との絆を深めています」

見るスポーツとしては日本ではマイナー競技に位置する中でもこうした活動が受け入れられているのは、自転車が日本人の生活に根付いていることや競技としてのポテンシャルが高いこともありますが、活動拠点である静岡県の風土も関係しています。静岡県には東京オリンピック・パラリンピックの自転車競技が開催された伊豆ベロドロームやサイクルスポーツセンターなどの施設があり、国内のみならずアジアの中でも自転車競技の聖地といわれる場所なのです。さらにハードだけではなく、様々なレースやイベントの開催、サイクルステーションの設置なども進められています。

「現時点では各取り組みが個々に行われている状況ですが、レバンテフジ静岡が様々な取り組み、そして地域をつなげるハブになることを目指しています」

image_event_211004.009.jpegレバンテフジ静岡の地域活動の様子

社会活動はセカンドキャリアにもつながる

上述した地域での各種活動は、主に選手たちが地域に出て市民と触れ合いながら行っています。その際、選手たちが自転車の乗り方やルールを指導したり、プロアスリートとしてのキャリアに関する講義をしたりと"教える側"に回ることが多いですが、こうした経験は選手たちのセカンドキャリアにもつながっていると二戸氏は話しました。

「市民とのライドイベントを開催する際には、一般の方を安全にガイドし楽しいサイクリングのサポートをするため、サイクリングガイドの資格を選手たちに取ってもらっています。資格を取得してガイドをすることで、決められたルールに則って安全に案内するという経験ができますし、人を相手にするので社会性も身に付きます」

これまで自転車選手のセカンドキャリアは、メーカーやショップ店員、メディア、指導者などが主流でしたが、自転車を通じた地域活性化を図り社会における自転車の価値向上を目指すことで、サイクリングガイドのような新しいキャリアの選択肢を増やすことが期待できるようになるのです。

「これは自転車競技だけに限らずスポーツ界全体に言えることですが、アスリートは若い頃から競技生活一色で、引退後に社会に順応できないという課題があります。レバンテフジ静岡では社会活動を通じて人と触れ合う機会をつくることで、選手の人間性や社会性を育成したいと考えています」

スポーツを通じた社会的価値の向上がデュアルキャリアの醸成につながる

image_event_211004.007.jpeg左:この日のファシリテーターを務めたB-Bridge プロジェクトマネージャーの槙島貴昭氏
右:同じくファシリテーターを務めたエコッツェリア協会の田口真司

二戸氏の講演終了後、参加者同士のディスカッションを行い、質疑応答と感想のシェアへと移りました。プロ野球の独立リーグでプレーした経験を持ち、現在はスポーツビジネスに携わる男性からは「メジャースポーツの場合は経済的価値を求めてスポンサーシップを行う企業が多いが、JCLのような始まったばかりのリーグ、マイナースポーツをを支援するスポンサー企業はチームのどのようなところに価値を感じて投資をしているのか」という質問がなされます。これに対して二戸氏は「地域プライド」というキーワードを織り交ぜながら次のように回答しました。

「レバンテフジ静岡の場合、広告効果を見込んで支援するスポンサー企業は少ないです。スポンサーが期待しているのは我々が行う社会活動や地域を盛り上げるための活動です。サイクルツーリズムを始め、自転車を普及することで生活習慣病の緩和につなげるなどの取り組みを応援してくれている企業が多いですし、競技も含めそういった活動を通して地域プライドを醸成していくことが重要だと感じています」(二戸氏)

質問者は「独立リーグでも地域の子どもたちや高齢者と触れ合う活動を行っていて、その社会的価値を評価いただいてスポンサードを受けていた」と口にしました。また大学でまちづくりについて学ぶ学生からは、スポーツが持つ可能性への期待が語られました。

「今日のお話を聞いて、スポーツを通じた街の活性化の可能性や、地域と共にスポーツがあり続けることの重要性を感じました。いま中学校や高校では部活動の中で閉鎖的にスポーツをする文化が多いですが、レバンテフジ静岡のような地域密着型のチームと中高生が関わってスポーツの輪をつくれたら、さらなる地域やスポーツの盛り上げにつながるとも思いました」(参加者)

このコメントに対して、二戸氏も「自転車は小さい子ども、中高生、大人まで楽しめるので、学校とは別のサークルをつくる動きが進んでいますし、その輪がさらに広がればいいなと思っています」と、自転車を通じて人と人がつながることへ期待を寄せます。

最後にエコッツェリア協会の田口真司は、地方におけるスポーツの可能性について次のように所感を述べました。

「シビックプライドを醸成する取り組みは当然行政も行っていますが、いくら行政や首長が発信しても市民には落ちていないことが多いです。そこでレバンテフジ静岡のようなプロサイクリングチームが間に入って、行政と共に地域住民を巻き込みながらまちづくりに取り組んでいくのはとても良い事例だと感じました。

これまでの地方は、地方銀行が地域のお金を集めて他の地域に投資していましたし、地域メディアは地元の情報を地元に、あるいは東京の情報を地元に届けていました。でもこれからの時代は逆で、他地域からお金を集めてきて地元に投資する、地元の情報を外部に発信していくのが金融機関やメディアの役割になってくるでしょう。そう考えると、スポーツチームも競技力を高めるだけではなく様々な活動を通じて社会的価値を高めていくことが非常に重要だと感じました。そういったことを広めていくために我々も仲間を増やし、新しい流れを作っていきたいと思います」(田口)

スポーツを通じて社会的活動を展開し、それに対してスポンサードするという流れはメジャースポーツでも徐々に増えています。スポーツの社会的価値が高まればそれだけアスリートの価値も高まり、キャリアの選択肢が増えることが期待できるとあって、デュアルキャリアの視点から見てもこの構造は重要だと言えるでしょう。今後のレバンテフジ静岡による地域とサイクルロードレース界の盛り上げは貴重な事例となっていくはずです。

image_event_211004.008.jpegレバンテフジ静岡とアスリート・デュアルキャリアプログラム、並びにエコッツェリア協会の今後の連携が期待されます

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