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【レポート】横浜から発信される「2030年の食文化」を考える

みなとみらいフューチャーセンター検討ワークショップ 第1回(2019年度) 2019年10月4日(金)開催

8,9,11

企業、自治体、大学などが一体となって再開発事業を推進してきたみなとみらい地区。2010年頃から絶えず発展を続けているこのエリアを舞台に、新たなイノベーションを創出するために実施しているのが「みなとみらいフューチャーセンター(FC)検討ワークショップ」です。

本ワークショップは2017年からスタートし、昨年は一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)専務理事・西口尚宏氏による基調講演と、全体のファシリテーターを務めるStrategic Business Insightsの高内章氏によるインスピレーショントークを実施。そしてワークショップでは、イノベーションを起こす方法と未来を考える術を学び、「2030年のみなとみらいの姿」を構想していきました。

3度目の開催となる今回のワークショップのテーマは「食」。昨年に続いてStrategic Business Insightsの高内章氏をお招きし、「横浜から発信される2030年の食文化」と題して新たな食文化のあり方やビジネスの可能性を探っていきます。当日は30名以上の参加者が集まり、ディスカッションやブレインストーミングを通じて、横浜の食文化の新しいモデルを議論しました。

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みなとみらいの理想は、ニューヨークのような街

みなとみらいの理想は、ニューヨークのような街

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まずは現在のみなとみらい地区が抱えている課題について、一般社団法人横浜みなとみらい21の古木淳氏よるレクチャーを受けます。
「みなとみらい地区はここ10年ほど"新しい街""変化する街"というイメージがありました。しかし、今後そう遠くない未来には"既存の街""完成された街"になり、横浜という都市のポテンシャルが陳腐化してしまう危険があります。街のあり方は、時代とともに変わっていく。自治体や企業、大学などが連携し、新たなエリアマネジメントの方向性を検討していくことで、常に変化を続けているニューヨークのような街にしていきたいと考えています」(古木氏)。

古木氏はみなとみらいの今後の展望について、「スマートシティ化が大きな柱になる」と語っていました。現在、みなとみらい地区はスマートシティモデル事業の重点事業課促進プロジェクトに位置付けられています。セグウェイの導入やAIによる自動運転などの実証実験が盛んに行われ、みなとみらいから次々と新しいテクノロジーが生み出されていくーーー。みなとみらいの今後の展望についてのこうしたレクチャーも「未来の食文化」を考察するうえでのヒントになりました。

続いて、横浜市経済局新産業創造課長の高木秀昭氏より「イノベーション都市・横浜」の構築に向けた取り組みの事例が紹介されました。横浜市は現在、イノベーション人材の育成・交流に力を注いでおり、みなとみらい~関内エリアを中心に研究開発拠点やベンチャー企業を積極的に誘致しています。行政と民間事業者が一体となってイノベーションを創出するための支援を行うことで、「イノベーションが生まれる横浜」として先進的なビジネスエリアの構築を目指しているのです。
「起業家やエンジニア、企業の新事業担当者、学生など、企業規模・業種を問わずイノベーティブな人材が集まり、組織の枠を超えて新たなビジネスが生まれる街になればと考えています」(高木氏)

両氏によるみなとみらいの課題と展望に関するレクチャーを踏まえ、本ワークショップは「食」に関する具体的な参照事例や、中長期的な課題の発見・解決のための議論へとシフトしていきます。

思い切った未来の構想がイノベーションの鍵に

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続いて、本ワークショップを主催するエコッツェリア協会の田口真司による同活動紹介と前年度のワークショップに関する振り返りを終え、いよいよ高内章氏による講演がスタート。

人間の視覚や聴覚、行動などのデジタル化(=数字化)が進み、生活のあらゆる場面がサービス化しつつある昨今、イノベーションに必要なのは、「思い切って10年後の未来を構想すること」だと高内氏は語ります。
「まずは10年後の構想を作ってみて、その構想に合ったロードマップのなかでプロトタイピングを行っていくことが重要です。こうした試みを、しっかりと手順を踏んで進めることができるのが大企業の強みと言えます。対してベンチャー企業は比較的短いスパンで、日々のアイデアを実現するために大企業に売り込んできます。それをいかに評価し、自分たちに適したアイデアを取り込んでくるか。そうした場面では、大きな未来像がないとアイデアの "目利き"ができません」(高内氏)

そして高内氏は「食」の未来を考えるための前提として、20世紀の石油産業と、近年GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)が推進してきたデジタライゼーションを比較しながら、現代のビジネスモデルの特異点を掘り下げていきます。
「20世紀は石油が産業のリソースの代表でしたが、21世紀になると生活者の個人データをリソースとしたプラットフォーム・ビジネスが台頭してきました。このビジネスの特徴は、利用者が多ければ多いほど情報の精度が高くなり、プラットフォームの内部にもたらされる便益も上がっていくという仕組みです。そうしたネットワーク効果を最大限に利用したサービスにおいては、市場に一番乗りを果たした企業が最も利用者を増やしやすく、ビジネスにおいても有利なのです」(高内氏)

常に未来を見据え、生活者にとってどんな価値が提供されるのが一番うれしいのかを考えることが新たなプラットフォームの構築につながる、と高内氏は期待を込めて語ります。「ここにいる参加者のみなさんなら、そうしたチャレンジができるはずです」(高内氏)

ビジネスの勝負が決するのは今後10年間

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さらに高内氏は、スマートフォンの地図アプリを例に挙げて議論を進めていきます。
「例えばスマートフォンで地図アプリを見ながら歩く習慣は、ここ数年に生まれたものですよね。これはつまり、自分の生活の一部をコンピュータ環境に移譲した、ということです。プリントアウトした地図を持ち歩いていた頃と違って、今はナビゲーションシステム無しで運転できる人はほとんどいないですよね。地図アプリの発達によって、そうした依存状況が生まれているのです」(高内氏)

こうした生活や行動の「移譲」はAIやIoTの発達によってさらに進んでいくだろう、と高内氏は予想しています。
「今はIoTが騒がれていますが、実際はまだ実用化できていません。そしてAIも、実際に動かしていくためにはデータの量が少なすぎる。しかし、次世代通信規格5Gの登場によって、これらが加速度的に回りはじめるのかもしれません。5Gによって生活者のデータが大量に集まるようになってくると、AIはそれによって指数関数的に賢くなっていくはずです。山のようなデータが、リアルタイムで実世界にフィードバックされるようになる。おそらく今日から10年後くらいまでの間に、こうしたサイクルが完成するでしょう。この10年の間に、プラットフォーム・ビジネスの勝負が決するはずです」(高内氏)

リソースは「集約」から「分散」へ

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もうひとつ、高内氏がディスカッションの前提として紹介したのが「分散化」というキーワード。1600年代の第二次産業革命以降、個人データ、生産、エネルギー供給、資本、購買などあらゆるものが「集約」の方向に向かっていきました。生産=工場、エネルギー=発電所、購買=スーパーマーケットというように、あらゆるものの機能が一箇所に集約されていったのです。しかしインターネットやテクノロジーの発達を経た今、世の中は「分散」の方向へ動いています。生活者の情報も現在はGAFAに集中していますが、いずれは分散の方向へ向かうだろう、と高内氏は解説します。

「今後はGAFAの所有している個人データがようやく個人に戻ってくるという20年になります。そして資本も、これまでGAFAだけに集約されていたものが少し分散に向かっていくはず。生産の分野はすでに分散を始めていますし、エネルギー分野でも、みなさんご存知のように再生エネルギーが使われています。今日のワークショップの舞台になるのは、こうした流れの最初の10年になります。だから今までの通念の枠内で議論すると、全然おもしろくないものになってしまう。分散化社会での「食」はどうなるか、という発想をする方がみなさんのディスカッションがおもしろくなるはずです」(高内氏)

横浜の「食」の未来を創る

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グループに分かれてディスカッションを始めるにあたり、高内氏から食ビジネスの変化に関するいくつかの事例が提示されました

<例1:CSA(Consumer Supported Agriculture)>
・農家の人々が消費者とダイレクトにつながることで新しい販売ルートを開拓する仕組み。分散テクノロジーがまだ確立されていない現在は苦戦を強いられていることも多い。

<例2:ネスカフェアンバサダー>
・ネスレのマシンを初期費用無料・サポート費無料で家庭やオフィスにレンタルし、コーヒーの定期購入で収益を得る。家庭にダイレクトにアクセスすることで毎日の食生活のデータを分析し、「健康」という付加価値をつけている。

<例3:Developers.IO CAFE>
現金を扱わず、ウェブサイト上で注文や支払いを行うカフェ。店舗にはキャッシャーが存在せず、キャッシュ不要のため待ち時間なしで商品を受け取ることが可能。

このほかにも3Dプリンタでの朝食提供や、代替タンパク源としての虫食など、先進的な事例が紹介されました。

こうしたヒントを踏まえて、ワークショップ参加者によるディスカッションがスタート。高内氏から提示されたテーマは「10年後の横浜で、人々はどのような食事をしているか」、そして「人々はどのようにその食を準備しているか」。
検討するシチュエーションも事業も、すべて自由。横浜のレストランはどんな進化を遂げているのか、人々の働き方はどのように変わっているのか、食べる場所はどこなのかーーー。高内氏の講演を踏まえ、参加者たちは横浜の「食」の未来を創造すべく、活発に議論を重ねていきます。

そしてディスカッションの後には、グループごとにプレゼンテーションを実施。それぞれから飛び出した大胆な未来予測をご紹介します。※発表順

チーム①「地域で食事の場を共有する"シェア食"」
地域で食事の場がシェアされ、高齢者や単身者、ワーキングマザーなどが拡大家族のようなイメージで食卓を囲むようになる。横浜は住宅地と農地が隣接しているため、空き地を利用した市民農園や、空き家を利用したシェアキッチンなどのモデルシティになっていく可能性も期待できる。
また、日本は海外の食文化をローカライズすることに長けている背景を踏まえ、昆虫食も将来的には美食として親しまれるようになることを予測。横浜の美しい景観を活かしたレストランで昆虫食を提供するという「ユニット食」のプランも考えられる。

チーム②「"×(クロス)食"でランチタイムを有効活用」
ビジネスパーソンのランチタイムの1時間を有効活用するために、「副業×食事」「遊び×食事」「交流×食事」といった「×食」が活発化。趣味や仕事などの共通事項を持った人々をテクノロジーの力でマッチングし、ランチタイムを共有するプランも。
関内周辺は夜から営業する飲食店が多いため、昼間にキッチンを利用して調理し、ビジネスパーソンが集まる場所にデリバーすることも可能になる。

チーム③「ハレの食事がエンターテインメントに」
ハレとケの食事が大きく二極化されることを予測。普段の"ケ"の食事は、地域で養殖した魚や昆虫食など、手軽に摂取できるタンパク源が中心に。食材の調達も地域内で完結し、流通コストが削減されるため地域通貨も導入されるようになる。
一方で、藤沢や三浦などの海産物が採れるエリアはブランド化し、横浜の"ハレ"の食事が特別なエンターテインメントに。

チーム④「食のパーソナライズ化」
その日の感情や行動計画に合わせた食事メニューを提案するサービスが活発化。UberEatsのようなBtoCの配達サービスだけではなく、個人でつくった料理が他の消費者へと配送されるCtoCの流れも生まれる。また、フィットネスジムのようにお金を払って農作業に参加する取り組みも盛んになり、農業の需要と供給をマッチングするプラットフォームが誕生する。

チーム⑤「横浜を"元気補充"の町に」
社会の効率化・スピード化が進み、都心部では食事が"栄養補充"の注射などで代替されるようになる。レストランは人材不足などで縮小し、食事の場所ではなくコミュニケーションを楽しむ"元気補充"の場所に。東京とは違った個性を打ち出していく。

各チームによる多様な視点で展開されたグループディスカッション。横浜という地域性に着目した未来予測から、食の「パーソナライズ化」や「効率化」といった新しい食の概念まで生まれ、チームによって見方が異なる点もあり、食と横浜のポテンシャルの高さが感じられました。

すべてのグループが発表を終え、高内氏は「短い時間でしたが充実した議論になりました」とディスカッションに大きな手応えを感じている様子。異なる業界から集まった参加者たち同士がそれぞれの知見を交換しあう場面も多く、議論・発表ともに実りある内容となりました。

そして最後に、高内氏は参加者に向けて新たな課題を投げかけて締めくくりました。
「動物には本来、食べ物をシェアする習慣はありません。実は霊長類のなかで食卓を囲む習慣があるのは人間とゴリラだけなんです。お互いに顔を見つめあって食事をするという習慣を、人間は何万年も変わらず続けてきました。そうした概念も含めて、"変わらないもの"と"変わっていくもの"の間にはどんな違いがあるのか? 今後はそうしたポイントもしっかりと掘り下げながら、より発展的なディスカッションを続けていけたらと思います」(高内氏)

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