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【レポート】未来観の共有で生みだす「新しいみなとみらい」

みなとみらいフューチャーセンター検討ワークショップ第2回(2019年度) 2019年12月5日(木)開催

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2010年頃から再開発が進み、多くの企業や商業施設、大学等から注目を集める横浜・みなとみらい地区。この地を中心として、新たなコトや、魅力ある世の中を創っていくことを目指し、「みなとみらいフューチャーセンター(FC)検討ワークショップ」が2017年から定期的に開催されています。

前回10月に行われたワークショップでは、「横浜から発信される2030年の食文化」というテーマで、未来の食文化のあり方やビジネスの可能性をディスカッションしていきました。

2019年度最終回の今回は、これまで3年間にわたって積み上げてきた「みなとみらいの未来観」の共有や、実際に未来観を形にするビジネスへの取り組みの報告、みなとみらいのイノベーションを刺激する切り口を考察するディスカッションなど、次年度の本格的なFCの始動に向けた内容となりました。

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これからのエリアマネジメントに必要なFCとは?

これからのエリアマネジメントに必要なFCとは?

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はじめに一般社団法人みなとみらい21(YMM)古木淳氏から、FCへの意気込みが語られました。みなとみらいは都市開発から35年以上が経過し、新しい街から成熟した街へと移り変わりつつあります。これからの社会情勢の変化に対応していくためにも、FCの役割は大きいと古木氏は言います。

「ダーウィンの進化論のように、変化に対応できるものだけが生き残ることができます。これは街も一緒です。未来について考える今回のワークショップを通じて、みなとみらいのまちづくりにつなげていきたいと思います」(古木氏)

続いて、本ワークショップを主催するエコッツェリア協会の田口真司より、FC発祥の地である北欧での実装事例の紹介を行いました。
オランダの国税局や民間企業、道路管理局が運営するさまざまな形をとったFCがあり、どの場所もコミュニケーションを円滑化するためのユニークな仕掛けが施されています。例えば、ワークショップが常に行われている部屋には色分けされた椅子が並べられ、色ごとに視点を変えて発言する役割が与えられているそうです。こうすることによって、方向性の異なる意見が必然的に出てくるので議論が深まる効果があります。

「FCというのは、未来を考えるところです。行政や市民、企業などいろんなセクターの人々でより良い未来について話し合い、実装していく場所がFCだと思ってください」(田口)

また、さまざまなセクションの人々を集めて話し合いを促すために、ソーシャルキャピタルとマネタリーキャピタルの関係性を平等に扱う考え方が北欧のFCにはあります。
ソーシャルキャピタルとは、アイデアや人脈、または社会貢献活動などのお金を介さない資本のことです。このソーシャルキャピタルを持つ人とマネーキャピタルを持つ人とをつなぐための場所としての機能をFCに持たせることで、幅広いアイデアの集積が可能となり、実現に向けてのマンパワーを得ることができます。

「北欧のFCは、空間が人に与える影響を重視しています。議論する場所を、その話の内容によってシリアスな空間に変えたり、開放的な空間に変えたりすることで議論が深まることを彼らはよく知っているのです。また、日本と異なる点では『組織との関わり方』が印象的でした。彼らは組織ももちろん大事にしていますが、『あるべき全体像に対して組織をどう活用するか』という考え方を優先しているように感じました」(田口)

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FCとは、さまざまな課題を再設定し続け、さまざまな人々が話し合いを続ける場所だと田口は話します。そして、出たアイデアを実装するための事前実験をするのがリビングラボ。さらに、アイデアに対して企業がどういった役割を担えるかを考え、ビジネスとして動かしていく拠点がイノベーションラボ。
これからFCとリビングラボ、イノベーションラボの3つの要素をエコシステムとして回していく仕組みを作っていきたいと語り、締めくくりました。

「未来のアイデアを実践する仕組みが世界で動き始めています。絵空事ではなく、ぜひみなさんと一緒にみなとみらいでFCを作っていきたいと考えています」(田口)

動き出した未来想像で生まれるビジネス

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続いて、Strategic Business Insightsの高内章氏から前回までの振り返りの説明がありました。
FCとはすべてのステークホルダーが話せる民主主義の基盤。どのように行政と民間をつなぐ場を作るかの議論をこれまでのワークショップで重ねてきました。その1つの結論として、「指針となる未来観の共有が必要である」ことを高内氏は提案します。

そこで、前回は「2035年はこうなっているであろう」と想定した要素を参加者全員で共有し、その上で横浜の未来の食生活を考えるワークショップを行いました。
そして前回議論した内容をもとに、実際にビジネスとしてプロジェクトを立ち上げたWe Workの武田卓哉氏が紹介されました。

「We Workはコミュニティ型ワークスペースの提供をしている会社です。みなとみらいには、大企業や研究開発機関、そして多くの人々が生活しています。また、スタートアップ企業やフリーランスの方々も多い非常にポテンシャルの高いエリア。東京という大きな都市が近くにあるにも関わらず、このエリアにこれだけの人が集まるのは横浜に何かしらの想いを抱いている人が多いということではないでしょうか。そういった方々を巻き込んで一緒に新しい事業を作っていきたいと考えて参加しました」(武田氏)

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武田氏が提案したのは2つの課題に対するビジネスプランです。
1つは世界人口の増加に伴う食糧危機の課題。特にタンパク質の供給不足が深刻となることを踏まえ、今まであまり食されてこなかった昆虫食に注目しました。
日本のスタートアップ企業で蚕(かいこ)を食原料としてリノベートする事業を行なっている会社を見つけ、今後連携して横浜でイベントを行うことを予定していると武田氏は語ります。

2つ目は日本のビール業界の課題です。昨今では値段が高くなり、健康に対するネガティブなイメージもあり消費者離れが進んでいるビール。
実は、ビールは酒税法により、免許がないと作ることができません。また、生産量をある程度確保しなければ免許が取れないことや、多額の設備投資の必要性、後継者の問題など、多くの課題が生産者にのしかかっています。

そこで、武田氏は「ビールビジネスを始めやすく伸ばしやすい環境」を作るにはどうしたら良いか具体的に事業として考え始めました。
ビールを楽しむアプリや、サブスク、そして生産者同士をつなぐ委託醸造のプラットフォーム制作なども視野に入れて進めています。
「最終的にビールのパーソナライズ化をやりたいと考えています。日本以外の先進国ではホームブリュワリーが可能となってきているんですね。日本でも近々解禁される未来が来ると思うので、そうなった時にグローバルに負けないプロダクトを日本が持っている状態を作れたら面白いですよね」(武田氏)

さまざまな視点で未来を考察する

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今回のワークショップでは、未来の横浜をイノベーションする切り口を議論していきます。 その前提として、高内氏から2035年に想定される未来観をさまざまな視点から説明していただきました。

■世界人口のトレンド
日本は人口が減少している最中であるが、2035年には世界人口は85億人を突破。各国とも1人暮らし世帯が40%増加し、世帯構成で一番多い形態となる。

■横浜市の2035年の競争優位性
・未来志向的議論を積み重ねてきた横浜市は他の都市と比べて意思決定速度が速いと評されるようになる。その結果住民の政治的意思決定への関与の仕組みが浸透し、住民の声が十分に反映される実感が伴う都市となる。
・環境エネルギー政策では、近隣の横須賀や三浦地区と共同し再生可能エネルギーの調達拡大の試みで日本をリードする。そうしてみなとみらい地区では消費エネルギーの20%が再生可能エネルギーで賄われるようになる。

■技術によって実現する2035年
・現在は人がスマホやコンピューターを操作して生活しているが、未来では人がコンピューターに生活を委譲するようになる。つまり最適な生活上の指示をコンピューターから提示されて、人が従う仕組みへの変化。
・現在のアマゾンや楽天などの中央集権的なECから、特定のエリア内で完結する分散型のECの普及が広がる。つまり、その地域の生産物をその地域に住む人が好きな時に注文し、好きな時に受け取れる仕組みである。その結果、地域経済効果が上がる。
・個人的なデータの価値が高まり、自身のバイタルデータなどを売り買いすることができるようになる。データの重要性を信託する会社や、データをもとにした金融市場が作られる。
・クリエイティブコモンズライセンスの考えが普及し、ブロックチェーンを利用した権利保証が可能となることで、意匠権を取らなくても自由に作品などを流通させることができるようになる。それにより、法律として特許の保証を国がする必要がなくなる可能性がある。

■2035年の働き方と教育
・日本の労働市場は流動性を増し、複数の職業を選択する働き方が一般的となる。スラッシュキャリアの普及。また、短い空き時間に飛び込みで仕事をすることができるようになり、働いている時間と休んでいる時間の区別が曖昧になってくる。
・家庭学習で知識習得を済ませ、学校では復習やプロジェクトワークに取り組む反転授業が一般的になる。

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高内氏はあくまで15年後の未来は予測できないと主張しつつも、こうであったらいいという豊かな未来観を幅広いステークホルダーと議論することが重要だと言います。そして、横浜の未来の指針となる壁画を作ることがFCの目標であることを掲げました。

4つの切り口から創造するみなとみらいの未来像

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高内氏が提示した2035年の各セクションでの未来予想をもとに、未来の横浜のイノベーションを刺激する切り口として、4つの領域をグループごとに考えるディスカッションに移ります。各グループには、さまざまな分野のステークホルダーが集まり、それぞれの立場からのアイデアが飛び交いました。

ディスカッション後に行われた発表では、枠にとらわれない自由な発想がそれぞれのグループから紹介されました。※以下発表順

チーム①
グループ内のメンバーが、それぞれピスタチオの国内栽培から商品展開、PRまでのアイデア出しで盛り上がった一番型破りな発表をしたチーム。
国産ピスタチオはこれまでに例がないが、栽培は理論的には可能なことがオリーブ栽培に知見のあるメンバーからの話でわかった。さらにイラン制裁問題でピスタチオが品薄になることが予想されているために、これから需要が見込まれている。これからの事業展開に意欲を見せた。

チーム②
2035年は家族制度が大きく変わり、人の育ち方も変化するだろうと予想。人生のステージを、「育てられる時期」「自立する時期」「実現していく時期」「残していく時期」の4つに分けてみなとみらいの未来を考察した。みなとみらい全体を大きなシェアハウスに見立てて、1人で育てられない子供や、終活の段階に差し掛かる高齢者を歓迎し、地域全体で家族のような概念を作り上げる。

チーム③
将来への不安が漠然とあるという若い参加メンバーの意見を深掘りしていき、未来への課題を探っていった。最終的に、社会的なロールモデルにとらわれて自分の個としての自己実現が思い描けないのではないかという答えに行き着く。
そこでまず、大事にするべき視点を「個人」におくことが重要であることを共有。そして、個人と個人との「つながり」、さらにつながりを発揮する「場」、最後に未来を考えるということで「サステナブル」の4つを切り口に選んだ。

チーム④
確実に人口は減り、高齢者が増えていくことを想定し、高齢者となってからの時間を楽しいものとするための切り口を考えた。生涯学習としての「学びの場」、長く楽しく過ごすための「健康」、年齢に合わせた「働き方」、そして「カルチャー」の4つ。
シルバー世代の未来を、キラキラとしたプラチナ世代として豊かなものにする未来を提示した。

チーム⑤
さまざまな物やサービスの移動が活発になる未来を考えたときに、受け手と出し手のやりとりや対価の有無に話が集約していった。それらをまとめると、物やサービスをやりとりする「つながり」、そして物やサービスの「移動」、物やサービスの「生産と消費」、最後にそれらを結びつける「時間」の4つの領域に分けられた。
さらに横浜のイメージである港や船を取り入れて、生活や遊び、仕事ができる豪華客船が世界中を旅して回るビジョンを描いた。

チーム⑥
消費者に目線を合わせることからスタートし、人が生まれてから経験することを大きく「学ぶ」「住む」「移動」の3つに分けた。また、多世代の共生や横浜の独自性などがキーワードとして上がったので、最後の4つ目は「横浜ブランディング」。
「学び」の領域では研究所からの学びの提供や、「移動」の領域では通勤はコンパクトになりつつ、旅行ではもっと楽しく移動ができるなどの詳細な未来の提案が出た。

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多様な方向性のアイデアが活発に交わされたディスカッションですが、人に焦点を当てたところから出発するグループが多かったのが印象的だと高内氏は語りました。

「こうあったらいいなという未来の1つの帰結が、やはり『人』であることが再認識されました。ここで出てきたアイデアをまとめながら、来年の活動を事務局の方々と考えていきたいと思います。最終的には、未来観の指針を1つのブックレットにまとめ、みんなでみなとみらいの未来を考えるときに手がかりになるものを作る予定です」(高内氏)

最後に古木氏から、すでに検討が始まったYMMの取り組みが紹介されました。
「みなとみらいの現状を踏まえて、『未来志向で新たなワークスタイルとライフスタイル、イノベーションを実現し続ける街』という新たなビジョンを作りました。それを実現させるためのアクションプランを立てています。具体的にはビジネス成功システム、コミュニティ形成、デザイン、スマートモビリティ、観光の5つのテーマに分けて動き出しているところです。来年以降のFCの活動で、さらにその動きを促進させていきたいと考えています」(古木氏)

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これまでの価値観が大きく変わりつつある転換点の中で、エリアマネジメントのあり方にも変化が求められています。
オープンイノベーションへの流れにより、これからビジネスやプロジェクトがどんどん加速していくでしょう。その一方で、同じようなサービスが増えていくので、選ばれるためには独自性のある使命や意志が重要視されていきます。
みなとみらいの未来の基盤となるFCに、より一層の期待が込められたワークショップとなりました。

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