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【レポート】「知識を人に与えると自分の優位性が減る」は本当?新しい時代・社会システムを創造する「ダイナモ人」とは

出版記念イベント「ダイナモのススメ」~「優秀なヤツ」より「元気なヤツ」が企業にもキャリアにも大切な理由~ 2021年4月20日開催

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2021年3月、『企業変革を牽引する新世代リーダー ダイナモ人を呼び起こせ』(日経BP)が発刊されました。執筆した「知識創造プリンシプルコンソーシアム」は、富士ゼロックスの価値創造コンサルティング部やKDI(Knowledge Dynamics Initiative)のリーダーを務めた仙石太郎氏(株式会社リワイヤード 代表取締役)、同KDIで知識経営コンサルタントを務めた荻原直紀氏(ナレッジ・アソシエイツ・ジャパン株式会社 代表取締役)、経営学者・紺野登氏(多摩大学大学院教授)を中心としたグループです。

3氏とエコッツェリア協会の関係性は、3×3Labo(現3×3Lab Future)設立時からのご縁や個人会員として施設にご登録いただく間柄。本イベントでは、本書の出版を記念して、コロナ禍で混迷を深める時代を読み解き、社会変革を進めるための「ダイナモ人」について、パネルディスカッションで解題していきました。

モデレーターは、エコッツェリア協会 プロデューサーの田口真司が担当。3×3Lab Futureからのオンライン配信で、約100名の視聴参加がありました。

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オープニングトーク「ダイナモ人を活かせない日本経営の構図」――仙石太郎氏

オープニングトーク「ダイナモ人を活かせない日本経営の構図」――仙石太郎氏

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冒頭、仙石氏から本書のアウトラインをご紹介いただき、後半にパネルディスカッションを実施しました。

本書は一言で言えば「元気なやつ、利他的なやつ、『できません』と言うよりもできる可能性にかけるやつ。そして、ポジティブなやつ。そういった人をまとめてダイナモ人と呼び、彼らを起爆剤として企業経営を変えるという筋立て」になっていると仙石氏は説明。5名の著者によって執筆されており、データ分析、編集、執筆などを分担したそうです。

「ダイナモ人」とは、コンサルタントなどが集うプロフェッショナル・サービス集団のコンサルティングを手掛ける凄腕のデービッド・メイスターが提唱した概念です。メイスターは、ピーター・ドラッカーの言う「知識労働(ナレッジワーク)」に従事する労働者を3種類に分類し、その最上位のタイプを「ダイナモ」と定義しました。ダイナモは、自分の意志と目的を持ち、精力的に活動、労働する人のことです。

ダイナモ以外の2つのタイプは、「ルーザー」と「クルーザー」。ルーザーは、いわゆる負け組で、組織、業務に適応できない人。クルーザーは「フリーライダー」とも呼ばれ、処世術に長け、社内組織をうまく遊覧(クルーズ)していく存在。与えられた業務は頑張るが境界を越えられない人たちです。
仙石氏は「日本の組織で今一番多いのが、このクルーザーではないか」と指摘しています。

「上司からの指示に一生懸命応えてアウトプットするのがクルーザー。一方で、解かれていない問題を自分で見つけて、自分の意志で会社を、ひいては社会を良くしようとするのがダイナモ人です。そうすることでダイナモ人は社会から認められ、感謝されるという大きなギフトをもらう。そういう好循環を生み出すことが必要かなと思います」

本書は5章で構成されており、前半でこの30年の日本企業の地盤沈下の様子を描写し、「日本的経営システム」がその原因となっていることを説いています。後半では、その打開のために「ダイナモ人」の復権と、知識創造経営が必要であると指摘します。

「これまで大事にしてきた経営の常識がある中で、改めて知識経済社会の経営にシフトする必要があるということを伝えたい。また、ダイナモ人が孤軍奮闘するだけでは組織の古い論理や同質化圧力に押しつぶされてしまうので、ダイナモ人が生きるためのエコシステムについても議論しています」

これまでの日本型経営は、ミスを極力抑え、効率を最大化することで成功を収めてきましたが、これからの時代は、挑戦と失敗から学びイノベーションを起こすことが求められます。また、移行を恐れる人々を勇気づけ、変革そのものが円滑に行われるように、組織開発を推進する、「チェンジ・マネジメント」の能力不足も課題です。本書は、そうした課題に対し、「ダイナモ人」と「知識創造経営」を軸にした解決策を提示するものとなっています。

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本書は、経営者だけに向けたものでも、ビジネスパーソンだけに向けたものでもありません。両者に向けて、2つのキークエスチョンを設定したそうです。
経営者(経営)に対しては、「付加価値を生んでいるか?」、ビジネスパーソンに向けては「仕事に誇りを持ち、価値創出に貢献できているか?」という問いがあります。

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ビジネスパーソンに対しては、「21世紀になって20年経ち、未だに利益を出すことに汲々としている企業が多いが、果たしてそこに付加価値を生んでいるのか。ビジネスパーソンも、シュリンクする会社の中で振り落とされず、生き残るために縮こまってしまっているのではないのか。自分の生み出す価値で会社に貢献し、自分のキャリアを形成する手もあるのではないか」と問いかけています。

本書は章ごとに経営者、ビジネスパーソンそれぞれに問いを投げかけ、問題を解決し、知識経済社会を生きていくための手がかりを提示していきます。それは、経営者、社員それぞれが取り組むべきものですが、同時に一緒に考えるべき問題でもあります。ダイナモ人とは、個人と組織が連動して新しい経営を実践するためのキーとなるものです。

「企業が利益を出し株主に還元することは当然の役割ですが、会社全体がそのために動いてしまうと、どうも変な方向に走り出してしまうというのが昨今の傾向です。ここで一人ひとりが、自分の頭脳という知識創造の主体であるエンジンをフル活用し、アイデアの自己超越を果たすために他者との連携を深めていくべきでしょう。それがダイナモ人のあるべき姿であり、その生き方を組織として考えていくべきではないかと思います」

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ダイナモ人にはさまざまな特性がありますが、行動様式として「目的に尖る」「行動主義」「圧倒的熱量」「巻き込み力」などが挙げられます。

「まず、とにかく熱いということですよね。周りを巻き込む力があって、自分を深掘りする垂直型キャリア形成だけではなく、新しい分野に入るための横に広がる越境する力もある。そして、知識と知識の結合を求める知的奔放さ。我々ビジネスパーソンが失ってしまった一番のものは、これらの力を発揮するための『勇気』なのではないかと思います」

そして最後に、ダイナモ人の例として、海外の研究者の間で「ヒューマンダイナモ」と呼ばれた野口英世を紹介して、次のように述べて締めくくりました。

「一緒に仕事がしたいと思われるような、活力に溢れた人をもっと増やす必要があり、我々自身もそうならないといけない。そして、ダイナモ人を仲間として集めていってほしいと思います」

ダイナモ人、知識経営、時代を議論――パネルディスカッション

後半は、荻原氏、紺野氏も加わり、モデレーターの田口から質問を投げかけて議論を行いました。

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荻原氏は、KDIで仙石氏とともに企業の経営変革を支援した後、2011~2014年の3年に渡り、世界銀行の組織改革、知識経営に従事した経歴の持ち主。現在はナレッジ・アソシエイツ・ジャパンの代表です。

「ダイナモ人を一言でいうと、『世のため、人のために、やんちゃができる人』。今までの日本的経営では求められてこなかったタイプですが、これからは絶対的に必要ということを訴えたかったのが、執筆の理由のひとつです。また、人生100年時代になり、企業の寿命より個のキャリア人生の方が長い時代には、キャリア形成の面から考えても、会社に尽くすよりダイナモ的に生きる方が生き残る可能性が高いと言えるでしょう。
イノベーション不足を嘆く声が経営側から聞かれますが、PDCAだけを懸命に回す経営からはイノベーションは生まれません。イノベーションを起こしたいなら、熱量あるダイナモを活かす経営に取り組むべきです」(荻原氏)

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紺野氏は、知識創造経営を提唱する野中郁次郎氏の研究パートナー。本書に関する理論的裏付けを解説します。

「知識創造プリンシプルコンソーシアムのメンバーは全員、野中先生に共鳴する『知識学派』です。2018年のノーベル経済賞を受賞したポール・ローマーなど、今世界で知識創造と経済などの研究は多く、着実にその方向に進んでいます。日本では知識経済という実感がありませんが、それはいまだに古いシステムが残って社会や経済が動いているために次世代の人たちが動きづらいという閉塞状況にあるということ。ダイナモ人というのは、社内のみで頑張るというような従来のスタイルではなく、まったく新しい時代に属し、新しいシステムを作り、牽引していく人たちです」(紺野氏)

この後、田口から質問を投げかけ、3氏がそれぞれに意見を述べ、議論するというスタイルでパネルディスカッションを行いました。主だった発言、議論を以下にまとめます。

◎タイミング

「なぜこのタイミングでの執筆、出版であったのか?」という問い。
コロナ禍による社会変革もありますが、どのような理由で今、このタイミングが選ばれたのでしょうか。3氏に共通していたのは、時代の底が抜けるギリギリのところであったから、という意識でした。

「かつて日本の経営は素晴らしいと言われ、リスペクトされた時代もありました。しかし、今は違う。インバウンドで日本に来る観光客に、コストパフォーマンスの良い国として喜ばれるのは寂しい気がする。日本の生み出す知、サービスの面白さ、製品のユニークさ、そういった部分で評価されるには、今訴えかけなければという危機感がありました」(仙石氏)

「大企業のダイナモ人が絶滅しかけていて、保護しなければならないギリギリのタイミングだと思います。20年あまり経営変革に関わっていますが、確実に感じるのは、大手組織のダイナモ人が1桁減っていること。スタートアップやベンチャーには一定数いるのでしょうが、このままでは多くの企業は衰退の一途を辿ると感じたからです」(荻原氏)

「1980年代頃までは日本企業の経営はすごい、その秘密を知りたいという研究者が海外にたくさんいましたが、今はまったく注目されなくなった。しかし、本書で訴えているのは、日本的企業経営の復活論ではなく、知識創造という観点から日本発で普遍的な次の時代の経営プリンシプルを考えるということ。今、コロナ禍のために世界中でシステムの変革が起きるタイミングなので、ここを逃したら先がないという思いで、この時期になったのだと思います」(紺野氏)

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◎ダイナモ人になるうえでのバリア
目的を自ら設定し、可能性に着目して主体的に行動する......というダイナモ人の定義に対して「きっかけさえあれば、ダイナモ人になるのは難しいことではないと思う」と田口。ビジネスパーソン個人において、何かバリアとなっていることがあるのではないか、それは何だと思うか、という問いです。

これに対しては、仙石氏と荻原氏が、個人と組織の関係の観点から議論を交わし、歪んだ生産性至上主義と効率主義が、組織的にダイナモ人の輩出を抑制したのではないかと指摘しています。もちろん、そのすべてが組織マネジメントに帰するものではありませんが、組織の力は大きい。

「近年の日本では、社員個人の承認欲求は、組織の中で『そつなく仕事をして、ミスをしない』ことによって満たされてきた傾向があります。本当は自らの信念に基づき、お客様本位に徹して外から認めてもらうなどの承認にも価値はあるはずだが、右肩下がりの経済になり、社内のサバイバルが厳しくなると、減点につながるミスをしないことが一番安全に承認される手段になってしまった」(仙石氏)

「なにかにトライ(挑戦)して失敗すると、失敗した=非常に悪い、という烙印を押されてしまうことを組織学習してきたのがこの30年。だから、トライ(機会でなくリスク)を上手に避ける人を『優秀』と呼ぶ文化が、多くの企業でできたのではないでしょうか」(荻原氏)

「昔、某メーカーでは『言う奴はやる奴』という、一種の有言実行・言行一致がとてもリスペクトされていたのですが、人員削減が進んだのにも関わらず生産性向上が求められるようになると、『言ったもん負け』という言葉が広まってしまった。チャレンジングな仕事を取ってくる上司は部下から不人気になり、会議では建設的な発言をしない方が賢いということになる。この本の裏テーマには、このように高められた効率経営には、生産性のブレイクスルーは起きないのではないかという問いも含まれています」(仙石氏)

組織から見たダイナモ人へのバリア
イノベーションを期待する企業にとってダイナモ人は必須の存在とも言えるのですが、「意図してかどうかは定かではないが、ダイナモ人を生み出すことを阻害する力が働いているように思う」と田口。これについては、深く根付いた組織マネジメントの慣習が影響しているのではないかという議論となりました。

「工業化社会では、全員が同じ目的に向かってアウトプットを最大化するために動くことが求められます。そこでは、『見張っていないと悪いことをする』という性悪説で人を管理する手法が一般化しますが、しかし、ダイナモ人のようなナレッジワーカーを同じ手法で管理してもうまくいかないんです。ドラッカーが指摘したように、重要なのはオートノミー(自律性)とインタラクション(相互作用)。ナレッジワーカーにとっては、自分で問いを立て、自分で解決に向けて動くことがモチベーションアップとなり、最大の生産性になる。日本企業は、そういった生産性の考え方に転換する必要があると思います」(仙石氏)

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「オペレーションは決められたことを決めたとおりに行いながら、その効率を高めていくこと。利益の9割はオペレーションから生み出されるから、もちろん大事。しかし、それだけでは新しいものが生まれない。ダイナモが活躍する環境づくりには、オペレーションとは違うルールが必要。バランスを取ってイノベーションをマネジメントできると良いと思います」(荻原氏)

「企業や組織がもつさまざまなバイアスがダイナモの活力を邪魔しているのが現状です。例えば、スタートアップとは異なり大企業にはイノベーションが起こせないといった思い込みバイアス、ものづくりのビジネスモデルへの徹底したこだわりがあるが故に生まれるバイアスなどがあります。こういうバイアスから抜けるには、夢から覚めるようなことが必要かもしれません」(紺野氏)

利己から利他へ
本書では「利他」が重要なキーワードとなっています。田口は「利他というと『思いやり』のような感傷的な言葉に思われるが、社会的にも利己から利他が求められるようになっている」と話し、その解題を求めました。3氏からの回答では、利他―利己という二元的な解釈ではなく、その境界が曖昧となる世界が語られました。

「ナレッジワーカーの生産性調査をしたところ、自分の知識に自信のない人ほど、知識を人に与えると自分の優位性が減ると考える傾向があることが分かりました。しかし、ナレッジアセットというのは、物理的に減るものではなく、ドラッカーが指摘したように、与えれば与えるほど、自分に対するフィードバックがかかり、むしろ増加するもの。同じように、自分だけが良いところを取るという利己的な発想では、この先うまくいかないのではないか。全体にとって良い仕組みを作り、その中で自分たちが得意なところを取るような利他的な姿勢にならない限り、環境問題やSDGsのようなことはできないのではないか。個人も企業も、利他精神というのが当たり前になる必要があるのではないかと思います」(仙石氏)

「アメリカ経営はもともと超利己主義だが、それでは立ち行かなくなると分かると、サッと利他主義が経営の中心に来た。つまり、自分が生き残る、儲ける『利己のための利他主義』なわけで、手段と目的が逆ですが、それでもいいのではないかと。日本人はもっとしたたかになっていいと思いますね。利他的に行動した結果として自己繁栄が来るという順番で、企業経営や個人のキャリアを考える方が、長い目で見たら合理的だと思います」(荻原氏)

「そもそもオープンイノベーションも利他的メカニズムでないと動かない。そう考えると『利他』は、今の時代に当たり前に必要なものになっていると言えます。アメリカ企業がオープンな方向に転じていったのは、1980年代の『系列』など日本企業研究の結果です。系列はクローズドな固定的関係性ですが、それに対して臨時的企業体が提案され、のちにオープンイノベーションにつながっていきました。エコシステムなどが関心を集めるように、今世界で求められているのは開かれた利他主義の経営ではないでしょうか。

この本には、利他主義と実存主義という哲学が"仏さま"のように埋め込まれています。これまでの経営は自社の戦略論・組織論中心つまり利己主義で、かつ徹底して論理的分析で正解を求める本質主義的なものでした。しかし今未来や自分の生き方の可能性を追求する実存主義そして利他的な経営が求められています。哲学・倫理の面でも変わっていく必要があるのではないかと思います」(紺野氏)

発言のどこを取ってもそれだけで一章が編めるくらい内容が濃く、示唆的なパネルディスカッションでしたが、ここでは、ごく一部のみを抜粋し収録しました。田口も「今日1回だけでは非常にもったいない内容となった。ぜひサブテーマを設けるなどし、改めて議論の場を持ちたい」と話し、今回のセッションは終了となりました。

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